2014_11
05
(Wed)11:55

賭けの勝敗-12終話(記憶喪失の為の習作2)

長い間お付き合いいただきありがとうございました。。
賭けの勝敗最終回です。

2014/11/5





■賭けの勝敗-12終話(記憶喪失の為の習作2)



「5年前…お前が事故に遭った時、記憶以外は特に問題が無いとわかって、俺たちが心配したのはキョーコちゃんのことだったんだ」

ダイニングの入り口近くに立ったまま話し始めた社だが、蓮に促されて向かいの椅子に座る。

「キョーコちゃんは…お母さんとは小さい頃から上手くいってなくて、その・・・不破のこともあって愛情に対して否定的でラブミー部に所属してたことは言ったよな?」

そのことは聞いている。蓮は小さく頷いた

「キョーコちゃんはお前が告白をする前に人を愛する気持ちは取り戻していた。でも愛情を受け入れることや信じることにひどく臆病になっていたんだ。」

それでも悩んだ末に蓮を受け入れた

「誕生日に返事と一緒にプレゼントをくれたって聞いたよ。何枚も入るフォトフレームで“これが一杯になる位、一緒に思い出作ってください”って言ってくれたってお前喜んでた」

寝室のフォトフレームが頭に浮かんだ。
テーブルの上に作った握りこぶしに力が入る。

「ようやく…ようやく1歩を踏み出して、その3日後にお前の記憶からキョーコちゃんは消えた。その衝撃は正直俺たちが思うよりも大きいと思う。だから、社長はキョーコちゃんの意思を第一にしようと考えたし、俺も同意した」

意外にもキョーコは前向きだった。
『敦賀さんの記憶は絶対戻ります!』そう言って元気に笑った。
だから絶対に無理に思い出させるようなことはしないでくれ。それがキョーコの希望だった。

「社長はキョーコちゃんの希望に添うことにした。ただ…傍観するつもりだったわけじゃないよ」

周囲からキョーコの事が蓮に伝わるのは避けた。だが、見守るのも期間を設けようと思っていた。
2人が偶然に接触する機会がある日本に蓮がいる間はまだいい。しかし渡米してからもそのままの状況はよくないと考えた。

「結局、事故後半年たって、渡米の時が来てもお前の記憶は戻らなかった。キョーコちゃんはこのままでと言ったけれど、社長は期限を1カ月と決めたんだ。」

環境が変わることが刺激になるかもしれない。けれど1カ月たっても何も変わらなければ、蓮が食事をしないとでもなんとでも言ってキョーコをアメリカに呼んで会わせよう。

「だけど…」
「それが出来なかった原因は…俺、ですね」

蓮が自嘲気味に笑いながら言った

「俺が…共演者と付き合いだしたから」

日本にいる間キョーコ以外の女性を全く近づけなかった蓮に、ローリィでさえ油断していたと言える。
だが、渡米して2週間後には共演女優の腰を抱いて彼女の家に向かう蓮の姿がパパラッチされたのだ。
その付き合いも長くは続かなかったが、その後も同じようなことが繰り返される。
最初はキョーコに似た雰囲気の女性だからだ、深い付き合いには至っていないと弁解をしていた.
だが、キョーコとも深い関係に至っていないと思い込んでいた社は、蓮のスキャンダルが重なるとキョーコに連絡さえ取り辛くなった。

「自業自得ってやつですね」

蓮の昏く沈んだ声に社は首を振る

「無理もないのかな…と思うよ」

事故前の蓮にとってもキョーコは特別だった。浅い付き合いしかしてこなかった蓮が初めて強い強い執着を見せた少女。それこそ敦賀蓮の仮面が外れるほどに。
そのキョーコと恋人同士にしかも深い関係になって、おそらく幸せの絶頂だっただろう時に突然記憶を失った。まるで昇っていた梯子を外された。そんな感覚だったろう。
おそらく身体は覚えていたのだ。茶髪で瞳に力を宿した瘦躯の愛しい愛しい少女を。
だから欲した。
似ていると手を伸ばしては、これは違う、これは違うと悲鳴をあげていた。

「俺は気付いてやれなかった。お前たち2人の関係についてもっとちゃんと見ておくべきだった」
「それは仕方ありませんよ。事故直前の話だったんですから」
「いいや」

社は首を横に振る。

「俺はお前のマネージャーだ。お前の一番の味方であるべきだった」

なのに。どこか否定的な眼で見ていた
あんなに愛していたはずのキョーコに少し似ているとはいえ、いとも簡単に付き合いだす蓮を
あんなに幸せそうに赤くなっていたキョーコとのキス、それと同じことを別の女に出来る蓮を

「たとえ記憶が無くても、お前が欲しているものが何かを、一番身近にいる俺は何より分かっていたのに。黙って見てた」

欲しいなら思い出せ。
どこか冷たくそう思っていた
担当俳優にとって何がベストか、考えたらどうすべきかなんて答えは出るのに。
どうしてここまで蓮が飢えているのか、もっと考えるべきだったのに。

「だから…日本に帰ってきて…2人が事故前に深い関係になってたことを知ったときは驚愕したよ。こんなことならってキョーコちゃんを詰りさえした」

でも結果、2人は交際を開始した。

「すごく嬉しかったよ。当然事故前の事も話すのかなって思った。でもキョーコちゃんは否定した。一度賭けたことだからって」

社は少し微笑んだ

「お前だって知ってるだろ?キョーコちゃんはメルヘン思考で、馬鹿みたいに真面目だ。一度賭けた以上、それはフェアであるべきだし、自分勝手に降りちゃいけないだって」

スタートは0から。だからどうしても消せなかったあのフォルダ以外は全てキョーコの痕跡を消して。他人から話が漏れないように頼んで回った。
偶然の出会いから、そこから何枚か切ろうとしていたカードがあったのかもしれない。
だが現実、売れっ子俳優と、売れ出したタレント兼女優が偶然に遭遇することは難しい。今までその偶然が生まれていたのは社の計算によるものと蓮の意向が多かったのだ。おまけに海外進出前で怒涛の忙しさだった。

キョーコとて悔やんだ日もあったかもしれない
付き合っていたことを打ち明けていれば、せめて会う機会を設けていれば、こんな風に蓮が誰かの肩を抱く写真など見ることはなかったのにと

「でも、キョーコちゃんは俺を含めて誰にも涙も見せなかったし、泣き言も言わなかった。賭けを降りるとも言わなかった」

そこで社は言葉を止めた。リビングから音が消える

「蓮、ごめん。マネージャーとして、お前のことを思うなら、少しでも早く打ち明けるべきだったんだろうと思う」

事故の直後でも、離れ離れになっていた間でも、再会後、交際後、機会は幾度もあった。
でも社は1歩は踏み出さなかった
キョーコの気持ちを優先したから、蓮への批判の気持ちがあったから。それも勿論ある
だけど

「俺個人は嬉しかったんだ」

蓮が顔をあげた

「愛は絶望と破滅への序曲なんて言っていたキョーコちゃんが“絶対に記憶と取り戻す。”って信じてた。自分を愛しているからきっと思い出すんだって。お前の愛を信じてた」

強く。強く
もしかしたら、あのラブモンスターの社長よりも

「そして、キョーコちゃんをそうさせたのが、キョーコちゃんに揺るぎない愛を信じさせたのが、何よりお前だったことが事が嬉しかったんだ」

だから社も信じたかった。
マネージャーとしては間違っていたのかもしれない。
時には批判を込めた眼で蓮を見ることがあったけれども。
それでも信じたかった。
この2人の絆を。
愛の奇跡ってやつを


蓮を何かをこらえるように歯を食いしばる


「なあ…蓮。」

社はそんな蓮の姿を優しい目で見つめた

「キョーコちゃんは賭けに勝ったのかな?負けたのかな?」


蓮は自身の前髪を乱暴に掻き揚げると、立ち上がった

「社さん…。後はキョーコと話し合います。今日は帰ってもらえますか?」
「そうだな。キョーコちゃんは今日夕方からトーク番組の録り。お前は明日アルマンディの撮りな」
「はい。…社さん。有難うございます」

頭を下げる蓮に、いいってことよ。と社は笑う。


*
*

「キョーコ。入るよ?」

ノックして暫く待ったが返事はない。ドアを開けるとキョーコはベットに腰を下ろし、フォトフレームを見ていた
1枚1枚、ゆっくりとこの1年重ねてきた記憶を愛おしげになぞるかのように写真が捲られる。

蓮はその背中に近づいて後ろから抱きしめた
丁度一番上は空のフレーム
キョーコの手に自らのそれを重ねた

「ここには、あの携帯に入っていた2人の写真を入れるつもりだった?」
「…誕生日に折角だから写真を撮ろうって言ってくれたんです。でも…私、涙でグシャグシャの顔だったから…」

飾っておく写真なんて撮れません。そういうと、じゃあ俺の為に1枚だけ撮らせてと携帯を向けられた。一生懸命笑ってみたけれどやっぱりひどい顔で写っていて、消して欲しいとお願いしたけれど

「俺にとっては大事な思い出だから消せないよって。携帯に保存しておくくらい許してよって」

だからあの朝に2人で撮った。身だしなみをチェックするキョーコをそのままで全然可愛いよと笑って見てた。

ポツポツと語るキョーコの肩が小さく震える
蓮は瞑目してその言葉と震えを受け止めた

キョーコが5年間ずっとずっと胸に大事にしまってきたこと。
蓮自身に思い出して欲しかった大事な大事な記憶


「賭けから降りないでくれてありがとう…」

重ねている手を親指でそっと撫でる

「賭けはキョーコが必ず勝つよ。時間はかかっても必ず、必ず思い出して見せる」

だからどうか

「それまでずっと傍にいて」

ズズッとキョーコが鼻をすする音がした

「…思い出したらどうなるんです?」
「思い出したら?」

抱きしめる腕に少し力を加えた

「思い出したご褒美にずっと傍にいて?」
「結果、同じじゃないですか。」

小さく漏れる笑い

「…まるでプロポーズみたいですね」
「そうだよ。もっとロマンチックな感じで行きたかったけどね」

ゆっくりと左手の薬指を撫ぜた

「神様と…賭けをしたんです。」
「…うん」
「敦賀さんはきっと思い出すって…だから…思い出したら…」


どうか下さい。あの男性(ひと)の一生を。


目に浮かぶ。天に向かって祈るキョーコの姿が。

「うん…。だから賭けはキョーコが勝つって言っただろう?」
「ご褒美が先っておかしいですよ」
「いいんだよ。必ず勝つんだから」

無茶苦茶ですね。そう笑うキョーコがこちらを振り向いた
涙でグチャグチャで笑う姿、その涙も笑顔も自分の為。そう思うと本当に愛しい。
きっと5年前の蓮もそう思っただろう

キョーコは身体の向きを変え、蓮と向き合うと俯いて額を蓮の胸に当てた

「途中からは…賭けなんて…言い訳だったのかもしれません」

期限を設けなかった賭け。キョーコが下りない限り続く賭け。
それが続く限り、蓮を諦めないでいられるから

「1年前の夜だって…ただただ…もっと近くに。もっと長く居たかっただけなんです」

1センチでも1ミリでも近く
1分でも1秒でも長く

ただただ傍にいたかった


蓮はキョーコを強く、強く抱きしめた

「うん…だから」



勝利を君に



(FIN)






「賭けの勝敗」お付き合いくださいましてありがとうございました。

今回のテーマは「切なさ」と「記憶喪失DEプロポーズ」
そうなのです。このお話の中では思い出さずに終わることはもう決定事項でして…
「早く思い出して欲しい」というコメントを見るたびに申し訳なく思っておりました(笑)
いや、でも、きっと近々思い出して円満解決してるはず。(とりあえずちょびの頭の中ではそうなっております)

なんというか辛気臭いことこの上ないスタートだったにも関わらず沢山の拍手有難うございました。
何度も読み返してくださった方もいらっしゃったみたいで…本当にありがとうございました。
でも、今までで一番書き直したいお話かもしれません。
途中で一手間違えた!ああ大幅修正したい!と思うのですが…まあ暫くはこれで

おバカ系、切ない系、おバカ系ときましたので、次はほのぼの系とか行きたいのですが、あんまり続くと記憶喪失ブログになるので、習作は暫くお休み。次からは1歩いっぽの連載再開と行きたいと思います。

またお時間のある時にご訪問いただけたら嬉しいです。

ちょび




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コメント

Re: 泣きました!

>○海様
再読有難うございます!
こんなにじっくり読んで感情移入してくださる方がいるんだと本当に嬉しくなりました。
実は一回キョーコちゃんサイドの話を考えた事あるんですよ。でもきっと書かずに皆様が色々とご想像くださる方が素敵なお話になるんじゃないかと思いまして。

コメントの件はどうぞ気にしないでください。私なんて読み専時代はコメントにお返事が返ってくることさえ理解していませんでしたよ(笑)

2015/07/05 (Sun) 17:22 | ちょび | 編集 | 返信

管理人のみ閲覧できます

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2015/07/03 (Fri) 19:20 | | 編集 | 返信

Re: 良かったです

> ponkichibay様

強く敦賀さんの愛を信じるからこそ神様に賭けをした。社さんも奇跡を信じたって思ってます。
なかなか上手く表現できませんでしたが
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
いつもコメントいただき本当に嬉しかったです。

2014/11/10 (Mon) 07:02 | ちょび | 編集 | 返信

良かったです

更新&完結ありがとうございました!

大好きなこの作品も完結ですね。
淋しいような嬉しいような...

普通なら自分を忘れていても私が彼女よと言うんでしょうが何故にキョコさんは隠したのでしょう?付き合いが浅かったからでしょうか?やはりキョコさんの性格なんでしょうね。そしてフェアに神様と賭けをする。蓮様が思い出す事を信じて…
強いキョコさんなんですよね。ハピエンで良かったです。

ヤッシーの気持ちは良くわかります。それでも蓮様にもっと早く話しても良かったのではと思います。それを信じるかどうかは蓮様が決めればいいのだから。でもキョコさんの気持ちを尊重すると言ってますもんね。
本当に良く考えこまれた作品だと思います。話に矛盾がなく芯がある素敵な作品でした。ありがとうございました!

2014/11/07 (Fri) 13:43 | ponkichibay | 編集 | 返信

Re: 心も身体も

> みかん様
敦賀さんのキョーコちゃんへの執着具合はもう細胞レベルでと願っております。
その後の事まで想像していただけるなんて嬉しいです。有難うございます!

2014/11/06 (Thu) 17:53 | ちょび | 編集 | 返信

心も身体も

時に魂が肉体を凌駕すると言いますが、このお話では、身体(本能)がキョーコちゃんの覚えていて、無事にキョーコちゃんへの所へ戻してくれました。あっ、でも、身体に刻み込めるくらいキョーコちゃんを強烈に思っていた訳で…‥やっぱり、蓮様のキョーコちゃんへの愛が、それだけ深かったと言うことでしょうか。
何度読んでもドキドキする素敵なお話を有り難うございました。この後、キョーコとの初めてを思い出せるかもとか言って、雨を口実にキョーコちゃんに迫る蓮様とか勝手に想像して笑っちゃいました。どこまでも、萌え心を擽る作品ですね。

2014/11/06 (Thu) 04:25 | みかん | 編集 | 返信

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