2015_06
02
(Tue)11:55

嫉妬の塊

ささやかな日常?


2015/6/2




カニ缶は無かったがツナとコーンはあった。
玉葱は淡路産のがある。炒めたら甘く美味しいこと間違いなし。
マッシュルームは無いけれどシメジで代用。
牛乳、小麦粉、卵、パン粉もOK


■嫉妬の塊


それは見たのは早朝の情報番組
公開目前の主演映画がテレジャパ1日ジャックやらで主要な演じ手があちこちに顔を出し、件の番組もその1つだったのだ。

オフのキョーコはたまった家事をこなしながら蓮の出番をチェックして1日を過ごす予定だ。
洗濯機を回し、用意した朝食をダイニングテーブルに並べると、昨夜は局近くのホテルに泊まりだった画面の向こうの恋人に「いただきます」と告げる

(ちゃんと朝御飯食べたかな?)

十中八九食べていないだろう事は分かっていても、考えてしまうのはもはや習慣だ。

蓮と共演俳優が出ているコーナーでは百貨店の北海道展を取り上げていて、画面には特産の海産物やら乳製品やらが映し出され『美味しそう』と歓声があがる。

(そういえば映画のクライマックスは北海道だったわね)

成る程、それでこのコーナーかと一人納得しながら味噌汁をすする。

『お二人はロケで行かれてたんですよね?美味しいもの召し上がりました?』
『結構強行軍だったのでロケ弁ばかりでしたね』

そのロケ弁さえも半分しか食べなかったのは社からの報告があがっている

『でも最終日に打ち上げでジンギスカン食べましたよ。美味しかったですよね。敦賀さん』
『あれは盛り上がったね』

皆のあまりの食べっぷりに見ているだけでお腹が一杯になり、野菜をちょろりとしか食べなかったこともこれまた報告を受けている。

物産展のVTRが終わり、試食に移った。出演者の前には寿司やらスイーツやらが並べられ、蓮の前には…カニクリームコロッケ
MCと言葉を交わしながら蓮は優雅にそれを頬張った。

サクッ

マイクは拾っていないのに、揚げたての衣が軽快な音をたてたように聞こえた

『やん、敦賀さんが食べてるコロッケ美味しそう~!』
『ほんまにぃ。一口でそんなに幸せそうな顔してまう位旨いんですか?俺も喰いたいなあ』


*
*

(はあ…)

弁当用のストックおかずの冷凍に使っている大きめの製氷器から取り出したタネに、衣をつけて行きながらため息をつく

(何やってるんだろう、私)

外はとっぷりと日が暮れている。蓮が出るトーク番組も、予定していた家事も終わり、後は晩御飯を作るだけだ。
流れで行くとこのクリームコロッケということになるのだが、蓮は23時から始まる生のバラエティに出演予定だから夕飯はいらないし、そもそも仕事柄仕出し弁当を食べる機会が多いので家ではあまり揚げ物は作らない

衣がついて揚げるばかりとなったクリームコロッケをとりあえず冷凍庫に入れ、キャベツを刻む。己の愚かさをも切り刻む勢いで。


御大層な食レポなどしなくともあの時の蓮は“完璧”だった。
サクサクの衣から溢れ出たクリームと共にカニの旨味と玉葱の甘味が口の中一杯に広がって、その美味しさに思わず緩んだ。そんな顔。
美味しいモノを食べるとこんなにも幸せになるのだと思わせる表情を見て、私もと思った人は多かったに違いない。きっとあのコロッケを買い求める為に今日から行列が出来るのだろう。

勢いを付けすぎたせいで刻みすぎたキャベツの山を見て又ため息

(コロッケに対抗心燃やしてどうすんのよ…)

あの幸せそうな顔を見た時、胸にモヤモヤとしたものが広がったのだ。
蓮にあんな…あんな幸せな顔をさせるのは自分でありたいと。彼を幸せにするのはキョーコだけでありたいのだと。

(本当に恋は人を愚かにするのね…)

生きていく上で幾多の人と関わっていく。
いくら恋人とはいえ2人だけの世界にいるわけではないのだから、他の何かが蓮に幸せをもたらすなんていくらでもある事だ。
おまけに美味しいものを口にしたなんてそんな些細な幸せに嫉妬するなんて…

冷凍庫からコロッケを取り出した。1、2、3…全部で12個、一辺約4センチの立方体はキョーコの嫉妬の塊。
こんなものはさっさと食して消化してしまいたいが、いくらなんでも1度では食べきれない。
一度に3個…無理したら4個はいけるだろうか?


「今日の夕飯はコロッケ?」

突然耳元でかけられた声に驚愕する。
気がつけば、左肩に恋人の顎がのり、腰にはその両腕が巻き付いていた。
時計を見ればまだ7時過ぎ。

「ななななななななななんで?」
「急に報道特番入ることになって11時からの生番組流れたんだ。電話出なかったからメールしたけど見なかった?」
「あ…」

煩悩退散のキャベツ刻みに夢中で気付かなかったに違いない。

「何コロッケ?」
「クリーム…です」
「そうなんだ。今から揚げるの?俺が揚げてもいい?」
「え?そりゃいいですけど…」

蓮はウキウキと腕捲りをすると手を洗い、それからキッチンは賑やかになった。
揚げ物なんでするのは人生初の蓮は温度センサーがあるガスコンロにいちいち感心し、何年此所に住んでいるのだとキョーコを笑わせた。
そうこうしながらダイニングテーブルにはホウレン草のお浸しに、ひじきと豆の煮物、味噌汁、ご飯、メインのクリームコロッケにキャベツの千切りとゴボウのサラダが添えられて並んぶ。

席についた蓮が、そういえばと口を開いた。

「今朝の情報番組でカニクリームコロッケ食べたな」
「…それを見てたら食べたくなって…」
「キョーコがそう思ってくれたならいい表情出来てたんだね」
「…すごく幸せそうな顔でしたよ」
「ああ…」

蓮がクスリと笑う。

「キョーコが作ってくれたって想像したからね」
「え…?」
「実物食べれるなんてラッキーだな。いただきます」

まっすぐコロッケに向かった箸はキョーコによって阻まれた

「…何?熱々のうちに食べたいんだけど?」
「あああああ…あのですね!あんまり期待しないでください!北海道のカニどころか缶詰のツナとコーンですから!」
「別に高級食材使う方が美味しいと決まった訳じゃないだろう?キョーコが作ったんだから絶対美味しいよ」

はいはいキョーコさん、食事中に立ち上がるのは行儀が悪いですよ、と行く手の障害物を排除すると蓮はコロッケを口に運ぶ。

ハフハフと揚げたてのコロッケの熱を逃し、味わい…そして呑み込んで、次の一口を食すべく箸を伸ばしながら言った。

「やっぱりキョーコが作った方が美味しい。…どうかした?」

向かいの席で俯くキョーコに訝しげな視線を向ける。

「いえ…もう…何倍もの光線にやられたと言いますか…直視出来ないと言いますか……これは公共電波で流したら大変なことになるわ。まさに光害…」

何やらブツブツ言い出したがキョーコのそれはもはや日常だ。

「コロッケ、冷凍庫にまだあったよね?お代わりしようかな」
「お代わり?敦賀さんが?」
「俺だってお代わりすること位あるよ」
「…明日は槍が降るかも」
「なんで槍?」
「突飛性の問題です」
「まあいいけど。また俺が揚げていいよね?」
「いいですけど、そのコロッケいくら小さいとはいえカロリーダイナマイトですよ?」
「大丈夫。後でしっかり運動するし」
「運動?」
「うん。だからキョーコの分も揚げようね」

色を含んだ蓮の笑みに、ようやく意味を悟ったキョーコの肌が朱に染まる。

「ほら、キョーコも早く食べないと冷めるよ」
「あ…いや、あんまり美味しそうに食べるからついつい目がいっちゃって…」
「好きな人が作ってくれた美味しいものを一緒に食べるんだから、そりゃ美味しいに決まってるだろ。…何照れてるの?」
「いえっ!何でもありません。いただきます!」
「はい、召し上がれ」

嫉妬の塊だったはずのそれはほろりと崩れ、優しく円やかな幸せの味が口中に広がった。


(おしまい)






何気ない日々の積み重ねが何よりの幸せっていう感じ?
最近食べ物ネタ多いですね。
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コメント

Re: 見つけられてよかったです

> harunatsu7711 様
クリームコロッケ思い出し読みありがとうございます!
こういうのって、私の駄文でも誰かの心に残る部分があるのかも思えて凄く嬉しいです。
私も美味しいコロッケ食べたいなあ…お惣菜のクリームコロッケって当たりはずれある気がしてなかなか手が出ないんですよね

2017/05/16 (Tue) 10:47 | ちょび | 編集 | 返信

見つけられてよかったです

こんばんは。

コーンクリームコロッケのお総菜を見たとき、確かコロッケの話があったなーと思い、検索してました。見つかってよかったです。

ほんわかコロッケ話に癒されました‼

2017/05/07 (Sun) 21:37 | harunatsu7711 | 編集 | 返信

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