2015_05
26
(Tue)11:55

ヒドイヒト(中編)

カウンター20000HITのはるりん様からのリクエスト。
先週頂いたコメントに「次の火曜で終わります」とか書いといて…終わらなかった!
もうグダグダに長くてですね…1話であげるのは読んでて苦痛だったのです。

そんな訳で明日後編アップします!それはもう必ず!

2015/5/26




「マイナス10000点」

広告代理店のお偉いさんと挨拶を交わしたままの笑顔で社がバッサリと切り捨てた。

「何あれ?いくら大人びてに露出が多い恰好だったからって妙な悋気おこしてさ。露出といっても上品さを出ない範囲で“京子”の商品価値を高めるもんだったし、そもそもお前にそういう権利一切ないから。綺麗だねの一言もないのかよ?せっかくお洒落したのにキョーコちゃん傷ついたぞ?」
「まさかあんな大胆なドレスだなんて思いもよらなくて…」
「それであれ?敦賀蓮のアドリブ能力そんなもんかよ?」
「…すいません」
「ちゃんとフォローしろよ?せっかくの今までの努力が無駄になるぞ?」

分かっています。と蓮がつぶやいた。



■ヒドイヒト(中編)



自分を大人っぽく見せてくれる魔法のアイテムみたいに思っていたドレスの青がなんだか毒々しい。
向こうで囁き合っている人が自分の不釣り合いな格好を嗤っているように、挨拶を交わした人からの褒め言葉がまるで遠回しの嫌味のように聞こえてくる。
こんなものを着ていれば、蓮をちょっとは誘惑できるかもなんて…なんて愚かだったのだろう。

まだこの不細工な格好でウロウロしている自分が不愉快なのか、それとも本当に風邪をひくとでも思っているのか、広い会場なのに蓮がやたらと姿を見せてこちらに視線を送ってくる。
そのたびにキョーコは新たに挨拶する人を捕まえて、蓮が誰かに捕まって話し出すと出来るだけ遠くに逃げた。

ひらりひらり
クラシックブルーが会場内を華麗に舞っているように周りには見えているのに、キョーコにはただの惨めな逃亡劇だ。
しなければならない人には挨拶をすませるころには、お揃いのブルーのパンプスの中で足が悲鳴をあげていた。

「お姉さま!」

背が伸びて可愛しいというより美しい少女に変身しつつあるマリアから声がかかる。

「最初にご挨拶したっきりでしたわね。今日のお姉さまったらすごく綺麗で人気者なんですもの。今度はお茶をしにいらしてね。マリアがお姉さまを独占しますのよ」
「ありがとう。マリアちゃん。ご招待お待ちしてるね」
「…お姉さま?なんだかお疲れのように見えますけど…」
「うーん。着なれない服と靴に疲れたのかも。そろそろお暇しようかな?」
「それなら少し休まれてから帰られてはどうかしら?」

マリアは使っていないゲストルームの場所を教えてくれた。
帰るにしたって外にはマスコミもいるだろうし、家に入るまでは芸能人らしく振舞わなければならない。人目のないところで少し靴を脱いで休んでからの方がいいかもしれない。
キョーコはローリィに挨拶すると会場を抜け出した。

「なんだ…帰るのかよ?」

会場の扉を抜けて直ぐにかかったのは聞きたくもない声だった。
なにせ元々気分は最悪だ。キョーコは脇を向いてふぅっと重い息をつく。

「…なんだよ。そのため息は!!!」
「あんたみたいな馬鹿がきたらせっかくのパーティの品位が下がるからよ」
「おまっ」
「何?トイレ?それならさっさと会場に戻って外見ゴージャス頭がスッカラカン女達をはべらしてきなさいよ。私はもう帰るからどうぞごゆっくり」
「ひ、人が褒めてやろうと思ってたらなんて言いぐさだよ!」
「は?褒める?誰が?何を?いつ?どうやって?」
「俺がお前をだよ!ちょっといい女風に仕上がってるから誉めてやろうと思ったんだよ!」
「…」

黙り込んだキョーコが照れていると思ったのだろう。ショータローは少し近づいた

「その恰好、いつものまるで別人とは違って、お前らしさもあるのに大人美人に仕上がっててるじゃないかよ。今日はもう予定ないなら…「一番言われたくないわ。そんな言葉」…あっ?」

蓮から聞きたかった言葉。
他の誰からでも意味のない言葉を、この惨めな気分の時に過去の汚点から聞かされるなんて…

「そんな言葉はどっかに穴でも掘って埋めてコンクリートで蓋しときなさいよ。あ~、耳が腐る」

あっけにとられたショータローに背を向けて、キョーコはマリアに教えてもらった部屋へと急いだ。

ぱたんっ
部屋に入るとすぐにパンプスを脱ぎ捨てて、ソファーの前に敷いてある厚いラグの上にぺたりと座りこむ。
視線を上げると、部屋に隅にある姿見の中の自分と目があった。
パーティの前にチェックした時はウキウキとして覗き込んだ己の姿が、今はなんてちぐはぐなんだろう。

「…アップにするの苦労したのにな…。頭痛い…」

部分ウイッグやら髪飾りやらを取り外し、髪を下ろすと手櫛で整えた。

「このホルターネックだって…ギチギチに結んだから肩が凝りそうなの我慢したのに…」

むき出しの背中だって、細くて高いピンヒールだって、背伸びをしてあの男性(ひと)に目をとめて欲しかったから。誘惑なんて言ったら大層だけど、少しドキリとしてくれて、笑って一言褒めてくれればそれでよかったのに。

「惨めなもんね…」

服を緩めて、ラグにゴロンと転がった。
いまこそコーンに哀しみを吸い取ってほしいけれど、残念ながらだるまやの自室の机の上だ。

「…ちょっと休めば大丈夫」

また笑って後輩の顔を取り戻せるはずだと、また一つゴロンと転がった。
その時だ。

「最上さん?いる?」

ノックの音とほぼ同時にドアが開かれ、蓮が部屋に入ってきた。

「ごめん、不作法で、なかなか会場で話が出来なくて…」
「つ、敦賀さん!」

自分がだらしなくラグに転がっている状況だと理解して、慌てて立ち上がろうとしたのがいけなかった。
ドレスの裾を己の足で踏む形になって、ピンッと張った生地が緩めていたホルターネックの結び目を引いてしまう。

はらり

ほどけたドレスが弧を描いて落ちていく。その下には何も身に着けていないわけで…

(ぎゃ―――――――――――――――――っ!!!)

本当に大変な時は叫び声は声にならないというのは本当だ。
上半身だけむき出しという何ともマヌケな姿に慌てて両手を十字にし、貧相な胸を隠してラグの上に芋虫になった。

(見られた!絶対見られた!ペチャパイ見られた!おまけにこんなマヌケな…)

これは罰だろうか?馬鹿な願いを抱いた自分への。身の程知らずな恋心への。
それならこんな形ではなく空からヤカンでも降らしてくれればいいのに。
恥かしくて、惨めで、哀しくて、もうぐっちゃぐっちゃで涙がにじむ。
その眼に芋虫になる前に見た蓮の吃驚顔が浮かんだ。いつもの連なら上着位かけてくれそうなのに。慰めの言葉もないだなんて本格的に呆れられたのか、余りにも不愉快なものを見せられて気分でも悪くなったのか。

(…まさか…部屋を出て行ったとか…)

どんな慰めも傷を抉るだけだが、こんな姿で放置だなんて悲惨極まりない。
蓮の様子は気になるが顔を上げる勇気は持てずにうじうじしていると

「…酷いな…」

ぼそりと蓮の声が聞こえた。


(後編に続く)
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