2014_03
10
(Mon)00:21

X-DAY(後編)

2014/2初稿、2014/11/12一部修正





「親の名前で得しているな」

それは幼いころから大嫌いだった言葉の一つ。




■X-DAY(後編)



蓮は自分の顔が強張るのを自覚した。

自分と同じように父の陰に苦しんだ緒方から、まさかこんな言葉が出るなんて。
座っている自分の足元が揺らぐような気がする。

ふわり
膝にキョーコの手が置かれる。“大丈夫”とささやくように込められる熱。

「ほんと、得ですよぉ。」

緒方はささ身をつついていた箸を握りしめ、顔を紅潮させ続けた。

「人種関係なく演じられますよね。日本人がやったら変だからって原作変える必要がないんですよ!」

はっ?と蓮は目を見開いた。

「だよな~。コミュニケーション困らなくて、演技力あって、時間は守るし、現場としては助かるねえ。お得だわ」
「いや、人種関係なくってのは無理があるんじゃないかな~?」
「確かにアフリカ系とかは顏的に無理だよな・・・。やべっ螺髪姿の蓮を想像しちまった。マジ笑える~」

ラハツ?なんだそれ?蓮の頭はクエスチョンマークでいっぱいだが、まさかこの場で携帯で検索するわけにはいかない。
いえいえ新開監督。それは仏様です。とつぶやくキョーコの声が横から聞こえる。

「やろうと思えば一人2役だって…」
「東洋人と白人の一人2役?どういう設定だよ?」
「ドッペルゲンガー?」
「それはちょっと幅が狭すぎるねえ」


「変身ヒーローものだ!」

黒崎が串を振りかざす。

「ほら、よく変身すると髪色とか変わるだろ?」

「…」
「… …」
「…」
「…なんかエロいな。蓮の変身ヒーロー姿」
「ですねえ。『悪い子にはお仕置きだ』とか言っちゃったら…よい子には見せられません」
「しかも微妙に正義の味方じゃない気がするよね」
「いっそ、ターゲットを女性に絞ったらいいんじゃねえか?」
「お色気全開!」
「深夜だ。深夜枠だよ。緒方っ」
「え~。テレビの電波に乗せれる程度のお色気に押さえられますかねえ」

緒方監督、貴方、何撮る気ですか!?

蓮が叫ぶより早く追加の酒が届けられた。
一気に関心が酒に移り、やれ俺の酒だ。酌をさせろと騒ぎ出す酔っ払いたち。

どうやら話題が変わったことにホッとして、蓮は隣のキョーコを見た。
顔が赤い。どうやら必死に笑いをこらえていたらしい。

「…素直に笑ったら?」
「いやいや滅相もない!」

ぶんぶんと頭を振るキョーコをジト目で見ながら、蓮も2杯目のグラスに口をつけた。
するとグラスを片手に近衛が近づいてきた。

「敦賀君、アカデミー賞おめでとう」
「ありがとうございます」
「ショーの後の会見も見たよ」
「ご報告が遅れた上に、お騒がせしてすいません」

蓮は頭を下げた。

「いや、それはいいんだけどね」

グラスの中は焼酎のロックか、近衛は両手で包み込む。

「ジュリエラ・ヒズリの息子ってのはショックだったな」


一気に口の中がカサカサになる感覚
さっきまでの喧騒がすっかり収まり、みんながこちらを見ている。

「ジュリは僕の青春だったのに!」


はっ?


「気高く、美しく、まさしく女神!」
「わかりますよ!“愛の囁き”のジュリはまさしく女神でした!」
「それでいて、かわいらしい!“月夜のダンス”では純粋無垢の天使そのものだった!」
「“彼女にご用心”の妖艶さが俺にはたまらなかったね!」

「「「「いつかジュリを撮りたかったのに!」」」」

「まさか息子を先に撮るなんて…、僕の青春は過去のものってことですかね?」
「わかる。わかるよ。近衛さん。」
「っていうかさ」

蓮に向けられる酔っ払いたちの目。

「ジュリのあの華奢な身体からこんなデカイの出てくるなんて・・・」

ぷっ
キョーコが噴き出すのを必死にこらえている。

(どうせ、俺が赤ん坊姿で母さんに抱っこされてる姿とか想像したんだろ)


もうどうにでもなれ、と蓮は酔っ払いたちによる“我が永遠の恋人ジュリエラ論”に2時間付き合ったのだった。


**************



「敦賀さん、敦賀さん。そろそろ起きてください」

キョーコがベットに腰かけて蓮を揺さぶる

「…頭痛い。」
「ヤサグレて飲みすぎるからですよ。自業自得です」
「息子にとってはかなりの拷問だったんだよ…。なんか悩んで損した気分。」

すごいじゃないですか、とキョーコはクスクス笑う。

「出自がどうした?全然関係ないね。って皆さんで背中押してくださったように感じましたよ」
「…キョーコは俺を浮上させるのがうまいよね」

寝返りして枕に顔をうずめる。
時々心臓に悪かったけど、馬鹿バカしくも勢いのある会話達。「何しけた顔してんだよ」と蓮の心配を吹き飛ばしてくれた。


わかっているようでわかってなかったこと。
自分を信じるだけじゃない。彼らを信じること。
こちらにきてからの月日はこんなに大事なものを育てていた。


そう思うと
嬉しくて、
なんだか涙が出そうで

こんな顏キョーコにみられるわけにはいかない。


「名前で呼んでくれたら起きる」

はいはい、とキョーコも子供扱いだ。

「どっちですか?」
「今日は敦賀蓮であいさつ回りと会見だよ」

わかりました

「蓮さん、起きてください、蓮さん」

蓮はのっそり起き上がると、キョーコにキスをして部屋からでた。

「朝ご飯、シャケ?」
「正解!シジミのお味噌汁もありますよ~。それに今晩はおでんです!」
「おでんは前食べた生姜醤油つけるやつ。あれがいいな」
「了解です!」


ささいなことを話しながら廊下を歩く。

キョーコが笑う。
蓮も笑う。

傍にいて、時には引き上げてくれる大事な人がいて
支え、時に背中を押してくれる人達がいる。


そう思ったら、負けない気がする

たとえどんな日がきたとしても



(fin)
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コメント

5. Re:またコレもいい~~♪

>みやさん
大事な人と大事な仲間に出会えたらどんなX-DAYがきても敦賀さんは大丈夫と思っています。
有難うございます。

2014/08/05 (Tue) 00:31 | ちょび | 編集 | 返信

4. またコレもいい~~♪

偽っていたという引け目からでしょうが、仕事に対する真摯な姿勢はカメラを通して人の内面を表現しようとする監督さん達には、名前や親が誰かは関係無いのですね。
仕事の付き合いではなく、素敵な友人っていう様子が十分伝わって来ました。


本誌でも思っていましたが、意外と自分自身に自信の無い蓮クン。
キョコさんが本人以上に蓮クンを知り尽くしている様が、とても暖かく感じました。

本当に幸せそう♪

2014/08/04 (Mon) 13:54 | みや | 編集 | 返信

3. 酔っぱらい監督・・

お得って、そっちですかぁ。と、ほっとしました。
でも、キョーコちゃんいないと蓮さんは、グラグラしちゃうんですね。
演技以外の要素を自分に認めてない潔癖さが、蓮さんの魅力と思うんですけど、ヘタレ要素でもあると、改めて感じました。
また、このぐだぐだ酔っぱらい監督達にお会いしたいです~

2014/03/09 (Sun) 10:54 | moka | 編集 | 返信

2. Re:お話は今度ゆっくり読ませていただきますね。

>seiさん 有難うございます。魔人さんのところで書かれてたのこれなんですね!削除しました!

2014/03/08 (Sat) 22:19 | ちょび | 編集 | 返信

1. お話は今度ゆっくり読ませていただきますね。

まもなく1カ月のコメント欄の「アメンバー申請していいですか?メッセージの受信設定してないのでメールしてもらえるとうれしいですo(^◇^)oメールまってますね(^-^)」は、スルーして削除してくださいね。

詳しくは魔人ブログの下記記事をご確認ください。
★返事ください!?◯◯アピール危険コメント多発!(限定)

以前にも同じような注意コメント入れていたらごめんなさい。m(_ _ )m

2014/03/08 (Sat) 21:00 | sei | 編集 | 返信

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