2014_09
30
(Tue)11:55

賭けの勝敗-7(記憶喪失の為の習作2)

さて、B.P.Dも終わり、今日から通常更新です。
無駄に長いですが、これを途中で切ってもなあ…と思ったので載せちゃいました。

2014/9/30






- 1年後 カルフォルニア -


「…うん。そう。思ったより仕事が早く片付いたんだ。1日早く帰るよ。」

ドアがノックされ、社が顔をのぞかせた
電話中であることに気付いて出て行こうとするが、“かまわない”とジェスチャーして見せ、電話を続ける。

「ロケで横浜に夜まで?かまわないよ。終わるころに迎えに行くから。疲れ?大丈夫。キョーコに会えば吹っ飛ぶよ。…うん?うん。楽しみにしてる。…うん。じゃあ、愛しているよ」

通話を終えると、社からの生ぬるい視線

「なんですか?」
「いや…今日もラブラブだなあ…と思ってさ」
「いけませんか?」

そう。
“お食事から始めましょう”、そんな関係は3日ともたなかった。
いや、3日近くもったと言えるのか?




賭けの勝敗-7(記憶喪失の為の習作2)





1年前

あの提案から3日後、約束通り2人は都内のイタリアンで2人で食事をした。
あまりかしこまっていないその店は、個室でとてもくつろげる雰囲気だったし、蓮の小食のことは知っているというキョーコは、コースではなく1品1品を2人でシェアする形を取ってくれたのでそれなりの品数も美味しく食べられた。
そして何より会話が弾み楽しい。

だが、料理をもうじき食べ終わるという頃になると蓮は落ち着かなくなった。
食事が終わったらキョーコを送って行って、それでもう今日はお別れだということに。

「…敦賀さん」
「ハイ」
「そのイジイジとつついてるブロッコリー、食べちゃってください。お店の人がお皿下げれないじゃないですか」

つまらぬ時間稼ぎがばれて、もごもごとブロッコリーを咀嚼する。
それにどんなに粘ったところでまもなく閉店時間だ。どうせ出なければならない。
バーに誘うにも明日の撮影があるし、おまけに今日は車だ。キョーコを自分の車で送りたいからとワインをせっかく我慢したのに、ここで飲んでは水の泡。

「…呑み込めないならお水どうぞ?」
「…呑み込みました」

払う払わないのつまらない争いをした後店を出る。

「ご馳走様でした」
「いえ、美味しいお店を教えてくれてありがとう」
「気にいっていただけてよかったです。」
「うん。日本はやっぱり食事美味しいよね。」
「じゃあ、今度はお魚の美味しいお店にしましょうか?」

“今度”という言葉に急浮上する心。

そうしているうちにキョーコのマンションの前についた

もう一度御礼とおやすみなさいを言ってキョーコがあっさりと車を降りる。
味気なく思いながら、エントランスに向かう背中を見つめていたら、5,6歩歩いたところでキョーコが振り向き笑って手を振る。それをみて暖かいものが胸にこみ上げて、蓮も手を振りかえす

ふとミラーを見て驚愕した。
自分が“恋をする男”の顔をしていたから

ようやく理解した。

キョーコが好きなのだと


その瞬間車から飛び出て、エントランスに入ろうとしていた彼女を捕まえた

「君に恋してる」

突然抱きしめられて腕の中で暴れていたキョーコはそれを聞いておとなしくなった。

「…食事に行く関係からやり直すんじゃなかったんですか?」
「うん。だからやり直して、理解したんだ」
「…」
「俺の恋人になって欲しい」

答えが返ってこないことに不安を覚えて、何度も何度も懇願し、ようやく聞こえた返事はひどく小さな声だった。

「敦賀さんのこと…好きですよ。……もうずっと前から」

その言葉を聞いた途端キョーコを車に引きずり込んでいた。

「ちょ、なんなんですか!?目撃者いたら絶対誘拐魔だと思われて通報されますよ!」
「だって、帰したくない」
「だってじゃないですよ」
「大事にするから」

キョーコは目を見開いた後、笑った。笑いすぎて涙が出たと言いながら笑った。


翌日、報告した時の社の顔は忘れられない

「なんだ、本当に“2人でお食事から”なんて思ってたんだ」
「なんですか。その残念な奴を見る目は…」
「いやいや…ま、大事にしろよ」

そう言って笑う顔は今まで見たことが無い位柔らかかった。

そこからは、社曰く“暴走特急”
そのまま半同棲生活に持ち込み、3週間後には「来てくれなければ俺がそっちに移り住む」と半ば脅して、本格的な同棲に入った。
2か月頃にはキョーコの親代わりだというだるまや夫妻に挨拶に行き、撮影が終わる間際、新開にも報告した

「そうきたか」
「は?」
「いや…で、俺んとこきたってことは公表しようと思っているんだろ?」
「ええ。この仕事が終わればまたアメリカです。掃える虫は掃いたいですから」
「余裕ないな」
「そんなものは微塵もないです。ただ・・・。映画のイメージがあるとおっしゃるなら暫くは公表を差し控えます」
「そういうところは“敦賀蓮”だねえ」

ニヤニヤと笑うと新開は机に肘をついた

「まあ、確かにお前と京子は今回相手役じゃないからな。ただ公表されることは映画の宣伝にはなる。俺はそんなものに頼らなくてもいい映画は作ったつもりだけど、宣伝されるに越したことはないからな」

金と観客は多ければ多いほどいいよなあ。と人差し指と親指が輪を作る。

「観てもらえさえすれば納得してもらえる出来にはなってるさ。精々宣伝してくれたまえ。色男君」

その3日後にはエコバックを片手に、キョーコの手を握ってマンションに入る蓮のスクープ写真が世に出た。
どこかのお祭り好きでお節介な社長の仕業に違いなかった。

*
*

あれから、一年。

元々アメリカでの仕事が一段落したら、日米両軸でという話はあった。
“敦賀蓮”という俳優を育ててくれた日本に愛着もあったし、細やかな心理描写を得意とする監督たちの作品に出たいという思いもあった。
そしてキョーコの存在。
今はこちらではなるべく詰めて仕事をして、まとまった休みが取れたら日本に行く生活だ。


「しかし、ほんとぞっこんだよな。キョーコちゃんに」

社はもうニヤニヤと遊ぶモード全開だ。

「あれか。そろそろ結婚に向けての対策しとくべきか?」
「…」
「なんだよ。その吃驚顔は」
「いや…。もう始めているものとばかり…」
「…する気なんだ」
「当然ですよ。京都の河原で出会った相手と大人になって芸能界で出会うなんて、もう運命でしょう」
「自分で運命とか言っちゃうんだ…」

キョーコがマンションに越してきた時に、手荷物の中から偶然青紫の石を見つけた時の衝撃は半端なかった。
大混乱しながら自分がコーンだと名乗り出たのに

「知ってましたよ」

返ってきたのは至極あっさりした答え
なんでも、蓮が出自を発表した時に気付いたらしい。

「もっと早く言ってくれればよかったのに」
「言ったじゃないですか。ずっと前から敦賀さん好きだったって。なんかかえって言い出しにくくなっちゃったんです。それに妖精の血をひいてるだなんて、あまり人前では話せないでしょうし…」

あまりに混乱していたので、妖精の血云々を否定するのを忘れていたことに気付いたのはだいぶ後になってからだ。

幼い日の大事な思い出の相手で
今は身も心も人生も欲する人。

蓮が27歳。キョーコが23歳。
交際期間1年。
そろそろ決めていいころだ。
今回か、その次あたりでプロポーズしたい。

「さ、社さん。そろそろ行きましょう。パーティに遅れます」
「そうだな。日本に帰る前にしっかりお仕事しないとな」

*
*

「クオン!よくきてくれた!黒髪の君もミステリアスでいいが、その姿は神々しいまでに美しいな」
「お招きにあずかり光栄です。Mr.ジェームス」

世界的IT企業家の主催するチャリティーパーティ―
ユーザーから神とも称される人のパーティーには財界・ハリウッド・ブロードウェー、様々な著名人が顔をそろえていた。

挨拶をしなければならない人に挨拶をしたところで、ご婦人方に囲まれた
艶と媚を込めた表情には慣れたとはいえ、含みのある物言いを礼節と愛想を混ぜてかわすのは正直疲れる。

堂々と交際宣言をしているのはこちらにも伝わってきているのに、お誘いが全く減らない理由もわかっている

“レンは不能をカモフラージュするために、野心に燃える東洋の女優を恋人のポジションに据えている”
あの映画が国際映画祭で受賞したこともあって、まことしやかにささやかれる噂
色んな意味で不愉快極まりないが、こういうことは時間をかけていくしかないのだと過去の経験が教えてくれている。
それでも自分たちの演技に対する情熱と、2人の関係を汚された感じがして…

「蓮、冷静になれよ」

1人になった絶妙なタイミングで社から囁かれる

「…分かってますよ」

何よりキョーコが「敦賀さんがそんな風に言われるのは申し訳ないですけど、私が何と言われようとかまわない」と言ってくれている。
こういう世界にいる限り仕方ないかもしれない。
だけど大切な人を守りたい。そう思ってもいる訳で
頭に浮かんだモヤモヤがもう限界となった頃、ようやく会場から抜け出すことができた。

(早く帰ってシャワー浴びたい…)

小さく息を吐いた時、聞き覚えのある声が蓮を呼び止めた。

「クオン。お久しぶりね」
「ニコ…」

1年前に数日の付き合いで終わったハリウッド女優もこのパーティの出席者らしい

「お元気そうね。また恋人の待つ日本に飛んでいくんですって?お幸せそうで何よりね」
「君も仕事もプライベートも充実しているようで何よりだ。彼は素晴らしい選手だ。応援してるよ」

蓮の心からの賛辞にニコルの顔が小さく引き攣ったのを社は見た。
アメフトのスター選手からの熱烈なアプローチの末付き合っているのは有名だが、まだニコルが蓮に未練タラタラだという噂もこれまた社の耳に入ってきている。

「俺は今日はもう失礼するよ。」

そう言って横をすり抜けた蓮をニコルの声が追いかけてきた

「貴方の…ちゃんと使い物になってるのかしら?彼女、満足しているのか、心配だわ」

(うわっ、きたよ。)

蓮の噂を知っての上の盛大な嫌味。社は首をすくめた

にこり
蓮が所謂似非紳士スマイルを浮かべる

「お気遣いありがとう。使いすぎてよく叱られるんだ。気を付けるよ」

途端、ニコルが真っ赤になってプルプル震えたのが分かった


クロークで荷物を受け取る蓮の背中を追いかけて社は囁いた

「お前、あんなのキョーコちゃんの耳に入ったら目茶目茶怒られるぞ」
「彼女とマネージャーしか周りにいないのは確認しましたよ」
「だからってなあ。」

ブツブツと続くお説教を背中で受け止めながら足早に会場を後にした。

流石に酒が結構入っている為、迎えに来てもらった車に乗り込み、タイを外すとカバンにしまう。
その時目に入ったのは…キョーコと付き合いだしてからもずっと持ち歩いている携帯電話。

キョーコといる時は触れることさえほとんどないが、1人でいるときは相変わらず弄っている。
やはり今の自分を作った何か、は気になるから。

うっすらと思う。
5年前、記憶を失う前の自分にも誰か大切な人がいたのではないだろうかと。
その人の情報がこのフォルダに入っているのではないだろうか。

付き合っていたら…たぶん記憶を失ったとしてもコンタクトはあっただろうから、片思いだったのか
それとも終わった恋だったのか
どちらにしろきっと5年前の蓮にとってはとても大事な人だったのだろう。
でも、もし、このフォルダが開いたとしても
そこにどんな人の記録が残っていたとしても

(キョーコは絶対に手放さない)

過去は過去だ。
それが現在の自分を作っていたとしても
キョーコと生きる今と未来は手放さない。

絶対に。

「どうかしたのか?ボーッとして」
「いえ、別に」

蓮はゆっくりと鞄を閉じた。


(8に続く)
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コメント

Re: こういう展開できましたか!

> genki様

いつも有難うございます。
そうなんですよ。いきなり1年後?って思いますよね~。
フォルダがもうパンドラの箱状態になってます(期待していただくようなものが入っているかは別にして)

2014/10/01 (Wed) 08:28 | ちょび | 編集 | 返信

Re: どんな状態でもキョコさんだけを愛するクオン。

> 魔人様

出待ち有難うございます!
幸せだけど、本人だけが知らないある意味変な状況ですよね。ひたひたと影響して行ってますよ~

2014/10/01 (Wed) 08:26 | ちょび | 編集 | 返信

Re: イイじゃないですか!

> ponkichibay様

いつも有難うございます!
鈍さもあるのでしょうが、想像もしてない感じですかね?

2014/10/01 (Wed) 08:23 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 気になる!

> ゆうぼうず様

ド嵌まり!有難うございます!
携帯フォルダ、がある意味パンドラ的存在になりました
どうやって開くのか、どんな風にとらえるのか…

2014/10/01 (Wed) 08:18 | ちょび | 編集 | 返信

こういう展開できましたか!

こんばんわ。一年後…えっ、一年後??とか、思いました。お話が進みましたね。しかし、とっても面白いので早く終わって欲しくないような…。そして蓮様の携帯のフォルダはまだ、開けられずにいて、記憶も戻っていないんですね。何度会っても恋に陥る…それはキュンと来る流れですが、記憶戻ってフォルダ開けたら、キョーコちゃんに謝りなさい!!と言いたい気もします。忍耐強くてしなやかなキョーコちゃん、親衛隊になってしまいそうです。←世話好きな親戚のおばさんのような視線かも。キョーコちゃんに一生頭の上がらない蓮様が見られることを期待しています。どうもありがとうございました。

2014/10/01 (Wed) 00:24 | genki | 編集 | 返信

どんな状態でもキョコさんだけを愛するクオン。

でも、今はまだ「記憶喪失のまま恋に落ちた」状態なのですね。社とキョーコは知っているけれど、クオンだけは知らない過去の恋愛。それが今度どう影響してくるのか。またまた楽しみな展開です!(←出待ちのファン状態でドア前待機)

2014/09/30 (Tue) 22:23 | 魔人 | 編集 | 返信

イイじゃないですか!

更新ありがとうございました!

良かったねキョコさん&蓮様
しかし蓮様にぶいですよね?何故自分だと思わないのかしら!
スッポリ抜けてる空白の記憶。戻らなくても携帯電話が解決してくれるんでしょうね。その時が楽しみです。

次回も楽しみにお待ちしています

2014/09/30 (Tue) 14:31 | ponkichibay | 編集 | 返信

気になる!

今回もド嵌まりしてよみました。
最後のとこ気になって気になって
(゜ロ゜;
携帯の暗証番号.....気づくかな?
中を見たときの衝撃は蓮の思考や記憶にどんな影響を与えるんだろう?
あぁっ!続きが早く読みたいぃ!
いいこで待ってまぁす(^^)

2014/09/30 (Tue) 13:28 | ゆうぼうず | 編集 | 返信

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