2014_12
09
(Tue)11:55

答えはまだ出ない-後編(逃避行の為の習作1)

色々ごめんなさいの出来になりました。


2014/12/9
■答えはまだ出ない-後編(逃避行の為の習作1)




そして、最後の仕事を終えたキョーコは列車の車内にいる

(冬の日本海だなんて、本当に演歌そのものじゃねえか)

キョーコからはあの書店での一件後すぐに連絡があった。
流石は中卒でショータローの生活の面倒一切を見た過去がある女。
漁業組合での事務仕事を見つけ出してきたらしい。身重であることも伝えているらしく、ひどく同情されたと笑っていた。
一安心したが、妊娠初期の身体で長時間の移動はあまりよろしくないだろう。途中で何かあっては大変だし、落ち着き先を確認するためにも後をつけようと、祥子に実家の所用ができたのでオフが欲しいと申し出た。
そして大阪のテレビ局から尾行したのだ。

ショータローはまたコーヒーに口をつけて、車窓から空を見上げた
昨日まではいい天気が続いて暖かかったのに、今日は一気に気温が下がった。雪でも降るのか空は鈍色の雲に覆われている。
それがキョーコの心のようだと思ったが、自分まで演歌調になってきたような気がして慌てて打ち消した。


電車が目的の駅に停車すると、キョーコは気合を入れるように一つ頷き、勢いよく席を立った

(いちいちそういうとこオバはんくせえな)

苦笑しながら後を追う。

妊婦とは思えない力強い足取りに、尾行なんていらなかったかと思った時、キョーコが立ち止まり何かを見つめた後俯いて肩を震わせた。
何事かとキョーコが向けていた先に目を凝らすと…
見えたのは缶コーヒー片手に微笑むスーツ姿の鬼畜野郎のポスター

(本当に阿呆だ)

あんなポスター一つ見ただけで震えるほど恋しいのなら、愛を乞えばいいのだ。
そうすればいくらでも与えてくれるだろうに。
どうして、そんなに己に自信がないのだと詰りたいけれど、そうさせたのはショータローのせいでもあることは重々自覚している。

(案外…似合っていたのによ)

半年前マンションで見た2人の姿。
認めたくはないが、ちゃんと恋人同士に見えた。
だが、それをいくらショータローが言ったところでキョーコは納得しないのだろう。


貧乏臭いキョーコが目的地まで歩くのではと心配したが、流石に慎重になっているらしい、駅でタクシーを呼び漁港に向かった。
同じようにタクシーを呼んだショータローも後を追う。

空と同じ色をした事務所の前で日に焼けた老人が立っていた。

「すいません。最上です!」

どうやら待っていたらしい副組合長を名乗る老人にキョーコが挨拶をしていると、事務所の中からわらわらと人が出てきた。
よくきた。よくきた。若いのに大変だ。こりゃまた別嬪さんだ。身重でこの寒さは堪えるだろう、中へなかへ、そういいながらキョーコを取り囲む。
男も女も頑固そうだが、どうやらいい人達に当たったようだ。
少し離れた場所から見ていたショータローは胸をなでおろした。

「あ、あの・・・何かとご迷惑をおかけしますが、これからよろ「申し訳ありませんが、彼女はここでは働けません」」

背後から突然発せられたよく通る声にギョッとして振り返る。

幻聴でもなんでもなく、鬼畜野郎が立っていた。
ショータローが想像していたように髪振り乱して焦った姿ではなく、余裕綽々、頭から足の先まで完璧なるゴージャスター敦賀蓮。なんと笑みまで浮かべている

「つ、つるっ」
「敦賀さん、どうして!?」

優雅にキョーコの方に何歩か足を進めると立ち止まり、蓮は首をかしげた

「どうして?君は俺の恋人で、ごく近い未来の奥さんで、お腹の子は2人の子だからに決まってるけど?」

皆様が目も口もこれでもかと大きく開けて、突然降臨したゴージャスターと、組合の事務員になるはずだった女を見比べている。

「!!!…知って」
「一緒に暮らしていたらそりゃあ気付くよ」

さあ、帰ろうと差し出された手にキョーコは1歩後ずさった。

「帰りません」
「…どうして?」
「私じゃ敦賀さんに相応しくありません!」

(やっぱり、そうきたか)

この石頭め、とショータローは心の中で悪態をつく。

(ほら、敦賀!そんなことないよ君は素敵だよとか、君が必要だとか、いつも垂れ流してる甘い言葉を今こそ囁きやがれ!!!)

蓮はああそういうことか、とつぶやいた後言った。

「じゃあ、なって」
「へ?」
「俺に相応しい女になって」

(なっ!)

何を言い出すのだこの男は?とショータローは耳を疑う。
過去のトラウマから来るキョーコの自己卑下は根深い。それでも蓮を愛し欲する気持ちとお腹の子への愛情、どんなに悩み葛藤したか想像するに余りあると言うのに。

(自分が何でも持ってるからって上から目線かよっ)

ギャラリーも固唾をのんで見守る中、にこやかに蓮は続ける

「5年後でも、10年後でも30年後でもいいよ。俺に相応しい女になって?これからずっと一緒に生きて行くんだから、充分に時間はあるよ。」

今現在の評価、それがどうした?
それに対する気おくれも、悔しさも、前に進む力に変えればいい。

「君が前に進むための努力にいくらでも協力するし、休みたい時泣きたい時は胸を貸すよ?そのために一緒にいるんだろ?」

その役割は誰にも譲れない。

「俺もなるよ。君に相応しい男に。」

もう1歩踏み出される足

「敦賀蓮と京子がお似合いか?そんなことは…そうだな、50年後は金婚式?それ位に判断してもらえばいいよ。」

立ち止まり、じっとキョーコを見つめた後もう一度問うた。

「どう?それとも…挑戦せずに諦める?」

ぐ、と唇を結んで蓮を見据えるキョーコは決意に満ちた目をしていた。
そこにあの陰りはもうどこにもない。

「…なります!なってみせます!!!」
「うん。楽しみにしてる」

再び差し出された手にキョーコが歩み寄る。

(阿呆だけど…男見る眼はあったのかもな)

この男はただ甘く優しいだけではなく、時には叱り、時には挑発して、キョーコに1歩踏み出す力を与える。
だからこそキョーコはこの男を選んだのだ。
ショータローでもなく、誰でもなく。


蓮は優しく微笑み、コートから小箱を差し出すとキョーコの指にリングをはめた。

「これ…」
「気付いてたって言ったろう。充分に準備する時間があったよ」

そう言うと、キョーコにくるりと向きを変えさせて、蓮は2人で組合の面々に頭を下げる

「ご迷惑をおかけしました。彼女は連れて帰ります」

その言葉に固まっていた一同は一気に動き出した

「べ、別嬪さんだと思ったけど、京子さんやったのか!こりゃたまげた!」
「スターのプロポーズ見れるなんて感激やの!!!」
「どうか幸せになってくださいね!」
「有難うございます」
「また是非来てくださいよ!」
「子供が旅行行けるようになったら必ず」

一番若い男が突然叫んだ

「しゃ、写真!写真撮っていいですか?」
「では1枚ずつ」

流石1億総カメラマン時代、それぞれにスマホやら携帯を持ち出し、蓮たちと並んで写真を撮っていく
先程の若い男は事務所から立派なデジカメを取り出してきた

「集合写真撮ってもいいですか?」
「いいですよ。…では是非彼も一緒に」

蓮の言葉に皆が一斉にこちらを向いた

「あれ?この人歌手の…」
「不破尚?」
「ええ、彼はキョーコの幼馴染で今回も彼の協力があってこそ彼女を捕まえられました。」

それはそれは…と集合写真の輪の中に強制参加させられる。
なんてことをするのだと睨みつけたが、華麗に無視された。どうやらこの機会にショータローを2人を暖かく見守る幼馴染として定着させるつもりらしい。
芸能レポーターにこのバカップルのことを質問されて追い回されるなど冗談ではない。
どうせ、キョーコが自分より先に妊娠を伝えたことを根に持っているのだ。

(やっぱりアホキョーコは男を見る眼がねえっ!コイツは最悪最低の鬼畜野郎だっ!!!)

「写真の扱い等はこれから事務所の人間が来ますのでご相談ください」

ゴージャスター様はにこやかに締めくくると、キョーコとショータローを車へと誘導した。


助手席に座ったキョーコの膝に自分のコートをかけ、冷やしてはダメだ。やれベルトはきつくないか、気分は悪くないかと甲斐甲斐しく世話を焼く。
車が静かに動き出すとキョーコはおずおずと蓮に問うた

「あ、あの…どうして」
「ん?言っただろ?一緒に暮らしてたら分かるって。あの夜は安全日じゃなかったし、それから気を付けて見てたらすぐわかったよ。もしかしたらキョーコより早く気付いてたかもね」
「で、でも」
「それにあれだけベットの上で様子が違えば確信もするよ。あんまり感じちゃったりするとよくない「ちょ!!!何言ってるんですか!!!」」

暫く口を開けたまま真っ赤になっていたキョーコだが気を取り直したようだ

「でも、それなら」
「いつ言ってくれるのかなと思ってたけど、どうやら隠すつもりだって分かったら、少し様子を見ようかなって」

これで堕ろす気だったら閉じ込めちゃったかもしれないけどね。と爽やかに笑うが、座敷牢に閉じ込められるキョーコを想像してショータローは身震いした。

「後はキョーコの事だから仕事に極力影響の出ないようにするだろうと考えたら、時期はすぐ特定できたよ。それに彼がいたしね」

チラリ、と蓮は後部座席に目をやった

「社さんから不破君のマネージャーに連絡を取ってもらった。彼がオフを取ったのがキョーコが行動に移すと予想した日だったからね。そしたらここまでの切符の手配もマネージャーさんにお願いしてるっていうし」

駄目だなあ、秘密の行動は自分で色々やらなきゃ、と笑う蓮の背中に黒い尻尾がユラユラしている。
ああ、こいつはもう絶対俺を一生弄って遊ぶ気だとショータローは確信した。

「キョーコ」
「は、はいっ!」
「キョーコが俺の思いもよらない突飛な考えや行動をするのは、まあ仕方ないけれど」
「え、そんな突飛だなんて」
「逃げてても無駄だよ?」

車を路肩に止めて、にこり、と蓮は笑う。
それはそれは極上の笑みなのに、キョーコもショータローも震え上がった。

「全力で追いかけるし、キョーコを手に入れるためならプライドなんていくらでも捨てるから。生放送で帰ってきてくれって泣き叫ぶ敦賀蓮、見たい?」
「だ、駄目です!」
「だよね」

そう頷く蓮の顔が悪徳詐欺師に見える。
お前は本当にこいつの子を産むのかとショータローは心の中で叫んだ。
だが、キョーコは「何言ってるんですか」とか「仕方ないですね」と言いながらまんざらでもない様子。

(やっぱり、お似合いだわ。お前たち)

異常ともいえる執着をキョーコ1人に見せる重量級の愛の男と、それをありがたく受け止める女
頼むからもう関わりにならないでくれ、と言いたいが、きっとなんだかんだと巻き込まれてしまうんだろうと、ショータローは苦笑した。


「さて…今からまた長時間移動じゃ身体に堪えるよね。温泉にでも泊まっていこうか?蟹のシーズンだって漁業組合の人が宿のチラシくれたよ。・・・これ何て読むの?」
「たいざ、ですよ。間人蟹。あ、私行きたいお店があるんです!」

ごそごそと、ガイドマップを取り出したキョーコと蓮はジャージー牛のソフトクリームがどうの。コウノトリがどうの、と盛り上がりだした。
俺の存在を忘れるんじゃねえと言おうとしたとき、なんだか嫌な予感がして窓から空を見上げた。

鈍色の空を派手派手しいヘリコプターが飛ぶのが見える。
そのボディに「LME」の文字

「社長だ」
「社長ですね…」

事務処理に来るはずの会社の人間がまさか社長とは…
あの業界一奇天烈な社長が降りたって巻き込まれるなんて地獄の沙汰だ。

「おい…」

ショータローが声をかけるまでもなく、蓮はエンジンをかけた。

「「「逃げよう」」」

意見の一致した3人を乗せ、車は滑り出した。


(おしまい)






もう一つのリクエストは「妊娠しちゃったキョコちゃんを尚ちゃんが匿う」
いやいや、匿ってないしね・・・。

そして必死にキョーコちゃんを探す敦賀さんを期待されてた皆様、こんなもので本当にごめんなさい。

今回は北近畿タ○ゴ鉄道沿線付近をイメージしました(あくまでイメージ。そして私は鉄女ではありません)
漁業組合の事務の仕事なんてそうそう空きないうえに、流れ者の妊婦なんて雇わないよ!なんて突っ込みは無しでお願いします。海の男たちは懐が深いんです。きっと(笑)

リクエスト有難うございました!!
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C.O.M.M.E.N.T

Re: 再度

>ひろりん様
確かにこちらは大人です。キョーコちゃんをちゃんと手に入れているという余裕がそうさせてるだけかもしれませんけどね(笑)それに海岸法廷の方は21歳で、こちらは25歳設定…でも海岸の敦賀さんが4年たったらこうなるかなあ?どうなんでしょ?
このお話の続きは今のところ考えていませんねえ。ひたすらいちゃこらしてそうで…その周りをパパショーが「妊娠中にそんな華奢な靴を履いたらだめだろ?」とか言いながらウロウロしている感じ?ただでさえの駄文が更に駄文になること間違いなさそうです(笑)

2015/07/22 (Wed) 17:08 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

再度

海岸法廷を拝読させていただいて、もう一度“答えは…”を読みたくなり、何度目かの“答えは…”です。こちらの蓮様は大人蓮様でキョーコちゃんすっごく大事にされてる感があって、何度拝読させていただいても飽きません。
質問なんですが、この話のその後は書かれる予定はないですか?妊娠発覚、敦賀蓮、京子結婚!のドタバタ見てみたいです。

2015/07/21 (Tue) 14:49 | ひろりん #- | URL | 編集 | 返信

Re: 素敵!

> kumakumans 様
コメント有難うございます。
なんだかんだとお松さんとキョーコちゃんの関係は続いていくような気がしますので、こういう形にまとまったらいいな~と思ったり。敦賀さん、いじめそうですけけど(笑)

2014/12/12 (Fri) 11:39 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 良かった!

>ひ○りん様
後編待ってくださってありがとうございます。
見守っているような…ストーカーのような…(笑)でもキョーコちゃんはなんてことないように受け止めれくれるはず!と信じております。
お松さんはスキビの大事な要素って思ってます。彼がいないと原作の蓮キョ進展しなさそうですしね。
ただ、うちで登場すると親父的要素大になっちゃいます。

2014/12/12 (Fri) 11:36 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

素敵!

こんにちは!いつも楽しく読ませていただいています。
こんな三人の関係、素敵ですね!
ほっこりしました~☆(*^-^*)

2014/12/10 (Wed) 08:17 | kumakumans #- | URL | 編集 | 返信

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2014/12/09 (Tue) 12:50 | # | | 編集 | 返信

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