2014_11
12
(Wed)11:55

1歩いっぽ(28)

珍しく今日も「1歩いっぽ」です。

2014/11/12



蓮の告白に社は時折質問を入れる
だが、それ以外はただ黙って聞いていた




■1歩いっぽ(28)~気付いた時にはもう手遅れで~





蓮は社の審判を待った

社は残ったワインを飲み干し、グラスをテーブルに置いた
ガラスのカットが美しい事で知られるブランドのグラスが照明を受けて瞬く
それはそれで美しいが

(蓮の瞳の方が優ってるな…)

そう思った自分に笑みがこぼれる

担当俳優はそんな社の様子をじっと見ている
不安げなその姿は大きな身体をした子供のようだ

(本当に自分のこととなると自信がないんだよな)

今度は苦笑がもれた

「色々納得したし、安心したよ」
「納得と…安心…ですか?」
「うん、初めてあった時の雰囲気がどこからきたものかとか、その環境なら空の遊びもあるだろな、とか、何よりお前の天然キザ台詞が日本人じゃないからと分かって安心したよ。あれが日本の若者の標準スキルになったら俺はどうやって生きていけばいいのか分からない」
「…そこですか?」
「うん、だってお前の名前が久遠ヒズリだろうと、太郎だろうと官兵衛だろうと、今の話を聞こうが聞くまいが、俺の結論はとっくの昔に出てるから」
「結論…」

うん、と社は椅子の背もたれに少し身体をあずけ、蓮に目を合わせると言った

「敦賀蓮っていう俳優の担当マネージャーになれた事は、俺の人生最大のホームランだってことだよ」

人は神が創りたもうたものだ。そう言われることに納得が行くほどの美しい外見、それに演じる事への情熱と才能が籠る。
そして高みへ上るための絶え間ぬ努力と真摯な姿勢。
こんな奇跡のような男をマネージメントするという幸運に恵まれた。
たまたま社長の命により得たポスト。
だが、これを人生最大のホームランと言わずして何と言おう。

蓮は大きく目を見開いた後ぷいっと横を向き、なんですかそれ、と呟いた

「蓮、顔赤いぞ」
「見ないで下さい」
「いや、見えるから」

まあでもさ、と蓮のグラスにワインを注ぎながら社は笑った

「嬉しいよ。こんな秘密を話してくれるってことはそれだけ信頼してもらえたってことだろ?」
「…信頼はしてましたよ。俺の中の踏ん切りがつかなかっただけで」
「踏ん切りか…。俺に話したってことはキョーコちゃんにも話したんだろ?キョーコちゃん何て?」
「あ…まあ…」
「なんだよ?」
「怒られました…けど受け入れてもらえました」
「怒られた?なんで?」

社が眉を寄せたのをみて蓮は焦ったらしい。手を振り弁明した

「いや、違うんです。最上さんが怒るのも無理もないと言うか…」
「想いを告げたからって、最初から何もかも話さなきゃいけないわけじゃないだろう」

奇想天外な発想をするキョーコだが、聡い子だ。今の告白を聞いたら蓮の中の葛藤もわかるし、バックボーンの大きさ故に言い出せなかったこともわかる
キョーコならちゃんと受け止めてくれそうなのに

ますます眉を寄せた社に、蓮は仕方なく口を割った

「最上さんとは昔会ったことがあるんです」
「昔?昔っていつ?」

敦賀蓮とは社はほぼ行動を共にしてきた。マネージャーとして人覚えはいいほうだ。キョーコと会っていたら記憶に引っ掛かっているはずなのに。
怪訝そうに見つめる社から、蓮にしては珍しく目をそらしたままボソボソと告げた

「ですから…もっと昔の…子供の頃ですよ。父の里帰りについて京都にきたときに河原で一緒に遊んだことがあるんです」

チラリと社をみた蓮は後悔した
瞳は爛々と輝き、姿勢は前のめり

「何それ?幼き日の淡い初恋ってやつ?」

金髪の美少年が黒髪の美形となって、運命の再会!?奇跡だろ!おとぎ話だろ!
おおはしゃぎの社にドン引きだ

(やっぱり言わなきゃよかった…)

「河原で二人はどんな風にしてたんだ?再会していつ気付いた?教えてくれよ~」
「…社さん、俺の話の時より食い付いてますよね?」
「そりゃそうだろ?運命の再会だぞ?恋愛における印籠みたいなもんじゃないか!」
「あの社長にてしてこの社員ありだな…」
「え?なんだよ?もう少しアルコール入れて舌滑らかにしとく?ウイスキーいっとくか?」
「…結構です」



********




翌朝、学校近く、キョーコの姿が見えなくなると蓮は気遣わしげに助手席を見た

「大丈夫ですか?社さん。やっぱり昨夜飲み過ぎたんじゃ。」
「“敦賀蓮”のマネージャーが朝に酒が残るような飲み方はしないよ。お前らにあてられただけ。なんだよ、あれは?どこの新婚家庭だ?」
「新婚家庭って…」

今朝いい匂いに誘われて社がダイニングのドアを開けると、卵焼きを焼いているキョーコといそいそと配膳を手伝う蓮に「おはようございます」と迎えられたのだ

「さっさとくっつけばいいのに。もうほんのひと押しじゃないのか?」
「まあ…確かに最近はいい手応え感じてますけど」
「ぐいっと行っちゃえよ。妖精王子」
「その呼び方やめてくださいよ。確かに一歩強引に押したらいけるかもしれませんが」
「が?」
「なんか、それだと最上さん何かの切っ掛けで色々考えそうじゃないですか。それでまたとんでもない結論に辿り着いたりして」

社はちょっと想像してみた

「確かに…。キョーコちゃん逃げ足凄いしな」
「一度手にいれちゃったら手放せないと思うんで。彼女にキチンと結論を出してもらわないと」

くすり、と蓮から笑いが漏れる

「まあ理想は、気が付いた時はもう手の施しようのない状態で俺無しには生きていけないって感じですかね」
「…己を危険な薬物みたいに例えるのはやめなさい」

まあ、いいけどさ、と社はシートに背中をあずけた

「あんまり我慢して爆発、ってことにならないようにな」
「了解しました」

蓮は上機嫌でウインカーを出した



(29に続きます)
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