2015_03
09
(Mon)11:55

強く欲するモノ(5)

さて、珍しく月曜日に登場したちょびです。
今週末はホワイトデーがありますのでね。ちょっと変則スケジュールです。
本日が「強く欲するモノ」、水曜が「ほんのわずか」の番外、金曜がホワイトデーネタです。

結構イタイシーンが出て参ります。
苦手な方はお読みにならないでください。


2014/3/25初稿、2014/9/9一部修正、2015/3/9加筆修正の上通常公開

小石が創った波紋はやがて大きなうねりとなって襲い掛かる




■強く欲するモノ(5)



(なんだか…少しピリピリしているのか?)

蓮が短い休憩を終えて戻ると、現場の雰囲気が少し変わっていた。
気のせいかもしれないが、スタッフもいつも以上にキビキビしているし、常はどちらかというとのんびりとした性格の監督にさえ緊張感があるように見える。
スケジュールは順調だし、特にアクシデントがあったとも聞かされていないが…と社を見ると、こちらはいつも通りの穏やかな雰囲気で手帳をめくっている。スケジュールの確認でもしているのかもしれない。

そのままぐるりとスタジオ内を確認する。
共演者の様子も先程と変わらない。
何度目かの共演になる貴島はいつもの調子で新人女優たちを笑わせている。

(まあ、緊張感があるのはいいことだよな。その方が俺も都合がいいし)

今日の撮影も佳境に入っているし、キョーコの方は出ているドラマが本日クランクアップの予定だ。おそらくその後は打ち上げがあるのだろうから、出来るなら迎えついでに顔を出して監督や共演者に京子の婚約者として挨拶しておきたい。

(よし、頑張ろう)

蓮は気を引き締めて撮影の再開を待った。


*
*


「カットォー!OKです!」
「今日の撮りはこれで終了です。お疲れ様でした―」

スタッフの声にホッと息をついて、共演の女優に一声かけようと顏をあげると、一斉に視線を向けられるのを感じた。
監督も、カメラマンも、そのほかのスタッフも、出演者も蓮を見ている。
皆ひどく深刻な表情だ。

ふと貴島に視線がいった。
ぎぃ
小さな音を立てて貴島が椅子から立ち上がる。
その音が妙に響いたことで、カットの声から現場が静まり返っていたことに蓮は気づいた。
常なら撤収作業や挨拶の声で騒がしいほどなのに。

「行くんだ。敦賀君」

普段の貴島からは聞いたこともないような切迫した声。ついさっきまでの調子のいい明るい笑顔はそこにない。
何言ってるんだ?という声は音にならなかった。

ぞわり

悪寒が這い上がってきて、原因を探るべくもう一度視線をさまよわすと、社がこちらに向かってくるのが見えた。
その手には蓮の私物一式。
近くまで来ると、蓮が尋ねるより先に社が顔を寄せて小声で告げる。

「キョーコちゃんが襲われて怪我をした。病院へ行くぞ」


-世界が暗転したかのようだ-


*
*


車寄せで待っていた社長のリムジンに乗ると社は話し出した。

「クランクアップの花束を受け取った直後にエキストラに刃物で襲われたんだ。撮影中にと丁度ボディガードはトイレに行っていて、マネージャーはプロデューサーと話をしていた。足を刺されて酷い怪我らしいけど、命に別状はない」

クランクアップは夕刻のはずだ。
すでに町は闇に包まれている。

「どうして、もっと…」

早くに教えてくれなかったのか

「キョーコちゃんの希望だ。お前の今日の仕事が終わるまで絶対に伝えるなって、病院までそればかり口にしてたらしい」

蓮は手を握りしめる。

(キョーコが怪我をした…)

命に別状はないと言っても、皆があんな顔で蓮を見るほどの怪我なのか。
とりあえず情報が欲しい。蓮が携帯で検索しようとすると、社にその手をつかまれた。
眼を合わせ、一言一言ゆっくりと蓮に言い聞かせる。

「蓮、怪我はひどいがキョーコちゃんの命に別状はない。」

社の手に力が入る

「生きてるんだ。わかるな?」

小さくうなずく。
キョーコは生きている

蓮は一つの動画を選んで再生した。


- 拍手の中、子役の少女から花束を受け取るキョーコ -
同じように動画を撮っている手が沢山入っている画面。ギャラリーがとったものだろう。

- キョーコの後ろから聞こえる怒号 -
なにか叫んでる。d、de、…Delete?

揺れる画面。周囲のざわめき
画面の端に映る何かを振り上げた女。

- 『おいっナイフだ!危ないっ!』 -
誰かが叫ぶ
更にぶれる画面

- キョーコが少女をかばうように逃げる -
悲鳴のように叫ぶギャラリー

- 『京子ちゃん!逃げて!早く!早く!』 -
- 『あっ!!!』 -
- 転びかけた少女をキョーコは懸命に前に押し出した -
転ぶキョーコに合わせてぶれる画面
ギャラリーから悲鳴があがる

- 『ショウを』 - 
とぎれとぎれにしか聞き取れない狂ったような女の声

- 『この最低おんんぁ』 -

- 『消えちゃえ!』 -

振り下ろされる凶器
叫び声、もう何を映しているのかわからない画面、

- 『救急車!』 -
誰かが怒鳴る


(…息ができない)

手から滑り落ちた携帯はそのままに喉元に手をやった。

(キョーコは生きてる。生きてる。生きてる…)

呪文のように心の中で唱えるが、ちっとも効力を示さない。

ねえ…キョーコ…
呼吸っていったいどうしてた?


(6に続きます)





ハピエンですよ!




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