2015_05
12
(Tue)11:55

神と毒薬

拍手総数1111踏まれた方リクエストお受けしまーす。
リクエスト溜まってますけどね(笑)

本日はかなりくだらない話です。
題名…はええ、あの大作家様の名作からです。すいません。先生。

2015/5/12




蓮は眉をひそめた

恋人の部屋の玄関ドアが少し開いていて、そこから見える後ろ姿は彼女のものではない。
何かの訪問販売だろうか。マンションはオートロックだがそんなものはいくらでもすり抜ける方法はある。どうやら年配の女性のようだが、誰であろうと簡単に玄関を開けるなんて、可愛い恋人は相変わらず無防備だ。
お説教は後でするとして、しつこいようなら自分が出ていかねばと蓮は目深に帽子をかぶり直し、声が聞こえるギリギリの所に控えた。


■神と毒薬



訪問販売ではなく、女性は自分の信ずる神の教えを熱心に説いている。
あまりに長く続くそれに痺れを切らした蓮が一歩踏み出そうとした時、一瞬話が途切れ、キョーコの丁寧だが明確な断りが聞こえた。

「熱心にお話し戴いているのに申し訳ありませんが、私には既に信ずる神がおりますので、貴女と信仰を共にすることが出来ません」
「まあ…」

残念そうに、でもどこか疑わしげに女性が問うた。

「どちらを信仰されてるのか伺ってもよろしいかしら?」
「敦賀教です!」
「えっ…つる?」
「敦賀教です!!」
「…え…っと、ごめんなさい、存じ上げないんだけどそれはどんな…」
「演技の道を志すものにとっての神!敦賀蓮を信仰しています!彼はその容姿に目が行きがちですがその演技力、もはや演技道ともいえる崇高なる精神にこそ注目すべきでしょう!…ああ勿論容姿も素晴らしいのです。神の申し子とも言うべき造形美ですからね。顔についてはもう語るまでもありませんか?あの宝石のような瞳!時には情熱の炎を灯し、時には鋭利な刃物のように鋭く、時にはまるで春の日のように暖かい光をまとうあの眼はそれだけで小宇宙といって差し支えないでしょう。世界一の美女でさえ羨ましがるような睫毛まで備わって!その上に知性と品格をもって存在する眉毛。殆ど自然のままであの美しさです!なんとまあ奇跡!あれがほんの少し下がったり上がったりするだけで様々な表情を生み出すのです!鼻は高いだけではありません!あの鼻梁の絶妙なバランス!あれこそ神の作りたもうたものだと表明していると思うのです。ほんの少しバランスが崩れれば全く違う印象の顔になっていたに違いないあの形を見るたびに私は日本の国造りの神話を思い出すのです。古事記によりますと…ああ、話がそれかけましたね!そしてあの口!口もあと少し大きかったり小さかったりしたらと思うと彼の存在自体が奇跡だと思いますよね?あの口から耳に心地よいセラピーヴォイスが発せられるのです。まさに神の作りし楽器!あのサラ艶な髪…あれを忘れてはいけませんね。一度触れてしまうと止まらなくなるあの感触はまさに麻薬。あれ程絹のようなという表現ぴったりくる感触はありません。そして皮膚!張りと弾力、そして艶やかさの絶妙のバランス!どうしてあのハードな生活であれが保てるのか…まさに神!彼に頬ずりされた人はもう天にも昇る気持ちです。万民にその機会があたえられるのであれば世界平和も夢ではないでしょう!あ、骨格の美しさについて語るのを忘れてはなりませんね。あのゆがみのない骨格はそれだけで芸術品です。理科室に飾る骨格標本はすべて彼のものにすべきです!そうすれば国民の美意識の向上も…」
「も、もう充分です!貴方の神の素晴らしさはよーくわかりました!」
「ええ?もうですか?まだ外見も内面的素晴らしさについても…」
「じゅーぶんです。充分でございますわ!どうぞ貴女の信じる道を進んで下さい」
「ありがとうございます!」
「では、私はこれで…」

そそくさと女性は玄関から出てくると、「危ない。危ないわ、あの子…」とブツブツ呟きながら足早にエレベーターに向かって歩いていく。己がすれ違った長身の男が今まさに熱く語られてた信仰の象徴とは気付きもせずに。

*
*

「で?」
「で?ってなんですか社さん」
「何?ノロケか?キョーコちゃんにこんなに想われてますって」
「どこがノロケなんですか?信仰の対象ですよ?」

付き合う前に天上人などと呼ばれていたのは知っている。だが付き合って1年以上、己の本名も過去も全て曝した上で深い関係にもなって、やがて結婚なんて文字までちらついている現在まで信仰の対象だなんて御免こうむりたい。
ぶちぶちと愚痴を呟くと、何やら書類を書き込みながら社が呆れたように言う。

「お前だって似たようなもんじゃないか」
「俺が?俺はキョーコを信仰の対象になんてしてませんよ。まあキョーコの美しさや可愛らしさは女神にも劣らぬ「はいはいはい、キョーコちゃん賛辞は聞きあきたから。」」

お前段々お父さんに似てくるよな、とゲンナリしたような顔で社は冷めたコーヒーを口にした。

「信者じゃないけど中毒じゃないか」
「中毒?」
「そう、最上キョーコ中毒症」
「俺は中毒とかそういうのじゃ」
「何言ってるんだよ。会えない期間が続くと禁断症状出るくせに」
「禁断症状なんて…」
「食欲不振、それに眠りが浅くなるよな」

ぐ、と言葉につまった。身に覚えがありまくる。

「でも…ちゃんと自己管理してますから」
「確かになー。睡眠対策としてはあの羊枕に、キョーコちゃんがつけてる香水ふりかけてるんだろ」

書類から顔をあげずに社が放った言葉に驚愕する。
もう随分くたびれたあの枕は最近は社の見ている前では使っていない筈なのに。

「なんで…」
「そりゃお前の傍にいれば移り香するし?時々羊さんの毛が鞄からのぞくことあるし?」
「…」
「食欲はキョーコちゃんの「召し上がれ」「お粗末でした」動画に助けられてるよな?」

「お前がスマホに向かってご馳走さまって言ってるのを目撃した時は心配したぞ」と告げられ周囲の確認は怠ったつもりはないのに目撃されていたことに臍をかむ。どうもキョーコが絡むと注意力が散漫になるようだ。
実は動画にはショートバージョンとは別に、「召し上がれ」から「ご馳走さま」までの食事の過程も含めたロングバージョンもあるのだが、わざわざ呆れられるネタを提供することはない。

「まあようするに狂信者と中毒患者、お前達は似た者同士ってことだよ。よかったじゃないか、お互いが唯一無二の存在で。両想い万歳だ」
「唯一無二はいいとして、その表現はどうかと…」

抗議の途中でドアがノックされ、失礼しますとかけられた声はキョーコのものだ
蓮の顔が一気に明るくなり、優雅ながらも弾む足取りでドアに向かうと恋人を招き入れた。

「今日はこの局での仕事ないんじゃなかった?」
「そうなんですけど、通り道だったもので、お弁当の差し入れを。今日てっぺん越えだって言ってましたよね?」
「うん。ありがとう。これで今日最後まで頑張れるよ」
「お弁当なんてなくても頑張るくせに何言ってるんですか」

お邪魔にならぬよう出て行くべく書類を素早く片付けながら、社はチラリと2人に目をやった
ドロリと甘い蜜が垂れそうな視線を向ける男と、気恥ずかしげにでも嬉しげにそれを受け止める女

(ほーら、やっぱりノロケじゃないか)

演技の世界では神やら信仰やらいいながら蓮の背中を追いかけていくキョーコと、追い付かせまいとする蓮の2人で切磋琢磨して
男女としては、中毒と言えるほど互いに執着して

ようするに公でも私でもガッチガチの絆で結ばれていると言うことだ。
それをまあ、ぶちぶちと…ノロケと言わずしてなんと言おう

社は時計を確認する。
昼休憩中の撮影のことを考えると逢瀬の制限時間は30分。その時間内で苦い苦いエスプレッソを飲みに行けるだろうか?無理だったら自動販売機のブラックで我慢するしかない。

ドアを開ける時振り返ると、キョーコの話に微笑みながら頷く蓮の姿が目にはいる。

(まあ…でも…神様教祖様ってのは当たってるかもな)

キョーコを前に幸せに笑み崩れる蓮には後光が差していると、今度教えてやろうと思いつつ社はドアをそっと閉めた。


(おしまい)




一番時間をかけたのは、キョーコちゃんの敦賀の神賛辞。
しょーもなくてすいません。
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