2014_03
10
(Mon)00:19

1歩いっぽ(8)

ようやく一区切り。
前回はえらく短かったので今回は切りよく行きますね。

2014/2初稿、2014/10/1一部修正





「何もしないよ」

この言葉は前にも言われたことがある。


違うのは明確な胸の痛み。


今日の七倉美森を受け止めたときの柔らかな感触を思い出す。
自分の貧弱な身体。少しからかわれただけで動揺するお子様な態度


ああ、やっぱり。



■1歩いっぽ(8) ~それは深く浸み込んでいく~


「すいません!なんだか自意識過剰で!!いや、わかってるんです。私がお子ちゃまだってことくらい!!!」

恥ずかしくて、なんだかみじめで、キョーコはまくしたてた。
そうしないとなんだか泣いてしまいそうだ。

心がにじんで、少しづつ自分に浸透していた蓮の気持ちも見えなくなっていく

「お子様?」

蓮は眉を寄せた。

「そんなことは思ってないし、最上さんが俺を警戒するのは間違ってないよ」

キョーコはぶんぶんと振っていた手を止めた。

「このままだと晩御飯が遅くなるし、とりあえず車に乗ろう。」

慌ててツナギから着替えて部室を出ると、待っていた蓮は黙って駐車場に向かう。その背中を追いながら、キョーコは段々と腹が立ち始めた。

(人の気もしらないで、振り回してばっかり。)

少し乱暴にシートに腰を下ろしたキョーコをちらりとみて、蓮はエンジンを入れた。

「で、どうする?食事は外にしようか?」
「スーパーによってください!」

こんな拗ねた口調。ますますお子様だ。分かってはいるが、止められない。

駐車場を出てすぐの赤信号で車は停まる。
蓮はキョーコの方を向いた。

「もう一度いうけど、最上さんを子供なんて思ったことはないよ」
「…どういう意味だか分かりません」
「男として最上さんに色々したい願望があるってこと」
「!!!!!いろいろって!!!」
「健全な21の男ですから、そりゃあもう色々と」

キョーコはカバンを胸に抱えて精一杯蓮から距離をとった

(なななななななななななっ何をっ!?しかもにっこり笑っていうのよおっ!)

だけど、今は何もしないよ。と蓮は前を向いた。
信号は青に変わり、車は再び動き出す。

蓮の表情は真摯なものに変わっている。

「俺は最上さんを好きだし、もちろん女性としての魅力も感じてる。だから最上さんに触れられることができたらすごく幸せだと思う。」

でもね。

「その時には最上さんも同じように思って欲しいんだ。無理やりになんてして、最上さんの中から抹殺されるなんてごめんだからね。」

静かに、でも明確に紡がれる言葉に、キョーコは胸のカバンをさらに抱きしめた。

「敦賀さんは物好きです…。」

ポニョンもフニョンも触り放題じゃないですか、続けた言葉はかそぼくて、なんだか泣きだしそうに聞こえるのではないかと不安になる。

「『魅力は俺だけがしっていればいい』って思ってた時期もあったんだけどね。」

カバンから顔を上げると、前を向いたまま苦笑する蓮の顔

「君は芸能人だし、俺は君がこれからどんどん花開くのをみていたい。そして一緒にもっと高みを目指したい。だから、その感情とはそれなりに折り合いをつけるようにしてるよ。それに、何を基準にポニョンやらフニョンなのかはわからないけど、俺からしたら最上さんの身体は十分柔らかいし、魅力的だよ」

もうどんな顔をしていいのかわからずに、キョーコはカバンに顔をうずめた。そのままの姿勢でぼそぼそと蓮に問いかける。

「じゃあ、敦賀さんは私といる時、いつも我慢してるんですか?」
「我慢ねえ。いつもじゃないけど、してないといったら嘘になるな」
「それって辛くないんですか?」

こんなことをキョーコが蓮に聞くのは失礼なのかもしれない。
でも、身近に松太郎がいたとはいえ、キョーコにとって男女のことはどこか別世界の出来事だった。自分の身に起こるとどうしていいのかわからない。

信号はまた赤、恐る恐る横を見ると蓮が驚いた顏でこちらを見ている

「辛いかあ。理性を揺さぶられて拷問かと思ったこともあったけど辛いはなかったな。」
「ないんですか?」
「ないよ。拷問よりも一緒にいれて嬉しいの方がはるかに上回るよ」

一緒に入れて嬉しい・・・

「なんで?」 

ポロリと出た疑問に、なんでって…と蓮はまた苦笑する。

「最上さんが好きだからに決まってるけど?」

そう言ってまたキョーコの方を向いた蓮の笑顔はどこまでも優しい。
キョーコは蓮を凝視したまま固まった。

笑顔のままで蓮は告げた

「着いたよ?スーパー」

我に返ったキョーコは、蓮の同行を丁重にお断りして車から急いで降りた。

とりあえず、一人で冷静になりたい。車の中の雰囲気を変えたい。
蓮もキョーコの意向をわかっているのか、あっさり引き下がった。
カートを押して機械的に買い物を済ませる。

何とか顔のほてりだけは収まって車に戻ると、蓮はいつもの穏やかな先輩に戻ってキョーコの今後の仕事について話しかけてきた。
会話をしながらキョーコは思う。

この人は私を好きだと言ってくれている。
そして、ちゃんとキョーコを尊重してくれている。

それはもう、キョーコが目をそらそうとも、身体と心の中の中にまで浸透しているのだ。

今日何度も見た右手をもう一度広げる。

この手の先にも、足の先にも、心の奥底にも。


車は蓮のマンションの駐車場で停まった。

「敦賀さん」

シートベルトをはずそうとしていた蓮が手を止めてこちらを見た。

「私、理解しましたから。敦賀さんが私をちゃんと好きでいてくれてるんだって」
「うん」
「…3ヶ月も立ったのにまだ理解しただけで、すいません」

なんだか言葉が尻つぼみになる。

「うん。うれしいよ。前進したよね」
「前進…ですか?なんだかものすごく小さな1歩ですけど」
「大きな1歩だよ。だって最上さんラブミー部だよ。愛すのも愛されるのもお断りのラブミー部員が、俺の好意を理解してくれたんだよ。月面着陸並みに大きな1歩だよ。」
「馬鹿にしてるんですか?」

蓮は明るく笑うと、買い物袋を持ってエレベータに向かい歩き出した。
キョーコは自分のカバンを持ち追いかける。

いつもの“荷物はどちらが持つか”の口論
結局いつも通り蓮が勝利し、並んでエレベーターを待つ。

キョーコはそっと横にいる蓮を見上げた


私が好きな人。
私を好きだと言ってくれる人。

でも、その先を考えるのは怖くて…


蓮の持つ荷物と、キョーコのカバンが触れ合っている
今は直接触れ合うのではなく、荷物越し位の隣に入れる方が安心する。



エレベーターが到着を知らせるベルを鳴らし、蓮が中へと促した。




(9話にに続きます)

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コメント

4. Re:そりゃあ、もういろいろ……

>みかんさん
初コメ有難うございます。
我慢強く1歩というより1センチずつにじりよっている敦賀さんを気に入っていただけてうれしいです。
申請&メッセお待ちしています

2014/05/14 (Wed) 15:33 | ちょび | 編集 | 返信

3. そりゃあ、もういろいろ……

素直な蓮様に萌え尽きそうです。
はじめまして、ちょび様。魔人様の所からやって参りました、みかんと申します。
いっぽいっぽ、キョーコちゃんが、蓮様の術中に嵌まってくれるのか楽しみです。また、後日アメンバー申請に伺いますvv

2014/05/14 (Wed) 09:24 | みかん | 編集 | 返信

2. Re:また1歩。

>seiさん 敦賀さんはそれはもう少しずつにじり寄ってから捕獲する予定のようです(笑)

2014/03/03 (Mon) 16:41 | ちょび | 編集 | 返信

1. また1歩。

進みましたね!

気がつかないまま進んで後戻りするより、一歩一歩確実に進んだほうが、安全!!

キョコさんの一歩の価値の大きさを、蓮さんはよくわかってるみたいですね!(〃∇〃)

2014/03/02 (Sun) 15:15 | sei | 編集 | 返信

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