2014_09
22
(Mon)11:55

賭けの勝敗-6(記憶喪失の為の習作2)

B.P.Dも第1弾終了が近づいています。
最後はちょっとだけ幹事として頑張る予定です。

賭けの勝敗はもう暫く続きます。よろしければお付き合いくださいね。

2014/9/22





はらはらと雪が舞う

昨夜から降り積もった雪に吸い込まれていくように、力を失った泉の身体は倒れていく

見開いた目はもう己の意思で何かを見ることはない。
ローズピンクに彩られた唇はもう言葉を紡ぐことはない

だが、屍となってもなお彼女は美しかった
その清純な美しさを象徴するかのように彼女を囲うまだ誰も踏み荒らしてない雪
そして、まだ足りぬと言うように雪が舞い落ちる

はらはらと、はらはらと

*
*

「…きっれーいだな。おい」
「すっげー綺麗な肌。こういうの透き通るようなって言うんだよな」

新開に強請って見せてもらったDVDの画面を覗き込みながら、若手俳優陣が興奮している。

映画冒頭の泉が亡くなるシーン。
新開のこだわりで岩手の古木の下で撮られたそれは泉と修一郎しか出演しないため、他のキャストは見ていなかったのだ。
繰り返し再生しながら、熱っぽく話し合う若手俳優陣の少し後ろで、蓮は台本を開いたままその様子をじっと眺めていた



■賭けの勝敗-6(記憶喪失の為の習作2)



葛巻流の養子となって暫くした時“俺”は、立ち寄った先である生け花に目をとめる
その花を生けたのが、美耶子だった。
やがて2人は恋に落ちる。
両親はすでに亡くなり、弟2人と肩を寄せ合って暮らす美耶子は、庶民的でたくましく、明るい笑顔が印象的だった。
美耶子と過ごす時間に暖かみと安らぎを感じ、“俺”はどんどん惹かれていく。また家元夫妻も彼女を気に入った。

「葛巻流の新しい門出には、ああいう人がパートナーとなってくれる方がいいかもしれんな。それに彼女の生ける花にはセンスを感じる。楽しみじゃないか。」

そんな家元のお墨付きまでもらった2人の交際は順調だった。家元や“俺”からの指導を受け、美耶子はどんどん腕を磨いた。
そしてある日、美耶子の生けた花を見て、”俺”は恐怖するのだ。
その才能に

もし、彼女が最後に俺を選ばなかったら?
もし、彼女が華道のパートナーとして誰か他の人を選んだら?
もし、1人で華道を極め、相反する立場となったら?
この光り輝く才能が横にいなくても俺はやっていけるのか?

*
*


「うん、いいね。美耶子」

美耶子と初めて出会うシーン。満足げに新開は頷いた

「いいですね。百瀬さん。」

先にセットから降りてきた蓮が新開に話しかける

「俺の理想に限りなく近いね。これからの撮影が楽しみだ」
「この脚本、監督のオリジナルでしたよね?」
「そ、俺が考えたのを遠野ちゃんにホンにしてもらった。」
「…2人のアマデウスとサリエリですか」
「そうさ。だが2人のサリエリが取る道は違う。その為には京子のアマデウスの印象が大事だからね」

本当に期待以上にやってくれてるよ。楽しそうに新開は笑う。

「蓮、お前」
「わかってますよ。俺なりのサリエリを演じて見せますよ。演技では負けられません…相手は後輩ですからね」

最後の方の声が自分でも少し強張っているように蓮は感じた。

社から水を受け取り、ベンチに腰掛ける。

隣に立つマネージャーを蓮はチラリと見上げた。
急用があると飛び出て行った社は先にきて待っていた。たぶん、急用とはキョーコと話をすることだったのだろう。
だが、蓮がスタジオ入りした時キョーコはすでに撮影中だったし、社もあれからその話題に触れない。

もしかしたら、社はキョーコの相手に心当たりがあるのだろうか。
昨夜の焦燥感がまた湧き上がってきそうで蓮はペットボトルを持つ手に力を込めた。

社を問い詰めてみたい。
だが、そんなことをして自分はどうしたいのだろう。

「蓮、もう飲まないならこっちに寄越せ。袖が濡れる」

社の声で我に返ると、手に持っていたペットボトルはへしゃげて無残な姿になっていた。

ごみを捨てる為に社が傍を離れて蓮は息をついた。
次の出番までは暫く間がある。控室に一度戻ろうか。

「また見てんのかよ」
「いーじゃん。監督今日中に返せばいいって言ってくれたし…ってお前も見るのかよ?」

さっき、キョーコの映像をみて興奮していた若手俳優2人がまたDVDプレーヤーを覗き込んでいる。

(まだ、見てるのか…)

少々あきれて蓮はその様子を眺めた
確かに綺麗な映像だった。

(だけど、昨夜の彼女の方が…)

そう思った自分に驚愕する。
頭の中の事なのに、妙にいたたまれなくて周囲を見渡すと、今日の撮りが終わったキョーコが監督に挨拶をしている姿が目に入った

「あ、京子ちゃん。帰るんだ」
「俺…今度ご飯誘ってみようかな」
「無理だろ。」
「わかんないよ?あ、じゃあお前も一緒にどう?」
「お、いいね。もう1,2人誘ってなら来てもらえるかもな。でもそれなら俺にもチャンスあるよな?」

小声で交わされる会話になぜか震えるほどの怒りを覚え、それを押さえる為に深呼吸をしてから立ち上がる。
怒りの訳は自分でも分からない。
だけど

「少し外します」

戻って来たマネージャーに声をかけるとスタジオから抜け出した。
いつも通り、でもなるべく早く歩いて目標物を探す


「京子さん」

見つけた姿に声をかけると、キョーコはゆっくりと振り向いた。

「出るの?」
「今日の私の撮りは終わりましたし、夜に別の撮りがあるんです」
「そうなんだ。お疲れ様」

何気ない会話をしながら、ゆっくりと近づく

カツ・カツ・カツ…
自分の靴音が妙に響く

ジッとこちらを見上げる意志の強そうな瞳
例え令嬢のメイクなんてしていなくても、その瞳だけで充分に美しい。

自分を突如として襲う焦燥感、怒り、その感情の名前も理由も分からない
だけど、明確なことがひとつだけ

絶対に
絶対に
誰にも渡したくはない

そのためには…

「今朝は最低の態度だった。ごめん…」

蓮が頭を下げると、キョーコは小さく頭を振った

「その…ちゃんとやり直したいんだ」

絶対に絶対に間違えれない

「その・・・」

演技者として幾多の女性を口説いてきたのに、なかなか上手い言葉が見つからない

「…2人で…食事に行くことから初めてもらえないかな?」

キョーコが目を見張った。

(いや、ベットまで共にした相手に対して、これは違うだろ)

口に出した言葉の間抜けさに自分が情けなくなる。だが言い訳をしようとした唇は結局動かなかった。
キョーコの大きな目から大きな滴が零れたから

ぽた、ぽた、ぽた…
キョーコはその涙を追うように俯き、顔を覆った。

肩を震わし泣くキョーコに、蓮はもうどうしていいか分からない。

「ごめん。その…嫌だった?」

恐る恐る問いかけると、泣きながらも頭を横に振る
提案が悪かったわけではないことに安堵したものの、キョーコの涙は止まらない。
先程までの凛とした姿と一転した、その儚げな身体を抱きしめたいけれど

(食事に行くことから始めようって言っといて抱きしめるのはダメだよな…)

オロオロと考えて、これくらいなら、と頭に手を伸ばす

くしゃり…

柔らかく艶やかな黒髪をあまり乱さないようにゆっくり撫ぜたつもりだった。
だが、キョーコの嗚咽が激しくなって仰天する

「あ、ごめ…「や…めないで」」

離しかけた手をキョーコの声が止めた。
恐る恐るもう一度撫ではじめる。

キョーコの嗚咽は続いている


結局、社が呼びに来るまで、蓮はずっとキョーコの頭を撫で続けたのだった。


(7につづく)






※『アマデウス』(Amadeus)
1984年制作。ブロードウェイの舞台『アマデウス』の映画化
天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツァルトの類い稀なる才能への激しい嫉妬に苛まされるサリエリの苦悩が、大きな悲劇を生んでいく様を描く(ウィキペディアより抜粋)

ちなみにちょびは観てません…。
一度観てみたいんです(観てから使えよって話ですよね)
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コメント

Re: やっと

> まじーん様

本当にやっとですよね。恋愛初心者はえっちらおっちら1歩を踏み出しました。(ただ、足が長いのでその1歩はとてつもなく大きな1歩になるかもしれません)
次回はご期待に添える…でしょうか?頑張りまーす!

2014/09/26 (Fri) 00:24 | ちょび | 編集 | 返信

やっと

まともな1歩を踏み出せた蓮さん。誰にも渡したくはないとちゃんと認められたのだから、愛しい気持ちというか心身共キョーコを求める気持ちが一気に吹き出しそうですよね。続きもほんと楽しみです。キョコさん、もう蓮さんを恋する青年にしちゃってくださいませー!

2014/09/24 (Wed) 17:21 | まじーん | 編集 | 返信

Re: よかった!!

>風月様
有難うございます。
敦賀さんはもう細胞レベルでキョーコちゃんに執着してほしい!そう常々思っております(笑)

そうなんですよ。キョーコちゃん、実はこの話始まって初めて流す涙です。
敦賀さんもそうとう焦ったことでしょう。

2014/09/24 (Wed) 12:28 | ちょび | 編集 | 返信

Re: すごく面白いですね…

> genki様
面白いと言ってくださってありがとうございます。
記憶と一緒に恋愛スキルも消しちゃったので…敦賀さんはもうオロオロしています。
深みがあるだなんて、すごくうれしいお言葉です。有難うございました。

2014/09/24 (Wed) 12:25 | ちょび | 編集 | 返信

Re: そろそろ気づけば?

> ponkichibay様

いつもコメント有難うございます。
仕事中でもお昼前からソワソワって…きっと周りの人は相当空腹なんだと思われてるんじゃ…(笑)
記憶と共に恋愛スキルまで失っていようとも、キョーコちゃんへの執着はもう細胞レベルですから(笑)

2014/09/24 (Wed) 12:18 | ちょび | 編集 | 返信

Re: アマデウス!

ちょびは見たことないのですよ~
すごく有名な映画でアカデミー賞も取ったということくらいしか知らないのです。
今でも口ずさめるってすごいですね。

ちょび的には敦賀さんのキョーコちゃんの執着はもう細胞レベルなので…記憶云々の話ではないような気がしております(笑)

2014/09/24 (Wed) 12:15 | ちょび | 編集 | 返信

Re: うぎゃ~

> へなへなっち様
ええ?へなへなっち様まで泣いちゃった?

仕方ない…泣いといてください(^_^)/

2014/09/24 (Wed) 11:56 | ちょび | 編集 | 返信

よかった!!

絶対に誰にも渡したくないという気持ちに蓮様が気付いてくれて良かったです!!
そしてキョーコちゃんも思わず泣いちゃいましたね!
これから記憶のない蓮様がどうやってキョーコちゃんに寄り添って行くのか楽しみです!!

2014/09/22 (Mon) 22:56 | 風月 | 編集 | 返信

すごく面白いですね…

こんばんは。お話、すごく面白いですね。まだ記憶が全く戻らない蓮さま、キョーコちゃん相手だと、やっぱり情けないくらい恋愛初心者の行動には呆れちゃうんですが、このお話のキョーコちゃんは深みがあってものすごく応援したくなります。記憶を取り戻した時の蓮さまの行動が今から楽しみです♪
どうもありがとうございました。

2014/09/22 (Mon) 22:23 | genki | 編集 | 返信

そろそろ気づけば?

更新ありがとうございます

本当にあっちもこっちも目が離せません(月・金は仕事中でもお昼前からソワソワです)
焦燥感・震えるほどの怒り...イイですね☆彡
蓮様、無自覚に独占欲に嫉妬が出てますね。その調子です(笑)
記憶があろうと無かろうとキョコさんのみ反応は流石蓮様です、嬉しくなちゃいますね。
キョコさんも久しぶりの優しい敦賀さん堪能ですね
懐かしの敦賀セラピーまであと少し

続き楽しいのお待ちしています

2014/09/22 (Mon) 13:39 | ponkichibay | 編集 | 返信

アマデウス!

懐かしい映画ですね・・・
色々思い出のある映画だったので、何度も見ていて、今でも『レ/ク/イ/エ/ム』を口ずさめますw
屈託のないアマデウスの天才ぶりとサリエリのプライドと嫉妬の板挟みの焦燥感。
蓮さんはサリエリ側か・・・う~ん、キョーコちゃんへの答えのわからない劣情感とあわせて妄想が膨らみます。
でも記憶をなくしてもやっぱり蓮さんはキョーコちゃんに惹かれるんですね。
もう何回でも恋していなさい。
早く記憶が戻る事を願いつつ、続きを楽しみにお待ちしております。

2014/09/22 (Mon) 12:47 | ピコ | 編集 | 返信

うぎゃ~

これはどうコメントをしたら良いんでしょうか… (TへT)キョコちゃん… ここは一緒に泣いとくか… うわぁ~ん。

2014/09/22 (Mon) 12:15 | へなへなっちです | 編集 | 返信

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