2016_05
04
(Wed)11:55

抹消スイッチ-前編(ほんのわずか番外7)

アンケートの内容消化まであと2つ!という訳で本日もほんのわずかの番外です。
アンケートってなんだっけ?と思った方気にしないでください!私の自己満足ですから(笑)

2015/5/15




「不破さんって最上さんとヨリ戻したいって思っているんでしょ?」

背後から聞こえた女子社員の笑いを含んだ声に、蓮は焼酎を吹き出しそうになった。



■抹消スイッチ-前編(ほんのわずか番外7)
   ~ほんのわずか5カ月後~




10月に入って上半期の決算も終わり、一息ついたところで開かれたかつて仕事を教えてくれた熟年の営業マンの送別会
主役が蓮を隣に指名してくれたお蔭で、今回は女子社員からの「お注ぎします」攻撃から守られ正直ほっとしていたし、宴が始まった当初は主役に挨拶しにくる者でせわしなかった大部屋も終盤となってそれぞれの席に落ち着いていた。

「どうした?敦賀君?」
「いえ…この焼酎美味しいですね」
「そうだろう?鹿児島の黒糖焼酎なんだけど、俺はこれが一番好きだなあ」

主役の年齢上こちらは蓮以外は部長の松島をはじめ熟年の営業マンが占めている。先程の声が聞こえてきた蓮の後ろのテーブルにはショータロー、石橋光、三沢をはじめとした若手の男女、そして営業部の母と呼ばれる飯塚。
主役や松島たちの話に相槌を打ちながら、蓮は背後で盛り上がる話に耳を澄ました。

「いや、俺は別に…」
「ええ~?ばれてないと思ってるの?見え見えですよね?飯塚さん」
「そうね。あれだけ強引に自分の仕事にキョーコさん絡ませてたらバレバレね」
「もはや雑用って仕事までキョーコさんに手伝わせて、ある意味営業妨害ですよ」
「それはたまたまだよ。うっせーな!三沢!」

(…やっぱりな…)

最近ショータローがキョーコの回りをウロウロしているように感じていたし、なんだか物言いたげに視線を送っていることも多い。当のキョーコは全く気付いていないようだが。
ショータローは否定しているが、同じテーブルのメンバーの意見は一致した様で皆がそれぞれに根拠となる目撃談を報告し合っている。
暫くして、黙っていた石橋光が「だけどさ」と声をあげた。相当酔っているようだ。

「流石に無理じゃないかな?あんなこと言っといてヨリ戻すのは」
「あんなことってなんですか?石橋さん。俺は別に…」
「百瀬さん達に言ってたじゃないか、キョーコちゃんがつまんないとか重いとか、結婚して欲しいってオーラが浅ましいとか。キョーコちゃん、たまたまあの時ドアの前にいて聞いてたんだぞ」

え、とショータローが絶句した。三沢や女子社員から「最低~!」とブーイング

「いや…あれは言葉のあやというか…」
「私聞きましたよー。不破さん、その直後に百瀬さんに振られたんですよね。『仕事相手として一目置いている最上さんをそんな風に言う人とはプライベートではお付き合いできません』って」
「な、なんで…」
「えー?女子社員の情報網なめないで下さいよー。不破さんも社内恋愛するならもっと上手くやらないと」

酔っ払い達がケラケラと笑う。
蓮は焼酎の中の氷を揺らしながら、恋人にこのことを教えるべきか考えてた。キョーコも百瀬逸美のことは一目置いているようだったし喜ぶかもしれないが、自分のことが噂になっていたというのは凹んでしまうかもしれない。

「まあ、あきらめなさい。不破君。キョーコさんにはお付き合いしている人いるみたいだし」
「そうそう。」
「は?」
「ええ?そうなの?」
「石橋君も不破君も鈍いわねー」
「そうそう。綺麗になったし、いつもつけているあのネックレス、アルマンディのアメリカ限定モデルよね。“永遠の愛を誓うのは薬指だけとは限らない”とかいうフレーズのシリーズでかなりお高いやつ。あんなの贈る相手ってことはかなり本気ってことよー」

贈った相手には全く気付かれず、ギャラリーにはその意図が明確に伝わるなんて…なんだか微妙な気分で蓮は焼酎のグラスを口に運んだ。

「そうよねー。キョーコちゃんもいつもつけているもんね。あ、でも喧嘩でもしてたのか一時だけ外してたよね」
「そんなことあったね~。」
「いや、でも…あいつはガキで…どうせ結婚とかもおとぎ話みたいに…」

ショータローの小さな声に、やっだー!!!と妙にオバサンくさい口調で女子社員が笑う。どういう訳か三沢まで。

「キョーコちゃんって22?3?とりあえず大人よ?そんな訳ないじゃない!」
「不破さん、自分が手を出せなかったからって、みんながそうだって決めつけちゃだめですよ」
「あのネックレスつけるようになってからだって半年位になるわよ?大人の関係に決まってるじゃない!」
「な、なんでそんなこと」

だってねーっ!と女子社員が同調する。

「キョーコちゃん隠してるつもりだろうけど、着替えの時に時々見えちゃうもの。すっごい濃い独占欲の印!」

ゴブッ!

「お、敦賀君。どうした?」
「…いや…すいません。焼酎がちょっと変なところに入ってむせました」
「なんだ珍しい。酔ったのかあ?」

キスマークのことについてはキョーコに怒られるので最近自重していたのだが、それでもなおチェックされているなんて…恐るべし女子社員のロッカー室。
こんなことがキョーコの耳に入ったら半月はお泊り禁止にされてしまう。
今日のことはお口にチャックだと心に決めた蓮の背中に、「嘘だろう?キョーコちゃんが?」と絶望的な声でブツブツつぶやく光の声が聞こえた。
ショータローは認めたくないのか弱弱しくも反論した。

「…もし…そうだとしても…アイツ自棄になってるんじゃないですかね。俺の百瀬さんへの言葉聞いて」
「そうきましたか。不破さん往生際悪いですねー。」
「ほんと、うっせーよ。三沢」

カララン

空になったグラスの中で氷がたてる涼やかな音に反して、蓮の中にはモヤモヤと薄黒いものが拡がって行った。

*
*

(当たらずとも遠からずってとこが腹が立つんだよな…)

主役にもう1軒付き合ってから別れた蓮は、まだ体の内で蜷局を巻く苛立ちを振り払うように前髪を掻き揚げた。

以前キョーコが言っていた。蓮のことを別世界の人間だと思っていたと、告白されても悪い冗談としか思えなかったかもと。きっとキョーコの言うとおりストレートに告白してもなかなか進展しなかっただろう2人の関係が一気に深いものになったのは、あの晩ショータローの言葉を聞いたキョーコが精神的にどん底で投げやりだったからなのは間違いない。

ショータローの現在の想いを知ってキョーコが揺らぐような付き合いはしていないつもりだし、たとえ揺らぎそうになってもなんとしてでも引き留めてみせる。
勿論ショータローのことは営業部員としてはちゃんと普通に接しているつもりだ。だが、ことキョーコのことに関してはその存在を彼女の中から抹殺したいと思う自分もいる訳で…

蓮は小さく息を吐いた後、ポケットからスマホを出すと時刻を確認した。もう0時近いので寝ているかもしれないとダメ元でかけた電話からは、6回程のコールの後「はい…」と小さな声がした。

「キョーコ?寝てた?」
『う……寝てました…けど、さっき布団に入った…ばっかりです』
「起こしてごめん。琴南さんとの食事楽しかった?」

キョーコの誤解を完全にとくべく社と奏江と食事をしたのは6月の中旬。
どういう訳かあの一匹狼の奏江とキョーコが気が合って、たびたび食事や買い物に出かけるようになった。なんだか自分との時間まで浸食されるような気がして社に愚痴ったら、心が狭いと説教されたのは先月のことだ。
キョーコは寝ぼけながらも、大豆料理の美味しいお店だったのだとかお酒をモー子さんが選んでくれたのだとか嬉しげに報告する。

『敦賀さんは送別会でしたよね。今までですか?』
「うん。2件目まで付き合って今解散したとこ。」
『そうですかぁ。お疲れ様です』

キョーコの声のトーンが眠りの神様とお話に行くそれに変わりつつある、蓮は急いで用件を述べた。

「今から行っていい?あ、寝ていてくれていいよ。勝手にシャワー浴びるし」
『う゛~良いですけど~。あ゛~コンビニでパンと牛乳買ってきてもらえますか?』
「分かった。どんなパン?」
『出来れば5枚切りの食パン…なければ6枚でもバターロールでも…』
「ん。分かった」
『あい…では…』


夜の早い老人たちが多く住む木造アパートは静まり返っていた。
冷蔵庫に牛乳を片付け、シャワーを手早く浴びるとベットに滑り込む。こちらに背を向けて熟睡するキョーコは夢うつつのままの電話のことは覚えていないに違いない。
2人で眠るには小さなベットでぴったり身を寄せると、窮屈なのかキョーコが身じろぎした。

「むぅ。敦賀さん……パンは5枚切りですよぉ…」

夢の中の話し相手が眠りの神様でもショータローでもない事に少し気分が浮上した蓮は、キョーコのパジャマを少し引っ張ると項と背中の境目辺りに吸い付いた。

「ぅん…」

キョーコの吐息に自分の熱が上がりそうになるが、なんとかこらえて唇を離す。そこに深紅の華が咲いたことを確認すると、ようやく安堵してキョーコを抱え直し、眠りについたのだった。


(中編に続く)
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Re: 番外編も面白いですね~

>genki様
有難うございます!なんだかもうダラダラ書いちゃってる感が自分の中で満載なので、楽しんでくださる方がいらっしゃるのだと思うと嬉しいです。
この敦賀さん目線の後はショータロー目線で書いてひとまずおしまいとしようと思っています。また思いついたら書くような気もしますが…

2015/05/16 (Sat) 02:27 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

番外編も面白いですね~

こんばんは。「ほんのわずか」は本編もそうでしたが、番外編もすごく楽しいですね!幸せな気持ちを抱き締めて眠る蓮さんが読む側にも暖かな気持ちをもたらしてくれました。色々な角度からプリズムを眺めたみたいな番外編、まだあるのかな、と楽しみにしています。どうもありがとうございました。

2015/05/15 (Fri) 23:10 | genki #- | URL | 編集 | 返信

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