2014_12
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(Fri)11:55

1歩いっぽ(35)

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さて、なんだかありがちな展開になりましたが…

2014/12/26


■1歩いっぽ(35) ~たとえ前が見えなくても~



後部座席に促されシートに身体を沈めると、蓮はいったんドアを閉めて社と何か話している。社は頷いて手袋をはめると携帯でどこかに電話をかけだした。
そんな2人から視線を外すと、キョーコはそっと目を閉じた。

流石腐っていても幼馴染
ショータローはいとも簡単に誤魔化し続けてきたことをあぶりだす。
このまま少しずつ距離が縮まって行けば…と思っていた蓮との関係
でも分かっている。それでは駄目なのだ。
最初に告白を受けた時に感じた恐怖はずっとキョーコの心に巣食っている。

ずっと愛されたいと切望していた

母に振り向いて欲しくて必死に努力したあの日も
幼馴染とのいつかを夢見て馬鹿みたいに尽くしていたあの日も

だけど、母はいつも振り向いてはくれなかった。
幼馴染の「一緒にきてくれないか」という言葉に浮かれ期待し、その反動で真意を知ったときコントロールをできないほどの憎しみに囚われた。
でも、それでも立ちあがってなんとか前に進めてきた。自分の居場所を見つけれた。

だけど演技者としての目標であり、誰より心を奪われている蓮に裏切られたら?置いて行かれたら?
その時自分は立っていられるだろうか?
蓮は暖かく優しい。
縮まる距離に、告げられる言葉に膨らむ思慕の想いと期待。
この膨らみ切った想いで伸ばした手を振り払われたら…

その日はきっと来る。そう思えてならない。

だって
自分は母親にさえ愛されなかったのだから。



「最上さん」

眼を開けるといつの間にか2人ともシートベルトをつけている。

「お店予約できたし、車出すよ」
「…はい」

地下駐車場を出ると道は混雑もせず順調に流れているらしい、車は滑らかに進む。
キョーコは車窓から見える街灯をぼんやり眺めた。
疲れているし、食欲もない。知らない人が沢山いる店で食事するのは正直憂鬱だ。
だけど1人になりたくもない。蓮からの誘いを断って嫌われたくない。
ほら、そうやってずるずるずる都合のいい女に変化していく。
心の中でため息をついて、正面を見て初めて気付いた

(あれ?)

キョーコの戸惑いなどお構いなしに蓮はコインパーキングに車を止めた

「ここからはちょっとだけ歩こうか」
「つつつ」
「津?」
「敦賀さん!ここって!」
「美味しんだって楽しみだね」

にこり、と笑うと蓮はすたすたと歩いて行ってしまうので、キョーコは慌てて追いかけた。
蓮がどこにいくかなんてここまでくれば明確だ。だってこの道をキョーコは毎日通るのだから。
“だるまや”の暖簾をくぐって、社が「さっきお電話した社ですが」なんて言ってる。
常連客の佐藤のおじさんがテレビで見た事しかない長身のスターに口をあんぐり開けて、つまんでいたダダチャ豆を落っことした。

「お待ちしてましたよ。どうぞ奥の座敷に。キョーコちゃん、おかえり」

にこにこと女将さんが挨拶する

「らっしゃい。」
「た、だいま帰りました。」
「今日はお前も客だ。しっかり喰ってけ」

だるまやの小さな座敷で蓮と社とメニュー表を見ている姿は違和感がありまくりだった。
いやもうおかしい。なんだか孔雀かフェニックスでもいるみたいだ。

「美味しそうだなあ。蓮、ビール飲んでいいか?」
「かまいませんよ。あ、俺は烏龍茶で」
「キョーコちゃん、おススメってなに?」
「あ、えとですね…・。」

飲み物を注文してしばらくすると、おかみさんが飲み物とお通しを配り、最後にキョーコの前に小振りな皿を置いた

「これ・・・」
「サバの味噌煮、サービスだよ。」

おかみはごゆっくりと頭を下げると出て行った。

「お、旨そうだなあ」
「…だるまやの人気メニューなんです」

だるまやの人気メニューでキョーコの好物。
こんな遅い時間には残っていないだろうに、きっと社が電話を入れた時に取り置いてくれたのだろう。
あのセツカの仕事から帰った朝のように。
身をほぐして、口にいれると優しい味が広がった。
人が作ってくれた料理はこんなに美味しかっただろうか?

「美味しい?」

テーブルの向こうから向けられる優しい眼差し
鼻の奥がつんとして、視界がなんだかぼやけて、肯定するために頷いたまま下を向いた。

きっとショータローの言葉は聞こえていただろうに、蓮も社も何も言わない。
でも、言葉ではなく教えてくれる
キョーコには帰る家があって、待ってくれている人がいて、気遣い、大事に思ってくれている人たちがいる。
それを愛と言っても言わなくても、暖かくキョーコを包んでくれる思いがそこにある。

「失礼します。遅くなりました」

勢いよく襖があいた。

「待ってたよ~。琴南さん」
「も、モー子さん?どうして?」
「社さんに電話もらったのよ。先輩がヘルシーな和食をご馳走してくれるって。天宮さんも仕事じゃなかったらって残念がってたわ」

照れくさいのだろう殊更に事務的に告げると、キョーコの隣に座りメニューを広げた。
すましているが、ストールの巻き方が奏江にしては雑だ。きっと仕事が終わって慌てて駆け付けたに違いない。

「はい、お待たせ~。沢山食べとくれ」
「おおっうまそう!」
「ほんとだ。美味しそうですね」
「やだっ、こんな高カロリーで美味しそうな料理見たら我慢できなくなるじゃないですか」
「いいじゃない。一口だけ。一口だけ」
「その一口が肥満への第1歩ですよ!」

大切な人と大切な場所で、大切に作られたご飯を食べる。
それはキョーコの心をゆっくりとほぐしていった。


*
*

「ねえ…モー子さん」

きっとまだ起きているだろう奏江に呼びかけた。
せっかくだから泊まって行けと言うおかみさんの好意に奏江が甘えてくれたのだ。

「なによ?」
「今日はありがとう」
「…礼を言うなら敦賀さんに言いなさい」
「うん。分かってる」

分かっている。傷ついたキョーコの為に蓮がみんなに働きかけてくれたのだろう。

いつもいつも蓮はキョーコに必要なものをくれる。
それはアドバイスだったり、叱咤だったり、知識だったり、愛情だったり
ただ、甘やかすだけじゃない。様々な形で。
それは蓮がキョーコをよく見てくれているから、理解しようと思ってくれるから出来る事だ。
勿論未来に絶対なんてない。でも信じるに足りる愛を注いでくれているのだ。
それはわかっている。

「モー子さん…私ね、敦賀さんが好きなの」
「知ってるわ」
「敦賀さんの想いに応えたいの」

切望すれば切望するほど、期待すればするほど絶望するのだとこの心に巣食っている恐怖
それを乗り越え、蓮の想いに応えたい。一緒にいたい。

「だから新開監督の映画受けようと思う」

あの場所で自分を、母を、過去を、見つめ直して受け止めて、乗り越えてきたい。

「うん。その方があんたらしいわよ。」

こちらを見ている奏江の笑顔もとても優しい。

「何かあったら相談に乗るわよ。私あんたの親友なんでしょ?」
「うん」
「ただ、恋愛の相談事はあまり力になれないかも…私もラブミー部員だからね」

キョーコは布団の中でくすくすと笑った。

「そうだよね。私達ラブミー部員なんだから、愛なんて不得手だもんね」


だから1歩いっぽ進んでいくしかない。


(35へ続く)




年内の1歩いっぽはこれにておしまい!
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