2015_11
05
(Thu)11:55

恋愛カタログ-1(ほんのわずか番外4)

敦賀さん元カノ目線です。
苦手な方は読まないでくださいね。



2015/3/6初稿、2015/11/5一部修正の上通常公開





「ごゆっくりお寛ぎくださいませ」

極上の営業スマイルと共に元彼に頭を下げる。
ありがとう、とカードキーを手に背を向ける相変わらずの爽やかさが今は憎らしい。
大体宿泊予約名簿を見た時から嫌な予感はしていたのだ。“敦賀蓮”なんて芸能人みたいな名前そうそういないだろうから。
ホテルのフロントなんて仕事をしていたら、それはもう元彼だろうが、生き別れた兄妹だろうが、色んな人に出会うことは想定済みだ。(平々凡々な家庭なので生き別れの兄弟も家出した父親もいないが。)

だけど、このタイミングは無いだろう。

「よ・こ・てさん。お客様をお待たせしない」
「…申し訳ありません。大館主任。…お客様。お待たせしました」

蓮の連れらしい石橋という男性客の受付をこなしながらそう告げるビジネスライクの声からは、怒りのオーラをヒシヒシと感じる。
よくもまあこちらを見てないのに圧力をかけれるものだと隣に立つ男に感心する。

(なんでこのタイミングでうちのホテルにくるのよ!敦賀蓮!)

確か自分はプロポーズほやほや、おまけに同棲したてで一番幸せな期間のはずではなかったか?



■恋愛カタログ-1(ほんのわずか番外4)
            ~ ほんのわずか2カ月後 ~




横手美里が問題写真を発見されたのは今週の月曜日、婚約者のマンションへの引っ越し作業の最中である。

「結構本あったのに捨てたのか?」

婚約者であるフロント部主任大館勝もその日は休みで美里の荷解きを手伝ってくれていた。

「うん。仕事関係で集めた本は勝のと被ってるの多かったから。能代君にあげたり古本屋に売ったりして残ったのは棄てちゃった。」
「美里の部屋、本で埋まってたもんな。いつか雪崩が起きるんじゃないかと思ってたよ。あ、これは置いてるんだ」
「その写真集は一番のお気に入りだから。捨てられないよ」
「その割に開いてるの見たことないけど?」
「時間がないだけ!それは棄てたら絶対後悔するもん」

はいはい、と笑いながら勝が写真集を捲った。美里の好きなフォトグラファーの南フランスの写真集。その中からパラリと落ちたL版写真を見て、2人は凍りついた。
写るのは美里と…元彼。

「これ・・・誰?」

そう尋ねてきた婚約者の声は地を這うように低かった。

*
*

(未練とかじゃ全然ないのに)

客が途絶えた隙に事務作業をこなしながら美里はため息をついた。

それにしてもなんたる失策
一番のお気に入りでこれだけは棄てられない。そう言い切った写真集に元彼との写真が挟まっているとは。

本当に未練とかではないのだ。
ただあまりに美麗な男だったので、こんな上玉男と一緒に写真を撮るなんて生涯無かろうと1枚記念に残しておいて忘れていた。それだけなのだ。しかもそれがきっかけでギクシャクしているところに、まさかご本人様登場とは

真夏のこの時期、日本有数の避暑地として名高いこの地には財界の実力者たちが東京の熱さを逃れてやってくる。
高齢である彼らは夏中こちらで過ごす場合も多い。そのために様々なトップ外交やこちらを舞台にセミナー等が開かれるから、営業マンである蓮が出張でくることはおかしいことではない。
おかしくはないけれど…時期が悪い。
本当に神様は意地悪だ。



蓮と知り合ったのはアメリカ
美里はホテル業務専門学校の研修でロスでホームスティ中で、そのホストファミリーであるリズが通っている大学に蓮がいたのだ。
日本人離れした体形と整いすぎるくらい整った顏。おまけに家は裕福でフェミニスト。当然のことながら彼はモテにモテていた。それはリズも例外ではなく…

『ミサト、レンはやめたほうがいいわよ』

かみ過ぎた鼻を真っ赤にしたリズに忠告されたのは、彼女が念願かなって蓮と付き合い始めて1カ月ほどたった夜だった。

『どうしたの?まさか蓮、リズを振ったの?見る眼がないわね!』
『違う…私が振ったの…』
『へ?なのになんで泣いてるの?』
『だって引き留めてくれると思ったのに。嫉妬して怒ってくれると思ったのにぃ」

蓮は穏やかで誰にでも優しい。その分自分が彼にとって特別だとは思えなくなって、反応が見たくて気になる人がいると別れ話を持ちかけたのにあっさり身を引かれてしまったのだという。
聞くと歴代の彼女達はみなそうやって1人相撲をとって玉砕していき、長く続いた試しがないらしい。

『それでもやっぱり彼は素敵だもの。私こそはってみんな思うの』

そして別れたのにまだ囚われるの。ああいうのを悪魔って言うのよね。そういって大泣きするリズの背中を撫でて慰めながらも自分には関係のない事だと思っていた。

だが、偶然にも東京で再会した蓮はやっぱり極上の男だった。
誰とも付き合っていないなら一度私と、そう思ってしまうほどに。おまけにその時ハマっていた漫画の主人公にもちょっと似ていて萌えたことは絶対に秘密だが。

付き合いはまあまあ上手くいっていたと思う。
お互い仕事を大事にしてあまり干渉しない。よく「お洒落なカップル」とか「芸能人みたいな2人」とか言われた。
本や漫画とお笑いとミカンが大好きな自分のどこが芸能人なのかよく分からないが、蓮は確かに乙女の理想を形にしたような男だった。
その容姿、知性、教養、運動神経、マナー、頭の上から足の先まで一部の隙もない完璧さ。持ち物も部屋もスタイリッシュ。夜の事も文句なしに手練れていたが、がっつくことはなく、こちらが必要とする以上に求めてくることはない。
そんな蓮に釣り合うよう美里もきちんとした彼女でいようと心がけた。
蓮を時折招くために大量の本や漫画とDVDはクローゼットに封印して、炬燵は実家で保管してもらった。もともとホテルは夢を演出する場だ。上辺を綺麗に見せることは得意分野だ。

デートはドライブ、美術館、レストラン…付き合ってほどなくして、リズの言っていたことがよくわかった。
お洒落でいつもきちんとしている2人。でもなんだか現実感のない2人。
美里を大事には扱ってくれるけれど、愛してくれているか?そんなことを追求したら痛いことになりそうな気がした。
アメリカ時代の連からは考えられないほど長い1年の交際期間は、美里がまだまだホテルウーマンとして新人だったためプライベートに時間の余裕がなかったのが功を奏したのだろう。

一抹の寂しさと、肩の凝りを感じ始めた頃異動が決まった。

「長野に異動になったの。別れてくれない?」

照明が抑え目のレストランバーで告げた言葉に、蓮は予想通りの答えをくれた。
少し寂しくはあったけど、『これで暫く休日は漫画に埋もれて生活できる』とホッとしたのも確かだった。

美里にはあんな絵に描いたような綺麗な恋愛なんて向いていなかったのだ。
あんな男とは釣り合わなかったのだ。

*
*


「石橋様、お気をつけてお帰り下さい」

クロークで預けていた荷物を受け取ってホテルを出ようとしていた石橋に美里は声をかけた。

「ありがとう。とってもいいホテルだったよ。従弟の披露宴がなければ、俺も敦賀君みたいに延泊するのになあ」
「ありがとうございます。是非またいらしてください。お待ちしております」

木曜金曜と2日間開催された大規模なセミナーは無事終了したらしい。石橋は東京に帰るようだが、蓮は日曜までこちらに滞在する予定となっていた。ダブルの部屋を今日まではシングルユースしていたが、明日辺り恋人がくるのかもしれない。

(恋人と一緒にいるところでも見たら、勝の機嫌も直るかな?)

あの写真発見以降、家の雰囲気が悪いことこの上ない。そろそろなんとかしたいところだ。
婚約者の大館勝は普段は喧嘩を引き摺るような男ではないので、やはり客としての蓮に接することで色々刺激されてしまうのかもしれない。

(もう嫌味な位完璧超人だもんね。)

美里にしてみれば、あんな男は眺めるくらいでちょうどいいのだが、同じ彼氏という土俵に立ってしまったら色々比べてしまうのだろうか。
別に負けてたっていいと思うし、勝だって外見だけで言ったって背は180近くあるしバランスもいい。超美形ではないが誠実さを感じさせる顔は分類上ハンサムなはずだ。

ただ較べる相手が悪いだけで…

全然気にする必要はないのだからと「勝は年をとったら男前になるタイプだよ」と言ってみたが、どういう意味だとジト目でにらまれた。

(男を上手に褒めるスキルが欲しい…)

そう思いながら時計をみると7時半過ぎ、蓮はセミナー参加者と会食でも行ったのだろう。まだ戻ってきていない。

(またあの罪作りな笑顔を振りまいているんでしょうね)

会食の場で若い女性があの無自覚女たらしの被害に遭わなければいいのだが。
美里は苦笑いするとフロント業務に戻った。
金曜ということもあり、チェックインの客は多い。気が付けば列を作ったそれをさばいていき、最後に待っていたのは小柄な女性だった。

「大変お待たせいたしました。チェックインでございますか?」
「いえ…えーと」

少し明るめの茶髪が似合っている彼女は20代前半だろうが、10代と言ってもいいくらいに可愛らしい。大きな目をきょときょとと動かし携帯を確認する姿は小動物のようでナデナデしたくなる。

「8…07号室に宿泊してる敦賀さんってお戻りになっていますか?」

先程まで頭にあった名前がその口から発せられたことに美里は一瞬固まった。


(2に続く)
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コメント

Re: 既に続きが 楽しみです

>genki様
続き楽しみに待ってくださってありがとうございます。どのお話もだんて~もう小躍りしちゃいました。
結構男前な元カノさんの活躍?どうか最後までお付き合いください。

2015/03/09 (Mon) 00:47 | ちょび | 編集 | 返信

既に続きが 楽しみです

こんばんわ。既に続きが楽しみです。元カノ目線…いいですねえ。別れた恋人のお話なのにお仕事絡みだからか、明るい活発な感じがいいです。この元カノさんも、好感が持てそう。一生懸命だけどマイペースなところがいい感じです。どのお話も続きがすぐに読みたくなります。←おねだりゴメンなさい。どうもありがとうございました。

2015/03/07 (Sat) 23:12 | genki | 編集 | 返信

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