2016_06
08
(Wed)21:02

雨の日の誕生日は(ほんのわずか番外-9)

限定解除してませんでした!ごめんなさい!!!

**********


みなさま、今日で「ほんのわずか」は全て通常公開となりましたー!!!

なんとまあ、1年半前のクリスマス&キョコ誕に出した話です。
季節感を大事にするためにこれだけ番外編としては先に出したんですよね。そして今、季節感丸無視(笑)


さて、いよいよ40話目の「ほんのわずか」です。
本編より番外編の数が多いと言う不可思議な状態になっちゃいましたが、楽しんで書いてこれたのも皆さんのお陰です。有難うございます。

3月ごろから環境が激変しまして、お話を週1か2あげるので精一杯な状況ですが、それでもなんとか続けていきたいなと思っています。
コメントや拍手に元気をもらっているにも関わらずろくにお返事も書けない不義理サイトですが、お時間ある時に覗いてくださったら嬉しいです。


では、ほんのわずか9番目の番外
社会人パラレルで、キョーコちゃんの生い立ち等大幅に変わっています。ご了承ください。


2014/12/25初稿、2016/6/8一部加筆修正の上通常






柔らかな熱の代わりに入り込んできた冷気で蓮は目を覚ました

フットライトの頼りない灯りの中で目を凝らすと、キョーコが蓮を起こさない為だろう、足音を忍ばせながら、毛布を引き摺りベットから離れていく。
どうやら天気予報は当たったらしい、キョーコがにじり寄ったペアガラスの向こうでは雨が降っている
窓辺に座り込んで動かないベージュの毛布を頭から被ったシルエットはぬいぐるみか何かのようだ


ここの2、3日のキョーコはおかしいと蓮は思う
少し沈みがちと言うか、もの思いに耽るというか…なんだか常よりは甘えてきてくれることは嬉しいのだが

キョーコが窓辺に座り込んでから暫く経ち、枕元の時計を見ると午前5時過ぎ。寝ている間は控えめな空調の中で窓からの冷気を受けていたら風邪を引いてしまう。

「キョーコ…?」

さも今起きました、と言うように名を呼べば、ベージュの塊は弾かれたように立ち上がりこちらを向いた。

「…何してる?」
「あ…ちょっと外の様子を」

早くベットに入れと言う代わりに己の横を軽く叩いて見せると、キョーコは毛布を被ったまま滑り込んできた
毛布を剥がし露になった素肌を己の身体で包みこみ、暖めていく

「…嘘つき娘」
「え?」
「“ちょっと”じゃないだろ。こんなに冷えきって」

冷たくなった頬を軽く引っ張ってやると、キョーコは困った顔をして笑った

「すいません。どうせならホワイトクリスマスになればロマンチックなのになって見ていたらボーッとしちゃいました」
「雨だろうと雪だろうと、俺にとっては今日はクリスマスじゃなくてキョーコの誕生日だよ」

言いながら冷えきった指先を一本一本さすって熱を与えていく
足先もまるで氷のようだ。少しでも早く暖めようと足を絡ませると、いつもその動きの先にある行為を思ったのかキョーコの身体がふるりと反応した。

「…ねえ」
「は、はい!」
「本当にいいの?プレゼント」

もう1回とねだられると思っていたのだろう。キョーコは一瞬何の事だか分からないと言った顔をした後、己の予想が恥ずかしいのか真っ赤になりながら頷いた

「勿論です」
「でも、せっかく付き合って最初の誕生日なんだし…」
「敦賀さんと一日ゆっくり過ごせるなんて最高のプレゼントですよ?」

キョーコの誕生日プレゼントのリクエストは、“一日ゆっくり蓮の部屋ですごしたい”だった。

「のんびり起きて、お昼は敦賀さんにオムライス作ってもらうんです。あ、前作ったのじゃなく美味しいやつですよ?お昼からはDVDでも見て、ケーキと晩御飯は私が腕によりをかけますから。晩御飯は当然ハンバーグです。」

ね、贅沢でしょう?と笑う恋人に蓮は微笑む。

「贅沢…ね。確かにキョーコと過ごす時間が俺にとっても何よりの贅沢だな。でも、それってキョーコへのプレゼントじゃない気がするけど?。」
「そんなことありま…あ、あの…もうあったまったみたいなんで、大丈夫ですよ?」
「…あともう少し」
「…!。そこは冷えてませんから!大丈夫ですから!」
「じゃ、今度は俺を暖めて?」
「ちょ―っ」

先程の期待に応えるべく、蓮は今度は全身でキョーコに絡みついた




■雨の日の誕生日は(ほんのわずか番外-X)




「オムライス美味しかったです」
「先生が教えるの上手だったからね。でも卵で上手く包めなかったのがなあ」
「2回目で何言ってるんですか。卵料理は奥が深いんですよ。」
「精進します」

食後のコーヒーを飲みながら他愛もない話をしていた2人だったが、蓮は時計を確認すると立ち上がった。
それをきょとんと見ていたキョーコだったが、蓮が車のキーを掴むと顔色を変える。

「ど、どこいくんですか!?」
「ん?実はケーキ予約してあるんだ。」

キョーコの誕生日だというのに料理もケーキも本人が作るのはどうかと思うし、そのためにはキッチンに籠らないとならないからDVDなんてゆっくり見れない。
ケーキの材料は果物以外は保存も効きそうだし、なんとかなるだろう。
そう思って、仕事の際に勝負手土産を買っているケーキ屋にクリスマスで忙しいのに少し無理を言って小振りのホールバスデーケーキをお願いしたのだ。

「で、でも、外は雨降ってますし」
「車なら往復15分もかからないよ。寒いしすぐ帰って来るからキョーコは待っ「嫌っ!!!行かないで!!!」」

自分の上げた声に驚いたように見開いたキョーコの眼にみるみる涙が溜まり、溢れた。あっけにとられているうちに蓮の腕を掴んだキョーコは涙と共に溢れる嗚咽と共に「嫌」「行かないで」を繰り返し、離さない。

「キョ、キョーコ、落ち着いて。」
「嫌です。私はもう誰にも置いて行かれたくないんです!」
「キョーコ?」

興奮している肩を抱いてとりあえずソファーに座らせ、自分も隣に腰を下ろすとキョーコの顔を覗き込んだ。
顔色がひどく悪く、指先も震えている。空いている方の手で握ると指先が冷たい。肩においてた手をすべらせて背中をさすり、左手で包み込んだ指先を暖める
暫くそうしているうちに少し落ち着いてきたようだ。

「キョーコ、何があった?」
「あ、あの…」
「うん」
「両親が亡くなったの…私の誕生日なんです」

*
*

小学校2年生の誕生日。「お父さんとお母さん、今からケーキ取りに行くけどキョーコも行かないか?」と声をかけられた。
キョーコは頭を横に振った。サンタさんからもらった動物語を喋れる獣医さんの話に夢中になっていたのだ。それにキョーコはもう8歳なのだからお留守番位出来るのだ。
「じゃあ、30分くらいでもどってくるよ」とお父さんは言った。
「知らない人がピンポンしても出ちゃだめよ」とお母さんは言った。

30分なんてとっくに過ぎて、アフリカに行っていた獣医さんが帰ってきても、お父さんとお母さんは帰ってこなかった。
夕方近くに鳴ったインターフォンは知らない人ではなく青い顔をした叔父さんだった。
キョーコリクエストのハンバーグは焼かれることがなかったし、誕生日プレゼントはすべてが終わった後で遺品整理をした叔母さんから渡された。

あの日、叔父さんが迎えに来てからの記憶はあまりない。
でも、1つだけ覚えていることがある。

雨が降っていた。冷たい冬の雨が。


*
*

(なんてことだ…)

背中をさすっていた手でキョーコを抱き寄せながら蓮は天を仰いだ。

両親が交通事故で亡くなったことは聞いていた。だが、詳細についてはキョーコが自分で話をしてくれるまでと思って聞いたことはなかった。
この頃のキョーコは様子がおかしかった。おかしくなったのは…

(週間天気で25日が雨の予報が出てからだ)

皿洗いをしながら蓮は見ていたのに。洗濯物を畳んでいたキョーコが、テレビに映る天気予報をみて身体を強張らせたのを。
“部屋で一日ゆっくり過ごしたい”とリクエストされたのもそのすぐ直後だったのに。

雨の日に運転をしてケーキを取りに行くなんてドンピシャでキョーコのトラウマを刺激した。


キョーコは胸に抱いている両親との大事な思い出話を時々教えてくれる。
きっとあちらこちらの親戚を渡り歩きながら、その暖かい思い出と共にトラウマも抱えてきたのだろう。

蓮と紆余曲折はあったものの、こうやって付き合うようになって互いにかけがいのない存在になったと思っている。
だからこそキョーコは怖いのだ。
“あの日”がまた来るのではないかと

抱きしめられたことで安心したのか、嗚咽が聞こえなくなり強張っていた身体から力が抜けた。
こうしていることでキョーコが安心するなら、いくらでもこうしてあげたい。

(だけど…)

又いつの日か雨の誕生日はやってくるだろう。
いつも仕事が休みな訳ではない。どうしても車に乗らなければならない事があるかもしれない。ましてや毎年誕生日をずっと部屋に籠るなん無理だろう。

「キョーコ」
「…ぁい」

まだ鼻声の返事が聞こえ、キョーコが蓮の胸から顔を上げた。
ぐじゅぐじゅになった顔を愛おしげに見つめて蓮は告げた。

「じゃあ、一緒に歩いて行こうか?」
「え?」
「うん。そうしよう。昨夜さしてた傘、だるまやのおかみさんからプレゼントされたんだろう?あれを差して歩いて行こう。ケーキとご馳走の為にカロリーも消費しなくちゃいけないし」


ずっとキョーコの傍にいたいと思う。
だから部屋に籠らずとも、キョーコが心安らかに自分の誕生日を迎えられるように支えていきたい。
少しずつでいい。大丈夫だと。

「さあ行くよ。」

そう告げてキョーコを立たせて用意をしろとせかした。あっけにとられたままあれよあれよを言う間にコートを羽織らされ、ストールをぐるぐる巻きにされて雨の街に連れ出される。

「うひゃう!」
「何?どうした?」
「傘の滴が顔にかかりました」

細かい雨が降りしきる外はなんとも薄ら寒い。2人は足早に目的地に向かった

車で5分ほどの距離も、徒歩でしかも雨の中ともなると結構かかり、店につくころには2人の靴は雨を含んでなんだか重くなっていた。

「お店がすごく暖かく感じるね。」
「いっそ雪の方が降った方が暖かく感じるかもしれません。」

おまけに帰りはケーキという手荷物まで増えている。

「寒いから俺の傘1つでくっついて帰ろうよ。」

片手に畳んだ傘、もう片手を傘を持つ蓮の腕に絡ませたキョーコは大いに照れた。

「なんでそんなに照れる?」
「いや、だって、いつも手握ってるから腕組むって恥ずかしいというか」
「何をいまさら」

いやでもなんだか恥ずかしくてむずむずする。でも先程の何倍も暖かい。
伝わる熱が口元の筋肉を溶かして緩めてしまっていく。


蓮という存在を得てからずっと怖かった雨の誕生日

でも、振り続ける雨の冷たさが蓮のぬくもりを教えてくれる気がする。


信号待ちで足をとめると、キョーコは傍らの蓮を見上げて言った。

「あの…」
「ん?」
「両親は亡くなりましたけど…自分を惨めとか可哀そうとか思ったことはないんです」
「うん」

だって2人はちゃんと愛を残してくれた。
誕生日プレゼントに添えてあったカードには「8年前の今日産まれてきてくれてありがとう」と書いてあった。

「でも…時々どうして一緒に行かなかったんだろうって思う自分もいたんです」

寂しくて寂しくて、どうして1人だけ…そんな風に思ってしまう日だってあったのだ。

キョーコを見つめる蓮の眼に憂いの色が混じる。
その眼に向かい安心させるようにキョーコは笑った。

「今は思います。産まれてきてよかったって。産んでくれてありがとうって」

2人が遺してくれた愛情に支えられ生きてきて、蓮と巡り会えた。

「こんな風に誕生日迎えられて嬉しいです。」
「うん。」

蓮も笑った

「来年も再来年もずっと…そう言ってるキョーコの傍にいたいと思うよ」
「え?」
「正月休みにはご両親の墓前に挨拶もしなきゃね」
「それって…」

分からない?と蓮はいたずらっぽく笑うと、キョーコの耳に唇を寄せた

「            」

キョーコは目も口も大きくあけて固まった後、真っ赤になった。

そんな顔も可愛いな、と目に焼き付けてから小首を傾げて問うてみる。

「返事くれないの?」
「あ…はい!勿論」

ぶんぶんぶん、と猛烈な勢いで首が縦に振られた。

「指輪、明日にでも見に行こうか」
「はい!。」
「誕生日プレゼントもね。」
「え、でも…もう戴きましたし、指輪だって。」
「指輪は誕生日プレゼントじゃないから。たまには形の残るものもプレゼントさせて?。」

で…でもと躊躇している。

「何かないの?欲しいもの。」
「え…いや…あっ。」
「何?」
「今、猛烈に欲しいものが…」
「ああ、それきっと俺と一緒だな。同時に言ってみようか?」

いっせいのーと2人は声を合わせた

「「レインシューズ!!!」」

一致した意見に2人は笑いあった。

「もう靴の中ビチョビチョです」
「俺も。この靴は失敗だったな」
「足が冷たくて感覚なくなりそうです。あかぎれ出来たらどうしましょう」

見えてきたマンションに2人の足は自然と早まった

「ううーっ。寒い!帰ったらお風呂入らないと」
「うん。一緒に入ろう」
「…足湯にしときますか?」
「なんで?」
「不埒なことしないって約束したら一緒に入ります」
「それは無理」
「何でですか!」

楽しげに言葉を交わしあう2人は、傘に降りかかるのが雨ではなく雪に変わっていること気付かないままエントランスを通り抜けた。


(FIN)

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コメント

Re: やっぱり好き

> ponkichibay 様
いつも有難うございます。そして読み返してくださって嬉しいです。
本誌でもパラレルでもキョーコちゃんには素敵な誕生日を過ごして欲しいと願ってやみません。
随分生い立ちを弄ってしかもそれを話の中心に添えたので不安だったで楽しんでいただけてよかったです

2014/12/29 (Mon) 00:46 | ちょび | 編集 | 返信

やっぱり好き

更新ありがとうございます

ちょび様のお話はみんな好きですがこのシリーズは特に好きです。
蓮様、何故肝心な事を聞かないのでしょうね?(笑)
雨の中歩いていた事とかご両親の事とか、ねえ?って感じです。
キョコさんが雨の誕生日もずっと笑ってすごせればいいですね

ほんのわずか 読み直してたのでコメが遅くなってすみませんでした
素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございました



2014/12/26 (Fri) 14:47 | ponkichibay | 編集 | 返信

Re: メリークリスマス✩

>tese様
台詞の空白は、カイン兄さんがセツカさんに囁いた時を思い浮かべてあえて空白にしてみました。皆様お好きな言葉をあてはめてください!的な(他力本願ですいません)
素敵なお話と言ってくださったのが何よりのクリスマスプレゼントです
有難うございます!

2014/12/26 (Fri) 00:07 | ちょび | 編集 | 返信

メリークリスマス✩

素敵なプレゼント(お話し)ありがとうございました♪蓮さんのセリフ、大事なところがないですよ!(笑)でも私にとって、そこが最大の胸キュンポイントで、全てを持ってかれました(≧w≦)2人が羨ましい!素敵なお話をかけるちょび様も羨ましい!!これからもお体に気をつけて、素敵なお話を沢山書いてくださいね。楽しみにしています。

2014/12/25 (Thu) 18:28 | tese | 編集 | 返信

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