2015_02
03
(Tue)11:55

1歩いっぽ(44終話)

宣言通り敦賀氏生誕記念日前に終わりました~


2015/2/2




■1歩いっぽ(44終話) ~1歩、また1歩~



翌朝、社は朝食前に蓮の部屋を訪ねた。

「蓮、おはよう」
「おはようございます。すいません、もうちょっと待ってもらえますか?」
「いいよ。俺が少し早く来たんだから。」

どうぞ、と部屋に通され、椅子をすすめられる。
本館は和室のみだったが、新館は洋室もあって蓮やキョーコはセミダブルの部屋に宿泊していた。

「昨夜はだいぶ飲んだけど、ちゃんと寝れたのか?」
「ええ。」
「そういや、お前、布団とベットだったらやっぱりベットの方が楽だったりするわけ?」
「どうでしょう。あんまり気にしたことないですね」

他愛もない会話が途切れ、社はありえない音を聞いた

♪♪♪~♪♪♪~

ええっ?と音の発生源を見つめる、視線の先では蓮がこちらに背を向けて小物類を身に着けているところだ。

(鼻歌…だよな?)

マネージャーとなって幾数年、蓮の鼻歌など聞いたことは一度もない。
視線を感じたのか蓮がこちらを振り返る。

「?どうかしましたか?」
「いや…なんか上機嫌だな」
「そうですか?…まあ…実は」

丁度そのタイミングで蓮が手にしていた携帯が着信を告げ、「すいません」と社に断りを入れてまた背を向ける。

「おはよう。…うん。…うん。今いるよ。…ああ、まだ。丁度今から言おうと思ってたところ。…うん…うん。じゃあ5分後に」

通話を終えた蓮がこちらを振り向いた。
幸せの花満開です。といったオーラにも聞かなくてもわかるが、それでも本人からの報告を待った。

「今の電話、キョーコちゃんか?」
「ええ…実は昨夜返事をもらいまして」

23にもなる大男が少し照れながら「付き合うことになりました」と教えてくれた。
お前は高校生か何かかと心の中で突っ込むが、社にとっても待ち望んだ結果がついに出たのだ。実に喜ばしい。

「そうかーよかったな。いや、本当によかった」

言いながらふと思い当たる。

(昨夜…ってことは…?)

チラリ、と綺麗に整えられたセミダブルベットに視線を送ると、社の意図はすぐ蓮に伝わったらしい。

「してませんから」
「そう?いや、だって2年待った訳だしな。キョーコちゃんだってもう19だし」
「ジロジロ見ないで下さいよ。本当にまだですからっ。ほら行きますよ。」

蓮に追い立てられて部屋を出ると、エレベーターホールでキョーコが待っていた。

「おはようございます」
「おはよー。キョーコちゃん」
「ごめん。待った?」
「いいえ、今来たところです。時間丁度ですよ」

キョーコが笑いながらも物言いたげに蓮を社を見較べる。ああ、と笑った社は声を潜め言った。

「これから蓮をよろしくね。キョーコちゃん」

その言葉に頬を染め、こくんと頷いたキョーコはそれはそれは可愛らしかった。
こんな姿を至る所で見せられたら、いかに仕事人敦賀蓮でも理性を保つのは難しいだろう。隣に立つ担当俳優を見ると、案の定込み上げる“抱きしめたい”衝動を抑える為腕組みをしている。

「これを毎日見せられたらそりゃ大変だ。撮影終了後で正解だったな」
「分かっていただけましたか」

蓮と社のやりとりにキョーコが訳が分からずキョトキョトしていると、エレベーターが到着し、開いた箱の中には先客がいた。

「おはようございます。監督」
「おはよう。昨夜は遅くまで悪かったな。打ち上げの為に泊まってもらったから今日のスケジュール大変なんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。」

挨拶を交わしながら食事処に向かう。
部屋ごとに個室に案内されるシステムだが事前に連絡を入れておいたので、顔を見るなりスムーズに通された。
案内の仲居はキョーコの顔見知りらしい。

「キョーコちゃんが帰るって聞いて、源さんが今朝はこっちの板場に入ってはるよ」
「ええ?源さんが?挨拶できますか?」
「今やったら大丈夫」

キョーコは新開と蓮たちの方にくるりと首を向けた

「昔よく料理教えてくれて…普段本館の板場にいらっしゃる方が今日はこちらに来てるみたいなんです。ちょっと挨拶してきていいですか?」
「ああ、いいよ」
「言っておいで」

キョーコが案内の仲居と共に襖の向こうに消えると、新開が頬杖をついてニヤニヤと笑う

「蓮、おめでとうj」
「…分かりますか?」
「分からない方がどうかしてるね。エレベーターの壁がピンクに見えたぞ。そもそも隠す気あるのか?」

蓮はチラリと社に目をやる。

「彼女も先月高校を卒業しましたし、特に問題はないと思うんですが…まあ、帰って事務所と相談ですね。方針が決まったらご連絡差し上げます」
「待ってるよ」

まだニヤニヤと笑い続ける新開を見ていると別に悪いことをしたわけでもないのに居心地がひどく悪い。

「なんですか。監督。その気味の悪い笑い。」
「えー。だって面白いじゃーん。」
「じゃーんって…」
「3年前『RINGDOH』の現場ではあんなにピリピリしていた男と女が恋に落ちて、こんな表情するようになるなんて、やっぱり人生はドラマチックだね」

ニヤニヤ笑いがおさまって、代わりに映画監督新開誠士の顔が姿を見せる。

「俺も面白いもの撮らなきゃな。蓮もまた協力してくれよ」
「監督…」

是非、そういって力強く頷くと、新開はちなみにと笑った

「いい仕事してくれりゃあプライベートは気にしない性質だけど、お前や京子には思い入れがあるからなあ…。映画はバットエンドもありだけど、俺、現実世界ではハッピーエンドが好きだから」

新開らしい飄々とした、けれども想いのこもった激励に蓮の顔も綻んだ。

「ご期待に添えるよう頑張ります」

その時、襖の向こうから、失礼します、とキョーコの元気な声が聞こえた。


*
*

キョーコが忘れ物がないかチェックしていると、ドアがノックされる。

「最上さん、ちょっといい?」

もう出発の時間かと慌ててドアを開けた。

「すいません。すぐ出ます。」
「大丈夫。まだ時間あるよ。ちょっと話がしたかっただけ。今いい?」
「どうぞ」
「準備はもう出来たの?」
「はい。バッチリです!あ、お茶でも…」
「いや、朝食の席で飲んだから大丈夫。」

そういって、蓮はベットに腰をかけた。
その様子にキョーコがクスリと笑いをこぼす。

「どうした?」
「2年前と一緒だなあと思いまして。私がお茶を煎れに行こうとしたら、話をしようって敦賀さんベットに腰掛けましたよね」

私はここでした。とキョーコは椅子に腰を下ろす。

「そうだね。こうやって向かい合って『好きなんだ』って言ったね」
「あれから2年近く。散々お待たせしてすいませんでした。」
「でも必要だったし、すごく大切な2年間だったよ」

あの時、例えあの恐怖を押し殺して蓮の手を取っていたとしたらどうなっていただろう。
天上人と崇めたままで、その格差ばかりに気がいっていたかもしれない。
失う恐怖に自分を見失っていたかもしれない。

蓮にだって時間は必要だったのだ。
過去の自分と向き合うために。
キョーコに久遠も蓮も受け入れてもらうために。

「その2年が経って改めて思うよ。…君が好きなんだ」


やっぱり上手く言葉が発せれない。
恐怖に支配されているからではなく、湧き上がる、歓喜と熱のせいで

「私も…だぃ…すきです」

なんとか小さい声で紡いだ言葉に、蓮が破顔して立ち上がり、ゆっくりとキョーコに近づいた。

「いつも傍に入れる訳じゃないけど…それでも…苦しい時、泣きたい時に君がまず頭に思い描くのが俺であるように、そして支えることが出来る男であれるよう努力し続けるって誓うよ」
「違いますよ。敦賀さん」

両肩に置かれた大きな手に己の手を添えてキョーコが首を振る。

「苦しい時、泣きたい時だけじゃありません。楽しい時、嬉しい時、美味しいものを食べた時…そんな時もです」
「うん…そうだね。」
「それに、敦賀さんだけじゃなく…私も…です。」
「うん。互いにそういう存在であれるように…」

誓うよと、厳かに唇が額にあてられる。

(ああ…聖なる儀式みたい)

眼を閉じ、相変わらずのメルヘン脳で思う。
軽く触れられた唇から、蓮の想いが伝わって、キョーコの細部にまで浸透していく。
細胞ひとつひとつが生まれ変わっていくような…

これはスタートだ。
これからまた長く長く続いていく道の。


蓮の携帯が震えた。

「社さんだ。時間みたいだね。行こうか」

差し出された手を取って立ち上がる。
東京についたら、社長や椹、松島に交際を報告しなければならない。奏江や千織にも。
きっと社長は大喜びで、はた迷惑なお祝いをしてくれるに違いない。暫くはドタバタの毎日だ。


でも、まだまだ人生の舞台は始まったばかり。

キョーコはまたいつか母との関係を考える日が来るだろう。
蓮は己の出自を語らなければならない日がくるだろう。

演技者として、恋人として、家族として、これから歩んでいく道で悩み、躓き、時には誤ることもあるかもしれない。

だけど、歩んでいく。
時には一人で、時には2人で支え合って、時には周りの手も借りて、また時には手を貸して
悪戦苦闘し、泥まみれになることも自分の糧になると信じて

そしていつか喜びを分かち合おう。

誰よりも愛するこの人と、みんなに出会えた奇跡を忘れずに

1歩、1歩歩いて行こう


(完)





【あとがきみたいなもの】

本当に終話はエピローグでしたね。

皆様長ーい間お付き合いくださり有難うございました。

私の妄想と願望を目いっぱい詰め込んだこの話が浮かんだ時、人生初めての2次を書こうと思い立ちました。
それ故にこれが終わったらもう満足しちゃって書けなくなるんじゃないの?と思ったりして、あっちにフラフラこっちにフラフラ…となっていたのですが、伝え聞く本誌の展開に「いや、これはもうかけ離れすぎて原作沿いと言えなくなる!」と焦って書き進め…1年たってようやく完結です。

お松さんやキョコママ話で私の暴走を励まし時には共感してくださった方々、本当に支えになりました。有難うございました。
この連載が一番好きと言ってくださった方、もしかして今は違うかもしれませんが、有難うございます。


さあ、肩の荷が下りたところで…まもなく敦賀氏生誕記念及びブログ開設1周年!

生誕&1周年記念としては1歩いっぽの番外

そして限定記事としてきた「強く欲するモノ」を通常公開したいと思います。
今読み返したら…もう恥ずかしくて読めなかったので少しづつ手直ししながら公開となりますが…

2月後半からは、記憶喪失(またかよ?)や「永遠を生きる刹那…」の連載を再開したいと思っています。

皆様よろしければ今後もお暇な時にご訪問くださいませ。


ちょび


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コメント

Re: はふぅ

>moka様
最初から!なんと有難うございます!
とにかくこれが書きたくて始めたのですごくホッとしました。後半は捏造の嵐でしたしね(笑)
今週のお誕生日には早速帰ってきますよ!よろしくお願いします!

2015/02/08 (Sun) 23:58 | ちょび | 編集 | 返信

はふぅ

一歩いっぽ、慎重に丁寧に真剣に、前へ、
思わず最初から読み直してしまいました!
なにか終話は、にやにやと新開監督のように笑みがこぼれてしまったように思います。
どこかで、またこの蓮さんとキョーコさんにお会いしたいですー
御馳走様でしたっ。

2015/02/06 (Fri) 08:57 | moka | 編集 | 返信

Re: ぱちぱちぱちぱち!

>まみこ様
有難うございます!
書ききれなかった話もあるので、ちょぼちょぼ番外編書いて行こうと思ってます。また是非読んでやってくださいませ。

2015/02/05 (Thu) 23:59 | ちょび | 編集 | 返信

Re: お疲れ様でした!

>tese
有難うございます。
トワセツ待ってくださってる方がいらっしゃるって言うのは励まされます。

2015/02/05 (Thu) 23:57 | ちょび | 編集 | 返信

ぱちぱちぱちぱち!

辛いことを経験してきた二人が、幸せな未来を一歩一歩ともに歩んでいく。そんなポジティブな言葉がキョコさんの口から出たことにも喜びを感じました!二人が幸せを掴むことが出来て本当に良かったです。

欲を言えば「聖なる儀式」もみたいですね!

2015/02/04 (Wed) 21:52 | まみこ | 編集 | 返信

お疲れ様でした!

お疲れ様でした!そして完結おめでとうございます。山あり谷ありでしたが、最後まで心がほっこりするお話で、癒されました。また1話からしっかり味わいながら拝読致します^^トワセツもお待ちしております~

2015/02/03 (Tue) 20:27 | tese | 編集 | 返信

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