2014_11
18
(Tue)11:55

1歩いっぽ(29)

肉体労働から解放されましたー
でもそうしているうちに年末が迫ってきている!!!びっくりです。

2014/11/18






■1歩いっぽ(29) ~それは合わせ鏡のように~




(どうしよう…)

この事態をどうすればいいのか、キョーコはきょときょとと視線を彷徨わせた。
キョーコと対峙しているのは、最近レギュラーになったバラエティで共演しているアイドルグループの一員だ。
明るく世話好きな彼は番組のムードメーカだし、まだ慣れないキョーコのフォローをしてくれて助かっていた。
その彼に収録後に声をかけられご飯でもと誘われたのだ。共演者の皆との親睦は大事にしたいがこの後も仕事だ。
断ると他に空いている日は無いかと、彼は自分のスケジュールの空きを探し始めた。
冠番組もある売れっ子アイドルのスケジュールに空きがないことは容易に想像がついたので、キョーコは慌てて言った

「いえ!私に気を遣っていただかなくていいんですよ。みなさんで行ってきてください。また機会があれば参加させていただきますから」

スマホを弄っていた手を止め、彼は顔を上げて苦笑い

「京子ちゃんが鈍いって本当なんだね。“みんなで”じゃないよ“2人で”食事に行きたいって誘ったんだよ」
「へ?」

そこでようやく気付いた。
収録後スタッフがバタバタしていたスタジオ前の通路はいつの間にやら人通りが絶え、2人っきりとなっていた。
おまけにこの場所は皆がよく行き交う通路から曲がった突き当りで、ちょっとした死角になっている

(なんだか不味いかも)

売れっ子アイドルのスキャンダルなんてことになったら申し訳ない。
その場を切り上げるか、もっと人がいるところに移動するか…そんなことを考えてたら決定打が出された。

「俺、京子ちゃんの事気になってるんだよね。あ、真剣だよ?」

彷徨わせていた視線を上げた。

その時、目に入った
少し先の角から蓮の右半身が

その眼は一瞬こちらを捉えたような気がしたのに、すいっと逸らされ、そのまま蓮は向きを変えて見えなくなった。

(え?なんで?)

どうして?まさか聞こえてた?
呆然とするキョーコに「京子ちゃん?」とたった今告白をした男が声をかけた。

*
*
*


「これ、なんのそぼろ?」
「え?あ、ツナと人参です。ちょっとお子様の味すぎましたか?」
「いや、美味しいよ。上にのってるカイワレとよく合うね。」

それはよかったです。と言いながらキョーコは自分の弁当に視線を移した。
元々バラエティーの収録後は、同じ局で録りがある蓮に早めの夕食を差し入れる約束をしていたのだ。

(普通よね…)

告白を丁重にお断りした後、あの角を曲がってみたが蓮の姿は見えなかった。
慌てて着替えて蓮の楽屋に来てみると至っていつも通りの蓮に迎えられたのだ。

(社さんが誰かに呼び止められて私は視界に入らなかったのかも)

でも聞こえていたかもしれない。

(ちゃんと報告した方がいいのかな…)

どうやって?私、共演者に告白されましたけど断りましたよ?みないな感じで?
なんかそれっていくら返事を保留しているとはいえ上から目線だし、自意識過剰じゃないだろうか?
蓮があれを聞いていなかったら「なんでわざわざ」とか思うかもしれない
いっそ蓮が聞いてくれたら、簡単なのに。

(どうしよう…)

そぼろごはんを口に運ぶ。
今朝作ったときはなかなかの自信作だったそれが喉につっかえそうな気がした。



「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。…じゃあ私は」
「うん。じゃあ…」
「お仕事頑張ってください。」

結局言い出せなかったキョーコが楽屋から出ていき、暫くすると蓮は机に突っ伏した
その姿に書類を片手にコーヒーを飲んでいた社が呆れたように声をかける。

「そんなに気になる位なら聞けばいいだろ?」
「あの彼になんて返事した?なんて聞けませんよ…」
「何言ってんだよ。前は先輩面して男を牽制したり、キョーコちゃんに説教して釘を刺したりしてたじゃないか。」
「気持ち伝えちゃっている分、なんだか付き合ってもいないのに縛るのって…」

キョーコの気持ちが固まるまで待つ。それまでは先輩として傍にいる。そう告げたのにこのどす黒い感情をさらけ出してはいけない気がする。

べっこべこに凹んだ担当俳優を眺めながら社はため息をついた

(ホント、生真面目なんだよな)

その生真面目さが演技への真摯な姿勢に繋がっていることも確かだが、自分を追い込むのも確かだ。
きっとアメリカ時代もそうやって自分を追い込んで行ったのだろう。
超人的な身のこなしの蓮が一方的にやられていた、なんていう信じがたい時期は武術は喧嘩につかちゃいけないとか、卑怯なことはしちゃいけないとか自分をがんじがらめにしていたことは想像できる。

(だから爆発しちまうんだよ)

うまくガス抜きをする方法を身に着けさせるべきだろう。




*************************


1週間後、キョーコは携帯を前に考え込んでいた。

今日椹から告げられたCMのオファー

ベリーをふんだんに使ったチョコレート菓子のCMテーマは“初恋の味をいつだって”
メインは貴島秀人。
キョーコはその恋人役だ。

“世慣れた男に恋人からの頬へのキス。

 まだ幼さの残る彼女からのぎこちないキスにいつも自分からアプローチしていた男は固まる。

 そんな男にいたずらっ子の微笑んで少し先を歩く彼女。

 男は呆然と頬を押さえたままチョコを1つ口に入れた”

~君はいつも新しいときめきを僕にくれる。初恋の味をいつだって。マイジ ストロベリートルテ~



(わ、私からの人生初頬チューが公共の電波に流れるだなんて!)

なんだか猛烈に恥ずかしいし、頬とはいえ初めてのことが仕事だなんて…
でも仕事だ。役者の法則を使ってプロの仕事をする。そうしなければ

(敦賀さんに…報告しなきゃ)

蓮はきっと喜んでくれるだろう。たとえ頬にキスをするシーンがあったとしても。

*
*
*


ゆっくり電話で話すのは久しぶりで、話題はあっちこっちに転がった。
キョーコはチラリと時計を見る。そろそろタイムリミットだ。

「あ、あのですね」
『ん?』
「CMのお仕事をいただいたんです。」
『それはいいニュースだけど、どんなCM?』
「チョコなんですけど。貴島さんと共演で…」

尻すぼみになりそうな言葉を必死に奮い立たせて話す。こんなことでイチイチ躊躇していたらプロの役者とは言えないだろう。蓮にがっかりされたくはない。
そもそも、アメリカ生まれで大人の蓮にとっては頬チューは挨拶だ。
こんなことを蓮がどう思うか、なんて気にする時点で自意識過剰だ。

『そうか。いいCMが出来るといいね』

蓮は想像通りの言葉をくれた。

その言葉にキョーコは気付いた。
本当は気にしてほしかったのだ。「最上さんの最初の頬チューは俺にして欲しかったな」とか言って欲しかったのだ。


*
*
*


「あ、これ、京子がレギュラーになったんだー」

テレビ局のモニターを見ながら話す声に蓮と社は足を止めた。

「知らなかったの?ちょっと前から出てるよ」
「あんた好きだもんね。この番組。へえ、平均年齢一気に若返ったねー」
「だよねえ。それにさ」

指差すのは京子と告白した彼

「この2人のやりとりがすっごい面白いのよ」

(まずい)

社の背中に嫌な汗が流れる。
画面を見ると、2人の絶妙な言葉の応酬が番組を盛り上げている。
蓮と確か同い年位なはずだが、年相応に見えるその姿はなんだかキョーコとお似合いなのだ。
チラリ、と隣の担当俳優を盗み見た

蓮は至って普通に画面を見ている

だが、社は気付いてしまった

一瞬、蓮の瞳に昏い昏い影が差すのを


(なんか…不味くないか?)

まだガス抜きの方法がつかめてないというのに。
しかも今晩2人は蓮のマンションで会う約束をしているはずだ。

「社さん、そろそろ行きましょうか」

そう告げられ、もう一度顔を見ると先程の影はもう見えない。
社は今晩が平穏のうちに過ぎるのを心の中で祈りながら、蓮に頷いた


(30に続く)
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タグ:二次小説 スキップ・ビート キョーコ スキビ

C.O.M.M.E.N.T

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