2015_01
23
(Fri)11:55

1歩いっぽ(41)

皆様、本誌はお読みになったのでしょうか?
ちょびはコミック派なのですが、表紙は拝見しましたよ~
大人の色気満載…って感じですがまだ21歳なんですよね(笑)

■1歩いっぽ(41) ~私があげられるもの~




キョーコが目覚めると時計は8時を回っていた。
身を起こすと身体の傍にジェル状のシートが転がっている。どうやらキョーコが眠った後、腫れぼったい目元を冷やしてくれたらしい。

(持ってた袋にこれが入ってたんだ)

用意周到。きっと社の手配だろう。
座敷の方をみると、座卓の上に昨夜は無かったメモが置いてある。布団のぬくもりは恋しいが立ち上がりメモを手に取った。旅館備え付けの用紙に蓮が書いたものらしい。

“最上さん おはよう。よく眠れた?俺は最高の抱き枕のお蔭でぐっすり眠れたよ。お握りは社さんがいただくね。東京で待ってる。 蓮”

(だっ抱き枕!?)

抱き枕なんて置いてないのだからそれはつまりキョーコの事で、ここで眼が覚めたということは…心拍数が跳ね上がり、さっきまで己が寝ていた布団を振り返る。
少し乱れた布団がなんだか妙に艶めかしい。

(いや、私が寝ちゃったから…一緒に、ただ寝ただけ!た・だ!寝ただけよ!)

そこでふと思い至る。蓮がここで寝たということは…彼の部屋に敷いてあったはずの布団は使われていないわけで…

(やだ!ばれちゃう!一緒に寝たって…いや寝ただけだけど…バレちゃう!)

蓮はもうとっくに宿を出たはずだ。まあたとえ居たとしても「カモフラージュに布団乱しといてください」なんて頼めはしないが…。
1人ワタワタしていると呼び鈴がなった。

「キョーコちゃん、おはようさんどす。よぉ眠れましたかいな?」
「お、女将さん!そ、それは勿論です!」
「敦賀様は朝イチの新幹線で移動やって5時頃出ていきはったよ。お忙しいんやねえ」
「ソウナンデスカ」

蓮の紡ぐ言葉を子守唄代わりに寝てしまったということは、キョーコより遅く寝たはずで…先に出ること分かっていたのに眠りこけて挨拶もしなかった自分が申し訳なくて仕方ない。

「キョーコちゃん、朝ご飯は下どしたな?」
「はい!お食事処でお願いしています」
「ほな、ちゃんと戸締りしてからおいでやす」

チャリンと渡されたのはこの部屋の鍵。どういうことか分からずそれを見ていると、

「朝ご挨拶した時にシレッと渡されたわ。」
「うぇっ?」

確かにこの部屋はオートロックではない。蓮が出て行こうと思ったら鍵がいる訳で…ぐるぐると考えているうちに女将の視線が奥の方を向き焦りに焦る。

「してません!破廉恥なことなんてまだしてませんから!」
「まだ?」

にこりと首をかしげる笑顔が恐ろしい。蓮の名誉の為にも弁解したいが、何と言っても蓮本人の希望もあってこれから先は無いとは言えない。
真っ赤なままでシドロモドロになっているキョーコを暫く観察した後女将は「まあ、今日の所はよしとしまひょ」とつぶやくと話題を変えた。

「キョーコちゃんのこれからの予定はなんえ?」
「今日はお休みいただいているので…お昼から太秦の撮影所で仕事しているお友達と会って帰ろうかと」

奏江は時代劇の撮影で京都にいるのだ。

「ほな時間はありますな。チェックアウト終わったら松の間で待ってもらえるやろか?」

そう告げると女将は部屋から出て行った。


*
*

松の間…昨日話をきいたあの部屋にキョーコは再び通された。
女将は暫くかかるからと出された茶菓子は白玉と餡子がのった抹茶のゼリー

(うわ~私の好きなお菓子覚えててくれたんだ。)

京都では河原町の百貨店でしか手に入らないこのお菓子を、買いに走らせてくれたのだろうか?
ふにふにと笑いながら、お菓子を堪能し終わった頃女将はやってきた。
暫くは映画の事や、それ以外の仕事や学校についての報告をする。面白おかしくキョーコが語るそれを笑いながら聞いていた女将はポツリと告げた。

「堪忍な。キョーコちゃん」

キョーコは怪訝な顔で女将をみた。馬鹿ショーの事なら昨日頭を下げてもらった。いったい何のことだろう。

「ゆうたら良かったわ。あんたは私の娘やって。たとえ本物のお母さんがおっても、籍の上では他人でも、それでもあんたは私の娘やってゆうたら良かった。」
「女将さん…」
「冴菜はんが…冴菜がおるんやからって遠慮せずに、そんなん関係ないって抱きしめればよかった」

それが言えないばっかりに遠慮した。あんまり母親面するようなことはできない。お客さんなんだからとどこかでブレーキをかけた。

「それがかえって中途半端でキョーコちゃんも松太郎も傷つけたわ。」

兄妹ならそれぞれのいいところを褒めてやって、時にはきつく叱って…そうやっていただろう。
なのに片方はお客様だった。叱るときは少しやんわりと、褒めるときはちょっと大げさになった。
それがずっと続くことで、ショータローへの申し訳ない気持ちも産まれて、妙なところで甘くなった。

「誕生日のことだってそうや。やっぱり誕生日当日は本物の家族で祝う方がええ思て…」

年末の忙しい時期だ。女将のスケジュールは前々から決めておかなければならなかった。キョーコの誕生日当日は流石に冴菜も一緒に過ごすだろう、そう最初のうちは思っていたのだ。
だが、冴菜は再三女将が説き伏せても仕事の忙しさを理由に来なかった。

「それが当たり前のことになったらなったで、松太郎に遠慮してしもた」

いつも旅館の仕事で行事という行事を一緒に過ごしてやれない。せめて子供にとっての大イベントであるクリスマスイブ位という気持ちが女将にもあったし、キョーコの誕生日はイブに一緒に祝うという前例を覆してまでというのは言い出しにくくなっていた。

「キョーコちゃんもうちの娘や!そういって25日にお祝いすればよかったわ。ショータローが文句言うなら…一年ごとに交代でもよかったかもしれんなあ」

いくらでも方法はあったのに。
妙な建前に振り回されて、中途半端に子供たちに接してしまったと女将は肩を落とす。

(そんな色んな事考えてくれてたんだ…)

小さい頃、色々と自分を納得させていた少し寂しい誕生日。でもそこに至るには沢山の想いがあったのだ。
今回始めて知った沢山の事。それは哀しいことばかりではない。

「女将さん…私ね。言われたことあるんです。『着物姿が様になってるとか、作法が自然だ』とか…仕事に対する姿勢を褒められたこともあります。それは全部女将さんに教わったことですよ」

女将に育てられた日々が今のキョーコの一部になっている。力になっている。

「…私も楽しかったわ。息子だけでは楽しめん子育てさせてもらえた。お雛さんも、七五三も、お買い物もキョーコちゃんがいたら何倍も楽しかったわ。お箸ひとつ買うんやって女の子のモノ買うのはウキウキしてなあ」
「はい…」
「京都のお母さん。位な気持ちでいてもええやろか?」
「勿論です!」

ぐすぐすと鼻をすすっていた女将がほんなら…と続ける。

「今度、お洒落して宝塚一緒に行ってくれるか?娘と行くのが夢やったんえ」

キョーコは思い出した。
中学3年の頃、女将に言われたことがある。「高校無事合格したらお洒落して宝塚一緒に行こな」と
きっとあの頃も、いやその前からずっとずっと…

「それなら…豪華なドレス着たお姫様が出てくるやつがいいです」

もらえなかった愛。
見えてなかった愛。

涙がこぼしながら伝えたリクエストに、ええ席とっとくわ。そう言って女将も涙をこぼしながら笑った。


*
*

東京に帰ったキョーコは仕事と学校の合間に色んな人と話をした。
社長と、弁護士と、だるまやの夫妻と、蓮と…

『決めたんだ?』

そう優しく聞いてくれる電話の声は、海外からで少し遠い。

「はい。」
『そう…いつ?』
「年明けすぐ…撮影が始まる前に」

母と会って話をしよう。そう決めた。


(41に続く)
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Re: はじめまして

>m○○○○ko様
はじめまして!拍手コメントに続きこちらにも有難うございます!(そちらへのお返事も明日には…必ず!)
何度も読んでくださって嬉しいです。何より受け入れられるか不安な話だったので…
駄文ばかりですか、どうかこれからも訪問してやってください。

2015/01/26 (Mon) 14:16 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2015/01/26 (Mon) 12:16 | # | | 編集 | 返信

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