2014_03
10
(Mon)00:14

おやすみのかわりに(後編)

2014/2初稿、2014/11/5一部修正




液晶に表示されるのは誰よりも愛しい名前
だが、今は…



■おやすみのかわりに(後編)




携帯はまだ蓮の手の中で震えている。

時刻は9時を回ったところ。
このところのスケジュールから行くとかなり早い時間に上がれたのは、まだもう1つ仕事があったのに社の手によって調整されたのだ。

「今日は早く帰って寝ろ」

マネージャーはシッシッというように蓮の前で手を振った。

「何言ってるんですか。大丈夫ですよ」
「お前なあ、大丈夫って顔かよ?。今はなんとか外面保てててもこのままじゃボロがでるか、倒れるかだ。それとも“敦賀蓮”の仕事の質を落とすのか?周りに迷惑かけるのか!?」

そう言われると何も言い返せなかった。
社の前ではもうごまかせてないことは自覚してたし、体力が落ちているのも感じていた。残りの取材を受けてからでは、自力で帰るのも正直きつかったかもしれない。
なんとか自室にたどり着き、シャワーを浴びてミネラルウォーターを手にした時震えだした携帯。

誰よりも声を聞きたい名前

でも、今は

誰より声を聞くのが怖い名前


ある日目覚めたらキャリアも愛する人もすべて失っているという恐怖。
もし自分だったら…想像すると身が震えた。

これは演技だ。完璧に演技するだけだ。
どんなに言い聞かせても、次第にそれが実際に起こるのではないのかという思いから逃れられなくなった。

夜眠りにつくのが怖い。
朝が来るのが怖い。

だから撮影当初は、キョーコを求めた。
カインの時のように
会えばその頬や手に触れ、それが無理なら電話で声を聞いた。

だが、気づいてしまった。
キョーコの声を聞き、甘く幸せな気持ちで心を満たせば満たすほど、朝が来るのが、一人で目覚めるのが恐ろしくなることに。
自然と夜会うことや電話ができなくなった。では朝に、といってもお互い仕事や学校がある、電話をかけることさえ、会うことは余計に難しい。

段々、自分の中が暗い闇で閉ざされていくのがわかる
時々、今の現実こそ幻ではないかとさえ思う。


アイタイ
コワイ
アイタイ

蓮は携帯の液晶画面のキョーコの名前を暫く見つめてから、ようやく通話ボタンを押した。


『最上です!あの、お疲れのところ申し訳ありません!先程テレビで拝見したらなんだか痩せられたような気がしてですね。社さんが今日は早いっておっしゃってたんで僭越ながら夜食でもと思いまして!!!』

いつもよりずいぶん早口のキョーコの言葉。

蓮は目をつむる。
愛しい愛しい者の声

「ありがとう。最上さん。でも今日は遠慮しとこうかな・・・」
『いや、でもっ!夜食作ったらすぐお暇しますから』

疲れているからとか、もうこれから寝るところだからとか、いくらでも理由は言えたはず
でも言葉は滑り落ちた。

「あのね、最上さん」

「俺にとっては最上さんに会える時間は、何より大事で何より幸せな時間なんだ」

キョーコが息をのむ気配がする。

「あまりにも幸せで、目が覚めてそれがなかったことになったら耐えられないくらいに。
君からのおやすみを聞いたら、その幸せを失いたくなくて、怖くて眠れないんだ」

「だから、今は会いたくない」

ごめんね、と蓮は電話を切った。


キョーコは携帯を耳に押し当てたまま立ち尽くしていた。
熱いものがこみあげてくる。

会いたくない。と言われたのに
自分と会えるのが何より幸せなんて、
眠ってしまったら、その幸せを失いそうで怖いから眠れないなんて

携帯をカバンの中に滑り落とすと、両手で頬を包んだ。


敦賀さん。
ねえ敦賀さん。

なんだか、ものすごい愛の告白を受けた気がします。


身体全体が熱くて熱くて…
しばらく真っ赤な顔でうつむいていたキョーコは顔を上げた。
その眼宿る強い光。

キョーコは鞄から取り出した携帯を再び開いた。


***************************


浅い眠りの後 飛び起きる。
そんなことを繰り返していた蓮はいつの間にか深い眠りに落ちていた。

目を覚ますと、6時半。

(なんだか最後はよく眠れた…)

今朝はゆっくり出ればいいからもう一眠りしようかと寝返りを打った

(ああ、人の気配がするからよく寝れたのかな」

ぼんやりする頭で考えたのち…人の気配!?と覚醒する。
1人暮らしの部屋で人の気配!?
慌てて部屋を出たとたん、気配の正体はわかった気がしてキッチンに向かう。

キッチンからは調理の音と、昭和の香りがする鼻歌

「最上さん」

キョーコは明るく笑う

「おはようございます!」

どうして?と問う声は掠れてうまく出せなかった。

「社さんに鍵を貸していただきました」

キョーコは蓮に水のボトルを渡しながら答え、頭を下げた

「犯罪者まがいのことをして、申し訳ございません…ですがっ!」

ピシッと向けられるお玉

「おやすみなさいが怖くてお嫌なら、“おはようございます”を言いに来ますから!」

片手は腰にあて、仁王立ち

「片方だけがダメなら、“おやすみなさい”と“おはようございます”両方言います!!!」

なんだかよくわからないパワーに圧倒されて、家電ボードによりかかる。

「両方?」
「お望みならば!」
「ずっと?」
「お任せくださいっ!」
「本当に?」
「女に二言はありません!!!」

蓮はこみあげる笑いをおさえるために肩を震わせた。

(絶対意味を分かってない。)

でも
“おやすみ”を言って眠ったら、キョーコに“おはよう”を言う朝がやってくる。

なんて幸福で、なんて待ち遠しいのだろう。


自分を覆っていた黒い霧が晴れていく。

クリアな視界を見渡せば

グリルの中で焼ける魚の香ばしい匂い
後ろで聞こえる炊飯器のお知らせ音
窓から入る朝日

そして、キョーコの笑顔


なんて世界は瑞々しいのだろう。


「敦賀さん?」

何も言わない蓮にキョーコが怪訝そうに話しかける。

うん。
ありがとうとか、愛しているとか、
話したいことはたくさんあるけれど

とりあえず

「おはよう。最上さん」


さあ、新しい一日を始めよう。



FIN





キョーコちゃん、押しかけ女房になるの巻でした。
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コメント

6. Re:キョコさんなら。

>seiさん
敦賀邸への道は片道切符のみってことにキョーコちゃんは全く気付いていないでしょうねえ。でもヘタレ敦賀さんは大将が怖くて返上するかもしれませんが(^ε^)

2014/02/24 (Mon) 19:39 | ちょび | 編集 | 返信

5. キョコさんなら。

蓮さんが怖いと感じていることを放置なんてできませんよね!( ´艸`)

かわいい押し掛け女房キョーコさん。

「撮影も終わりましたし、じゃあ私そろそろ帰りますね!」

と出来なくなることにはまだ気付いてなかったりして!( ´艸`)

2014/02/24 (Mon) 17:48 | sei | 編集 | 返信

4. Re:無意識?

>サラさん
コメありがとうございます!黒い霧と一緒に記憶も飛んで行って、告白まがいのセリフは気づいてないと思います(^_^)v気づいた時には赤くなるのか、落ち込むのか…どっちでしょうねえ?

2014/02/24 (Mon) 15:27 | ちょび | 編集 | 返信

3. Re:キョーコちゃん!

>mokaさん
ありがとうございます。攻めに転じたキョーコちゃんは最強だと思いますo(^▽^)o

2014/02/24 (Mon) 15:24 | ちょび | 編集 | 返信

2. キョーコちゃん!

ドキドキしながら、読みました。
キョーコちゃんどうするかな?って。
おはようございます!
さすがですっっ~~

2014/02/24 (Mon) 14:47 | moka | 編集 | 返信

1. 無意識?

この蓮様、無意識で告白したのでしょうか?
それほど精神的にきつかったんですね。
でも、これからキョーコちゃんとの幸せな毎日、きっと今回のドラマも乗り終えていくんだろうな~

一番気になるのは、蓮様告白したっていう事を、気づくかですね~気づいた時は顔真っ赤にしちゃうのかな(* ̄Oノ ̄*)

2014/02/24 (Mon) 14:45 | サラ | 編集 | 返信

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