2015_02
19
(Thu)11:55

強く欲するモノ(2)

1年前のお話って短いんですよね…
前が簡潔すぎるのか、今がダラダラしすぎているのか…。


2014/3/18初稿 2014/9/9一部修正、2015/2/19加筆修正


不快な音の発生源はカーラジオからだ。
流れていくビル群の灯りをなんとはなしに眺めていた蓮は、チラリと運転席の方に視線を向けた。
30代と思われるタクシー運転手はこの曲がお気に入りなのだろう。微かにだがハンドルを持つ手がリズムを取っている。
大した音量でもないものを消す様に命じるなど、敦賀蓮らしからぬ行動だ。

蓮はあきらめて視線を再び外の景色に向けた。



■強く欲するモノ(2)



エントランスをくぐりぬけ、マンションのエレベーターとともに蓮の機嫌も上昇していく。
玄関のインターフォンを鳴らす頃にはすっかり先程の不快音の事は忘れていた。

「おかえりなさいっ」

出迎えたキョーコに触れるだけのキスをして強く抱きしめると、自分の中の強張った部分がほぐされ柔らかになっていく。

「今日は早いんだね」
「後はCM撮るのが1本と、今演ってるドラマだけですから。敦賀さんもサンライズテレビのお偉いさんと会食だった割に早かったですね。ちゃんと食べました?」
「信用ないな。仕事だしちゃんと食べたよ。和食だった」
「あれ?最近お仕事の食事、ほとんど和食じゃありませんか?」
「しばらく海外生活続くから気を使われてるんじゃないかな?」

蓮は1年ほど前から海外での映画に2本ほど出てきた。
そして今回主役ではないがキーパーソンを演じることになり、しばらくアメリカに拠点を移すことにしたのだ。

「日本での披露宴やりましょうよ。生中継させてくださいってずいぶん粘られたよ」

2人はキョーコの20歳の誕生日である12月25日にアメリカで挙式する予定だ。
キョーコはその準備の為、まもなく2か月の休養に入る。その後は仕事量をセーブしながら日本とアメリカを行き来することになる。

「日本でもそのうちお披露目パーティ位出来たらいいですね」

そうなると社長が派手に盛り上げてくれそうで怖いです。そう言いながらお茶をテーブルに並べキョーコはソファーに座った。
その肩を抱き寄せる。

「…ごめん。キョーコ」
「何がです?」
「式。俺のせいでアメリカでやることになって」

蓮はまだ自分のバックグランドを公表していない。
そうなると、どこに婚姻届を出すのかとマスコミに追われたら困る訳で…

「日本で挙げるのなら、もっといろんな人に祝福してもらえただろ?」
「そんなことですか。いいんですよ。絶対来てほしい人は参列してくださるんですから。それに先生と一緒の教会ですよ?素敵じゃないですか!」

式は近親者だけ、かつてクーとジュリが結ばれた教会で挙げることになっている。

「お二人は出れないのが残念ですけど」

出自を公表していない以上、クーとジュリエナは参列できないわけで…しゅんとしたキョーコに蓮は笑った。

「たぶん、あっちはあきらめてないよ。」

結婚の報告をした時妙にあっさり引き下がった。あっさりすぎてかえって怪しいほどに。

「式当日に俺の親戚を名乗る怪しい夫婦が現れるかもしれない。だるまやのご夫婦がびっくりしないように、あんまり奇抜なことはするなって釘を刺しとかないと」

それを聞くとキョーコは花のように笑った。

*
*


肩に少し重みが加わった
蓮が台本から顔をあげると、キョーコはベールを縫いながら眠りの神様に呼ばれたらしい。蓮の肩によりかかりすやすやと安らかな寝息を立てている。
2か月休業のためにキョーコのスケジュールは現在かなり詰まっている。
今日は本当に久しぶりに早い時間に帰ってこれたのに、家事やらベール作りやら大回転だ。

「すぐ無理をするんだから」

蓮は苦笑すると、ベールと針を取り上げテーブルに置くと、肩にあったキョーコの頭をその胸に抱きとめ、髪に顔を埋める

こみあげてくる愛おしさ
蓮に幸せをくれる大事な大事な人


甘やかで優しい存在が胸にある幸せに酔っていた蓮の耳に、不快な名前がテレビから聞こえてきた。

『不破さん、新曲絶好調ですね。聞くたびに切なくなって…私も大好きです!』
『有難うございます』

そういえば会食の折お偉いさんたちが言っていた。今日はサンライズテレビ年に一度の歌謡祭だと。
どうやら生中継らしい。
せっかく幸せに浸っているというのにあの曲を聞かされるのはたまらない。蓮はテレビの電源を落とそうとリモコンに手を伸ばした。

『この曲はなにかモデルとされた方とかいらっしゃるんですか?』

蓮の手が止まる。

『ええ、俺と幼馴染ですよ』

テレビの向こうでは『ええっ不破さんご自身ですか!?』と興奮する司会者の声

蓮は呆然と画面を見つめ…つぶやいた。

「何言って…」

おそらく蓮への軽い嫌がらせを込めて軽い気持ちで話しているのだろう。だが、このネット社会、その“幼馴染”が“京子”であることはあっという間に明らかにされてしまう。
そうなれば…

切ないほどの恋心、そして後悔を歌い上げた歌
それは不破尚と京子、そして蓮と言う実在の登場人物を得て、どういう物語として世間にとらえられるのか?
ただでさえ、京子は今“敦賀蓮と婚約した”話題の人だ。
一般人ではない以上マスコミの報道も遠慮ないものになる

テレビからは尚の歌声

聞くたびに不快にさせられていた曲
それは今、蓮をたまらなく不安にさせて…

この温もりが消えないよう。この幸せが奪われぬよう…腕の中のキョーコを、ただただ、抱きしめた。



(3に続く)
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