2015_02
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(Tue)11:55

君の名前を呼ぶ時は-中編(記憶喪失の為の習作4)

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2015/2/24

■君の名前を呼ぶ時は-中編(記憶喪失の為の習作4)



翌日、キョーコが学校を終えマンションに向かうと、玄関まで蓮が出迎えてくれた。

「敦賀さん、おはようございます。何時頃退院されたんですか?」
「朝イチに診察してもらって10時過ぎだったかな?あ、それ俺が持つよ」

ひょいとキョーコの手から鞄を取ると、その重さに申し訳なさげに眉が下がる

「ごめんね。俺のために。テスト中なのに泊まり込みまでさせて」
「そんな!気にしないで下さい。社長が送迎の車まで用意して下さいましたし」

蓮のマンションの廊下でこんな風に話していると、記憶が無いなんて嘘のようだ。
けれどリビングで待っていた社へ向ける視線は明らかに違う。昨日ほどではないが、やはり“知らない人”への警戒心が滲んでいる。
だが、昨日とは違い、社はその視線を気にしてはいないようだ。

「キョーコちゃん、お疲れ様。試験どうだった?」
「なんとか今日のは乗り切れた感じです。マンションにマスコミ張り付いてるかと思ったのに全然いないんですね」
「テストだからテレビ観てないんだ?公式には社長の自宅で静養ってことになってるんだよ」

そんな2人のやりとりを蓮が少し不機嫌に眺めていることに気付く。

「敦賀さん、どうかしましたか?」
「いや…お茶入れてくるよ」
「すぐお昼作りますよ?」
「一息入れてからにしなよ。キョーコちゃん。蓮、俺はもう帰るからお茶はいらないよ」

そう朗らかに告げる社に蓮は頷いてキッチンに向かった

「社さんもお昼食べていって下さい」

もう1時近い、蓮と違って正常に空腹神経が働いている社はお腹がすいているだろうにと、キョーコは首をかしげた。
社はキッチンの方に視線を向けた後、小声で告げる。

「蓮の奴、知らない野郎と二人きりで相当ストレス溜まってると思うから退散するよ。この部屋の簡単な説明はしたしさ。昨夜キョーコちゃんが帰ってきてからはすごく落ち込んでたし、マンションにきてからはキョーコちゃんがいつ来るのかってしょっしゅう時計を気にしてたし」

ニヤニヤと楽しそうな顔は自販機前で見たものとは180度違う。そんなキョーコの戸惑いに気付いた社は昨日は心配かけてごめんね、と笑った。

「キョーコちゃんの事覚えてるなら蓮は大丈夫だって思えてさ」
「はあ…」

何がどう大丈夫なのかさっぱり分からないが、社が明るくなるのはいいことだ。


社が部屋を出て、キョーコはお茶を飲みながら蓮の話を聞いた。
検査の結果に問題はなく、あまり無理をして思い出そうとはしないで日常生活を送るように医師から言われたらしい。
そうは言ってもスケジュールは詰まっている中での事故だ。特にこれといった外傷もない状態では静養期間は2日取るのが精一杯で、明後日からはセーブしながらも仕事が入っているのだ。
蓮が記憶を失っていることは公表しない方針なので当面の仕事に必要な知識と情報は頭に入れなくてはならない。

「2日間でですか…?」

今日明日で俳優敦賀蓮として振る舞えるようにならなくてはいけないなんて

「やっぱり社さんに戻ってきてもらった方が…」
「口頭で伝えなきゃいけないことは教えてくれたみたいだよ。後は資料とDVDをまとめてくれてる。優秀な人なんだね」

差し出された資料には、蓮の最近の仕事とそれに関わる人の情報が写真も添付されて分かりやすく纏められている。分厚いそれを作るのに社は昨夜睡眠時間を随分と削ったはずだ

「凄い…。これがあれば敦賀さんお一人でも明後日からの準備できますね。敦賀さんに何かあったらいけませんから、私が高校に行っている間は社さんにきてもらうことになってますけど、少しでも社さんも休めたらいいと思いますし」
「うん。それに俺も出来るなら最上さんと二人きりがいいし」
「なっ!」

手にしていたカップを乱暴に置いてキョーコは立ち上がる。身体中の熱が一気に顔に集まったかのようだ。

「な、何言ってるんですか!わわわ…私、お昼作ってきます。パスタでいいですよね?」

返事を聞かずにキッチンに逃げ込んで、事前に頼んでいた食材を保冷ケースから冷蔵庫に移しながらも、なかなか熱は治まらない。

(いや、違うから!知らない人だと疲れるからって意味だから!)

必死に自分に言い聞かせるが、その甲斐もなく顔の弛みが止められなくてどんどんアホ面になっていく。記憶を失っても天然タラ紳士は変わらないのだ

冷蔵庫を閉めたところで、視線を感じた。
恐る恐る斜め後方を振り返ると、キッチンの入り口で蓮が腕を組んでこちらを見ている。
今度は一気に血の気が引いた。

「な!ななななな…何でございましょう!?」
「いや、キッチンの使い方とか」
(ぎゃーっ!絶対アホ面見られたっ)

叫びだしたい気持ちを押さえ、(私は女優)と心の中で3回唱えた後にこりと笑う。

「分かりますから大丈夫ですよ。あ、そこの釣り戸棚下げてもらって深めの鍋出してもらえますか?」
「ここ?」
「そうです」

鍋を下ろしてくれた蓮をリビングに押し返し、流しによりかかり軽く息を吐いた。

(なんて心臓に悪い…)

だが、どんなに心臓に悪くて、例え寿命が縮まろうが想い人を独占できる時間は楽しい
しかも相手は超人気俳優、こんなにゆったり過ごせること事態がまずない

二人きりの世界は居心地がよかった。
沢山話をしながらの食事の後は2人で片付けをし、キョーコが試験勉強をする傍らで蓮はヘッドフォンをつけてDVDを観たり資料に目を通す
時折、蓮から共演者や内容について質問があって、キョーコも数学や英語を教えてもらった
一息つこうと蓮が煎れてくれた珈琲は記憶を失う前と同じ味で、それを告げると柔らかに微笑まれた


「やっぱり…不安ですよね?」

そう尋ねたのは記憶が戻らないまま静養期間が終わる夜の事だ。蓮は明日のCM撮影から仕事を再開させることになっている
食後のコーヒーを飲んでいた蓮は、カップから口を少し離し暫く考える素振りを見せた後ソーサーに戻した

「ないわけじゃないよ。実際事故のあった夜は不安に押し潰されそうだった。若手人気俳優なんて言われたから尚更ね」

テレビをつければ自分の事が取り上げられ、街頭インタビューでマイクを向けられた人々が口々に容態を心配する
本当に自分はそんなに大層に取り上げられる程の人物なのか?このまま記憶が戻らなくてもやっていけるのか?
まるで天も地もない暗闇に放り出されたような…

「だけど最上さんと二人でいたら、記憶が無いことを忘れる位居心地が良くて安心出来るんだ。なんか…深いと思っていた海で足がついた感じかな?」

そう思えたら自分の今の状況が冷静に見えてくる。
特殊な業界用語や進行の流れもすんなり理解出来るし、次のドラマの企画書を読めば面白そうだ演ってみたいとそう思う。
自分はこの業界で生きていたんだ、そう実感できる。

「何より最上さんを覚えてる、二人の時は記憶無いことを忘れる位普通に過ごせるってことは断片は掴めてる。そう思えるんだ」

勘違いしてはいけないのだと、キョーコはこの2日間で何度も言い聞かせた言葉を脳内で復唱する。
キョーコがいるからとも聞こえるのは、記憶を取り戻す手掛かりがキョーコしかいないからであって…溺れるものは藁をも掴む、と言うではないか。
けれど胸に沸き上がる甘い喜びは抑えようがなくて声が震える。

「…お役に立ててよかったです。」
「最上さんも明日は試験最終日だよね。頑張って」

すっと伸びた蓮の手が優しくキョーコの頭をなぜる。
この時間がもっと続けばいい…そう思う自分はなんと先輩不孝者なのだろう

*
*

試験最終日のその日は午後の授業もあり、蓮のマンションについたのは夕方5時近くだった。

「お疲れ様」

仕事がCM撮影のみだった蓮が玄関まで出迎えてくれる

「無事終わった?」
「はい、2教科ほど答案返ってきたんですけど大丈夫でした」
「あれだけしっかり準備してたんだから全部大丈夫だよ」
「敦賀さんは…」
「大丈夫。社さんに違和感無いって誉められたから。撮影の前に受けた診察も問題ないって」
「そうですか。よかったー」
「記憶は戻ってないけどね」

おどけて笑う蓮にキョーコはガッツポーズをしてみせる

「CM撮影だってスムーズにこなせたんですよ?身体はしっかり覚えてるってことです!それに例え長期戦になろうとも社さん達スタッフのサポートは万全なんですから安心して下さい」
「最上さんもサポートしてくれる?」
「勿論です!…と言っても、明日から3日間はお傍にいられませんけど」

キョーコはロケで東京を離れなくてはならない。
蓮は明日は早くからアルマンディの撮影、夕方からはトーク番組の収録、そして明後日からはドラマの撮影と活動を本格化させる。今日とは比べ物にならないスケジュールの過密さと、トークやドラマ等の記憶がない蓮には不安要素が多い仕事だけに傍にいたいと言うのに。

無念げに俯くキョーコの頭を蓮の手が優しくなぜる

「仕事なんだから仕方ないよ。。ロケから帰ってきたらまた来てくれる?」

はい、と顔をあげると、蓮の優しい笑顔は思ったよりも間近にあって、頭を撫でていた手がキョーコの前髪をかきあげた。

ちゅ

額に触れた何かあたたかいものが小さな音をたてながら離れて、初めて額に口付けされたのだと気付いた。

「なっ!」

キョーコは今蓮の唇が触れていた場所を手で覆った。次の言葉が続かずハクハクと音の伴わない息が漏れる。

「顔真っ赤だ。可愛いね」

蓮は実に楽しそうだ。

「初々しくていいけど、俺達こういうのもまだだったの?」

まだだった?
謎の言葉にハクハクのハの所で固まる。
蓮はそんなキョーコの様子を暫く眺めたあと、やれやれ仕方ない、といった様子で告げた。

「もう隠さなくてもいいよ。俺達付き合っていたんだろ?」



(後編に続く)





誰も気に留めていないでしょうが、天然タラ紳士は脱字ではなくわざとです。
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C.O.M.M.E.N.T

Re: 誤解するよね ;

> ゆうぼうず様
そうですよね。何も覚えてなかったらそう思えますよね?ご賛同いただけて嬉しいです。
敦賀さんはもう自信満々で発言したと思います(笑)

2015/02/26 (Thu) 13:29 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

誤解するよね ;

キョーコの献身ぶりと当たり前のように家のことを把握してる姿を見れば、蓮でなくとも その結論にたどり着きそう(^-^;
続き読みたい!!ってもがきながら読み終えました。次話を楽しみに待っておりますm(__)m

2015/02/26 (Thu) 08:43 | ゆうぼうず #- | URL | 編集 | 返信

Re: とても面白かった~!

>genki様
お久しぶりです。コメント有難うございます。
記憶がある敦賀さんは色々考えすぎなとこありますからね~(そこが面白んですけど)
今回は賭けの勝敗のようなことはなく心穏やかに読んでいただけると思います。後編もご期待に添えればいいのですが…。

2015/02/25 (Wed) 00:24 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

とても面白かった~!

こんばんは。久し振りコメントさせて頂いています。
お話がとても面白かったので、読み終わるなり続きを渇望しています。これだけ近い関係の二人、おつきあいしていない方がおかしい!!記憶喪失の蓮さま、あなたは記憶のあったときより、まともでございます。前回の記憶喪失のお話はやきもきしましたが、今回は紆余曲折はあるのか?とにかく、楽しみにしています。どうもありがとうございました。

2015/02/24 (Tue) 22:03 | genki #- | URL | 編集 | 返信

Re: 天然タラ紳士!2

>ponkichibay
こちらこそコメント有難うございます。
確かに記憶が戻ったときに憶えていたら赤面もんですね。
記憶と共にしがらみや学習能力からも解放されてますのでそりゃあもう積極的です。っていうより前向き?
こちらの習作はお馬鹿か辛気臭いかのどちらかに偏りがちでしたので、その中間を目指してみました~。

2015/02/24 (Tue) 17:27 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 天然タラ紳士!

>カレーリーフ様
お茶を吹き出さなくて何よりです(笑)
過去の罪もキョーコちゃんの過去もなーんにも憶えていませんからね。思いつくまま発言出来てます♪

2015/02/24 (Tue) 17:24 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

天然タラ紳士!2

更新ありがとうございます。

これは...記憶が戻った時に恥ずかしいパターンですね(笑)
キョコさんだけは覚えている。キッチンの鍋のある場所も知っている。
珈琲の味も知っている。まあそう思っても仕方ないかもしれないけれど
なんか積極的になってますよね?蓮様。天然タラ紳士の本領発揮ですか?

記憶喪失の為の習作シリーズどれもいいですが~ 賭けの勝敗は切なかったけど
こちらは楽しめてます。記憶喪失でもお互いだけを覚えている新しいパターンですよね!この関係のおかげで辛気臭く(←訂正/辛く)ならないんでしょうね
次回楽しみにお待ちしています

2015/02/24 (Tue) 15:00 | ponkichibay #- | URL | 編集 | 返信

天然タラ紳士!

〉天然タラ紳士
ランチの熱いお茶を吹き出しそうになりました
京子さんだけを覚えてるがそんな考えになってるとは。

このさい京子さん、タラサレてみて欲しいです!

2015/02/24 (Tue) 13:24 | カレーリーフ #- | URL | 編集 | 返信

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