2015_02
14
(Sat)11:55

幸せは1.5倍で(1歩いっぽ18.5)

バレンタインデーにも懲りずに1歩いっぽの番外です。
18話の直後位のお話なのですが、流れ上あまり本編には関係ない気がして頭の片隅に追いやられていました。

1歩いっぽ本編はこちらから↓
(1)、(2)、 (3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)、(17)、(18)、(19)、(20)、
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(41)、(42)、(43)、(44終話) 


2015/2/14

■幸せは1.5倍で(1歩いっぽ18.5)



「悪いわね」

奏江からかけられた声にキョーコはきょとんとした。

「悪かった?なんで?」
「私たちの現場に差し入れするために先週もスィーツ作ってたんでしょう?それなのに今度はチョコレート作りだなんて」
「気にしないでモー子さん!私もどうせ作るんだから」

今日は2月12日、蓮や奏江、千織が出演しているドラマの撮影が早く終わる日に奏江のマンションで義理チョコづくりの指導にあたっているのだ。
キョーコは鼻歌交じりにチョコレートを丸めていく。

「ねえ…その中に敦賀さんのも入っているの?」
「え?入ってないよ?」
「あ、敦賀さんには別に作るんですね?」
「え?作らないよ?っていうか何もしないし」
「「なんで!?」」

奏江と千織同時に上がった声に驚いたキョーコが丸まったチョコを机の上に落とした。

「なんでって…」
「チョコもチョコ以外もあげないの?いくらなんでも可哀そうじゃない」
「そうですよ。きっと待ってますよ!」

ジリジリとチョコレートまみれの手の2人に追い詰められたキョーコはどうどう、と言わんばかりに胸の前で手を振った。

「ち、違うの。敦賀さんにいらないって言われたから…」
「え?どうして?男の意地?」
「OKの返事くれるまで義理ならチョコはいらないってことですか?」
「そ、そうじゃなくてぇ」

とりあえずチョコを完成させてお茶しながら話をしようと言うことになった。


「で、どういうことなのよ?」

千織がお土産にもってきた紅茶を注ぎながら、奏江が早速切り出す。

「え…とね」
「さっさと言いなさいよ」
「うう、だから~」

*
*

蓮から想いを打ち明けられて初めてのバレンタインデー
去年はベインデーだのどうのと言ってはいたが、蓮への想いを自覚した今年はキョーコもチョコをどうしようか考えていたのだ。
だが1月の中旬…

『最上さん、2月14日に時間取れるかな?』

蓮はサラリと電話口で切り出した。
キョーコにしてみても保留状態とはいえチョコは渡したいので切り出してもらえてありがたい。

「夜なら…」
『じゃあ10時くらいになるけど、だるまやまで行ってもいいかな?』

チョコを取りに来てくれるんだと思った時、明快に告げられた。

『あ、俺はチョコも何にもいらないから』
「え?」
『だって俺が告白してるんだから俺から渡すべきだろ?大体女の子からチョコって世界的に見たら珍しいよ?どちらかというと男からの方が一般的だし。』

*
*
「そういって押し切られちゃって…」

恥かしそうにポツポツと話すキョーコを見ながら飲む紅茶はノンシュガーのはずなのに甘く感じられる。
奏江はそれを飲み干すと、もう少し渋いものを飲むべくポットに残る紅茶を注いだ。

「…敦賀さんって結構ロマンチストよね」
「っていうか乙女でしょ」
「え?何?どうして?」

今度は渋すぎたらしい。一口飲んで少し顔をしかめたまま奏江は言った。

「バレンタインデー、敦賀さんはファンや仕事関係からそれはそれは山のようにチョコをもらうでしょうね。」
「勿論。誕生日もその直前だから…去年も高級品のプレゼントを合せて山のようだったわ。」
「でも、あげるのはあんたにだけ」
「そうですよね~。受け取るのは仕事上拒めませんけど、あげるのは敦賀さんの意思次第ですよね」
「…」
「そうなると、ホワイトデーどんなに沢山の人にお返ししても、もらうのはあんたからだけ」
「ようするに京子さんだけってのがいいんですよね。」

かああっと一気に茹で上がる。

蓮から提案を受けた時はいったいどんな物を贈られるのだろうと思い、それに自分がお返しできるのかとかそんな事しか思いつかなかった。
キョーコだけ。がいいなんて…。

ふよふよと緩みだした口元をおさえようとするがうまくいかない。せめて赤い顔だけでもなんとかしたいと、紅茶にミルクをそそぐ流れで顔を俯かせる。

「え?あれ、隠してるつもりですか?」
「どうやらそうみたいよ?」
「嬉しそうなの丸分かりなのに…あ~あ、ミルク入れすぎてる。紅茶の味しませんよ。あれ。」
「ほっときましょう」

自分の世界に籠ってしまったキョーコは放置して、紅茶を新しく煎れなおすべく奏江はキッチンに向かった。


*
*

翌朝早いという奏江のマンションに暇を告げ、変える方向が逆の千織と駅で別れ、キョーコは電車を待ちながら頭の中で明日の予定の確認をした。午前中は学校に行って、昼から収録の予定だ。
学校では欠席の多いものに課せられるレポートを提出しなければならない。

(もうバッチリ仕上ってるし…)

と考えていたら思い出した。

(レポート、敦賀さんの部屋に置きっぱなしだ!)

蓮の誕生日にキョーコはカードキーを預かって食事を作った。
家主の帰宅を待つ間にレポートの最後の仕上げをして、返ってきた蓮にも眼を通してもらって…食後のコーヒーを煎れてくれた際に一時のつもりでサイドボードの上に置きっぱなしにしたのだ。
提出締め切りは週明けの月曜日だが、その日はロケで学校には行けそうにない。何が何でも明日提出しなければ。
乗ろうとしていた電車の列から離れて、ホームの隅っこで電話をかける。

『はい』
「こ、こんばんは!」
『うん、こんばんは。どうした?琴南さん達と義理チョコ作りじゃなかったっけ?』
「それは終わって…今帰りなんですけど…敦賀さんはもうおうちにいらっしゃいますか?」
『うん…いるけど?』

よかった、と安堵の息を吐く。

「明日学校に出さなきゃいけないレポート、敦賀さんのお部屋に置きっぱなしなんです。今から取りに行っていいですか?」
『え?今から?俺が持っていくよ』
「丁度電車に乗るところですし、部屋にうかがいますよ?」

まだ時刻は9時過ぎだ。蓮と少し会いたいという気持ちもあって提案する。

『いや、もう暗いから。レポートは…ああ、これか。』

マンションの最寄りの駅で待っているように告げると電話は切れた。
部屋でお茶でも飲みながら話をしたかったキョーコとしてはがっかりするが、仕方ない。蓮の事だからだるまやまでは送ってくれるだろうし、少しでも会えるなら御の字としなければ。


車に乗った途端、違和感を感じた。

気の所為かもと思ったが、蓮の横顔をみて疑惑は確信に変わる。

「はい、レポート。忘れちゃだめだよ」
「有難うございます」

気付いているのを気付かれないように振舞ったつもりだが、先輩俳優はわかってしまったらしい。
彼らしからぬ行動だがこちらの顔をみないままで尋ねられた

「わかっちゃった?」
「すいません」
「あ~カッコ悪い」

びっくりさせようと思ったのに、とハンドルに顔を伏せる。

「なんで?」
「匂いと…」
「やっぱ匂いか。最上さんもチョコ作ってるから鼻が麻痺してると思ったんだけどな」
「時間立ってますし、電車乗りましたから。それに…」

キョーコの指が蓮の顎の右下辺りを差す。

「ここ、チョコ飛んでますよ」
「え?俺出かける前に鏡見たよ?」
「顎の下ですから、正面から見たら気付かないと思います」
「成程。あーあ。折角最上さんと部屋でお茶するチャンスだったのに、キッチン見られたらバレると思って回避したのに」

ブチブチと続ける蓮にクスリと笑う。

「楽しみにしときます。…マウイチョコってことは」
「ないから。ちゃんとレシピ見たから」
「レシピ?本とかですか?」

告げられた料理サイトに思わず吹いた。

「コックパット!敦賀蓮がコックパット!!」
「この前番宣で出た情報番組で取り上げられてたんだよ」
「ざ、材料は…」
「…社さんにマンションの下のスーパーでラッピングと材料を買ってもらったんだ」

申し訳なく思いながら頼んだのに、すっごい嬉々として買ってきて…と少々不貞腐れているのは、社に相当からかわれたのに違いなかった。
笑い転げていると、開き直ったのか蓮がエンジンをかけながら言った。

「すっごく苦いエスプレッソが飲みたい。最上さん、付き合ってね」
「喜んで。あっちにドライブスルーありましたよね。」
「まだ早いからドライブもしたいから」
「了解しました」


それから14日の約束の時間までをキョーコはウキウキとしながら待った。
ドキドキ、とかは今までだってあったかもしれないが、ウキウキしながら待つバレンタインデーなんて初めてかもしれない。
その一方でこんなに甘えていていいのか?という想いも湧き上がる。
返事をしないまま、こうやって蓮からの好意を当然の顔をして受け取るなんていいのだろうか?


キョーコが配ったチョコレートは今年も評判がよかった。
有難うと笑顔を見せられるとこちらも笑顔になる。美味しいと言ってくれると、ほこほこと心の底から暖かくなる。
胸にあるウキウキと蟠りも暫し忘れて世話になった人たちの間をせわしなく回った。


仕事が思ったより順調だったと蓮から電話がかかってきたのは9時半近くの事だ。
急いでコートを羽織って蓮の車に向かい、助手席に滑り込む。

「あんまり期待しないでね」

差し出されたのは、彼らしいシックな装いの小振りの正方形の箱。
これもあの高級スーパーで買ったとしたら、ラッピングだけで相当な値段だ。
それに少し茶が入ったピンクのバラが一本。

「上品ですごく素敵な色ですね」
「そう?気に入ってもらえてよかったよ。」

チョコの箱は膝に置いて暫くバラを堪能した後、大本命にとりかかる。
リボンを解いて、箱を開けて…
暫し固まった。

「いいよ。気を遣わなくて。正直に感想言って」
「いえ、あの…」
「箱に詰める段階で気付いたし、今日現場で普通のチョコも見たし」
「おお…きいですね」

そう、デカいのだ。
形状はごく普通のトリュフチョコ。丸っこいそれはカカオパウダーで覆われている。
しかしその存在感は半端ない。通常サイズの1,5倍…それ以上だろうか?箱の仕切りの中でギューギューと窮屈そうにしているし、箱の高さギリギリなのだろう、ふたの部分にあたったところは少し平らになってカカオが薄くなっている。

「おかしいと思ったんだよ。レシピに書いてある数の半分しかできなかったし…でも勢いでカカオまでまぶしちゃってたし…」
「どうしてこんなことに…」

聞くと、レシピにはサイズが数値では示されておらず「こんな感じの大きさです」と掌に丸められたチョコがのっていたのだという。

「な、なるほど…敦賀さんの手、大きいですもんね。レシピ書いたの女性でしょうし…」
「…妙な遠慮はいらないから笑っていいよ」

お言葉に甘えて笑わせてもらう。やれ箱の中が満員電車状態だ、ありえないくらいの重さだと色々つついてから、1つ取り出した。

「俺、1個だけ試食したけどびっくりするくらいボリュームあるよ?」
「それですごく苦いエスプレッソでしたか。ではいただきます」

大きく口を開けてパクリ。
口の中がチョコで満杯になったと同時に…

「…そんなに美味しいの?」
「ひゃい…。いろひろ1.5倍へす」

カカオのほろ苦さとチョコの甘さと共に広がるもの。
世界中でただ一人蓮からチョコをもらえた幸せ。
それが蓮が初めて作ったチョコであるという幸せ。
こうやって蓮の前でそれを頬ばれる幸せ。

数えきれないこの幸せは…きっとチョコのサイズと一緒で1.5倍なのだ。

「…そんなにチョコを頬張ってると本当にリスみたいだね」

キョーコの笑顔につられていくように蓮も笑顔になっていく。

「げっ歯類ですから」

蓮の笑顔を見て、口の中の幸せがまた増した気がした。

いいではないか。
蓮には返事を返していない身だけれど
キョーコが美味しいと、幸せだと笑ったら、それが蓮をこんなに笑顔にするのなら。

1.5倍のチョコレートを、1.5倍の笑顔と有難うで戴こう。


車内は2人の笑い声とチョコの香りに満たされていった。


(おしまい)
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