2014_10
15
(Wed)11:55

そして、月は昇る(前編)

先週の月食を見て思いつきました

1週間もたってから公開するのはどうよ?と思わないでもないのですが…

2014/10/15


まだ月はあの山の向こう…



■そして、月は昇る(前編)




「ああ、あそこじゃないかな?」

土手沿いに歩いていた2人に学校のグランドらしきもの見えた。生徒だけではなく父兄や地域住民もきているのか、結構な人数がパイプ椅子やらレジャーシートに腰をおろしている

「あのグランドの向こうの方から月が出るみたいだね。確かにこの土手からだとよく見れそうだ」

座ろうか、と縁石を指差されてキョーコは頷いた



ある地方都市で撮影されるドラマのクライマックスシーン
明朝早くからの撮影の為、蓮とキョーコ、社は夕方にはこの街に入った
少し遅れて到着する監督や他の出演者と夕食を一緒にとる予定だったのだが…

「事故渋滞だってさ」

ホテルについて、皆が来るまでお茶でも、というタイミングでかかってきた電話
ADと通話を終えた社が言った
なんでも玉突き事故に巻き込まれたトレーラーが高速をふさぎ、にっちもさっちもいかない状況らしい
スタッフをのせた車の現在地を聞いた蓮が眉を寄せる

「そこからなら例えすぐに動き出したとしても1時間半はかかりますね」
「うん、だから夕食は先に取っていてくれって話だった」
「…先にですか?」

時刻はまもなく5時半になろうといったところ

「もう少し様子を見てからでいいと思いますが…。」
「だよなー。俺もそう思って返事しといた。とりあえず7時半位に判断しようかと思うんだけどどう思う?」
「俺はかまいませんよ。最上さんはお腹大丈夫?」
「大丈夫です!」
「そう。でもお腹すいたら遠慮せずに言ってね」

コクコクと頷くが、正直キョーコにしてみればみんながいてくれるほうが有り難い。
そう。今は

「じゃあ、それまで下でコーヒーでも…」
「それなんだけどさあ」

待ってました、と言わんばかりに社がニマニマと告げた

「今日、月食だろ?なんか近くの学校のグランドで観賞会があるみたいなんだよ。2人で行ってみたら?」
「な!?何言ってるんですか、社さん!そんな人が集まっているとこに敦賀さんが行ったら大騒ぎになります!」

キョーコが慌てて止めるが、社は大丈夫じゃない?と笑った

「グランドは沢山人がいるだろうけど、土手からならグランドが見下ろせて人もいないだろうってフロントの人が言ってたよ。ホテルの裏口から出て土手沿いに歩いて10分位だって」

こんな機会めったにないよ。いってきなよ、と社はなおも薦める

「せっかくだから行ってみようか、最上さん」

周囲の目などなくても、2人になるのは抵抗があった。
だけど2人で過ごす時間を持てる魅力には抗いがたかった。



そして、2人は件の学校のグランドを見下ろせる土手に腰を下ろしている。
10月も半ばとなった6時近い時間、日没から30分近く過ぎて辺りは闇に包まれた

「ああ、あの山の向こうにもう月は出ているんだね。」

蓮が指さす方を見ると、なるほど山際から黄金色の光が見えている

「…あんなに月の光って明るかったんですね」
「そうだね。月の出をじっくり見る事ってなかなかないから」

もうじき、ここからも満月が見えるだろう。あの夜のように





ドラマの撮影が始まったのは夏の盛りの頃。

その日は朝から一日撮影にかかりっきりで、夕方になると体力に自信のあるキョーコと言えども疲れを感じていた。

「最上さん、疲れたんじゃない?」

蓮がキョーコの顔を覗き込んだことで夕日が遮られる。

「いえ…まだまだ大丈夫です」
「炎天下の中撮影してたんだから疲れて当然だよ。キョーコちゃん」
「暫く出番ないし、このシーンは時間かかりそうだ。ちょっと控室に行って休んで来たら?」
「でも…」
「体調管理も大事な仕事だよ?」

確かにドロンとした疲れを感じていた。
出番が近づいたら呼びに行ってあげるという2人に礼を言って、控室に入りお茶をのんでソファーに身をゆだねた途端、眠りの沼に引き摺りこまれる。
深い眠りは短かったのか、長かったのか

誰かに声をかけられながら肩を揺すられて薄目を開けると、日はとっくに落ちて控室は闇に包まれていた

小さな窓から漏れる満月の光
それを背にキョーコの顔を覗き込む人の髪は光を受けて黄金色に見えた

だから混同した。あの妖精と


「…コーン」

キョーコの小さな呼びかけに、その人の肩が揺れる
少しずつ覚醒してきた意識が、妖精ではなく先輩俳優だと認識した時、それは聞こえた

「残念だけど、今は違うよ」

(え?)

完全に覚醒した目で見上げると、蓮は少し困ったように微笑んだ

「もうすぐ出番だよ。最上さん」

そう言われると頷くしかなく、キョーコは立ち上がった。




その後しばらくは蓮とゆっくり話す機会はなかった。
蓮はドラマの撮影を詰めて行い、その後半月ほど海外の仕事に行っていたのだ。
なんとなくスッキリしないような。でも聞かない方がいいような、そんな気分のまま9月入る。

そんな中蓮からかかってきた電話は、海の向こうからで、帰国の日に会わせて食事をしたいというもの。
キョーコはラブミー部としての仕事と受け止め、先輩俳優のハチャメチャな食生活改善の一助になればと張り切った。

「ラブミー部の依頼とは聞いてないけど?」

キョーコの思い込みは社の一言で打ち消された。

「え?でも…食事って…」
「うん。お願いしたとは聞いたけど…個人的なものだと俺は認識してるよ」

なんでもないことのように言いながら、担当マネージャーはキョーコにマンションのカードキーを差し出した
個人的にマンションに女の子を招き入れるってどうなんだろうとか、聞きたいことは色々あったがあまりに当たり前の態度に言い出し損ね、カードキーを受け取る
すると、一緒に差し出される紙袋。

「今晩、中秋の名月なんだって。俺からの差し入れ。蓮と食べてね」

それは京都の老舗和菓子店の月見団子



軽めの夕飯の後に社からの団子の差し入れがあることを告げると、それではと蓮はカーテンを開け、リビングの灯りを消した。
テーブルを窓際に寄せて見上げる黄金色の月は、やっぱり妖精の髪の色を思い出させる

「キョーコちゃん」

この場では呼ばれるはずのない呼び名に横をむき、息をのむ。
瞳は黒いまま、妖精の髪をした先輩俳優がそこにいたから

「出入国の関係で髪を戻しているんだ。さっきまではウィッグ」

そう言いながらコンタクトを外すと、月の光を受けて輝く緑の瞳。

そこから穏やかに語られる蓮がここにいる理由
キョーコはただただ黙って聞いていた

「グアムで言ったよね?俺が“キョーコちゃん”を愛してるって」

久遠でも敦賀蓮でも同じなのだと
最上キョーコを愛しているのだと

そして愛してほしい。
久遠を。
蓮を

そう告げた


キョーコは小さく震えた。
まだ信じられないけれど、その喜びに顔が紅潮しているのが自分でもわかり恥ずかしい。
だが、言葉を紡ごうと口を開いた。

“私だって”と
“敦賀さんが好きです。”と


だが、その時

流れる雲によって、月は姿を消した



(後編に続く)





1週間遅れな上、まだ月食にならず!
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