2015_02
06
(Fri)11:55

弁済不能(リクエスト)

総数5555番目の拍手をしてくださったはるりん様からのリクエストです。
ピーンと思いついて勢いで書いたお話なので大丈夫でしょうか?(いつもそんな感じだけど)
リクエスト内容はお話が終わった後に。


2015/2/6

ロン       「ボブ、どうしてメグをパーティから追い出したりしたんだい?」
         ボブ、気まずそうに
ボブ       「それは…メグは招待状を持ってなかったから」
ロン       「だからと言ってあんなに叩き出すような真似はないんじゃないかな?メグはきっと惨めな思いをしたと思うよ?」



(もう…限界だ)

蓮は開いたままの台本を顔に乗せて、座っていたソファーに転がった。



■弁済不能(リクエスト)



蓮はこのたびアメリカのアニメ映画の吹き替えにチャレンジすることになった。

演じるのは主人公の兄ローランド、通称ロン、そして彼が創ったぬいぐるみロフティの2役
賢く心優しいプログラマーの兄はいつも弟を諭し導いてくれる存在だったのだが、病により早逝してしまう。
不器用で泣き虫の弟ボブを案じた兄は、人工知能を備えたぬいぐるみを遺していた。そのプログラムのモデルはロン。
亡き兄そっくりに喋るぬいぐるみロフティの助けを借りながら、ボブは次第に逞しく成長していく…そんな物語だ。

声のみで感情を表現する吹き替えというのは非常に難しいらしい。
新しいことに挑戦するのは楽しいし、それはいい。それはいいのだ。

蓮は顔に乗せていた台本を持ち上げて、先程読んだ箇所を恨めしげに見つめる。

(まさか…こんな話だなんて)

だが、一度受けた仕事だ。
行儀悪くもソファーに寝転んだままページを捲る


         メグ憤慨しながら
メグ      「酷いわ!ボブ!手伝ってあげるって言ったのは貴方じゃない!」
ボブ      「だからと言って自分の仕事を簡単に人に任せる方がどうかしてるね」



(なんだこれ?…まさかあの頃の俺って監視カメラかなにかで盗撮されてたのか?)

どれもこれも事務所に入りたてのキョーコと自分ではないか
あの頃の自分を随分意地が悪かったと思ってはいたが、こうやって字にされるとなんとも大人げない行動だ。


ロン      「ボブ、そんな意地悪するもんじゃない。好きな子にそんなことするなんて5歳や6歳のおチビのすることだよ?」

全く持ってすいませんだ。
しかもボブはまだローティーンだが、蓮は立派な成人男性だった。
過去の己のキョーコへの悪行の数々を思い出さされて、おまけにそれを教え諭す役を演じなければならないだなんて、いったい何の罰ゲームだというのだろうか。


        ロン微笑みながら
ロン     「ボブはメグの事が好きなんだね」
        ボブ焦る
ボブ     「何言ってるんだよ兄さん!そんな訳ないじゃないか!」

       

(そんな訳…あるんだよ)

経験者が言うのだ。間違いない。


10代の後半になってようやくボブはメグへの恋心に気付く。
美しく成長したメグの姿や、ライバルの出現に焦るのだが、過去の自分の悪行の所為で何をしても誤解され、から回るし、想いを告げても悪い冗談として受け取ってもらえない。


ボブ      「ああ、どうしよう。どうしたらいいと思う?ロフティ」
         「僕の意地悪がメグのなかで膨らんでいて…どんなに優しくしても好きだと言っても信じてもらえないよ!返しても返しても減らない借金みたいだ」
ロフティ    「それでも誠意をこめて想いを伝えていくんだ。だって君はメグを愛しているんだろう?」



(借金って…子供が見るアニメ映画にしては随分な例えだな)

ついに台本を読むのを中断して自分の胸の上に落とした。

(でも…まあ…似てるかもしれないな)

芸能界への志望理由が気に入らないから、そんな理由で普段の敦賀蓮ではありえない行動をとったあの日々。
今から思えば、“キョーコちゃん”だと分かる前からキョーコは蓮にとっては特別だった。
だがまっとうな恋愛という物をしてこなかった自分はまるで子供のようにキョーコにあたって…底意地の悪い先輩から脱却するのに大変な時間を要したものだった。
それはまるで膨らんだ借金の返済並みに。

(っていうか…弁済できてるよな?)

キョーコの事を認めてからは、最初は後輩として、その後すぐに想い人となって大事にしてきたつもりだ。
あの仕打ちはもう帳消しになっているだろうか?

(なってないと困る…)

ノロノロとソファーから起き上がり、髪を掻き揚げながら小さく息を吐いたところで、社が控室のドアをノックした。

「蓮、もうちょっとしたら呼ばれると思うぞ…って、なんか疲れてないか?」
「いえ…別に」
「そうか?あ、あの台本読んだのか?」
「途中までですけど」
「俺は昨夜読んだけど、ボブとメグが出会った頃のお前とキョーコちゃんを彷彿とさせて面白かったな~」

やっぱり社の眼から見てもそうなのかと苦笑いが漏れる。

「まあさ。コンテストの点数付けでわざと低い点数つける辺りは、お前のマイナススタンプと一緒だなあって思ったけど、パーティー会場から叩き出したり、当番のメグを手伝っといて仕事してないことにしたり?あれは人としてどうかと思うね。あそこまでやってるとちょっと挽回は難しい気もするけどなあ」
「そうです…かね」
(そういえば…社さん、あの時傍に居なかったな。)

はい、それ一通り全部やりました。とは流石に言えずあいまいに笑う。

「映画では挽回できましたけどね」
「そりゃヒロインの命の危機をあれだけ格好よく救えたからなあ。ロフティ様様ってやつだな」

あはははっと明るく笑う社に合せた笑顔が引き攣る。
過去の弁済は出来ていないのかもしれない。
だってキョーコに命の危機なんて今の所一度もなかったのだから

*
*

自宅マンションのドアを開ける。それは気持ちそのままにいつもより重かった。

「おかえりなさーい」

弾むような足取りでキョーコが出迎えにやってきた。

「ああ、うん。ただいま」

台本を読んだ時の気持ちを引き摺っていて、いつものキスも忘れて少し探るような視線を送ったことで異変はすぐに伝わったようだ。

「む?何かありました?」
「え?」
「すっごい疲れた顔してますし…」

そう言われて、自分がいつもの行動を全くとれていなかったことに気付いた。
役者としてはどうかと思うがキョーコの前で取り繕っても仕方ない。

「あ…ちょっと台本を読んで引き摺られたというか…不安になったというか」
「へ?今日もらう台本ってダズニーのアニメ映画じゃありませんでした?」
「うん…読んでみて」

鞄から台本を差し出すと、蓮は着替えをするためにクローゼットに向かった。
リビングに行ってみると、ラグの上で腹を抱えて笑い転げている恋人の姿。

「…そんなにおかしい?」
「お、おかしいですよ。これ!このパーティのシーンなんて出会った頃の敦賀さんそのものですよ!」

ひー、お腹が捩れる~と笑う恋人が満足するまで傍で胡坐を組んで待った後、気になることを訊ねてみる。

「あの頃俺がしたことって弁済できてる?」
「弁済?」
「ほら、途中でボブが借金みたいだ!っていうシーンがあるだろう?」
「あ…それで弁済ですか。なるほど」

ふむふむ、とキョーコは寝そべったまま台本をペラペラと捲る。

「なんて言うか…。そうやって自分がしたことをそっくり台本にされてみると、酷いなと改めて思ったというか…。いや、勿論仕事に対する姿勢ってのは大事だと今でも思ってるんだけど、それでも女の子を放り出すとか…男としてあるまじき行為というか…」

上手く言葉が紡げずシドロモドロだ。

「ちゃんとフォローできてるのかなって…」
「それで帰ってきたときあんな目して私の事見てたんですか?」
「うん…まあ。そんな変な眼だった?」
「捨てられた子犬みたいでしたよ」

よいしょとキョーコは起き上がり、胡坐を組んでいる蓮のすぐ前まで膝立ちの姿勢で移動すると、両手で蓮の頬を包んだ。

「あの頃、敦賀さんに絶対嫌われてるんだって思ってました」
「…ごめん。」
「その後も何かあるたびにやっぱり根本では嫌いなんだとか思ったり」
「うん。それこそボブじゃないけどマイナスからのスタートだったね」

くすくす、と間近で笑うキョーコの顔はとても優しい。
その顔を見ていたら少し自信が持てて、甘えを滲ませた声で聞いてみる。

「じゃあ…今は?」

キョーコがもう1つくすりと笑って…

クワッ!!!
と、表情を一変させた。

「全然っ返せていません!」
「え?全然?なんで?」
「利息30%ですからね。まだぜーんぜん元本返済まで行ってません!」
「30%って…上限金利超えてるんじゃ」
「お金じゃないので利息制限法は適用されませんよ?お客さん」

どこぞの闇金業者のような顔でキョーコがニヤリと笑った後、実に嘘くさい哀しげな顔を作って見せる。

「あの頃、敦賀さんの仕打ちに枕を濡らした夜が何度もありました」
「…部屋の壁に俺の写真飾ってギャフンと言わせてやる!って叫んでたって、だるまやのおかみさん言ってたけど?」
「それは表の事。敦賀さんに嫌われていると思って…怒らせたらどうしようとビクビクしてた日々でした」

それは身に覚えがあるので言葉に詰まる

「…じゃあ、一生かかっても返せない?」
「無理かもしれませんねえ」
「俺はどうするべき?」
「それは返済出来てないんですから…」

頬から滑った手が蓮の首の後ろに回った。

「一生私の傍にいなきゃいけないんですよ」

いたずらっ子のような、でもどこか蓮の気持ちを推し量るようなそんな顔
冗談に込めた、キョーコのメッセージ
そのあまりの可愛らしさに、己の顔が綻んで…浮かぶ言葉は甘いものばかりだ。

「じゃあ…一生かけて誠心誠意返済していくかな」
「本当に?返済滞ったら取り立てに行きますよ」
「うん、待ってる」

とりあえず本日分の返済をするべく、蓮はキョーコの唇にキスを落とした。


(おしまい!)








※弁済:借りたものを相手に返すこと。 債務者または第三者が、債務の内容である給付を実現して債権を消滅させること。(goo辞書より)

アニメ映画はベイ○ッ○○をイメージしたのですが、なにぶんCMみて勝手に想像しただけなので、多分ぜーんぜん別物です。殆ど見た事ないんですよ。○○ニーのアニメ映画

さて、はるりん様からのリクエストは「過去のキョーコに対する仕打ち(事務所から放り出したり、荷物を持ちながら仕事に責任を持てと突き放したり等)を思い返して後悔する蓮」でございました。
とっても楽しいリクエストだったのですが、はるりん様こんな感じでよかったでしょうか?有難うございました!!!
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