2014_12
19
(Fri)11:55

1歩いっぽ(33)

お松さんがメインで出ます。苦手な方はご注意ください。

2014/12/19



大事なのに。大切なのに。
傍にいるのが当たり前だったのに。

何度も何度も言葉を間違ってしまう。



■1歩いっぽ(33)~たとえ前が見えなくても~


不破松太郎は子供の頃からカッコつけだった。

自分がどうやら容姿に優れていることは分かっていたし、幼稚園の頃から女の子の視線を浴びるのは好きだった。
小学校低学年ともなると、他人の眼を存分に意識して行動していた。
だが、なんだかんだと言っても子供は子供。
外でいくら格好つけようと、家に帰れば母親にくっついて甘えてみたい日もあったのだ。
学校で先生に褒められたことを報告して、母の柔らかい手で頭を撫でて欲しい。そんな日もあったのだ。

だが、できなかった。
家にも他人の眼があったから。
小学生にもなるとキョーコはほぼ毎日といっていいほど不破家に居たからだ。

忙しい両親が家にいないことが多いショータローだけど、キョーコがいてくれると寂しくない。
宿題が終わった後のお菓子だって、夕飯だって、1人で食べるより2人で食べる方が美味しい。

でも、キョーコの眼があったら、母に小さい子のように甘える事なんてできなかった。
だって、恰好悪い。
だって、キョーコに悪い。

同じこともしてもキョーコの方がちゃんと褒めてもらえる
女将にしてみたら、お客さんのキョーコに気を遣っていたのだが。

ショータローが花丸をもらっても、キョーコは2つ花丸をもらってくる
キョーコがいなければ、ショータローは「すごいね」と褒められただろうに。

キョーコに対する複雑は想いはショータローの心の奥底にいつも巣食っていて、年を追うごとに膨れて行った。

キョーコはよく出来た子だった。
学校の勉強も勿論、帰ると旅館の仕事を一生懸命手伝い、覚えて行った。
それはもう6つや7つの子のレベルを超えるほどで。
18になった今ならショータローにも分かる
他人の家に預けられたキョーコは必死だったのだ。自分がここにいてもいいという許可を得るために。
だが、キョーコと比べられるたびに、ショータローの不満は膨れ上がり…あの日、あんなことを口走ってしまったのだ。


小学校の3年生になったある秋の日
キョーコは落ち込んでいた。
音楽会の大太鼓に立候補していたのに選ばれなかったのだ。大太鼓は学年でただ1人だけだし、立ち位置も一番目立つ場所だ。
選ばれたらお母さんに報告するはずだったのに。
大太鼓だから来てね。そうお願いしようと思ってたのに。
結局その他大勢のリコーダーになってしまった。
キョーコが未練げに叩いた大太鼓のリズムはショータローの耳に届いた
ショータローはこれまた学年ただ一人のピアノ伴奏に選ばれ、母親の誇らしげに喜ぶ顔が見れて高揚してた。

だからつい調子に乗った

「なんだ。キョーコ、落ち込んでるのか?」
「…」
「しっかり練習しないからだぞ。そんなんだからお前の母さん、いつも観に来ないんだぞ」

ぴきり、と何かがひび割れる音がしたような気がする。
もうここ何年も見たこともない涙がキョーコの眼に浮かんで、震える唇を噛みしめるのが見えた。
しまった。こんなこと言うつもりじゃなかったのに、と思った時にはもう遅い
キョーコはくるりと向きを変え、部屋から飛び出ていき、ショータローは生まれて初めて母親に本気ではたかれた。
どうしてあんなことを言ってしまったのか。
ショータローは薄々知っていたのに。
たとえ大太鼓に選ばれようとキョーコの母親は音楽会に来ないことを。

でも、それからもキョーコは努力し続けた。
ピアノの伴奏、書初め、勉強…一度もキョーコは褒められることも頭を撫でられることもなかったけれど、何度も何度も期待を裏切られたけれど
そのうち、打ちのめされるキョーコを見るのが耐えれなくなって、ショータローは見ないふりをし始めた。
やがて、キョーコの努力はショータローに向けられた。
それに込められた想いも見ないふりをして、当たり前のように享受したのだ。

*
*

「ショー、そろそろ着陸態勢に入るって」

祥子に揺さぶられて、ショータローは薄目を開けた。

「ああ…もう着いたのか」
「疲れてたのね。よく寝てたわよ」
「…」
「とりあえず海外進出の1歩を踏み出したんじゃない。そんな顔しないのよ」
「あれが1歩かよ」
「ショー。すごく大きな1歩よ」

祥子から目を逸らして、着陸態勢への案内を流すモニターを見つめる。
なんとも言えないこの苛立ちがあんな昔の夢を見させたに違いない。

*
*

映画「トラジックマーカー」がアジア圏でも快進撃を見せたことで、アメリカでも上映が決まった。
それはつまり主題歌を歌っている不破尚の歌もアメリカ進出するということで…権利関係や今後の展開の相談にN.Yのエージェントを訪れたのだった。
あの映画がアジア圏での上映を意識していることは分かっていたから、国内上映用とは別に英語バージョンも作詞し、レコーディングもN.Y.で行っていた。
まさに読み通り

(見てろよ。キョーコ。俺の活躍の場は世界にまで拡がっていくんだぜ)

そう浮かれて飛んでいったN.Y.だが

『楽曲の提供だけってどういうことだよ?』
『こちらでの上映時には彼らが歌ったバージョンを流そうと思っているの』

そう言ってエージェントが挙げたのは、最近アイドル的売れ方をしているアメリカのバンド

『あの映画は当たるわ。それならこちらでは無名のショー・フワよりも彼らが歌ったほうが何倍も売れる。作ったのは貴方なんだから相当のギャラが入るわよ。悪い話じゃないでしょう?』
『金の問題じゃ「ショー!!!」』

祥子がショータローの言葉を遮った

「確かに悪い話じゃないわ。貴方の作った歌が世界に認められる大きなチャンスよ?楽曲を提供することなんてよくあることじゃない」
「俺は自分で歌うためにこの歌を作ったんだよ!」
「不破尚の名前を売るための1歩と思えばいいじゃない。それにこちらで売るためのリスクを軽減できるのよ?プロとして活動している以上大人の事情ってやつも考えてちょうだい」

心の底からは納得できないまま契約を交わし、そのままエージェントと食事でもという話になった。
ビルを出て、ウインドウをふとみて初めて気付いた。
このビルの1階って…

『ああ、アルマンディのモデルをしているレンも日本人だったわよね。貴方会ったことある?』
「…」
『彼、素敵よね。色気があるわ。以前はサブ的な扱いだったのが、最近では欧米でもメインを飾るのは彼なの。日本ではアクターをしてるんですって?熱狂的なファンがこちらでのデビューを待っているのよ』

どうやらエージェントもその熱狂的なファンの一人らしい。何も答えないショータローに変わり、祥子が日本での敦賀蓮の活躍を説明している。

ウィンドウのポスターを見上げた。
蓮の眼がまるでこちらを見ているようだ。少し上げた口角がまるで“俺が上だ”と嗤っているように思えて、ショータローポスターを睨みつけたのだった。

(34に続く)





ちょびにとってはお松さんは好きとか嫌いとかないんですが…(キョーコちゃんとくっつく未来はないけどね)
まあ、ほら、松少年にもいろいろ複雑な思いがあったということで…。
関連記事
スポンサーサイト

C.O.M.M.E.N.T

Re: 感動の一言!!

>○葉様

メチャクチャ嬉しいです!嬉しすぎてもっと叫びたいけど衆人環視の中は恥ずかしいので、後日メッセージ送りつけます!ご迷惑でしょうが受け取ってください!

2014/12/25 (Thu) 14:57 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2014/12/22 (Mon) 16:45 | # | | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

>□□□□jono様
とても丁寧なコメント有難うございます!
お松さんが出るってことで皆様の拒絶反応心配だったので本当に嬉しいです。
お客様って嬉しいですけど、毎日それが24時間ともなるとどんなに気心のしれない相手でもどこかストレスを感じちゃいそうだなと思うのです。大人も子供も家の人もお客もそれぞれに。
勿論互いがいることで救われた面も沢山あるのでしょうけど
お松さんもまだまだ子供ですから、これからきっと成長していくんじゃないかなと(キョーコちゃんとの未来はないけど←しつこい)
お話沢山読んでくださって本当にありがとうございます。
ちょっとひと休憩ってときのお供になるといいなあと思ってます。

2014/12/22 (Mon) 01:39 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2014/12/19 (Fri) 15:35 | # | | 編集 | 返信

コメントの投稿

非公開コメント