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1歩いっぽ(42) 

2015, 01. 27 (Tue) 11:55

…なんていうか…同じ話を続けて書くって疲れるものですね。
皆様飽きたりしませんか?もう少しですので辛抱してくださーい。

30話超の長編を何本もスラスラ書ける方って…いやきっとスラスラじゃなくて凄く大変なんでしょうけど…本当に凄いと思います。


今回も色々…偏っておりますよ。
何度も言いますが、こんな妄想する奴もいるんだなというお心広い方のみどうぞ


年が明けて松の内も終わった、底冷えのする冬の日。

「じゃあ…次の間にいるけど…本当に俺ついてなくて大丈夫?」
「次の間にいてくださるだけで心強いですから」
「蓮、大丈夫だよ。何かあったときは俺がサポートするし」

キョーコの傍から離れることにまだ納得がいってない様子の蓮を次の間に押し込み、松の間へと向かう。
そこに何年かぶりに会う母が待っている。



■1歩いっぽ(42) ~私があげられるもの~



母は“絶対”だった。

母が認める価値が“絶対”。母が下す評価が“絶対”
母をいつも見上げて、縋り、背を向けて歩いていく背中を追いかけていた。

だが、向かいに座る冴菜を改めてみると“普通”だった。
座っているので判断つきかねるがもしかしたら背はキョーコより少し低いかもしれない。母の戦闘服と言えるダークカラーのスーツが今は俯きがちな顔の色を少し悪く見せて、見たこともない落ち着きのない目が頼りなげに見える。

(普通の…女の人だったんだ)

幼い日のキョーコにとって絶対的な神ともいえる存在だったのに。
キョーコは冴菜の後方に控えるメガネ姿の男性に目をやった。

「栗原さんですか?」

冴菜の肩が小さく揺れる。栗原が小さく頷き、何か話そうとするのを眼で制した。

「今日は母と話をさせてください。」

栗原が再び頷くと、視線を母に戻す。

「お母さん、だいたいの話は女将さんから窺いました。栗原さんと…優菜ちゃんのことも」

また肩が揺れたが、事前に女将から説明を受けていたのだろう。冴菜は頷いた。

「あなたには…」
「優菜ちゃんの姿も車中からですけど…見せてもらいました」

俯きがちだった母の顔がガバッとあげられ、キョーコと目があった。

「見たの?…あの子は…あの子は何にも悪くないのよっ」

絞り出すように告げた言葉と怯えた眼。それはキョーコに非情に教えてくれる。
母はキョーコが怖いのだと。キョーコの母への怒りが、なんの力も持たない幼子へ向けられるのではないかと恐怖に怯えているのだと。

(お母さん…なんだ)

キョーコの母だったこの人は、優菜というあの幼子のお母さんなのだ。
きっとあの子を守るためなら、どんなことでも厭わない。自分が傷ついたって構わない。
誰を敵に回しても…それがたとえキョーコでも…あの子を守り抜こうと決めた“お母さん”なのだ。

(痛い…)

胸が痛い。キョーコの中の幼いキョーコが悲鳴をあげている。
だけど…だけど…
キョーコの隣に座る女将を、後方に控える社を、東京で心配しているであろう人々を、そして何より次の間にいる蓮を想う。
小さく息を吐き、覚悟を決めた。

「一度姿を見てみたかっただけですよ。」

そう告げて薄く笑う。たいして関心が無いように。

「今日は1つだけお願いがあってこの場を設けていただいたんです。」

固唾を飲んで次の言葉を待っている母に、殊更事務的に告げた。

「私と縁を切ってください。成人までの養子先ならもう見つけてありますから」
「え…」
「弁護士のお母さんには言うまでもないでしょうが、15歳を過ぎたら未成年でも養子縁組は可能なのでしょう?お世話になっている下宿先のご夫婦が養父母になることを承諾してくれました。私は女優京子として自分の仕事に専念できる環境を得たいんです。妙なスキャンダルはごめんですし…」

くすり、酷薄に笑って見せる。
芸能人としての生活に染まって、家族とのしがらみなんて不要になった…そんな生意気な小娘にちゃんと見えているだろうか?

「縁、切ってくれますよね?」

振り向いてくれない母を想って泣いていたあの日々、代わりの居場所を見つけたくて尽くしたあの日々
あの日々があって、そこから続いた道を辿って今の自分がある。
演技という夢中になれ高みを目指したいと願える仕事を見つけ、沢山の優しい人々に囲まれた。
この人とずっと一緒に歩いていきたい。互いにそう思う人に出会えた。

幸せだ。そう思う。

だけど胸の奥の小さなキョーコはまだ泣いている
どうして、どうして?と泣いている。

だから言えない。
産んでくれてありがとう、も
もういいんだよ、とも

(お母さん…まだ感謝も許しも寛容も…あげられない)

だから1つだけ

自由を

キョーコという呪縛の鎖から逃れて、あの幼子のお母さんになる自由をあげると決めたのだ。



長い長い沈黙

「…貴方が望むなら…」

小さく零れた言葉に笑みを深くして、キョーコは言った。

「商談成立ですね」


後日事務所の弁護士と話をしてください、そう告げてキョーコは席を立った。
次の間から出て待ってくれていた蓮の顔を見ると涙腺が緩む

(まだ。まだ駄目だ)

少し足早に廊下を抜けて、庭を目指した。
視界がにじんで、段々足元がおぼつかなくなった頃、後ろから歩いていた蓮に腕を掴まれた

「ここならもう大丈夫だよ。最上さん」

ほらコート着ないと風邪ひいちゃうよ。そういって腕にかけたままにしていたコートに着せられる。

「敦賀ひゃん…」
「何?」
「親捨ての不幸者になってしまいました…」
「うん。頑張ったね」

くしゅくしゅと頭を撫ぜるその手はとても優しい。

許してあげられない、認めてもあげられないけれど、自由にさせてあげたい。
結論とはとても言えないキョーコの考えを、社長達大人は辛抱強く聞き出しくれ、弁護士の先生を交えて沢山の知識をくれた。
成人までの1年間養父母になってくれと頼んだだるまやの夫妻には「もうとっくに娘同然だと思ってたのに、1年で終わりにするつもりか」と怒られた。

「俺の好きな最上さんはお人よしだね」
「そんなことないです。…溝を深めただけかもしれません」
「いいんじゃないかな?もっと時間がたったら違う答えが見つかるかもしれないし、今は誰もが思う正解なんて出さなくても」
「そういう日…きますかね?」

10年後20年後今とは違った目で母をその家族を見ることができるだろうか?
産んでくれてありがとうと言える日がくるだろうか?

「まずは最上さんが沢山幸せになって、それから考えたらいいじゃないかな?」
「これ以上…ですか?」
「うん。お手伝いしますよ?御嬢さん」
「…この天然タラシ」

王子かなにかのように胸に手を当てて囁かれ、ジト目でいうと蓮は笑い、さあ部屋に入ろうとキョーコを促した。

その時、聞こえた。
調子外れの、でも聞き覚えのある曲

「あれ?これ…」
「私が出てた朝ドラのテーマ曲ですよね」

キョーコがお嬢様役で出ていた朝ドラはもう昨年の9月で放送は終わっている。大ヒットしたから今歌っていてもおかしくはないのだが、それでも少し懐かしさを覚えながら歩くと、サビの部分だけをリフレインしていた声の主と遭遇した。

「…っ」

庭を歌いながら探検していたのは、母によく似た女の子。
両親が来ているのだ。連れてきていたっておかしくはない。

「こんにちは」
「こんにちは」
「今歌っていたの。ドラマの歌だよね。上手だね」

うん!と得意げに頷いて、綺麗な黒髪が揺れる。

「ママがねー好きなの。DVDよく見てるから優菜覚えちゃったんだ」
「…そうなんだ」

見ていてくれたのだろうか?
新しい家族との幸せを守るだけではなく、キョーコの事も心の片隅にでも気にかけてくれただろうか?
ただドラマの内容が気に入っただけかもしれない。クライアントとの話題作りかもしれない。
でも、今はこれで十分だ。

遠くで優菜を探す仲居の声がする。

「ほら、お母さんが心配するよ?もどらないと」

恐る恐る撫でた髪は艶やかで柔らかかった。

「うん!」

無邪気に笑って、くるりと背を向けると来た道を戻っていく。母のもとへと戻っていく。
姿が見えなくなると、小さく息を吐いて肩の力を抜いた。

なでなで…

また頭を撫でられる

「…お子様扱いしないでください」
「してないよ。俺はお子様には邪な下心は抱きません」
「真昼間から何言ってるんですか」

頭を撫でられるまま振り向くと、乱れた髪を蓮が直してくれた

「…敦賀さん」
「ん?」
「有難うございます。」
「うん」
「もう一つ…お願いがあるんです」



(43へ続く)






やっと、やっと終わる~。後2回です。
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コメント

ちょび

Re: ほっこり(*^▽^*)

> ゆうぼうず様
キョーコちゃんの優しさを読み取っていただけてよかったです。
敦賀さんは一杯甘えて欲しいでしょうね(笑)

2015/02/02 (Mon) 21:11 | ちょび | 編集 | 返信

ゆうぼうず

ほっこり(*^▽^*)

キョコたんの優しさで心がほっこり温かくなりました(´Д`*)
蓮にいっぱい甘やかされればいいよぉ(^.^)

2015/01/29 (Thu) 12:11 | ゆうぼうず | 編集 | 返信

ちょび

Re: よかった~。よかったよぉ~!

>まみこ様
ありがとうございます!
本当に神でも仏でもないんですから、すぐに許せないことがあってもいいんじゃないかと思うのですよ。
時間をかけて出る答えでいいのかなあと思ったり。
正直いつも読んでくださる方でも受け入れていただけるのか自信がなかったので、コメント本当に嬉しいです!有難うございます。

2015/01/28 (Wed) 00:44 | ちょび | 編集 | 返信

ちょび

Re: タイトルなし

>ha□□□□no様
とても丁寧なコメント有難うございます。嬉しいです。
とても心情を丁寧に読んでくださって…有り難いです。
すぐ許してあげないさいって言うのは酷な話でしょうし、上辺だけのモノになっちゃうかと思ったりします。
キョーコちゃんが完全な社会人になったり、お母さんになったり…その時々でゆっくり消化していけばいいんじゃないかと…。
後もう少しとなりましたが最後までお付き合いください!

2015/01/28 (Wed) 00:34 | ちょび | 編集 | 返信

まみこ

よかった~。よかったよぉ~!

キョコたんの頑張りに読み終わって泣きました。

聖人君子じゃないんだから許せなくたってしょうがないですよね。

キョコたんは許せないと言いながら自分からの解放を選んでいたけれど、とても辛かったと思います。

最後の優菜ちゃんの言葉が救いですね。

キョコたんの心が少しでも救われたことがとても嬉しいです。本当によかった~。

2015/01/27 (Tue) 21:57 | まみこ | 編集 | 返信

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2015/01/27 (Tue) 17:36 | | 編集 | 返信

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