2015_10
08
(Thu)11:55

ほんのわずか(18)

今回入れて2話。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

2014/10/3、2015/10/8一部修正の上通常公開






「キョーコちゃん!キョーコちゃん!待ってたんだよ~」

火曜日、帰宅したキョーコに、お隣の深浦のおばあちゃんがドアから顔をのぞかせて声をかけた。

「日曜日も昨日も帰り遅かったみたいだねえ」
「すいません。日曜まで墓参りに行ってて、昨日は残業で…」

ちょっと待っててください、とキョーコは急いで部屋に入ると生八つ橋の箱を抱えてきた。

「これ、小さい方がおばあちゃんちで、大きい方は三戸のおばあちゃんや鶴田のおばあちゃんと皆さんで」
「あれまあ、気を使ってもらっちゃったね。有難うね。キョーコちゃん」
「いえいえ」
「でも、私も渡すものがあって待ってたんだよ」
「え?」

はい、と渡されたのは少し膨らんだA4サイズの封筒

「これ、土曜日にキョーコちゃんの彼氏の…駿河「敦賀さんだろ?」」

部屋の奥から深浦のおじいちゃんが訂正した。

「そうそう、敦賀さん。敦賀さんがキョーコちゃんの部屋の前でウロウロしてるからあずかったんだよ」
「へ?」
「やだね。キョーコちゃん。私らの眼を誤魔化せると思ってるのかい?みんな知ってるよ。キョーコちゃんにいい人出来たことくらい。いっつも送ってもらってただろ?」

キョーコは真っ赤になって口をハクハクと動かした。

「なんか喧嘩しちゃったんだって?連絡取れないってあんな大きなハンサムさんがしょげてたよ」
「いや…」
「3か月前から付き合ってるんだってね。おふぃっすらぶ、なんだってね~。」
「っ…」
「こらこら、からかうんじゃねえよ。すまねえな。そういう話が身近で起こらねえから、婆さんたち浮かれちまってよ」
「だってドラマみたいじゃないか。二人とも見栄えがしてお似合いだし。」
「だからってはしゃぎ過ぎなんだよ。土曜日も30分以上婆さんたちで寄ってたかって質問攻めにしてよ。」

30分、あのおしゃべりなお婆ちゃん達に蓮が囲まれていたというのか。

「いいじゃないか。礼儀正しいし、男前だし、いい人だよねえ。日曜日の夜遅くにも来てたんだよ。」
「え?何時頃ですか?」
「11時近くかねえ。私がトイレで起きた時物音するから、キョーコちゃん帰ってきたんだと思って覗いたら敦賀さんでさ。」

キョーコが帰ったのはその30分ほど後だ。

「ごめんねえ。ポストに入れようかとも思ったんだけど貴重品入ってたらダメだと思って。もう会社で会ったよね?」
「いえ、仕事忙しいみたいで会社では話してないので」
「そうかい。おふぃっすらぶも大変だね。まあ、でも早く連絡してやりなよ。」

そう言ってお隣さんはドアを閉めた。
キョーコはノロノロと自分の部屋に入ると鍵を閉め、そのまましゃがみこむ。


京都から帰ってきて着信の確認もせずに電源を切ったまま、携帯は置きっぱなしだ。

連とは会社で顔を合わせたが、昨日蓮は取引先の会長さんのお通夜が遠方であったらしく夕方には出て行って帰らなかったし、今日はキョーコが研修で一日出ていた。

(3か月前から付き合ってるって、深浦のおばあちゃんに挨拶した?…なんで?どうして?)

混乱しながらもキョーコは手元にある封筒をゆっくりと開けた


中に入っていたのは湿布薬と小さな便箋


“怪我をさせて本当にごめん。 ちゃんと話合いたい”


青くなった蟀谷(こめかみ)に手をやり、その手を胸の前に移動させた
心臓がいまだかつてない位激しく動いているように感じる。

そのまま暫くじっとしていたが、キョーコは携帯に手を伸ばした。






■ほんのわずか(18)




また折れたシャーペンの芯に苛立ちが増す。

早くキョーコと会ってちゃんと話がしたい。
だが、昨日は急な通夜で無理だった。今夜こそと思うのに

チラリ、右斜め前に座る石橋を見たあと、時計を確認する。まもなく7時。

蓮のパソコンが新規メールを受信した。
急いで添付資料を確認する。

(よしっ)

「おし、終わった~。敦賀君訂正終わったよ~」
「見せて」

石橋の書類と打ち出した添付書類を確認する。

「よし、OKだ。松島部長にハンコもらおう」

勢いよく立ち上がり歩き出した蓮の様子に石橋が慌てて後を追う。


「うん。いいだろう。明日上に回そう。根回しは大丈夫だな?」
「大丈夫です」

返された書類を受け取ったところに椹が缶コーヒーを片手にやってきた。

「お、石橋君。最近は最上さんに仕事押し付ける事減ったんじゃないか?」
「押し付けるだなんて…そんなつもりなかったんですけど…もしかしてキョーコちゃん嫌がったりしてました?」
「最上さんはそういうこと言うタイプじゃないなあ」

椹は笑って缶コーヒーを開けた。

「椹部長、キョーコちゃんのあの青タンどうしたか知ってます?まさかDⅤ男なんかと付き合っているんじゃ…」
「ああ、あれね。なんでもよろけて棚にぶつかったらしいよ」

最上君もあれでいておっちょこちょいなとこあるからなあ。と椹は明るく言った。

(そんな風に言い訳してたのか)

なかなかキョーコと話ができない歯がゆさが増す。

「えーっ?誤魔化すためじゃなくて?」
「石橋君。なんだ、妙に固執するなあ。心当たりでもあるのか?」
「いや…あの…自棄になったりしてないかと思って」

気になることを口にしといて、急にシドロモドロになった石橋の胸ぐらを掴みあげたい衝動にかられたが、それは椹も一緒らしい。

「それはどういうことだい?」
「あの…ほら、決算ギリギリに契約取れた件あったじゃないですか」

石橋はある大口契約をあげた。

「ああ、あのアカトキと競合して敦賀君が土壇場にひっくり返したやつだな」
「そうです。あれ、すぐに仮契約しときたいって急いだじゃないですか」

そうだ。決算前ということで、双方ともに急いでいた。

あの仕事が取れた日のことはよく覚えている。
雨が降って道が渋滞して先方との約束に間に合うか気をもんだ。
そして、何よりキョーコと付き合い始めた日だ。

「仕事取れた日に俺、キョーコちゃんに残業お願いしたんですよ。すぐ書類作ってくれて、調印しときますって上に行ってくれたんですけど、俺それくらいは自分でって思って追いかけたんです」

そしたら聞こえちゃったんですよ。石橋の声は小さくなった。

「不破が役員秘書の子たちにキョーコちゃんが重いだの、結婚してほしいオーラ満載で浅ましいとか言ってるの。キョーコちゃん俺の前に居ましたからバッチリ聞こえていたはずです。」

(これ・・・か…)

あの晩のキョーコの異様な様子の原因

キョーコは話したがらないが、部長クラスと話す機会が多い蓮は知っていた。
幼い時に両親を亡くして、ずいぶん苦労したということを。

以前お好み焼き屋でチラリと聞いた母親の味。あの時の表情を見れば分かる。
キョーコが両親との思い出を大事に大事に胸に抱えていたことは。
そしてそんな家庭をいつかは持ちたいと…そう願っていたことは想像に難くない。


「困った…ものだな。不破君も。」

キョーコの事情をある程度は知っている椹が眉を寄せた。

「まあ、若いからな。考えなしで言ったんだろうが…。」

恋愛事情にまで俺たちが踏み込むわけにはいかんが、様子は見とくよ。そう言って椹は石橋の肩を叩いた。



「敦賀君、明日調印は俺が回っとくよ?」

石橋にそう声をかけられて蓮は我に返った。

「…ああ、頼むよ」

書類をクリアファイルに入れていてよかった。さもないと手に込めた力でクシャクシャになっていただろう。

「そういえばさ。」

ずっと気になっていたことを吐き出して胸のつかえがとれたのか、石橋は少し明るい声で言った

「敦賀君の彼女。すっごい綺麗な人だね。流石だなあって思ったよ」
「へっ?」

思わず間抜けな声が出た。
キョーコと一緒の時を見られたのなら、石橋はそんな言い方はしないはずだ。

「彼女?」
「え?違うの?先週お昼にランチデートしてたじゃないか。大通りのイタリアンから2人で出てくるとこ見たよ。」

ほら、と石橋が告げる店名には覚えがあった

「あの人…は、大学の先輩の婚約者で…先輩が仕事で先に出たから…」

そう。社と奏江とお昼を一緒にした時入った店だ。確かあの日は…

「そうなんだ~。2人で出てきたし彼女かと思っちゃったよ。美男美女でお似合いだって、大原さんもキョーコちゃんも言ってたし」


甦る社の言葉

『何かあったんじゃないか?』



ピースがはまった。



 - ほんのわずか ずれていたピントが合って
                覗く先の景色が 一変する -



(19話へ続く)




次回最終話です。
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コメント

Re: 最終回ですかぁ~~><

> ピコ様
寂しいなんて…有難うございます。
最終回うまくまとめれなくてすでに四苦八苦してるのですが…ご期待に添えるよう頑張ります!

2014/10/05 (Sun) 01:46 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 良かったー!!

> 風月様
怪我の場所は蟀谷(こめかみ)なのです。すいません!!!読み仮名ないとわかんないですよね。
ですので、彼が敦賀さんに抹殺される心配はありません(笑)

2014/10/05 (Sun) 01:42 | ちょび | 編集 | 返信

Re: ついに蓮さんも現状の原因を認識!!

> 魔人様
寂しいなんて言っていただけて嬉しいです。
ちょっと調子に乗って番外を2つくらい書こうかな…とか思ったしております。
もし書いたら、読んでやってくださーい。

2014/10/05 (Sun) 01:40 | ちょび | 編集 | 返信

Re: おふぃっすらぶ!!!

>hanajono 様
有難うございます!脳裏に浮かんで、笑っていただけたなんて嬉しいです。
光さんは本当にこういう時に役に立つ男です(笑)

今回を入れて2話ですので、次でラストです!最後まで読んでやってくださいね。

2014/10/05 (Sun) 01:38 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 良かった~

> ponkichibay様

光さんのポジションは鉄板ですよね~(笑)
もう今回の為だけにキョーコちゃんの周りをウロウロしていたと言っても過言ではないのです。

最後まで「ほんのわずか」フレーズ感心していただけるといいのですが

2014/10/05 (Sun) 01:35 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 石橋く〜ん!

光さんって、こういう使い方が出来るなんて素敵な人!(←ひどい)
いや、でも本当にいい人だと思うので是非とも幸せになって欲しいと思ってます(キョーコちゃん以外と)

初パラレルに皆様の反応にドキドキしてたので、お別れが残念なんて言っていただけて嬉しいですよ。
19話まで続いてしまい。それなりに愛着もありますしね~

2014/10/05 (Sun) 01:33 | ちょび | 編集 | 返信

最終回ですかぁ~~><

ずっと気になっていたお話が読むことができ、やっとタイムリーでお話を楽しめると思っていたのに、次が最終回とは寂しいです。

でもお話の内容はよかったぁ!
やっともつれた糸が解けそうですね。
ピースがはまって、先に見えるのは明るい未来?
蓮さんの頑張りを期待して、また一週間?良い子でお待ちしております。

更新ありがとうございました。

2014/10/03 (Fri) 22:48 | ピコ | 編集 | 返信

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

2014/10/03 (Fri) 15:29 | | 編集 | 返信

ついに蓮さんも現状の原因を認識!!

これで誤解をちゃんと解けそうですね!!
うん、一安心!

しかし、次でラストとは!!Σ(・ω・ノ)ノ!

ラストは気になるけど、寂しいです。˚ ⁺·(⌯˃̶̥̆д˂̶̥̥̥̆ ू)·⁺ ˚

いやでも、早くキョコさんを幸せにしてほしいし〜!(TωT)  ←複雑

どんなラストになるのか、楽しみにしてますねーー!!

2014/10/03 (Fri) 15:28 | 魔人 | 編集 | 返信

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このコメントは管理人のみ閲覧できます

2014/10/03 (Fri) 13:19 | | 編集 | 返信

良かった~

更新ありがとうございます

光君グッジョブ!やっぱり君のポジションはそこよ(笑)
蓮様の反撃(?)いよいよ次回最終回で見れますね
完全にキョコさん落としてください、抵抗できなくなるまで

あ~終わるのは淋しいけど次回めっちゃ楽しみです
今回も~ほんのわずか~のフレーズに感心です




2014/10/03 (Fri) 13:05 | ponkichibay | 編集 | 返信

石橋く〜ん!

石橋君が名誉挽回?!
でもでも、本人としたら、敵になんとかですから、、石橋君らしいのか、、、、、残念(ふふふ)
もう、敦賀さんは頑張るしかないですね〜
キョーコちゃんは、スコンとはまるのか!?

次回の最終話、楽しみですが、、ちょっとお話とのお別れも残念なような。複雑です!

2014/10/03 (Fri) 12:27 | moka | 編集 | 返信

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