2015_01
07
(Wed)11:55

1歩いっぽ(36)

体調を崩していたため遅くなりましたが、1歩いっぽも新年再始動!

ですが、ホント―に私の歪んだ妄想が暴走します!
こんなこと考える奴もいるのね。と寛容に受け止めれる方のみお進みください…

キョーコちゃんの過去に触れ、1年ほど前に生まれた妄想ですので本誌と設定等かけ離れてます。
今回は松母も登場しますので苦手な方はご注意下さい。


2014/1/7

■1歩いっぽ(36) ~切望した世界~



「緊張してる?」

隣から発せられた声に慌てて横をむくと、後部座席の反対側にいる蓮がこちらを心配そうに見ている。助手席に座った社も気になるのかチラチラと視線をよこしてくる。

「あ…流石に4年近くも経つとお店とか結構変わるなって見入っちゃって。」
「ならいいけど。新幹線でははしゃいでたのに、黙って窓の外見てるから少し気になったんだ」

そういう蓮にキョーコは曖昧に笑って見せ、再びタクシーの窓に目をやった。

師走に入ったばかりの京都、まだ秋の余韻を残しているのか今日は日差しも柔らかくふりそそぎ暖かい。
映画の撮影は正月明けから始まるのだが、その根回しの為に京都の政財界の実力者たちが集まるパーティに出来ることなら顔を出して欲しいと新開が言ってきたのだ。

「映画のロケ地として町おこしってのは定着してきたから随分と行政は協力的なんだけどね。京都っていう街はもともと観光客が多い上に、寺社仏閣や昔からの取り決めが多くてどうしてもな」
「俺が顔を出すことで円滑にロケが出来るなら喜んで」
「わ、私も微力ながら出席させていただきます。松乃園のご贔屓さんも多くいらっしゃるでしょうから、本館を撮影することへのご理解をいただけたら嬉しいと思いますし」

何より撮影が始まる前に松乃園には挨拶に行っておきたかった。
だが、過去と向き合い前に進もうと決めても、母と直接会ったり掘り下げた話を聞くのは正直怖い。そのためスケジュールが詰まっているから秋の観光シーズンだからと自分に言い訳をして逃げていたのだ。でも撮影はもう目前に迫っている。いつまでもこのままでいれるわけはない。
パーティーは夜からということで、その前に挨拶をしたいと女将に連絡を取ると、少し話がしたいので出来るなら早めに来てほしいと告げられ、東京を8時近くに出たのだった。

(前に進むと決めたのに、情けないんだから…)

不安が顔に出ていたのだろう。蓮や社に気を遣わせた。そもそも夜のパーティに出席すればいいだけの彼らがついていくと言ってくれたのだ。そのために蓮は11月の半ばからスケジュール的に随分無理をした。

「無理はしないでください。夜からは合流出来るんですから」

だからそういったのだ。11月も下旬に入った頃久しぶりに夕飯を作りに来た帰り、エレベーターに向かう通路で。

「ついていきたいって言うのも、一緒に話を聞きたいってのも俺の我儘だから気にしないで。」
「でも…」
「俺はこの幸運に感謝しているんだから」
「幸運…?」
「そう。今このタイミングで最上さんと共演できる幸運。仕事も含めて傍にいれる時間がいつもより飛躍的に多くなるから」
「仕事にかまけて…なんて敦賀蓮らしくありませんよ?」
「確かにね」

蓮はクスリと笑ってつないだ手を振った。

「物理的にずっと傍にいるってわけにはいかないけど、一緒に生きていたら今こそ傍にいたいっていう時が何度かあると思うんだよ。今はそのうちの1回。勿論そんな時でも思うようにいかないのが俺たちの仕事だけど、共演っていう幸運に恵まれた。演技に妥協するつもりはないよ?それは最上さんに対しても同じ。でも傍にいれば支えてあげることも出来るし、小さな変化に気付くことだって出来ると思うんだ。」

俺の想い人は我慢強い上になかなかの演技者だからね。電話なんかじゃ気付かせてもらえないから
繋いだ手に少し力が籠った。まるでここに俺がいるよ、そう言っているように。

「最上さんが女将さんと2人で話をしたいっていうなら別室で待ってるし」

そう言ってくれた蓮に首を横に振って同席をお願いした。どんな話になるのか分からないけれど、傍にいてくれたら心強い。

(本当は今だってもう少し傍に…)

一人分空いた距離が心細い。京都駅からはタクシーなのだから仕方のない事なのだけど、こんな時ほど蓮に手を握って欲しいとか付き合ってもいないのに厚かましく思う自分に吃驚だ。

タクシーが松乃園に到着し、先に降りた蓮がキョーコの方に回ってエスコートの為に手を差し出した。
そのスマートさに少し笑ってしまいながら手を重ねると、ギュッと籠められる力。
“傍にいるよ”と言わんばかりに。

キョーコも小さく頷き返し、タクシーを降りる。

不安な時、哀しい時、支えてくれる手。
その手が欲しいのだと、キョーコも支えたいのだと
堂々と蓮にそれをお願いできる権利を得るためにはこの心の闇を乗り越えなくてはならない。

*
*

松乃園は次のお客様を迎えるための準備に忙しそうではあるが、それでも本館は落ち着いた雰囲気を崩してはいなかった。新館や別館ではお昼を楽しむためだけのプランもあるらしいが、こちらではやっていないらしい。
古いが大切に磨き上げられた建物の奥深い座敷に3人は通された。

「すごいな。建具や道具一つ一つに魂が籠ってる。そんな気がする。」

お茶を出した仲居が下がると、社が部屋を見渡して呟いた。

「こういう仕事をしてるとさ。結構高級旅館やホテルに泊まる機会って結構あるんだよ。でもここまで品格ってのも感じるのは滅多にないな。なんか背筋が伸びる気がする。」
「ああ、それは言えますね」
「…ここは来客用のお座敷ですから。お客様のお部屋は品はあっても寛げる雰囲気ですよ」

キョーコはポツリとつぶやいた。
15の頃まで生活の一部だったこの建物の中でも、この部屋はまた別格だった。松乃園にとって本当の賓客かもしくは大事な話をするための部屋。ここに通されたということは…。

「失礼致します」

凛とした声がして一拍ののちに襖が開かれ松乃園の女将が姿を現した。

*
*

4年ぶりに改めて見るとショータローは本当にこの女将によく似ているのだ、とキョーコは思う。
まだ40半ばというこの業界では若女将といえる歳で、老舗旅館の采配をふるう自信と気迫に満ちた姿は齢を重ねれば重ねるほど独自の美しさを産むらしい。蓮や社と挨拶を交わすその所作一つ一つが磨き上げられ、ため息が出るほどだ。
その顔がキョーコの方を物言いたげに向いた。

「今夜はこちらにお部屋を取らせていただきましたよって…敦賀様と社様にはパーティの時間までお寛ぎおくれやす。そや、宿の者にお庭でも案内させまひょか?」

内輪の話があることを匂わせて、女将が誰か呼ぼうと腰を上げるのをキョーコはとめた。

「女将さん、待ってください。お二人にはLMEに所属してからずっとお世話になって相談にも乗ってもらっていたんです。一緒に話を聞いていただきたいんですが」
「そやけど…」
「撮影中は私が京子さんのマネージャーも兼ねることになります。お聞かせいただけるとありがたいのですが」
「俺も彼女の力になりたいと思っています」

女将の視線がキョーコから社、蓮、そしてキョーコと動き、最後は蓮の顔をじっと見据えた。

「お願いします」
「…さよですか」

女将の肩が心持ち落ちたように見えたのは一瞬で、3人のお茶を煎れ直すと身を引いて両手をついた。

「最初にキョーコちゃん、うちはあんたに詫びなあかん。ほんまにいらぬ気遣いや苦労をかけてしもた。堪忍え」

深々と頭を下げる女将に慌てたのはキョーコだ。

「そんな…頭を上げてください。私こそ黙って東京に行くだなんて、育てていただいたご恩に後ろ足で砂をかけるようなことを」
「そのこともやわ」

頭を上げながら女将は重い息を吐く。

「あの甲斐性無しのボケ息子の我儘に付き合ってくれたキョーコちゃんに、あんな苦労をさせたのはうちの責任やわ」
「え?いや、あれは私が勝手に」

ショータローを好きだからやったことです、とは後ろにいる大魔王様のイラツボを押すことになるので言えないが、あの時はそれでいいと思っていたのだから女将が責任をとることではない気がする。
すると女将はどっかの誰かみたいにダメ息を吐いた。

「あんな、キョーコちゃん。」
「は、はい!」
「15なんて、世間でゆうたら子供や。いくら義務教育終わったからゆうてそれを放りだすのは非常識や」
「は、はあ…」
「勿論、働かせる側も大人と同じ扱いはできへんよ。きちんとした会社なら尚更や」

だからショータローとキョーコが家出をしたその夜にはアカトキから連絡が入ったのだという。

「まあ、あちらさんにしてみたらボケ息子の家出ってのはあくまで既成事実が欲しかっただけや」

お宅の息子さんはここまで思いつめていらっしゃる。どうです。ここは少し様子を見ては?アカトキの総務部長はそう告げた。不破の両親にとってもここで連れ戻したところで同じことの繰り返しになるとは予想がつく。一度やらせてみよう。それでだめだったら諦めもつくというものだ。
そこで期限を決めた。3年。3年たってもボケ息子の言うスターとやらにならなければ京都に送り返してもらう。それと同時に求めたのが…

「高校は卒業させてくれ、そういう条件をつけたんや」

アカトキは承諾した。
ただ、ここで女将は重大な思い違いをしていた。

「その条件にはキョーコちゃんも含まれてると思うてた」

アカトキの総務部長が黙殺したわけではない。ショータローに兄妹同然の幼馴染の女の子がくっついているという情報が総務部長には上がっていなかったのだ。
勿論女将はキョーコの分まで高校の学費や生活費を事務所が負担するとは思っていなかった。それに2人で住むとなると寮に入る訳にはいかないだろう。そう思ってキョーコの母から渡されていた通帳を事務所あてに送ったのだという。
そこに毎月お金を振り込めばいい。そう考えたのだ。

「まさかボケ息子が一度家を出た以上もう一切関わりを持たないとかカッコつけて、荷物まで開けへんとは思いもよらんかったわ」

あの世間知らずのカッコつけが。女将は顔を引き攣らせながらつぶやく。
きっとキョーコはショータローのこまごまとした面倒を見ながら、高校生活を送っている。だからしばらくは静観しよう。そう思っていたのだが…

「あれよあれよという間にあの子が売れて…」

思い描いたのと違うことに戸惑いながらも息子が世間様に認められたことは少々嬉しい、そんな複雑な気持ちでいるうちに紅白出場が決まった。そうなるとキョーコは1人で大晦日を過ごすことになるのは確実だ。
京都に帰ってきても商売が商売だけにろくに相手もしてやれないが、それでも1人で過ごすよりはいいだろうし、キョーコの顔も見たい。そう思って手紙と共に新幹線のチケットを送ったのだ。
だが、暮れが近づいてきても何の音沙汰もない。帰ってこないにしてもあの律儀なキョーコの事だ連絡くらいよこすだろうに。そこで総務部長に連絡を入れて、初めてキョーコの存在を彼は知らないことを知った。おまけに送った郵便物がすべて未開封で事務所に保管されていることも。

「慌てたわ。正月のお客様が一段落したらすぐに邦子さんに東京に行ってもらったんや」
「く、邦子さんに」

松乃園の影の権力者ともいえる仲居頭に出動を願ったなんて

「どうやらボケ息子は実家の事は秘密にしてるみたいやし、ヘタに動いて週刊誌に妙なことでも書かれたらキョーコちゃんに傷がつくやないの。邦子さんなら上手く立ち回ってくれはるやろ?」

だが、邦子の調べでもショータローの傍にキョーコの影が無い。どうやら一緒に住んでいるのもマネージャーだというのだ。仕方なく贔屓筋から紹介してもらった探偵に依頼すると…

「あのボケ、キョーコちゃんに働かせてマンションの家賃も生活費もぜーんぶ払わせてたんやって?稼げるようになったらロクに寄り付きもせず…」
「お、女将さん?」
「金はあっても高校にも行かせず…若い女の子が髪振り乱すまで働かせるなんて…あの甲斐性無しめ…甲斐性無し…甲斐性無し!」
「お、女将さん、落ち着いてっ」

仁王化し始めた女将をなんとか宥めようとキョーコは慌てた。これでは松乃園の女将のブランドが地に堕ちる。チラリと後ろを振り返ると、社はうんうんと大きく頷いているし、蓮はなんだか悪い笑いを浮かべている。
そうしているうちに女将は少し落ち着いたようで、まだ息は荒いものの襟元を直し、頬を赤らめて取り乱したことを詫びた。

「キョーコちゃんにおうたらあれを詫びようこれを詫びようと思うてるうちに…見苦しいとこお見せしました。すんまへんどした」
「もういいですから。あ、女将さん、母は今…」

少し話題を変えようとポロリと零れた問いに、す、と女将の雰囲気が変わる。

「キョーコちゃん、今日時間もろたんはそのことや。冴菜はん…お母さんはあんたに会いたいゆうてるんや」
「お母さんが?」

もう幾度となく期待を裏切られてきたのに、女将の言葉に心に条件反射のように期待の火が灯る。その表情に気付いた女将は一瞬目を伏せた後、覚悟を決めたようにキョーコを見据えた

「これは…うちの口から言うべきやないかもしれんけど…」
「はい?」
「冴菜さんな」
「はい」
「結婚して…子供もおるんや」

状況が理解できず、キョーコははい?と間抜けな口調で問い返した。


(37に続く)
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コメント

Re: 衝撃!!

>ponkichibay様
いつも有難うございます。今年もご訪問いただけたら嬉しいです。
やはりキョーコちゃんの闇も乗り越えないと2人は歩き出せないかと
でも敦賀さんもヤッシーも傍にいても今の所ほとんど出番ありませんけど(笑)
松母はキョーコちゃんの育ての親同然ですからきちんとした方なんじゃないかと思うのですよ。

2015/01/12 (Mon) 16:31 | ちょび | 編集 | 返信

Re: ホっとしました。

>まみこ様
お返事遅くなりました。体調は無事回復しました。有難うございます。
あんなにキョーコちゃんをちゃんと育てた女将さんなのできちんとした方なんじゃないかな~と思うのですよ。
でもその後はどう思われたのかと私もドキドキです(笑)

2015/01/12 (Mon) 14:14 | ちょび | 編集 | 返信

衝撃!!

更新ありがとうございます。昨年に引き続き素敵なお話を楽しみにしています。

蓮様とヤッシーキョコさんのサポート体制ばっちりですね。
しかしここにきてきキョコさんに激震が!!
そばにいて正解でしたね蓮様。場合によってはキョコさんが闇に飲まれちゃいそうな事態?
結婚の時期がキョコさんが東京に行ってからの音信不通の時期ならまだ救われそうですが...
キョコさんこの先どんな試練が待ってるんでしょうね?ほどほどにお願いします←コラッ(笑)

次回更新が待ち遠しいです。あ、松の母がまとも(かなり素敵)な方で安心しました。

2015/01/08 (Thu) 14:19 | ponkichibay | 編集 | 返信

ホっとしました。

前振りに歪んだ妄想とあったので、辛い展開になるのかとビクビク、ドキドキしながら読みはじめましたが、女将さんが松を甲斐性無と罵っていたあたりで安心して読み進めることができました!
まさかの冴菜ママの妊娠。
続きが気になりますが、まだまだ寒い日が続くようなので体調を悪化させないよう無理はなさらないでください。

2015/01/07 (Wed) 22:04 | まみこ | 編集 | 返信

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