2015_02
17
(Tue)11:55

君の名前を呼ぶ時は-前編(記憶喪失の為の習作4)

「記憶喪失の為の習作」は、私ちょびが永遠のテーマ記憶喪失にとことん挑んでみようとするお遊び企画です。
医学的根拠等全くございません!

習作(1)、(2)、(3)とはまったく別のお話です。


ってな訳で帰ってきました「記憶喪失の為の習作」
ホントにねえ…記憶喪失ブログになっちゃいそうです…。


2015/2/17





キョーコの荒い息遣いと階段を駆け昇る足音がオフホワイトの壁に囲まれた空間に響く。
買ったばかりのローファーは酷く走りづらいが、エレベーターを待ってなんかいられなかった

早く、はやく、一刻も早くあの人のもとへ



■君の名を呼ぶ時は-前編(記憶喪失の為の習作4)



『ここで速報です。俳優の敦賀蓮さんが撮影中事故に巻き込まれ救急搬送されました。』

お昼の情報番組の最中、アナウンサーがスタッフから渡されたメモを読み上げると、電気屋の4Kテレビの前でキョーコを含めた結構な人数が足を止めた。
テレビの前の大勢と同じく詳細を知りたがる出演者達に迫られたアナウンサーが、本当に今届いたばかりの情報で記者も現場や病院に到着していないことを説明している。

テレビからはもうこれ以上の情報が得られないと分かると立ち止まっていた人々は動き出した。
蓮の容態を心配する言葉があちらこちらから聞こえ、更なる情報を求めて検索したり呟いたりするのだろう、スマホを弄るものもいる。
キョーコは足早にそんな人混みを抜け、携帯を取りだし目的の番号を素早く探すと通話ボタンを押した。
3コール目で通話相手である社がこの状況下では一番混乱し、尚且つ多忙を極めているだろうことに思い至る。だが慌てて切ろうとした矢先に電話が繋がった。

『もしもし?』
「す、すみません!大変な時にお電話してしまって」
『大丈夫。俺からもかけようと思ってたとこ。心配かけちゃったよね。事故が起こった時砂埃が凄くて状況がよくわからなかったんだ。蓮が庇った子役の子もまだ5歳だから説明とか無理だしさ。それで意識がないからとにかく救急搬送って話になったんだ。今のところの検査ではおかしい所は見つかってないし、多分もうすぐ意識も戻るだろうって。』

社の言葉に安堵の息を吐く。
少しだけ冷静さを取り戻すと、社の声と共に様々な声や音が聞こえていることに気付いた。
そういえば先程から社はキョーコの名前を出さずに話している。おそらく看護師や医師が頻繁に出入りしている病室なのだろう。それに較べて、いくら人混みは抜けたとは言え、何にも考えずに商店街なんて不特定多数が行き交う場所で電話をかけた己の配慮の無さが恥ずかしかった。

「大事にならなくて安心しました。ありがとうございます」

本当はすぐに顔を見に行きたいが、キョーコは同じ事務所のただの後輩だ。バタバタしている中でお見舞いなどかえって迷惑をかけるだろう。

『あ、ちょっと待って!』

社が慌ててキョーコを呼び止めた

『今日、時間が空いてからでいいから、こっちに寄ってもらえないかな?』
「え?」
『学年末試験で大変なのに申し訳な「行きます!今から参ります!!!」』

社から告げられた病院名と病室ナンバーを暗唱しながら、キョーコはタクシーを捕まえるべく大通りに向かって駆け出した。

*
*

そして今、病院の階段を駆け上がっている。

目的の階の重い扉を開け、ナースステーションの前を通って特別室の並ぶフロアに入ろうとした所で警備員に止められた。事務所が手配したのだろう年配の警備員はキョーコの前に立ちふさがりながらも穏やかに告げた。

「君、敦賀さんのファンなのかな?心配なのは分かるけど、ここは関係者以外は入れないんだよ。」
「わ、私は」
「その子は事務所の関係者だよ。俺がお使い頼んだんだ」

どう説明しようか迷った所で社に救われた

「ごめんね。キョーコちゃんの足の速さ計算に入れてなくて。もう少し早く出ておけばよかったね。」
「いえ、全然」

キョーコは社の口調が先程の電話よりも少し硬いのが気になった。もしかして蓮の症状が芳しくないのだろうか?
病室へ真っ直ぐ向かうと思っていた足は奥まった所にある自動販売機コーナーに向かう
周囲に誰もいないことを確認した社は、足を止めてキョーコに向かい合う。先程までの営業用の仮面を外した表情は今まで見たことがないほど強張っていた。

(やっぱり敦賀さんに何かあったんだ)

空気中の酸素濃度が一気に下がったのだろうか、息が苦しい。


「蓮はさっき意識をとり戻したけど…」

どこか不調を訴えたのだろうか、まさか役者人生に左右するようなことでは…
様々な憶測が頭の中を駆け巡るが、社から聞かされたのは全く想定してなかった事だった。

「記憶が無いんだ」
「へ?」

あまりに想定していなかったので、言葉の意味を脳が変換してくれない。

「記憶がないんだよ。社長のことも俺のことも…自分が何者なのかも分からないんだ…」
「そんな…」
「先生は事故後の一時的なもののかもしれないって仰っていたけど」
「そうですよ!ちょっと混乱してるだけですよ」

何より自分がその可能性にすがりたいキョーコの訴えに社は弱々しく微笑んだ

「そうだよね。弱気になっちゃダメだよな。蓮に警戒しきった眼で見られたのが堪えたみたいだ。」

蓮には色々謎がある。それでも2人の間には強い信頼関係があるとキョーコは思う。だからこそ社は蓮にそんな視線を送られたのがショックなのだろう。

「せっかく見舞いにきてくれたのにキョーコちゃんに嫌な思いさせちゃうかも。ごめんね」
「そんなことは気にしないで下さい。」

それじゃあと病室に向かう社の後に続きながら、キョーコは人には分からぬように唇をかむ。
胸の奥深くで蓮に懸想している身には忘れ去られるのは辛い。そもそもこんな近い距離にいられるのは、蓮がまだ役者として至らないキョーコの事を気にかけてくれるからだ。それがなかったら立場が違う2人が話すことさえ難しいだろう。

病室のドアを開けるとそこは応接の為の小振りの部屋で、社は足早にそこを抜けて次のドアに手をかけた

「失礼します」

おう入れ、と社長の声が応えるとドアが開かれ、社の背中越しに部屋の様子がうかがえた

脇に座るローリィから何か話しかけられている蓮は、どこか不安げな様子でベットの上で座っている。少し離れていつもの執事。
蓮が下げていた視線をこちらに向けた。
社を捉えた眼は暗く表情は硬いままだ。そしてそのまま視線は横にずれて…キョーコを捉えた。

「最上さん」

形よい口は確かにそう言って、神々しくも甘やかに破顔した


「蓮!」
「思い出したのか!?」

ローリィと社が口々に問いかけると、蓮は今一度部屋にいるものすべてを見回してから首を横に振った。

「じゃあ最上くんとはどういった関係だ?」

ローリィに再度問われて、じっとキョーコを見たがやはり首を振る。

「分かりません…。でも彼女が最上さんだってことは分かります。」

いつの間にか執事が呼んだのだろう、医師から入室する旨が告げられた。ローリィは入ってきた医師と2、3言葉を交わすと立ち上がりキョーコに告げる。

「診察の間は隣に行ってる。最上くんは蓮に着いてやってくれ」

まだ状況が理解できないが社長に言われれば頷くしかない。キョーコは邪魔にならないよう医師の後方に立って、診察の様子を見守った。

(名前と顔が一致するだけだけど…覚えててくれた)

しかもキョーコだけ。その事実に不謹慎ながらも胸がときめくのを押さえられない。せめて表情に出ないようにと俯いていると視線を感じた。
顔を上げると、不安げな蓮がこちらを見詰めている。

(いけない!。こんな私でも今は敦賀さんにとって頼みの綱なんだから)

自分のことばかりかまけていた事を反省し、にこりと笑って見せると蓮が安心したように微笑んだ
キョーコが立っているせいで上目遣いのそれは…

(っ!なんだか…なんだか…滅茶苦茶可愛いんですけど!)

真っ赤になったキョーコは身悶えするのを押さえるので精一杯だった。

*
*

「今晩はこちらで様子を見て、特に問題なければ明日から2日自宅で静養させることにしたよ」
「ええっ大丈夫なんですか?」
「うん…それでね…」

社の説明を聞きながら、キョーコは病室に続くドアをちらりと見た。
診察が終わるとローリィと代わるようにキョーコはこの隣室に呼び出された。それを見送った蓮の捨犬のような哀しげな顔がちらついて落ち着かない。

「キョーコちゃん?」
「は、はいっ」
「テスト中で本当に申し訳ないんだけど空いてる時間蓮に付いてもらえないかな?やっぱり知っている人が傍にいてくれると安心すると思うんだよね」
「は、はいっ!喜んで!」
「ごめんね。今日から進級テストなんでしょ?何日あるの?」
「後3日です。でも大丈夫です」

両手を顔の前でブンブン振って社の言葉を否定する

「それと…すいません」
「何が?」
「敦賀さんが覚えてていたのが私じゃなければもっとスムーズに…」
「いやいや、何言ってるの。キョーコちゃんだけ覚えてるなんて流石だよ」
「…それは…敦賀さんが記憶を失ってまでも覚えているくらい私を細胞レベルで嫌いってことでしょうか?」
「え?なんでそうなるの?違うから!嫌ってないから!」

社が必死に否定する。

とにもかくにも明日からの2日間、学校以外は蓮の傍に居ることが決まった。




(中編に続く)
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Re: 記憶喪失シリーズ

>○○コ様
初コメント有難うございます!
読んでくださる方がこうしていらっしゃるんだなあ…と実感できて幸せです。
こんなに記憶喪失ネタばかり投下して私の頭は大丈夫なのかと自分で心配になっていたので「楽しんでくれてる人いるし」と開き直れそうです(笑)
「賭けの勝敗」とは随分違うテイストに仕上がっていますが、お楽しみいただけたら嬉しいです。

2015/02/18 (Wed) 17:05 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2015/02/17 (Tue) 22:37 | # | | 編集 | 返信

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