2014_10
22
(Wed)11:55

そして、月は昇る(後編)

さて、後編
結局月食から半月立ってしまいました。

2014/10/22

月が隠れたのは、ほんの一時

それにリビングの灯りを落としているとはいえ、キッチンや廊下の照明はそのまま、まして外は眠らない街東京
2人は完全に闇に包まれたわけではなかった。

だが、キョーコにはそれは暗示に思えた

蓮が告げてくれた想いの未来への暗示


■そして、月は昇る(後編)



雲がまた流れ、窓から差し込む月光に二人は照らされる

それと同時にキョーコは首を何度も横に振った

「どうして?」

月が隠れる前のキョーコの様子に、良い返事を期待していた蓮は哀しげに眉を寄せ問い掛ける。
それには答えず、キョーコが今一度首を横に振った
と、同時に長い腕が細い身体を引き寄せる

「俺の想いはそんなに信用ならない?」

頭の上から聞こえる哀しみを込めた低い声と、キョーコの頭が収まっている蓮の胸から聞こえる少し早い鼓動

想っている相手から想いを告げられての抱擁は、“敦賀セラピー”なんて言葉では言い表せない程に甘く暖かく、心地よかった
このまま蓮の手に墜ちてしまえば、この抱擁を受ける権利が持てる…


また雲が流れ、月が陰る


それに気付いたキョーコは、甘やかな幸せを振り払うように言葉を発した

「私はもう…置いていかれるのは嫌なんです」
「…最近海外の仕事が増えたから?…俺が久遠・ヒズリだから?敦賀蓮だから?」

明確には答えは出ない。
だけど、二人の芸能界での立場はまだ雲泥の差があって、蓮はまた久遠であって、アメリカは帰るべき国であって…
大小様々要因が組み合わさって、二人の距離を広げて行くだろう
ましてや、人の…蓮の気持ちだって変わって行くだろう


キョーコは答えなかったし、蓮も答えを期待していたわけではないらしい。

「少しづつでも信頼をもらえるよう頑張るよ。諦めないから」

そう告げると、甘美な温もりはキョーコから遠ざかった



*********



あの夜以来、キョーコは蓮と2人きりになるのは避けてきた
同じ現場だし、一緒に行動する機会はある。けれど2人にならないように神経を使った。
蓮にもそれは分かるらしく、寂しげに、時には困ったように微笑む事が増えた

それを見ると罪悪感に胸が軋み、それと同時にあの甘美な温もりを渇望する自分に気付く

なんて事はない
避けているくせに誰より蓮と2人きりになりたいのはキョーコ自身なのだ
あの喧嘩漫才のようなやりとりをかわしたり、優しい笑顔を独り占めしたい、あの胸に引き寄せられたい。
じわじわと浅ましい欲が募り、溢れ出そうとなったタイミングでこのロケになったのだ。

だから、社がロケ地まで蓮の車でと申し出てくれた時、首を縦に振った。
どうやら蓮の想いを応援しているらしい社は、2人きりにするだろうということは想像できたのに。


***********************


少しずつ月が欠け始め、2人はそれを他愛のない話をしながら見守った。

日中との温度差に少し寒く感じていると、肩から覆われていく温もりと欲していた香り
蓮のジャケットがキョーコを包んでいる

「風邪、ひいちゃだめだよ」
「敦賀さんこそ…」
「俺はまだ寒くないよ」

(グランドが騒がしくてよかった…)

そうでなければ、キョーコの心臓の音が蓮に聞こえてしまうだろう。


部分食から、そろそろ皆既食へ、という時間帯に社から連絡がきた

「ようやくトレーラーを移動させ始めたみたいだね。向こうは食事はPAかインター降りて直ぐにとるから、こっちはこっちで食事を済ましてくれって話になったって。」
「…渋滞、早く抜け出せたらいいですね」
「そうだね。」


そして、月は地球の影に入った。


「月…」
「ん?」
「真っ暗になる訳じゃないんですね。何か…赤茶色って言うか…」
「赤銅(しゃくどう)色っていうらしいよ。太陽光が地球の大気層に少し屈折して影の部分に入り込むんだって。青い光は散乱しやすくて、赤い光が月に届くからあんな色になるらしいよ。」
「詳しいですね」
「うん、最上さんと月食見れたいいな。と思って昨夜ネットで調べた。」
「わざわざですか?」
「好きな子にはカッコいいとこ見せたいだろ?」
「ネタバレしちゃったら意味ないと思いますけど」
「確かにそうだね」

蓮がクスクスと笑う。キョーコも少し笑ってから、今一度月を見上げた

「…ちゃんとあるんですね。」
「うん?」
「月です。地球の影に隠れても、三日月でも半月でも、新月でも…この空のどこかにちゃんとあるんですね」

立場も違う。会えない時間も多い、アメリカに行ってしまうかもしれない。
でも、蓮の気持ちはちゃんとキョーコにある。
それはずっとではないかもしれないけど、今信じるに足りる愛はちゃんとある

覚悟を決めて蓮を見た。
蓮は月ではなく、キョーコを見ていた。真剣な瞳で。
敏いこの男性(ひと)は、今言った裏の意味をちゃんを理解したらしい。

「ずっと傍にいて君を愛し続けるよって言えたらカッコいいんだろうけど…」

少し苦みの入った微笑み

「現実はそうはいかない。俺の気持ちは変わらない自信があるけど、それがうまく伝えられなかったり、捻じ曲げられたりすることもあると思う」

時間的なすれ違い、時には海外にも及ぶ距離的な問題、そして芸能界という世界にいる以上様々な思惑によって2人の邪魔をしたり、真実とは違う情報が流れることだってあるだろう。

「最上さんから見て俺の想いが、欠けたり、ぼやけたり、見えなくなることだってあると思う」

だけど

「信じて欲しい。俺の想いはちゃんとある。そして必ず示して見せる。君を愛してるって」

あの月のように。
また必ず昇り、照らして見せる。


いつの間にか、泣いていた。
涙でさぞグシャグシャの不細工顔なんだろうと思いながらも大きく頷いた。
嬉しそうに笑う蓮に、敬礼して見せる。

「ふっ、不肖最上キョーコ、決めた以上はジッとなんてしておりません。月が見えなくなったら見える場所まで走って参ります!」
「うん。」

最上さんらしいね。そういいながら、蓮は立ち上がり、手を伸ばした

「それに2人で互いに手を伸ばしたら、距離は縮まるんじゃないかな?」

蓮の手に掴まり立ち上がると、そのまま抱きしめられた

「なっ!」
「ちょっとだけ。この1カ月近く随分我慢したんだよ?」
「ぐ、グランドから見えますからっ!」
「じゃあ、2人きりならもっと色々…いい?」

艶を帯びた声にキョーコは飛び退いた。

「お腹がすきましたっ。そろそろ帰りましょう!」
「何?そのスタートダッシュの構え」
「ホテルまで競争です!!!」
「へえ…俺に勝てると思ってるの?」

勝ったらご褒美もらえる?イジワル顔でニヤニヤ言われて、キョーコはさらに真っ赤になった。

「コンパス違うんですから、敦賀さんは10数えてからスタートです!」

よーい、ドン!


皆既食は終わりを告げる

ホテルまでの道を、笑いながら駆けていく2人を、少しずつ輝きを増す月が照らしていく



(FIN)
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コメント

Re: 競争で。

>まじーん様
有難うございます!
でも、実際問題、あの2人だから全力疾走ですよね?
全力疾走の敦賀氏に追いかけられるのってかなりの恐怖な気が…
途中から本気で泣きながら逃げてそうなキョーコちゃんが浮かびます( ̄▽+ ̄*)

2014/10/23 (Thu) 00:20 | ちょび | 編集 | 返信

競争で。

風を切って走ったら、ホテルに着く頃には抱えていた「いらないも」は全部削ぎ落とされてそうですね!

吹っ切れて可愛い笑顔をみせるキョコさんに、蓮さん撃沈しそうー!

またまた素敵なお話を有難うございました!

2014/10/22 (Wed) 17:15 | まじーん | 編集 | 返信

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