2016_05
11
(Wed)11:55

抹消スイッチ-中編(ほんのわずか番外7)

2015/5/22公開、2016/5/11一部修正の上通常公開





「つぅ!敦賀さん!なんでぇ~!!!?」

予想通り、蓮は恋人の奇声によって目が覚めた。
このボリュームでは隣の夫婦どころかアパート中のご老人達に蓮が泊まったことが知れたに違いない。

「はいはい、大きな声を出さない。おはよう、キョーコ」
「おは…ようございます」
「はい、まずは携帯の通話記録みて?最後の記録と相手は?」
「昨夜23時42分…敦賀さん…です」
「そう。そんな訳でキョーコの了承済みです。ご希望の食パンと牛乳も買ってきてるよ。5枚スライスは無かったけどね」

キッチンに置かれた食パンを見て「本当だ」と呟くキョーコに、蓮は少し首をかしげて上目づかいで聞いた。

「急にきて迷惑だった?」
「いえ!全然!ちょっとびっくりしただけです。…そっか、だからなんだかいい夢見たような気がするんですね。」
「…」

(平日の朝でなければ…)

頬を染めてモニャラと呟く恋人を全くどうしてくれようと思いながら、蓮は顔を洗うべく立ち上がった。



■抹消スイッチ-中編(ほんのわずか番外7)
             ~ほんのわずか5カ月後~





「敦賀主任、この案件の現況なんですけど、このままでよろしいですか?」

キョーコの声に、報告書を作成していたPCの画面から蓮は顔を上げた。

「ああ…期央会議の資料か。ちょっと見せて」

夕方から役員達への資料作りに没頭していて気が付かなかったが、もう夜の8時近い。

「そうだな…内容はこれでいいけど時期的には一月ずらしてもらえる?市場の動向見極めての話だから」
「分かりました。あと…この案件は不破さんでいいですか?」
「うん不破君で合ってるよ。内容はそれでいいと思うけど一応確認して。ああ、でも今日は得意先の記念パーティ出席しているから帰ってこないな。明日朝はこっちだと思うけど」
「明日の午前中なら間に合いますから大丈夫です。有難うございました」
「いえいえ」

綺麗なお辞儀をして、キョーコは今度は光の席に近づいた。

「石橋さん。この案件…どうかしました?私の顔に何かついてますか?」
「あ…いや…なんでもないよ。何?おかしいところあった?」

蓮はデータを確認するふりをしてうつむき笑いをこらえた。昨日の今日だ。光はキョーコに色々聞きたいことがあるのだろう。
近くにいるとどうしてもキョーコの声に神経が行ってしまうが、明日はあちらこちらと走り回らないといけない。事務作業はなるべく今日ケリをつけて週末はゆっくりしたい。
さて、集中しようと再びPCの画面に視線を向けた時

「あ、松島部長、不破さん、お疲れ様です。直帰じゃなかったんですか?」
「三沢君お疲れ。あちらの課長に資料をいただいてな。家に持って帰るのもなんだからこっちに寄ったんだよ」

ショータローの姿を確認したキョーコが「お疲れ様です」と寄って行く

「不破さん、お疲れの所申し訳ありませんが、期央会議の資料なんですけど…」
「…ああ…何?」

(近いだろ…)

キョーコにピタリとくっついた状態で資料を覗き込むショータローの姿にまたイライラする。
思わずじっと見つめてしまったらしい。蓮の傍を通った松島に尋ねられた。

「敦賀君どうかしたのか?」
「あ…いえ、不破君結構酔ってるなあと思いまして。」
「ああ…あちらの女社長、若い営業マンに飲ませるの趣味みたいなもんだからなあ。不破君も相当飲まされてたよ」
「成程」

用事が済んだのだろう。キョーコは礼を言って席に戻り、暫し資料とにらめっこした後で立ち上がった。

「椹部長、ちょっと探したい書類あるので資料室行ってきますね」
「ああ」

資料作りが順調なのか、キョーコはご機嫌な様子で椹の後ろにある棚から鍵を取り出すとフ、ロアを出て行った。酔いのせいか眼光鋭くキョーコの姿を追っていたショータローも腰を上げる。

その姿に蓮は嫌な予感がした。ここは職場だ。だが、大半の社員は帰っており、特に資料室は一番奥まった場所にあって昼間でも人は近づかない。

ぎぃ
蓮は立ち上がると、何気ない様子で椹に声をかけた。

「すいません。ちょっと見せてもらいたいデータあるんですけど、最上さん帰りました?」
「最上君なら資料室だよ」
「丁度良かった。そこにあると思うんですよ。追いかけて出してもらいます」
「そうしてもらってくれ」

フロアを出ると足を早める。
ショータローの姿は見えない。キョーコを追いかけて行ったのだろうと疑惑が確信に変わる。

「…!!」

開いている資料室の扉から何やら声が聞こえ、蓮は駆け出した。

ドアをくぐり、段ボール箱が並ぶスチール棚の隙間から見えたのは、一番奥のスペースで、抵抗しもがくキョーコを抱きしめ首筋に顔を埋めるショータロー。

胸の中で蜷局を巻いていた黒い感情が一気に狂暴化したのが自分でも分かる。一刻も早く引き離すべく金属のドアを拳で叩こうとしたとき、キョーコがショータローを突き飛ばした。

「な、にするんですか!やめてください!!!」
「…キョーコ、お前…」

睨み合う2人に少しだけ冷静さを取り戻した蓮は、2歩ほど下がると声をあげた

「最上さん、いる?出して欲しい資料があるんだ。…不破君もここにいたのか。…どうかした?」
「つ、敦賀さん!い、いえ、何にも!」
「…ちょっと同期会の話してただけです。失礼します」

蓮の横をすり抜けて資料室を出て行ったショータローを見送って、その姿がフロアに入るのを確認するとドアを閉めた。

がちゃり

響いた金属音に、奥にいるキョーコがビクンと肩を揺らすのが見える。殊更ゆっくりとスチール棚にそって歩いてキョーコの前に立ち状況を確認する。
箱から資料を探していたのだろう、床には2,3冊のファイルが散らばり、何かを隠すように両腕を抱えるキョーコの服には抵抗した為か少し乱れがある。

その少しの乱れが気に障った。

無表情に見下ろされて怯えたのかキョーコが後ずさり、それに合わせて蓮が歩み寄る。
後ずさるといっても、もともと資料室の一番奥まった場所にいたのだ移動できるのはたかが知れている。キョーコはすぐに段ボール箱がぴっしりと並んだ棚に後進を阻まれ、観念したのか口を開いた。

「あ、あの…」
「…うん。見たよ」
「い、いきなりだったんです!私…」
「うん…嫌がって抵抗していたよね。分かってるよ。キョーコが悪くないことくらい」

その言葉に少しだけキョーコの肩の力が抜けたのが見えた。

「…でも消毒はしなくちゃな」
「え?」

分かっているのだ。何もキョーコが悪くないことくらい。だが昨日から、いやずっとどこかに潜んでいた感情が爆発する。


深い関係ではなかったにしろ、キョーコの中にあるショータローとの過去。
ショータローからの告白に頷いて、2人で出かけ、口付けを交わし、時には2人の未来を夢みたのだろうか?

それが微かにでもキョーコの中に残っているのなら抹消したい。徹底的に。

蓮はキョーコに手を伸ばした。


(後編に続く)


期待しちゃいけません!拙宅だからね!
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嫉妬で暴動な蓮がいいです

こんばんは。harunatsu7711です。
通常公開なのですね。楽しく再読いたしました。
蓮が嫉妬で暴動しそうなのがいいですね。
ぐぐっときます。

俳優の東出昌大さんが189cmの長身らしいく、テレビを観ていて、蓮もこんな感じかな、
と思ってしまいました。

人魚肉を食べたキョーコちゃんの続きも待ってますね!

2016/05/11 (Wed) 22:04 | harunatsu7711 #- | URL | 編集 | 返信

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