2015_01
30
(Fri)11:55

1歩いっぽ(43)

うーん難産でした!

2015/1/30

「よーし、次のシーン行くぞぉ、京子いいかぁ?」

新開の声を背に、蓮が足早に控室が用意されているビルに入ると、丁度エレベーターから社が降りてきたところだった。

「お、思ってたより早かったな。ほら、こっちのタオルと交換しろよ。」
「ありがとうございます。流石に寒いですね」
「当たり前だ。真冬の京都でずぶ濡れになったんだから。」

部屋に入るとエアコンの温度がMaxまであげられ、どこから調達したのか灯油ストーブの前には着替えが暖められている。

「流石ですね。有難うございます」
「礼はいいから着替えた。着替えた。しっかり拭けよ」

蓮が頷いて濡れた服を着替えはじめるのを確認すると、社はジャケットを脱いだ。濡れていない者にとってはサウナのようだ。

「なんかキョーコちゃん、また上手くなったなあ」
「そうですね。俺も時々引っ張られそうになるときありますよ」
「先輩として負けるなよー。でも本当にいい演技だよ。やっぱ色々吹っ切れたからかな」
「そうかもしれません」
「結局、養子ってことにはならない感じなんだろ?」
「ええ、成人まであと1年ありませんからね。20歳まで待ってから分籍という形に落ち着きそうですよ」

あの対面以降は事務所の弁護士と、冴菜の代理人である栗原が話をしていた。

「慌てて養子に入ってマスコミに勘繰られたりするより、表面上は自然じゃないかって」
「そうだよなー。芸名があるけど学校では本名だもんな。もうすぐ卒業だけど同じ芸能クラスの生徒は苗字覚えているだろうし」
「まあ、自分で養子縁組をするって話自体、最上さんにとっては決意表明みたいなものですから。だるまやのご夫妻もどちらにしろ娘であることに代わりはないって言ってくれてるみたいですし」
「うん。…頑張ったよな。キョーコちゃん」
「最上さんは1人じゃありませんからね」
「そうだよなあ。キョーコちゃんのサポーターは沢山いるもんな」

そこまで言って、社はニタニタと笑った。

「ま、こちらのサポーターさんはいまだに彼氏の座ゲットできてないけどな」
「…別にいいじゃないですか」
「頑張ったキョーコちゃんを励まして、うまくまとまるって思ったのに」

そう。あの日キョーコが告げたのは『撮影が終わるまで返事を待って欲しい』だったのだ。

「最上さんにとっては初めての映画でしかもヒロインですから。集中したいってのは無理もないと思いますよ」
「その結果、2年も待たされてる男は人参ぶら下げられて走り続けるってわけだ。せっかく共演してるのに、大変だねー」
「いいんですよ。…その方が俺にとっても」

少し赤くなってプイッと顔をそむけた担当俳優を暫し見つめた後、社はさらに笑みを深める。

「れーん。さては理性を保つ自信がないな?そぉだよなー。恋に焦がれた相手からOKもらって、しかも相手役。もう大変なことになっちゃうかもな。映画公開前に妊娠とかは拙いよなー」

キャーキャー言いながら身を捩らせるマネージャーをジロリと睨んだ。

「煩いですよ。社さん」
「あ、でも、キョーコちゃんの事だから話がうまくいくとは限らないよな?どうする?「今の関係がベストだと思います」とか言ってお断りされたら?もう泣くしかないよな?」
「不吉な事言わないでください…」
「その時は俺の胸貸すぞ?」
「やめてくださいよ。気持ち悪い」

もうこの話は終わりだと言わんばかりの勢いでジャケットを羽織った蓮は、再び現場に戻るため足早に部屋を出た。



■1歩いっぽ(43) ~1歩、また1歩~



映画のラストシーンは桜舞う松乃園前

春の観光シーズンまっただ中無理を言っての撮影は短時間で終わらせる必要があったが、無事一発OKをもらえ、キョーコはホッとした。
拍手と共に主演2人に大きな花束が渡されて、蓮とも握手を交わす

「お疲れ様、最上さん。3ヵ月間楽しかったよ」
「私こそ…本当に勉強になりました」

次の宿泊客がやってくる前にと、挨拶もそこそこに撤収の作業に入る。
今日は新館にスタッフ共々宿をとっていて、内輪の打ち上げもそちらの広間で行われることになっていた。

「さ、移動しようか。キョーコちゃん。打ち上げまで時間あるし、着替えて少し休んだ方がいいよ」
「そうですね。行こう。最上さん」

エスコートの為自然と背に添えられた大きな手に鼓動が早くなって、赤くなるだろう顔を見られないようにと花束を少し上に持ち上げた。

(ううっ~意識しちゃう)

撮影が終わるまでと伸ばした執行猶予期間は終わった。
ちゃんと返事をしなければ。

(なんて言おう…)

どんな言葉で?どんな場面で?どんな服着て?
撮影は終わったのだからなるべく急いで?それとも東京に帰ってから?
最上キョーコ19歳。今更ながら告白シチュエーションで絶賛悩み中なのだ。


(ちょっと大人っぽいお店で…いやいや、そんなとこ言ったら雰囲気に飲まれてる間にお店出ちゃう。手紙?…なんか果し状みたいな文面しか思いつかなさそうだし…。電光掲示板にメッセージ映すのテレビで見たような…恥ずかしすぎるっ!)

「京子ちゃん!仲居さんじゃないんだからそんなに世話して回らないの!ヒロインはこっち、こっち!」

メイクさんの声で我にかえる。既に打ち上げは始まっているのに、どうなら様々な脳内シュミレーションを展開しながら無意識に身体が動いてしまったらしい。

「すいません。つい」
「まだ役が抜けてないの?京子ちゃんって本当に可愛い上に面白いよね。また絶対仕事しようね!」
「本当ですか?是非ご一緒したいです」
「私も、私もーっ!」

共演者やスタッフの間をぐるぐる回って、撮影の思い出話を語って、感謝を述べて…楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行って蓮とは話す機会はろくになかった。
でも、時折目が合うと優しく微笑まれてドキドキする。

(ちゃんと…喜んでもらえるお返事しなきゃ)

ここまで支えてくれて、ここまで待ってくれた蓮に応える告白を。

*
*

(あ~いい言葉がさっぱり思いつかない)

きっと気持ちが伝われば蓮はなんでも喜んでくれるだろう。

(でも2年も待たせてるし…)

ゴッ!
足をブラブラさせたせいで跳んだ下駄が東屋の壁に当たり大きな音を立て、自分の行儀の悪さに首をすくめた

(よかった誰もいなくて…)

夜11時を過ぎた東屋は静まりかえっっている
未成年であるキョーコは宴会場から早めに抜けたので時間をもてあまし、先程大浴場に入って、その後夜桜見物にと庭に出たのだ。
キョーコがいたころは無かった東屋は控えめな照明に照らされた桜がよく見えるところに建っている。
今週一杯が見ごろだろうそれを独占できるなんて、なんて贅沢だろう。

「でも…どうせなら…」
「どうせなら…何?」

ひょいと東屋に入ってきたのは、たった今思い浮かんでいた人で…

「つ、つつつつつつ、敦賀さん。どうしてここに?」
「ん?酔いをさましてから部屋に戻ろうと思ってちょっとブラブラしてた」

横に座った蓮に酒臭い?と尋ねられ首を横に振る。

「じゃあみなさんは…」
「もうぐてんぐてん。みんな部屋にたどり着くのがやっとじゃないかな?」
「それは…大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だと思うよ。最上さんこそ旅館の庭とはいえ1人でいたら危ないよ、って言いたいところだけど、電話かけようと思ってたから丁度良かった。何か考え事でもしてた?」

貴方への告白の言葉を、とは言えない。

「大したことじゃないんですけど…この東屋私がいたころは無かったんですよ。やっぱり4年もたつと変わるなあと思って。」
「4年かあ。中学出て直ぐに東京来たんだよね。」
「そうですよ。あの頃はこんな自分想像もしてなかったですけど」
「確かに色々あったね」
「本当にもう…色々とありましたね」

キョーコはショータローにつくしていた時代を思いだし少し顔を引き攣らせた。
すると蓮に引き攣った頬をむにっと引っ張られる。

「何?まだアイツの事考えると囚われるの?」
「し、ょしょれは無いれすよ。あの頃の自分が馬鹿だなあと思ってこういう顔になるだけです。顔を見たらムカつくのはムカつくんでしょうけど…アイツがいなかったら東京に出ることもなかったでしょうし」
「ああ…そういえばそうだね。彼が京都から東京への長距離移動のきっかけとなったわけだし、ワープアイテムみたいなもんだね」
「ワープアイテムって…敦賀さんショータローのことになると子供っぽいですよね。」

悪い?とツーンとして見せる蓮にクスクスと笑うと、頬にあった手が髪に伸びた。
この撮影の為にミディアムボブまで伸ばした髪を弄るのに任せながら、キョーコは蓮から夜桜に視線を動かした。

「…4年前の私ってすごく小さな世界で、母とその周りが認めた価値が絶対でした。」

母が求める評価が絶対で
母とそれに関わる人たちつまり不破家に受け入れられることが唯一無二の幸せだった。

「幸せの基準も1つしかなくて…」

母の愛もショータローの愛も得られないと気付いた時、愛なんて破滅と絶望の序曲だって思った。

「でも違うんですよね。いろんな形の幸せが沢山あるだって」

やりたいことをやれる幸せ。信頼できる人に恵まれる幸せ。大小それぞれあるけれど、キョーコはずっと色んな形の愛や幸せに包まれて生きてきたのだ。
蓮との愛もきっとそのうちの一つだ。勿論一番大事でこの気持ちは唯一無二だと思う。だけどたとえ道を違えることになったとしても、最上キョーコのすべてが無くなる訳じゃない。

だからそんな心配に身を竦ませていないで、1歩前へ
大事に大事に育んで、精一杯に愛そう。この気持ちを。蓮を。

「そうだね。俺にも沢山あるよ。最上さんの傍に居れる幸せだけじゃなくて、演じれる幸せ、社さん達良いスタッフに恵まれた幸せ…」
「こんないい映画にも出会えましたしね」
「うん。3か月本当に充実してた」
「そうですよ。いい仕事に恵まれて、美味しいご飯食べれて、好きな人と一緒に夜桜見れるなんて本当に幸せ…」

ん?とキョーコは固まった。

(あれ?今、私…)

“好きな人と”


……

(まさかのウカポロ!!!言っちゃた~!!!)

どうか聞き流してくれていますようにと、恐る恐る横を見る。
しかし恋の神様は手厳しい。蓮はしっかり聞いていたようで眼を見開いたまま固まっている。

「今…」
「ち、違うんです!いや、違わないんですけど違うんです!脳内でシュミレーションしすぎてですね…」

ぷっ、と吹きだした蓮に腹を抱えて大笑いされた。
それをジト目でにらみながら憤慨する

「敦賀さんに喜んでもらいたくてあんなに考えたのに…」
「いや、ごめん。嬉しいよ。思わずボロッと言っちゃうくらい考えてくれだんだろ?嬉しいよ」
「散々笑っといて何言ってるんですか。どうせ私の気持ちなんてモロバレだったでしょうけど」
「まあ…確かに最近は割と自信はあったけどね。でも…」

ようやく笑いがおさまった蓮は、一息つくと眼を瞑った。

「嬉しいよ。それこそ何度も最上さんが俺に応えてくれる場面を思い描いていたけれど…、好きな子が自分に言ってくれる『好き』ってこんなに幸せな気持ちになれるんだね」

キョーコは蓮の顔を覗き込んだ。

「…そんなに幸せな気持ちになれました?」
「うん」

眼を瞑ったまま微笑む蓮の顔は柔らかく、穏やかな幸せに包まれているように見え、それをもたらしたのが自分がポロリと零した言葉だと思うとなんだかくすぐったい。

「なんか…嬉しいです。私の言葉が敦賀さんを幸せにしてるなんて」

眼をあけた蓮は悪戯を思いついた子供のように笑う

「じゃあ、もっと幸せにしてみる?」

つんつん、と指で唇をつつかれれば流石のキョーコにだって意味が分かって…暫しのちに小さく頷いて眼を閉じた。

軽く合わさっただけの唇はすぐに離されて、こつんっとおでこ同士が合わさった。
眼を開くと、少し照れながら今まで見たことがないほど幸せそうに笑う蓮の顔

「もっと…幸せになりましたか?」
「うん。…もっと」

また唇が合わさって、また離れて何か囁いて…生まれたての恋人たちの逢瀬は密やかに甘々しく続いた。



(44終話に続く)






最後はエピローグ的な…44ってキリが悪かったとちょっと反省
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コメント

Re: ごちそうさまですm(__)m

> ゆうぼうず様
有難うございます!
後半沢山切ない想いをさせた割に糖分不足かな?と思ったりしてたんで嬉しいです。

2015/02/02 (Mon) 21:12 | ちょび | 編集 | 返信

ごちそうさまですm(__)m

泣いてるキョコのあとの、蓮とのイチャラブなシーンは萌えます。
あまぁいお話ごちそうさまですm(__)m

2015/01/31 (Sat) 11:37 | ゆうぼうず | 編集 | 返信

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