2014_03
10
(Mon)00:13

おやすみのかわりに(前編)

2014/2初稿、2014/5/2ドラマの題名を変更、2014/11/5一部修正



■おやすみのかわりに(前編)



(かなりキテるな…)

社が眉を寄せて見つめる先には担当俳優の姿。
楽屋のソファーに体をうずめ一応台本を開いてはいるが、その眼はうつろだ。
撮影中は敦賀蓮として振舞っていたが、控室に戻って社と2人になって気が抜けたのだろう。
おそらくこの様子では夜ほとんど寝れていないに違いない。

(この仕事、タイミングが悪かったな)

スケジュール帳を見つめ、どうしてこの撮影が始まる前にオフを作ってやらなかったのかと後悔するが今更だ。
過ぎたことを悔やむより、今の事態をどうするか考えるべきだろう。

現在、蓮とキョーコは微妙な関係にある。
ラブミー部のキョーコだが、社が見ても蓮に対し何か特別な感情を抱いているように見え、蓮の気持ちはもはや明白。それはもう周りがやきもきしていた。
そんな中、蓮は自分の中の葛藤をようやく決着をつけて、一歩踏み出そうと「最上さんとゆっくり話す時間が欲しい」そう言いだした時に、このオファーはきた。

連続ドラマ「夢から醒めたら」

在学中に司法試験に合格した秀才の駆け出しの弁護士。
最愛の妻、そして生まれたての息子に囲まれて幸せだった男は事故に巻き込まれ意識が戻らないまま5年の歳月が過ぎる。
そして奇跡的に目覚めた男が見た現実。
妻は弟と再婚、わが子は叔父を父と疑わず育ち、新しい家族も増えていた。
最初は男の回復を喜んでいた両親も、弟一家との板挟みから次第に距離を置くようになり…

そして、男は一人になった。

そんな男を蓮は演じているのだ。
先日の初回オンエアは高視聴率をマーク、“ハンカチ無しでは見れなかった”と大反響だった。
今後はもがき苦しみながらも前へ進もうとする男に、兄へのコンプレックスを抱えた弟や、主人公への想いを捨て切れてない元妻がからみ、更に盛り上がることだろう。

蓮の熱演への評価も高い。

だが、熱演し役にのめりこんだあまり、役と現実との境界がつかなくなっているのか次第に憔悴していっている。

いつもなら、伝家の宝刀“最上キョーコによる夕食作り”を依頼しているところだ。
だが今回は…

社は軽く頭を振った。



**************************


携帯を開き、番号を表示しては閉じる…キョーコはさっきから同じ動きを何度も繰り返していた。

表示されているのは「敦賀さん」の番号。

時折、テレビに映るトークショーに出演している先輩俳優をみては眉を寄せる。

(あきらかに前会った時より痩せてる…)

その時も痩せたと思ったのだから、ベスト体重からいくとかなりの体重減に違いない。
トークショーのMCは役作りのためと思っている様子だが…

(やっぱりドラマのせいよね)

キョーコがロケの多い映画の仕事でバタバタしている間に、件のドラマの撮影は始まった。
始まってすぐはどちらかというと、電話など蓮からの接触は多かったのだ。
それが次第に減り、最近は特に夜に電話が入ることは皆無になった。
夕飯を頼まれることもないので、蓮と2人きりで会う機会はなくなってしまっている。

社から「役にのめりこみすぎて、ちょっと疲れているみたい」と弁解されたが

(役にのめりこんでいるというより、役の恐怖が伝染している感じ?)

キョーコはただの後輩だ。

カインの時のように近くにいるわけでもないのに踏み込んではいけない気がする。
気がするが…

もう一度画面に映る先輩の姿を見て、キョーコは意を決して発信ボタンを押した。



(後編に続きます)
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