2015_10
01
(Thu)11:55

ほんのわずか(17)

こんにちは、ちょびです。

先日連絡&拍手御礼記事でお伝えしたのと同じ内容なのですが、拍手御礼とかって見ない人は見ないよね?と思いまして…
pwメッセージを送付した場合はPW請求についての記事にお名前付きでその旨コメントしてあります。名前があるのに届いてない場合は再度アドレスを記載の上コメントいただけると助かります。
返信無いと届いてないのかなあとちょっと気をもむのです。せっかくご丁寧な請求コメントいただいたのに届かないって申し訳ないので。もやもやーっとしてしまうのです。

2014/9/19初稿、2015/10/1一部修正の上通常公開





■ほんのわずか(17)



日曜日

5月下旬の日中の日差しは結構きつい。
それが遮るものが無い墓地ともなれば尚更だ。

京都でも有数の歴史と規模で知られる墓地の一角にキョーコの両親の墓はあった。
その前にしゃがみこみ墓石に刻まれた名前を眺めながらキョーコは呟く。

「ここって墓地界においては大都会よね。お父さん、お母さん、にぎやか?ご近所付き合いとかあるの?」

当然のことながら返事はない。キョーコ自身も現実逃避しているだけなので別に返事を求めている訳ではない。

キョーコはそっと蟀谷(こめかみ)を撫ぜた。
あの夜保冷剤で冷やしてみたがやっぱり腫れて、今朝見ると青い痣となってしまっていた。これでは明日会社で色々聞かれるだろう。
そう、明日からは仕事だ。今日中には東京に帰らなくては。

*
*

金曜日、蓮の部屋を飛び出しタクシーでアパートに帰ったキョーコはすぐに荷物をまとめた。

逃げ出したのだ。
もう何がなんだか分からなくなって。

逃げると言ってもあまり旅行もしたことがないキョーコが思いつくのは幼い日々を過ごした京都くらいしかなかった。京都なら新幹線で1本だし、ついでに両親の墓参りもできる。
とりあえず適当に荷物をまとめて新幹線に飛び乗ってから宿泊場所を探した。金曜なので市内は無理かと思ったがリーズナブルな宿が連泊可能だった。日が変わる直前の顔を腫らした女性客1人、ビジネスホテルのフロントが笑顔ながらも不審げに迎えてくれた。
土曜日朝イチで墓地にきて、スポンジで墓石をピカピカに磨いた。
いくら丹念に磨いても、たかだか1つの墓、午前中で終わってしまい、仕方がないから午後からはウロウロと墓ウオッチングをした。
歴史ある墓地なので、新しい墓石に横に「紀州○○屋□□衛門」なんて墓があるのだ。
そうなると凝り性の性分でその1画でどれが一番古い墓かを調べたくなり探し回り、今日にいたる。
小学校の自由研究は墓調べにすればよかった。などとどうでもいいことを考えて…

分かっている。現実逃避だ。


“君はこの3か月、俺の、何を見てたんだっ!”


キョーコの背中を追いかけてきたあの言葉。

初めて聞いた蓮の叫び
その前に見たおそらく胸の痛みに歪んだ蓮の顔

考えなくては、と思う。

だが、その一方で、あの日見た美しい女性に甘く暖かく微笑む蓮の顔も浮かぶのだ。


「…お母さんがいたら教えてくれたのかな?」

キョーコが置かれている現状を理解し、アドバイスをくれただろうか?

*
*

少し汚れたデニムをはたいてキョーコは立ち上がった。
いつの間にか辺りが薄暗くなっている。そろそろ京都駅に向かわなければ。

歩き出した手にある荷物の中に携帯は入っていない。慌てて出たので携帯をアパートに置きっぱなしだったのだ。

(連絡…くれたりしたのかな?)

その電話に出る勇気は今は無いけれど


*
*


「喧嘩したぁ?」

社は飲んでいたビールの泡を口の端に着けたまま素っ頓狂な声をあげた。

「ちょ、社さん、大きな声出さないで下さいよ」
「だって、今日こそ噂の“キョーコちゃん”に会わせてもらえると思ったのにさ。なあ、奏江ちゃん?」
「暑苦しくて、愛想尽かされたんじゃないですか?」
「…琴南さん」
「どういうことだよ。蓮。お前のグジグジグジグジした片思い話を、ずっと聞いてやった俺たちには事情を知る権利があるはずだぞ」
「グジグジってそんな何回も言わないでください。大体俺の話をネタに呑んでただけじゃないですか」
「大学の後輩の恋の道を応援してたんだよ。トロトロしている間に部下に持っていかれて落ち込むお前を励ましたのは俺たちだぞ。」
「本当にカビが生えそうな話だったわよね」
「だから、琴南さん…」
「そのくせ、付き合いだしたと思ったらメールで報告してきただけで、忙しいの1点張り。やっと会わせてもらえると思ったら喧嘩かよ。」
「いや、本当に仕事で空いている時間があまりなくて…彼女と会う時間を確保するのが精いっぱいだったんですよ」
「そういうのが彼女鬱陶しかったんじゃないですか?」
「…」
「まあ、とにかく話せよ。喧嘩した原因はなんなんだ」
「彼女が会社の付き合いでコンパに行ったんですけど、俺には隠してて」
「それで怒ったんですか?ウザッ」
「奏江ちゃん、蓮の美形っぷりに心ときめかないのは婚約者としては嬉しいけど、もう少しソフトに言ってやって?…で、それでもめたのか?」
「腹は立ちましたけど、付き合いもありますから…でも事前に言って欲しいと言ったら突然彼女が怒り出して…」
「怒り出した?何に?」

蓮は額に手をあてて、なるべく金曜日のキョーコの言葉を正確に思い出そうとした

「つなぎなのはわかってる。だから俺に縛られる理由なんてないって…」
「それって…」
「待った。奏江ちゃん。最後まで聞こう。」
「彼女が何を言っているか分からなくて、聞こうにもすごい興奮していて…落ち着かせようとしたらかえって揉み合いになったんです。…そうしたら弾みで彼女サイドボードに蟀谷(こめかみ)あたりをぶつけてしまって…」

キョーコに怪我をさせた後悔と、その後拒絶された痛みが蓮の顔を歪ませた

「その後、出て行かれました」
「…その後連絡は?」
「取れません。一度家にも言ったんですけど…隣の人がどこかに出かけているようだって」

電話が全然つながらなくて、昨日アパートに行ってみたのだ。
どうやらキョーコを送迎しているのをご近所さんたちはしっかりチェックしていたらしく、隣のおばあさんに捕まって30分話し込まれて得た情報が“キョーコは金曜夜に出て行って以来帰っていない”だったのだ。

「ワザとじゃないとはいえ、怪我したんでしょう?DⅤよ。DⅤ」
「まあ、まあ、奏江ちゃん。それより問題は“つなぎ”って言ってたことだろ。つなぎ…ってあれだよな。本命が出来るまでってやつ。蓮、お前キョーコちゃんにそんな風に思われる付き合い方してたのか?」

蓮は小さく頭を振った。
仕事で忙しかったことは確かだが、ちゃんと大事に付き合ってきたつもりだ。愛情だって、言葉でも身体でもちゃんと伝えてきたと思う。

「そういや、なんて言って付き合ったんだよ」

え、と改めて記憶をたどる。正直テンパりにテンパったあの夜。

「確か…入社して以来気になってた…好きだ…とかだったと思います」
「うーん。普通だよな。あまり誤解を生みそうじゃないよなあ」

社は腕を組んだ。奏江が追加の烏龍茶を頼みながらつまらなそうに言う。

「言った状況が悪かったんじゃないですか?」
「それかもな。どんな状況だったんだ?」
「え…?俺の部屋で…」

俺の部屋?と社と奏江が同時に声をあげた

「なんでいきなり敦賀さんの部屋?」
「キョーコちゃんとお前って、隣の部署の人って位のつながりだろ?それにキョーコちゃんって歩く純情さんみたいな子だって言ってたじゃないか。そんな子が男一人暮らしの部屋にあがるのか?」
「いや、それは、近くを大した雨でもないのにずぶ濡れで歩いてて…様子がおかしかったし、服を乾かしていくようにって俺が…」
「それは…何かあったのか?キョーコちゃん」

少し顔色を悪くして固まった蓮に、社は「聞いてないのかよ」と小さくため息をつく。

「で、お前の告白になんて返事くれたんだ?」
「…言葉では特に…」
「まさか…告白って…押し倒してからしたんじゃないだろうな?」
「…」

沈黙は肯定

「…この経験だけ豊富な恋愛音痴め」

あのな、と社は軽くテーブルを叩く。その横では奏江が軽蔑しきった顔をしていた。

「キョーコちゃんて、歩く純情さんでちょっと古風なところがあるんだろ?そういう子がどういう理由か知らないけど、雨の中ずぶ濡れで歩き回るようなショックなことがあって、きっと正常な思考能力を失ってたと思うぞ?そんな中お前の部屋に行って、結果押し倒されてって…そりゃ身体目的のつまみ食いだと思っても仕方ないんじゃないか?」
「いや、でも、俺はその後もちゃんと…」
「だから他の本命が出来るまでのつなぎって思われたんじゃないですか?」

ぐっ、と蓮は言葉につまる。
確かに常のキョーコなら蓮の部屋に1人で上がったりはしなかっただろう。
様子のおかしいキョーコのことが気になりながらも、彼女と2人になれたことで舞い上がり、その後は彼女を手に入れてた幸せに浮かれて、頭の隅に追いやっていた。

でも…

「最近は彼女も俺のことをちゃんと想ってくれているだって…」

どんなことだよ。と社に促されて、ポツポツと話す

言葉遣いは丁寧だけど蓮の横ではリラックスした様子の笑顔
週末の約束をした時の頬を染めはにかんだ笑顔

あれはきっと見間違いなんかではない

「アメリカから帰国した時は空港で待っててくれましたし…」

あの後調べたら、グアム行きの飛行機は9時頃離陸したはずだ。それから蓮が帰国来るまで結構な時間があったのに

(それでも待っていてくれたじゃないか)

社たちには言えないが、あの日ベットで呼ばれた名前と背中に縋られた手は今までのどんな行為より蓮の脳を痺れさせた。
あの時の互いの熱も囁きもまだ鮮明に覚えているのに…

「うーん。最初は誤解されてたけど、いい方向に行ってた…のかな?」

社は首をひねった後、ビールを空けた。

「そうなると、何かあったんじゃないか?」


キョーコを思いつめた何かが。

*
*


店の前で社たちと別れて、蓮は小さく息を吐いた。

最後の最後まで「このままだとお別れだぞ」と脅されたのだ。

(別れる?冗談じゃない)

蓮は時計を見た。まだ10時半。電話をしても大丈夫だろう。
道の端で取り出した携帯を耳に当てる
発信音の後に聞こえるコール

1回、2回、3回、4回…

電源が切られている様子はない。
キョーコは携帯の傍にいるのだろうか?

5回、6回、7回、8回…

息をひそめて携帯が鳴るのを見ているのか
まさか…
誰かと一緒に…

10回鳴ったところで携帯を切った。

じりじりじりじり・・・
凶悪な焦燥感に自分が突き動かされそうで

ぎしぎしぎしぎし…
キョーコに誤解をされているかもしれない痛みに心が軋む


そして

自分は何もわかっていなかったのかもしれない
その事実に衝撃を受けた。


手の中の携帯を強く握りしめた。


まだ間に合うはずだ。

今度こそ、見逃さない。



 -ほんのわずかに見えたヒント
         目をそらす者
               手を伸ばす者 -


(18に続く)
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Re: タイトルなし

>ナー様

有難うございます。ウトウトしながら拍手コメントなんて書くもんじゃないですね。恥ずかしくて顔から火を噴くかと思いましたよ…

そういや場所的にまんま美緒だ。今気づきました!(なんていい加減)

2014/09/21 (Sun) 00:57 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2014/09/20 (Sat) 15:20 | # | | 編集 | 返信

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