2015_01
03
(Sat)11:55

お年玉

明けましておめでとうございます!
思い付きを思いついたまま書いたのですが、勢いでアップです!
拍手コメントのお返事はちょっと時間がないので、後日必ず!

2015/1/3



■お年玉



『…敦賀です。会場に着いたら最上さんが熱で欠席って聞いて驚いて…こんな時間に電話してごめん。具合どう?最上さんはすぐ無理をしちゃうけど、今回はゆっくり休んで早く元気な顔を見せて。』

留守電のメッセージを聞いたのは、日付も変わってだいぶだったころ、喉が渇いて目が覚めたら携帯の着信に気が付いたのだ。
おかみさんが枕元に用意してくれていたお茶を飲んで、再び布団にもぐりこむともう一度メッセージを再生し、目を閉じる。
会場の隅っこででも電話しているのか、蓮の話し声の後ろからは楽しそうに笑う人々の声。

(新年会行きたかったなあ…)

社長が親しい人を呼んでの比較的小規模な新年会にキョーコはマリアに招待されたのだ。その日はまだ仕事も学校も休みなので2つ返事で出席することにした。都内でも有名なイタリアンのシェフとパティシェが料理とデザートを担当するのも楽しみだったし、何よりマリアから蓮も招待していると聞いて心が弾んだのだ。
もっともその日が仕事始めである蓮の到着は10時過ぎるらしいが、それでも会えることに代わりはない。小規模なパーティーなら話せる時間も多いかもしれない。
マリアに着物を一緒に着てほしいとせがまれて、振袖姿を見た蓮がくれる言葉を妄想して…それなのに前日から出た熱が下がらずまさかの欠席となってしまった。
インフルエンザではなかったが、身体が資本の人たちにうつすわけにはいかない。

短いメッセージが終わると、部屋には静寂が訪れた。
だるまや夫妻と暮らしているとはいえこんな時間だから仕方ない事なのに、熱の所為かなんだか人恋しい。
そのせいか思い出したくもない過去が思い出されてしまう。

*
*

旅館を営んでいたショータローの両親は忙しかった。当然休みという休みはなかなか取れなかったが、シーズンオフを狙って年に一度家族旅行に出かけることにしていて、キョーコも一緒に連れて行ってくれた。
それはいつもかまってやれない息子への罪滅ぼしもあったのだろう。1泊のこともあれば日帰りの年もあったが、不破夫妻の努力により毎年続けられていた。
ショータローとキョーコが中学1年の年、2月になったら淡路島に河豚を食べに行くのだと教えられたのは確か年の瀬の頃だ。

『ご贔屓さんのおすすめの宿でな。養殖やけど時間かけて育てた三年河豚がうまいらしいんや』

板長であるショータローの父の言葉にキョーコの心は浮きたった。
中学に入ってショータローとの距離は一気にひらいた。小学校時代から女の子にモテていたが、バンドを始めるようになってきらびやかな女の子に常に囲まれるようになって、キョーコと話をしてくれることも外では皆無といっていい。
だが、その女の子たちも旅行にまではついてこない。2日間昔のように過ごせるのだ。
チラリ、とキョーコとは少し離れて座っている幼馴染を見る。
心配なのは、ショータローが両親の事を疎ましく思っていることだ。家族旅行になんてついてきてくれないかもしれない。
しかしそれは杞憂だったようで、元々舌の肥えてる彼は河豚という少し大人なグルメがツボに入ったらしい。めんどくさそうにしながらも2月の土日は空けておくことを承諾していた。

キョーコは指折り数えてその日を待った。
だが、旅行当日トラブルは起こる。インフルエンザが流行しているのか仲居の休みが相次いだのだ。

「あかん、こんな状態ではうちはいかれへんわ。あんたらだけで行っておいで」

聞いている傍から電話が鳴り。また仲居の休みを知らせ、女将がため息をついて頭を抱えた。
キョーコは唇をかんで、つまらなそうにあくびをするショータローをちらりと見た後申し出た。

「あ、あの…私も残ってお手伝いします」
「え?なにゆうてるん。キョーコちゃん、あんたは行っておいで」
「今の電話、江藤さんですよね?」

キョーコの言葉の意味することに女将は口ごもる。ただでさえ人が減っているところにベテランの休みはこたえる。どこからかヘルプを呼んだところで、それをうまく指示してくれる者が現場にいなくてはならないのだ。キョーコは中学生とはいえベテランの域に近かった。

「ごめんなあ、キョーコちゃん」

キョーコは笑って首を振った。もともと自分は家族ではないのにご相伴にあずかっていただけなのだ。
板長は旅行自体をキャンセルにすると言い張ったが、勿体ないから2人でいっておいでと女将に諭され渋々腰を上げた。
それを見てショータローは「やっと結論でたのかよ。」と立ち上がった。

そして月曜日

「ショー、土日何してたの~?いつもの店こなかったじゃん」
「わりぃわりぃ。親父に付き合って河豚喰いに遠出してたんだよ」
「えー。いいなあ。老舗旅館のおうちが食べる河豚なんてチョー美味しそう」

教室の片隅でショータローの河豚自慢を聞きながら、キョーコはいいようのない想いに囚われていた。

元々家族でもないのにつれて行ってもらっていた旅行なのに、女将はキョーコにひどく気を使って、あの日は「出来立てやのうて温め直しでごめんなあ。でも2人の宴会や」そう言ってお客様と同じ料理を晩御飯に用意してくれた。
日曜に帰ってきた板長は「儂らだけ、旨いもん食べてのんびりしてきて悪かったな」そうキョーコにも謝ってくれた。
それで十分なはずだ。それなのに。

その言葉をショータローに言って欲しかったなんて思ってしまったのだ。
キョーコはそんなこと思ってはいけないのに。

*
*

一度思い出すと、何度も何度もその時の想いが甦りうなされたが、もともと体力はあるほうだ。翌朝になると微熱になり、更にその翌日からはキョーコも予定通り仕事始めとなった。
無事新年初日の仕事を終え、ラブミー部の部室に帰ってきたキョーコが一息着こうとお茶を入れかけた時、ドアがノックされる。

「つ、敦賀さん!新年あけましておめでとうございます!]
「ああ、そういえば直接会うのは今年初めてだね。あけましておめでとう。体調はどう?」
「ただの風邪だったみたいです。もうすっかり」

ぐるんぐるんと腕を回すキョーコをみて蓮はクスクス笑う。

「そう…あんまり無理しないでね。パーティで聞いた時は心配したんだよ」

その言葉にあの夜胸に甦った想いがまたこみ上げてきそうで、キョーコは殊更明るく言った。

「パーティ行けなくて本当に残念でした。お料理やデザート楽しみだったんですよ。デザート、は敦賀さんは食べてないでしょうけど、お料理はどうでした?」

明るく。明るく。
ふてくされたり、すねたりしてるように見えないように
重く昏くならないような尋ね方で
ほら、ずーっとキョーコがやってきた演技だ。慣れっこだ。


うーん、と蓮はあの日の記憶を引っ張り出しているようだった。

「うん。確かに一流とされる人だけあって美味しかったよ」
「…本当に食べました?」
「食べたよ。本当に美味しかったよ。でも…」

蓮は少し首をかしげて優しく微笑んだ

「美味しかったから最上さんにも食べて欲しかったな」

明るく軽く、長年染みついたはずの笑顔が固まった。

「一緒に食べたらもっと美味しかったと思うし」

ぽろりっ
キョーコの眼から涙が零れ落ちる

そうか

あの時のキョーコは言って欲しかったのだ。
ショータローに、大切な人に、
キョーコも一緒にいて欲しかったと、そう言って欲しかったのだ。

美味しいものを食べるときに、楽しい時間に、幸せな瞬間に
キョーコにいて欲しい。
そう言ってもらえる存在になりたかったのだ。


ぼろぼろぼろぼろ…

溢れ出る涙に蓮が慌てる

「え?え?最上さん?なんで泣く?そんなに食べたかった?」
「こ、こへは涙じゃあひましぇん!膿です!」

そう、膿だ。
過去の押さえつけていた想いが膿みたいに溜まっていたのだ。

「いや、だって泣いてるし」

敦賀蓮にあるまじき動揺を見せている先輩はわたわたとハンカチを取り出したり、キョーコの頭を撫ぜたりと忙しい。

「新年会は終わっちゃったけど…じゃあ、今度あのシェフのレストランに2人で行こう?」
「ふぇ?」

今、なんと蓮は言ったか?

「え?だから今度…2人で」

あのシェフの…もごもごと先輩は続ける。
2人で一流レストランで食事…まるでデートみたいだ。神様のくれたお年玉かもしれない
お年玉なんだから…もらってしまってもいいかもしれない。

「じゃあ…今度お願いします」
「え?いいの?本当に?2人だよ?」

指でVサインを作りながら蓮はしつこく確認してくる。
その妙に動揺した姿が面白くて、笑いながら大きく頷くと、蓮は安心したような顔をした。

「じゃあ、約束だよ。最上さん」

そういって微笑む蓮の顔は本当に嬉しそうで、嬉しそうで…


その笑顔こそお年玉かもしれないとキョーコは思った。


(おしまい)




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コメント

Re: お年玉ゲット!

>カレーリーフ様
明けましておめでとうございます。
敦賀さんにとって何よりのお年玉になっちゃいましたね

2015/01/06 (Tue) 22:44 | ちょび | 編集 | 返信

お年玉ゲット!

キョーコさんの心の澱が涙とともにほろほろと溶けていく新年のお話、清々しく嬉しく読ませていただきました。蓮様も、棚ぼたでデート権獲得ですね!  

2015/01/03 (Sat) 21:06 | カレーリーフ | 編集 | 返信

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