2014_12
31
(Wed)11:55

大歳(おおどし)のツキ

大晦日に滑り込めました!

本年、ご訪問くださった皆様。本当にありがとうございました。
来年も可能な限り妄想駄文を垂れ流すつもりです。どうかお付き合いください

それでは皆様よいお年を!


2014/12/31
■大歳(おおどし)のツキ



(1年の終わりになんてついてない)

穏やかな敦賀蓮の仮面の下でそっとため息をつく

控え室は空調が壊れたとかでまるで冷蔵庫、収録は大物タレントの遅刻によって大幅に遅れ、女芸人の作った料理は壊滅的に不味かった。懐かしいとは到底思えぬ母の料理を思い出した程だ。
その後も自販機で飲もうと思ったブラックコーヒーは売り切れで、駐車場に行ってみれば、隣に停めたベテラン女優が思い切りドアを開け己の愛車のに傷をつけるのを目撃し、謝り倒され最後はお詫びに食事をとしつこく迫られて往生した

それに何より…

(せっかく話出来そうだったのに)

ようやく最後の仕事の現場であるテレジャパにたどり着き、控室に向かっていた時見つけたのだ。前を歩く意中の少女を。
コンパスの差からしたら余裕で追い付くし、立ち話をする時間位ならある。緩みそうになる顔をなんとか保ちながら距離を縮めようとしたら…次のドラマのプロデューサーに声をかけられ、締めの挨拶をする頃にはキョーコの姿は勿論見えなかったし、蓮自身の入り時間が迫っていた

(最上さんの誕生日だって少ししか会えなかったし)

蓮がキョーコにプレゼントを渡したいからと電話をかけたのはクリスマスイブもあと僅かとなった頃だったが、キョーコは
だるまやからそれこそ転がるように慌てて出てきた

「すいません!敦賀さんに気を使わせてしまって」
「明日は渡せる時間がなさそうだったから…夜中にごめんね?」
「そんな…いつでもよかったんですよ?」
「うん、でもせっかくなら…あ、日付変わったね。お誕生日おめでとう」

そうなのだ。25日に渡す時間が無いなんて嘘っぱちで、今日と同じく23時位には上がれそうなのだ。だが、今年も一番におめでとうを出来れば直接言いたい。片想い真っ只中の男としてのささやかな願いを叶えるべく24日ギリギリのこの時間を狙ったのだ。
少しばかり早く着きすぎてその辺を3周ほど車で回ったことは、絶対に秘密だ。

(もう少し話したかったけど)

キョーコが風呂上がりであることは常よりも香った髪からすぐ分かった。髪は乾いているようだったが、12月の下旬だ。風邪を引かせるわけにはいかない
脇に停めていた愛車に入ればもう少し話せたかもしれないが、己の理性を保つ自信がなかった

(来年はもうちょっと進展したいな…)

グアムで過去を受け入れ、前に進む決意を持った今、この状態はなんとももどかしい。

(最近は割といい反応が返ってきてる気もするし)

プレゼントを渡した時の、頬を赤らめ口元をふよふよと緩ませながらプレゼントを見詰める姿はもう凶悪に可愛らしかった。
上気した肌も、少しばかり潤んだように見える瞳も風呂あがりのせいだと今までの経験が教えてくれるのだが、それでも少しは期待してもいいんじゃないかと思えてしまう。

(来年はちょっとでも男として見てもらえるように…)

この心のうちを敏腕マネージャーに覗かれたなら、お前の進展とはそんなものかと嘆かれただろう。


そうこうしているうちに収録が終わる。蓮はこれが年内最後の仕事だ
共演者やスタッフに年末の挨拶をし、カウントダウンパーティーやら新年会のお誘いをかわしてようやく控え室に辿り着いた。

「蓮、今年も1年本当にお疲れ様」
「いえ、社さんには本当にお世話になりました。来年もよろしくお願いします。」
「こちらこそ。…来年はちょっとは進展してくれよ。」
「…どうしてここでその話が出るんです」
「だってお前は仕事は言わなくても頑張るから」

そっちの方はもう心配で心配で…、そう大げさに言って見せる敏腕マネージャーには心境の変化はバレバレらしい。やたらめったと尻を叩かれる。

「ガンバリマス」
「うん。応援してるぞ」

着替え終わると10時を回っていた。

「社さん、約束あるんですよね。時間大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。どうせひたすら飲んでるだけだから」

なんでも学生時代の友人たちと年越しを祝うらしい。妙にウキウキしているところを見ると、気になる女性でも参加しているのかもしれない。
これまでなら、自分の過酷なスケジュールに付き合ってくれている社がプライベートを楽しむことにホッとしていただろうが、流石にちょっと羨ましい。
その心を読んだかのように社はニヤリと笑った。

「残念だな。今日はちょっと話できそうだったのに。せっかく3日までお前もオフだから、何か誘いたかったんだろ?」
「…三箇日はだるまやのご夫妻と正月を満喫するんだって楽しみにしてましたから」
「そこで強引に誘えないところがお前のヘタレたる所以だな」

えらい言われようだが事実だ。小さくため息をついた後、敦賀蓮の仮面を再び被り、コートを片手に控室を出た。

「待ち合わせの店まで送りましょうか?」
「いいよ。いいよ。」

小声で話しながら歩いていくと、自販機が並んでいる前に差し掛かった。
ここでも年末の挨拶を交わしているのか数人の男女が固まっている。

「あっ」

声と共に、何か飛沫が飛んできて、シャツに茶色の染みを作った。

「あっちゃー!すまん!!!すまんなあ。敦賀君。」

飛沫の正体はベテラン芸人が落とした缶コーヒーのようだ。よりにもよって昼間蓮が買おうとして買えなかったブラックコーヒー

「いえ、大丈夫ですよ」
「シャツ汚してしもうたな。ほんまにすまん!」
「濃い色のシャツですし、コートを羽織りますから目立ちませんよ」
「それでもこんなについてもて…染みになってしまうやろうなあ。年明けに新しいの送らせてもらうから」
「そんな…」
「いいや、送らせてくれ。その方が気が済むから。あ、そうや、お詫びといっちゃなんやけど」

ずい、と渡されたのは小振りの紙袋。

「頂き物やけど、ここの蕎麦はほんまに旨いんや。年越しそばにでも食べてくれたらええわ」
「え、いや、でも」
「あ、すまん。時間やわ。ほんま大晦日にすまんこってな!よいお年を!」

強引に紙袋を押し付けると、ベテラン芸人は手を振りながら去って行った。
己の手に残された紙袋をちらりとのぞく、どう見ても2人前の、しかも今日明日には食さなければならない蕎麦。

「俺がいただこうか?」

食欲は壊滅状態の担当俳優を気遣って社が助け舟を出す。

「いえ…荷物になりますし、俺が頂きます」

量も中途半端だから事務所に持っていくほどではない。勿体ないがマンションで処分させてもらおう。

(本当についてない)

心の中で本日何度目かのため息をつく。
だが、社と別れて地下駐車場に向かおうと通路を歩くと、人波が途切れたところでそれは聞こえた。

「お兄さんの具合はどうでしたか?あ、そうですか。よかったです」

聞き間違えるはずはない。それは誰よりも聞きたかった少女の声。誰かと電話で話しているらしい。

「大将も心配されてましたもんね。」

どうやら相手はだるまやのおかみのよううだ。

「え?ああ…そうですよね。しばらくはそちらにいらっしゃった方が安心ですよね。お正月ですし。え?私ですか?大丈夫ですよ。3日に大将たちが帰って来るのお待ちしてますから」

通話を終えた背中は心持ち寂しそうだ。

「最上さん」
「え?敦賀さん?あ、お疲れ様です。今年はもう上がりですか?」
「うん。さっきの電話、だるまやのおかみさん?」
「そうなんです。大将のお兄さんが倒れて…まあ滑っただけみたいなんですけど、今朝ご実家に向かわれたので…」
「じゃあ、お正月は最上さん一人?」
「あ…まあ…そうです」

1年の終わりになんていう幸運!

「じゃあ、俺と一緒に年越ししてくれないかな?さっき蕎麦いただいちゃって1人じゃ食べきれないから困ってたんだ」
「えっ?」

それはいくらなんでも恐れ多いですとか言いながら、キョーコの視線がウロウロと泳ぐ。
ちょっと攻めに出過ぎたのかと蓮は内心焦った。この時間から部屋に来たら確実にお泊りコースだ。ただの先輩後輩の関係でこの誘いはちょっと不味かったかもしれない。引かれてしまっては元も子もない。

「最上さん、あの」
「あっ」

彷徨っていたキョーコの視線がある一点で止まった。

「この染み、どうしたんです?」
「え?」

いくらかはハンカチでぬぐったし、コートを羽織ったので大部分は隠れている染みにキョーコは気が付いたらしい。

「これ?さっきコーヒー盛大にかかっちゃって。」
「早く染み抜きしないと!」
「え?流石にもう駄目かなと思ってるんだけど」
「大丈夫です!不肖最上キョーコが落としてご覧に見せます!ではだるまやに寄ってください。染み抜きにいい洗剤があるんです。そうだ!お節も私が食べちゃっていいと言われてますので、持っていきましょうj!」

ぐいぐいと蓮を引っ張る勢いでキョーコは地下駐車場に歩き出した
そんなキョーコの後ろ姿を見ながら蓮は顔を緩ませる。

(ああ、なんてついてる)


来年はいい年になりそうだ。



(おわり)


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コメント

Re: 蓮さま、ラッキーですね♪

> genki 様
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします
キョーコちゃんが染み抜きをする姿をみて感心したり、キョーコちゃんが蕎麦を茹でる横でネギを刻んでその下手さに笑われたり…楽しい大晦日だったことでしょう。
今年は本誌の方も進展するといいですね!

2015/01/06 (Tue) 22:39 | ちょび | 編集 | 返信

蓮さま、ラッキーですね♪

明けましておめでとうございます。さっそくお話読ませて頂きました。このあと蓮さまのマンションで染み抜きに躍起になるキョーコちゃん、二人で幸せそうに年越し蕎麦を食べるすがたを想像させる、ほっこりするお話ですね。寒い無機質な都会のマンションがキョーコちゃんのもたらす明るい光りにつつまれる光景が目に浮かびました。蓮さまの心中を想像させる、暖かいお話どうもありがとうございました。

2015/01/01 (Thu) 17:22 | genki | 編集 | 返信

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