2014_12
02
(Tue)11:55

答えはまだ出ない-前編(逃避行の為の習作)

3333番目の拍手をいただいた方(お名前出していいか聞くの忘れてました!)からのリクエスト
「蓮キョ尚」ともう一つあるのですが、それは最後に。
ご要望に応えられたのか、いつもながら不安ですが…

そして、どさくさに紛れて新習作シリーズの誕生です。
まあ、逃避行ではそんなにお話作れそうには無いのですが…とりあえず2,3位は行けるだろうと見切り発車♪

気がつけばカウンター5000回ってましたね。そしてカウンターってきっとスマホや携帯からは見えないじゃないかと言うことに今更気づきました。
でも何をどうすればいいのか分からないので…このままです。すいません!
どうすればよいかご存知の方は教えてくださいませ。


2014/12/2初稿、2017/2/6一部修正





鉄路の上の単調な揺れは眠気を誘う

今は眠る訳にはいかない
ショータローは缶コーヒーを口に含んで、目深に被ったキャップ越しに斜め前方のボックスシートを窺った
キョーコは背もたれに身をあずけ、左手は窓枠に頬杖をつき、右手をお腹にあてて、じっと車窓からの景色を眺めている

いくら車内は暖房が効いているとはいえ冬の冷気は容赦ない。あんな窓際にいたら身体が冷えてしまうのではないだろうか
この揺れだって身体に障るのではないだろうか。

ショータローは心の中で毒づいた。


(やっぱりアイツは阿呆だ)



■答えはまだ出ない(逃避行の為の習作)



1ヶ月前、キョーコを見かけたのは本当に偶然だった

レコーディングの合間に気分転換にと愛車を走らせていたら、ふと書店の看板が目に入りなんとなく車を停めたのだ
ブラブラと雑誌コーナーを歩いて表紙を飾る自分を見てこっそりニヤニヤし、そしてあの鬼畜野郎の方が表紙を飾る数が多い事に舌打ちをする

17の時に21のあの野郎に「抱かれたい男ランキング」で負けてから4年、自分が同じ21になったが順位は逆転していない。
それがキョーコが自分を選ばなかった事実を突きつけられているようで…
ショータローは唇を強く噛み踵を返した。

その時だ
見覚えありまくりの横顔が目に入ったのは

雑誌を胸に抱えてレジ待ちに並ぶ頭はウィッグだろう黒いセミロング。変装しているつもりだろうが、その姿の方が見慣れているショータローには一目瞭然だった。
それでも我が眼を疑ったのは、抱えた雑誌のせいだ

精算を済ませるとホッとしたような顔をしてそそくさと店を出たキョーコに背後から近づいた

「キョーコォ~」
「ショッ…!」
「見たぞ」

雑誌が入った袋を指差すとキョーコの顔から血の気が引いた

「上のフロアにカラオケがある。先に入ってろ」

言い捨てるとキョーコの横をすり抜けた

*

*

部屋に入ると、キョーコは覚悟を決めたのかソファーに背筋を伸ばして座っていた
その向かいのソファーににドカリと腰を下ろすと、ショータローは両手をコートのポケットに突っ込んだままぶっきらぼうに口を開く

「何ヵ月だ?」
「ストレートね」
「あんな雑誌抱えてんの見て遠回しになんて聞けるかよ」

幼馴染みが胸に抱いていた雑誌は“妊娠したら…”と言うキャッチフレーズで有名だ

「…9週に入ったとこ」
「きゅうしゅう?」
「何ヵ月って言い方はしないんだって。9週だから、3ヶ月にに入ったとこ」
「調子はどうなんだよ。悪阻?とかあるのか?」
「煙草の匂いとか駄目だけど…他はあんまり」
「…」

ショータローは幼馴染みの様子を改めてみた。
子供が出来た。となると相手は同棲しているあの鬼畜野郎以外には考えられない
しかし、落ち着いてはいるがどこか陰りのある表情からは、好きな男の子を身籠って幸せいっぱいという感じではない。

最後にキョーコに会ったのは半年ほど前だった。
付き合って1年になるあの野郎と一緒に住み始めたと聞きつけた実家から様子を見てくるように言われたのだ。
様子を見るにも理由がいるからと大量の京野菜と鴨肉まで送りつけてくる念のいりようで、実家の両親は人気俳優にいいように弄ばれているのではと、キョーコが心配でたまらないらしい。
キョーコをいいように使った後ろめたい過去があるショータローが仕方なく連絡をとると、鬼畜俳優はご丁寧に自宅に招待してくれ、お蔭で散々と砂を吐かされた。

あの時の笑顔に陰りなんてなかった。
あの男の重っ苦しい愛に包まれて、それをくすぐったげに嬉しげに受け止めて。
染まった頬と柔らかに綻ぶ口元が織りなす表情は、ショータローが今まで見たこともない幸せそうな顔だった。
その顔にホッとして、同時にその顔をさせているのが自分ではないことに胸の痛みを感じて
ショータローはその拷問のような時間を耐えたのだ。

「あの野郎は知ってるのか?」
「…」
「なんだ、浮気でもしたのかよ?」
「違うわよ!」

般若のような顔で否定されたが、そんなことはわかっている。
生真面目なこの幼馴染が浮気なんてするはずはないのだ。
それに別の男の子を腹に宿しているなんてあの鬼畜が知ったら…どんな惨劇が起こるのか想像するだけで身震いがする。

「じゃ、なんでそんな辛気臭い顔してんだよ。」
「…」
「ちゃんと避妊しねえアイツが悪いんだろ?25にもなって女優相手にエチケットも守らねえのか」
「ちがっ・・・敦賀さんはいつもちゃんとしてくれてるわよ!」
「じゃあ、なんで出来んだよ?」
「…たの」
「は?」
「私がお願いしたの!今切らしてるから無理だって言われたのに。それでもって、私がお願いしたの!」

キョーコが頼んでいたらしいヌルくなったコーヒーが変なところに入ってショータローはむせた。
男女のことにはとことん奥手なこの幼馴染から誘った?しかも生で?

「…お、お前が?なんで?」

キョーコは唇を強く結んだ後、ポツポツと話し始めた

ある晩、ドラマで共演している女優たち5人と女子会に出かけたのだという。
まだ撮影が始まったばかりのドラマで、しかも今まで共演したことのないメンバーとの女子会にキョーコは少々緊張しながら出席していた。
しばらくはあっちこっちと話が飛んでいたのだが、女子会らしく“どんな男の人が理想か”という話題になった。

「私、断然敦賀さん!」

1人が声をあげると、私も私もと声が上がる。
秘密の恋人が話題に上りキョーコは静かに緊張した。
するとワイングラスに口をつけながら、キョーコの姉役の女優が笑った。

「敦賀さん、素敵だよね。でも素敵すぎて私には無理だな~」
「ええ?なんでですか?」
「だって、素敵過ぎて、あんな人の恋人ってすっごくハイレベルじゃないと釣り合わないじゃない」
「それはそうかも」

残りの4人が次々と同調して、敦賀さんにはこんな人だ。いやあの人だと次々とあげていく。
それがまた若手トップクラスの女優やモデルばかり。
その女性たちでさえ、敦賀さんの隣に立つにはここが足りない。あれがどうだと駄目出しされていくので、キョーコは身が縮まる思いがした。

「敦賀さん、最近海外の仕事増えてきたもんね。この前映画共演してた…」

次に告げられたのはハリウッドの人気女優

「確かにあのレベルじゃないと無理かも」
「ね、京子さんもそう思うよね」

キョーコは曖昧に頷いた。それからはもう何を食べても味がしなかった。



そこまで聞いてショータローは小さく舌打ちをした。
このお人よしの幼馴染ははめられたことに気付いていないらしい。

“敦賀蓮のお気に入り”が京子であることは結構有名な話だ。
人前での二人のやりとりから、いまだ先輩後輩の間柄だと思われているようだが、それでもその女共には気に食わなかったのだろう。かといって、お気に入りを面と向かっていじめたとあっては何かと都合が悪い。だから遠まわしに“貴方は釣り合わない。分をわきまえろ”と言いたかったのだ。

(つまんねえ奴ら)

それはつまり自分達も敦賀蓮にはふさわしくないと言っているのも同然で、虚しくないのかとショータローは思う。
だが、その回りくどくも陰湿な攻撃はキョーコには効果てきめんだったようだ。

間が悪いことにその時期蓮は海外の撮影が多くて家を空けがちだった。
いつもはお互いに頑張る時だと張り切る時間が、キョーコの気持ちを揺らす。

だから蓮が帰国した夜縋りついたのだ。
キョーコからの初めてと言っていい夜のお誘いに、蓮はそれはそれは嬉しそうに微笑んで髪を撫でてくれた

「嬉しいよ…。俺もしたい。でもごめん。あれ、切らしちゃってて…明日には届くから」

一緒に暮らし始めて半年近く。あれ、と言われて分からない訳ではなかった。
でも触れて欲しかった。
直接肌を合せて、安心したかった。

「今日は無くていいですから」
「…それはダメだよ」
「私が誘ったんじゃその気になれませんか?」


その瞬間のあの男の理性の紐が千切れる音が聞こえてくるようだ、とショータローは思った。


「…双方同意の上ならいいじゃねえか。ちゃんと話をしろよ」
「敦賀さんは今大事な時期なの!この前のハリウッドの仕事評価高かったから、今度来た仕事は凄くいい役だって!…迷惑はかけられない」

(どう考えればそうなるんだ?相変わらずめんどくせえ奴)

ショータローは眉間に皺を寄せる。
迷惑どころかあの男は大喜びするだろう。25と21という年齢は確かに少し若いのかもしれないが、成人しているのだし、付き合って1年半以上、同棲までしているのだから誰にどうこう言われることもない。
避妊しなかったのもあの男の事だ。その辺まで計算に入れているのだろう。

「じゃ、どうすんだよ?」
「1人で産もうと思って」
「…」

なんでも蓮の海外進出に合わせてキョーコにもアメリカでで半年ほど勉強を、という話が決まっていたらしい。
ホームスティ先は蓮の実家、そしてそのために今の仕事が一段落したらスケジュールを空けているのだそうだ。

「最後の仕事が1カ月後の大阪でのバラエティの仕事で。その後3日ほどお休みもらって渡米する話になってるのよ」

そのタイミングでいなくなれば仕事関係ではほとんど迷惑がかからない。

「関西の方が東京からは分かりにくいと思うし」
「関西のどこに逃げようってつもりだよ?」
「え?やっぱり北のほうかなって?」
「昭和の演歌か?」

(本当に阿呆だ。)

そんなところに1人で逃げてどうするつもりだというのか。
いくらか金は貯めているのかもしれないが、1人で子供を産んで育てるなんて生易しくないことは自分が一番知っているだろうに。
既にこんなに不安げな顔をしているくせに。

「…俺が父親になってやろうか?」
「は?」
「俺が腹の子の親父になってやろうかって言ってんだよ。」
「はあ?馬鹿じゃないの?アンタの子の訳ないじゃない。子供は空気感染ではできないのよ?」

(阿呆な上にニブチンめ)

自分の子じゃないことは百も承知だ。それでもかまわないくらいキョーコの事を大事だと、一緒にいたいと言っているのだとどうして分からないのだ。

「…冗談だ。やっぱり敦賀の野郎と話をしろよ。」
「敦賀さんは優しいから…私、敦賀さんにはもっともっといい仕事して欲しいの。足は引っ張りたくない」

本当に分かっていない。
あの男の自分への執着の強さを。

キョーコがそっと自分の腹を撫ぜた
その仕草にショータローの胸がギシギシと音を立てる

(母親って言葉にあれだけのトラウマを持ったお前が、そのトラウマを抱えたままでも、ましてや1人でも産みたいと思うんだろう?)

それは腹の子が誰でもないあの男の子だからだ。
誰よりも誰よりも愛する男の子供だからだ。


ショータローは小さなため息をつくと、キョーコの顔を見た。

蔭のある。だが、決意に満ちた顔。

こんな顔をしているキョーコには何を言っても無駄だ。
この阿呆でクソ頑固な幼馴染には一度好きにさせた方がいい。
キョーコが消えればあの男はそれこそ鬼のように探すに違いない。どんな手を使ってでも探し出すだろう。
キョーコは思い知ればいいのだ。自分があの男のそばにいると幸せなように、あの男の幸せもキョーコの傍にあることを。

「本当に誰にも知らせないつもりなのかよ」
「モー子さんには…落ち着いたら元気だよってことは知らせようかと思うんだけど」
「そうか…。じゃあ、行先決まったら教えろよ。そしたら黙っておいてやる」

それから店を出て、キョーコを送ってやった。
鬼畜野郎は丁度帰宅したところだったらしく「芸能人の端くれのくせに薄暗い街をフラフラ散歩してたから」という言い訳を少々面白くなさそうに、でも一応ショータローにお礼を言ってキョーコを迎えた。
2人の住むマンションを見上げてから、祥子が怒りながら待っているだろうスタジオに向かう。

キョーコの居場所さえ確認できたら暫くは様子を見よう。
親友とやらに連絡がいけば、鬼畜野郎はきっと探し出すだろうし

(アイツもせいぜい焦りゃあいいんだよ)

キョーコを不安にさせたのだから。
キョーコの心も身体も独り占めにしているのだから

少しの間、髪の毛振り乱してキョーコを探し回ればいいのだ

(続きます)
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