2015_11
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(Thu)11:55

恋愛カタログ-2(ほんのわずか番外4)

4話だった話を3話にしようと思っているので(内容はほとんど変わっていません)切りどころが限定だったころと変わっています。


2015/3/11初稿、2015/11/12一部修正の上通常公開




美里の知っている“敦賀蓮”は根っからのフェミニストだった。
相手をいつも尊重したし、彼女の我儘にも文句ひとつ言わず付き合っていた。
それは一方で、受け身とも言えるわけで…。数々の過去の彼女達を不安にさせていた一因ともいえるだろう。

だが、彼は自分が為すべきことに関しては妥協を許さないところがあった。
学生時代は勉学。
そして社会人になってからは仕事。

それに関しては自分にも他人にも厳しい男だったと記憶している。



■恋愛カタログ-2(ほんのわずか番外4)
~ ほんのわずか2カ月後 ~




思わぬ人物から元彼の名前が出て動揺はしたものの、一応確認している間を作る。

「いえ、お部屋にはお戻りではないようです」
「そうですか…。」

女性は少し肩を落とす。

(部屋番号まで知ってるってことは…恋人よね。)

少し幼く見える可愛らしい姿は美里的には“男だったら彼女にしたい”感じだが、大人な美女揃いだった蓮の今までの彼女達とはタイプが随分違うけれど。

「お待ちになりますか?あちらのソファーもございますし、喫茶室でしたら…」
「その喫茶室閉店時間は…」
「バータイムに入っていますので大丈夫です。貴重品以外のお荷物でしたらフロントでお預かりいたしますよ?お連れ様がお帰りになりましたら喫茶室の者からお知らせできますし」
「それは助かります」

説明を一生懸命聞いてくれる姿に好感が持てる。

だからこそ残念だ。

蓮は仕事に真摯でその分自分にも他人にも厳しい。
オンとオフの境界線をきっちり分けるタイプだったので、仕事の領域に恋人とはいえズカズカと入り込まれるのを非常に嫌う。
確かリズの前の彼女は、大学の講義にまでべったりと付きまとったせいで珍しく蓮から振ったはずだった。

この彼女の来訪が約束されていたものならともかく、早く会いたいがための彼女の勇み足なら2人の関係にとってかなりの致命傷になるはずだ。

(せっかくうちのホテルに宿泊してくれるなら楽しい思い出作って欲しいのになあ。…大体こんな可愛い健気そうな子だったら、いくらイケメンでもあんな現実味のない男より似合いの人が沢山いると思うけど)

美里にとって蓮はパーティや勝負の時のとっておきのワンピースのような存在だった。
気分を華やいだものにしてくれて、キラキラやドキドキをくれる。それに合わせて自分のメイクもとっておき、靴も履き心地よりも見栄えを重視した細くて高いピンヒール。鞄だって髪形だってとっておきの特別。

でも毎日出来るものじゃない。
ちょっとその辺のお散歩に行くときの肌触りのいいコットンのワンピースとは違う、常に緊張感を持って隙のない美人であろうとしなければならない…そんな存在だった。
週に1度会うか会わないくらいだから1年続いた。誠実で一緒にいるときに尊重さえしてくれば蓮の気持ちを追求しなくてすんだ。自分が蓮を本当に好きかなんて深く考えずにすんだ。

だから“洗練された関係”でいられたのだ。

今、目の前で美里の説明を一生懸命聞いている、まるで小動物のような子にそんな無理はして欲しくないけれど…リズもいっていたあの悪魔のような男にどっぷりはまってしまったらそうはいかないのだろう。

(つくづく罪作りな男よね…)

そんな風に思っていたら…

「キョーコ!!!」

聞こえたのは、元彼から未だかつて聞いたことのない声。
そして未だ見たことのない勢いで彼女のもとに駆け付けた。

「来てくれたんだ?」
「金曜早く終わりそうだって言ったら、そのまま来てほしいって駄々をこねたの敦賀さんじゃないですか。」

(ダダ?何語だったっけ?)

あまりに不似合いな言葉に翻訳が追いつかない。
常に冷静で大人な男が?駄々?

「それはそうだけど、本当に来てくれると思わなくて…電話くれたら駅まで迎えに行ったのに」
「会食があったんでしょう?邪魔したくはありません。駅からリムジンバスも出てましたし」
「でも1人じゃ危ないじゃないか」
「駅前からリムジンバス乗ってホテルの正面玄関まで連れてきてくれるのに、どんな危ないことが起きるんです?ここはどんな危険地帯ですか。」
「でも変な男とかいるかもしれないし、もう暗いし…」

ブツブツと告げる言葉は小学生の娘の親のようだ。
この男はこんな過保護だっただろうか?

「とにかく荷物を部屋に置きに行こう。晩御飯は?」
「お弁当を車内で食べました」
「じゃあちょっと飲みに行く?疲れているだろうからホテルの中のバーとかは?」

勝とギスギスしているストレスが目に来ているのだろか?
超絶美形な上になにもかもがスマートなはずの元彼氏様が、ご主人様に会えた喜びで眼を輝かし尻尾を振りまくる犬になった幻覚が見える。

仮眠を挟みながらも明日の夕方まで勤務が続くのに、しょっぱなからこんなことで大丈夫かと、美里は誰も見ていないことを確認した後に目のツボをグリグリと押した。


*
*


翌朝6時

早朝ともいえる時間だがホテルのロビーは結構な人が行き交っている。
朝食前に軽く散歩をしようとする人、近くの山にトレッキングに向かう人、ホテルのランク的に年配の客が多い上に、夏の暑さを逃れて皆涼しいうちに行動しようと考えるのだろう。
人の流れに注意を払いながらも、美里は横に立つ同僚の能代に声をかけた

「ちょっと、辛気臭いオーラが出てるわよ。シャキッとしなさいよ」
「ほっといてくださいよ。婚約したてで幸せいっぱいの美里さんには俺のつらい気持ちはわかんないっすから」
「その喋り方やめなさいよね。だいたい能代君が勝手に舞い上がってただけでしょう?プロポーズするから星の綺麗な穴場スポット教えてくれっていうから、とっておき教えてあげたのに」
「俺は付き合ってるって思ってたんすよ…」
「顔で女を選ぶからよ。」
「隠れオタクの美里さんに言われたくないっす」
「だからやめなさいってその喋り方。大体私がオタクであんたに迷惑かけた?」
「あーいくら美人でも、オタクでこんなきっつい性格の美里さんと結婚しようとする大館主任の趣味がマジわかんない」

口元に笑みをたたえて正面を向いたまんま、能代の足をヒールで思いっきり踏んでやる。
「うげっ」と漏らしかけた声を抑えたことだけは褒めてやろう。
そうこうしているうちにフロント前の人の流れが途絶えた。

「ちょっと一息入れてくるね」
「了解っす」
「だからその話し方やめなさい」

トイレを出ると少し空腹を感じた。
チェックアウトの大波に備えて、裏で少し甘めの缶コーヒーでも飲んでおこうかと思いながらフロントに目を向けると、能代がお客様に何か説明している。
あれは…

(彼女よね?)

昨夜やってきた蓮の彼女、確か宿泊者カードに書かれた名前は「最上キョーコ」
地図を使って何やら説明を受けていたらしい。笑顔で礼を述べて、それを受けた能代の顔がデロンと崩れた。

(ほんと、惚れっぽいんだから)

フロントマンにあるまじき顔に後で厳重注意だと考えていると、歩いていくキョーコが腕にかけていたストールがふわりと落ちたが、気付かず裏口に向けて歩いていく。姿に似合わず結構な早足だ。
拾いに出ようとする能代を眼で制し、ストールを拾ってキョーコの後を追った。

「最上様」

キョーコには裏口を出て直ぐの中庭で追いついた。
自分の名前を呼ばれて、しゃがみこんで花壇の花を眺めていた顔がこちらをむく。

「ストールを落とされました」
「あ、すいません。ありがとうございます」

慌てて立ち上がったキョーコはぺこりと頭をさげる。その時チラリと見えたものに己の眼を疑うが営業スマイルをなんとか保った。

「いえ…まだ早いとはいえ日差しはありますし、朝は少し肌寒いですから、首元に巻かれたほうがよろしいかもしれませんね」

巻かないと、右肩後方にガッツリついているキスマークが見えてしまいます、とは言わずストールを巻くのを手伝ってやる。

服に微妙に隠れているがキョーコが俯いた時に見えるドギツイ独占欲。
当然相手は1人しかいないわけだが、美里の知るあの男はそんな執着を女性に向けるタイプではなかった。独占欲を刻む様な行為は、される側ではあっても自ら進んでなんてことはなかったはずだ。
だが、つけられている本人からは分かりにくい場所に咲く赤い花は、確実に男の意図を感じる。

「はい…よくお似合いでございます。素敵な柄ですね」
「有難うございます。そっか、こうして巻けば落ちにくいしお洒落ですね。」
「これからお散歩ですか?」
「はい、朝食前に少しフラフラと。フロントの方に教えていただいた小川に行ってみようかと思って」

キョーコが告げた場所に美里は少し眉を寄せた

「そこは往復と散策となると最低でも2時間はかかります。朝食後にもう少し準備をされてからお出かけになった方がよろしいかと」

能代め、まだまだ配慮が足りない。帰ったら教育的指導だ。

「え、そうなんですか?地図見たら近いのかと…すいません。私がはっきり希望を伝えなかったから…」
「いえ、この時間にお一人で聞きに来られたのですからこちらがもう少し配慮すべきでした。申し訳ありません。どこか別の場所をご案内しましょうか?」
「いえ、朝食食べてから出直します。ホテルのお庭だけでも朝は充分楽しめそうですし…。それと昨夜はすいません。急に部屋に1人追加となってしまって」
「もともとダブルのお部屋ですから。お気になさらないでください。快適にお過ごしいただけたら何よりです。」
「…それにフロント前で少し騒がしかったかなあと」

ああ、と昨夜の犬っころのような蓮を思い出す。もしかしたらあの時吃驚が顔に出てしまっていたかもしれない。

「いえ、騒がしくはございませんでしたよ。」
「会社ではもっと落ち着いてるんですけど…。」
「同じ会社にお勤めなんですね」
「隣の部署なんです」

さりげない返事を心掛けながらも内心驚愕する。

(社内恋愛!しかも隣の部署!あの男が!?面倒を避けるために身近な女性との交際はしなかったはずなのに?)

その時、キョーコの携帯が鳴った。

「おはようございます。え?今?中庭ですけど…」

すぐに電話は切れたようだ。

「お連れ様でございますか?」
「はい。そこで待ってろって」

そうこうしているうちに瞬間移動したのか?というスピードで蓮は走ってきた。

「ど?どうしたんです?そんなに慌てて」
「キョーコがいないから吃驚したんだよ。なんでこんな所に?」
「え?目が覚めちゃったので朝の散歩に」
「起こしてくれたらよかったのに」
「敦賀さんお仕事でお疲れだろうと思って…テーブルにメモ置いときましたよ?」
「横にいると思ってたキョーコが消えてるんだよ?そんなの見る余裕なかった」

ホテルウーマンとしては2人を置いてフェードアウトしていくべきだろう。
だが、美里は目が離せなかった。
だって…だって…

(この男、誰―っ!?)

顏だけ洗って慌てて出てきたのだろう、髪には寝癖がついているし、羽織っているパーカーのフードはねじれているし、あろうことか髭も剃っていない。
いつカタログ撮影があっても大丈夫な完璧男はどこに逃亡したのだろう?

「せっかくホテルに泊まっているのに朝目覚めた時にいてくれないなんて」
「あ、いや、そのですね…」
「おはようのキスもしてくれないんだ?」
「ふぎゃ!!!朝の爽やかな空気の中で何言っているんですか!」

捨てられた子犬のように甘えながらも、夜の顔をチラつかせて彼女にセクハラをしかけようとする男、美里が知っている敦賀蓮とは全く別人のような男


美里は確信した。

元彼はどうやら宇宙人に連れ去られて首にチップを埋め込まれたらしい。




(3に続く)
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コメント

Re: タイトルなし

>まみこ様
元カノ様にしてみたら、あまりにもありえなくて怖いもの見たさについつい目がいちゃう状況ですかね?(笑)
人間味が出て惚れ直し!!!四角関係になってしまいます(敦賀さんは華麗にスルーしそうですが…)

2015/03/12 (Thu) 23:04 | ちょび | 編集 | 返信

蓮様かわいいな・・・しっぽブンブン振っちゃってるんでしょうね。

元カノ様にして見たら未練が無いとはいえ、納得と言うか・・受け入れがたい事実だったことでしょう。

完璧超人だった筈の元彼がおバカさんみたいになっちゃって・・・人間味が出て惚れ直しちゃったりは


・・・・・・・・しないでしょうね。

2015/03/12 (Thu) 18:49 | まみこ | 編集 | 返信

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