2016_06
17
(Fri)11:55

不純物

こういう未来がくればいいな、とか思ったり…


2015/6/21




「時々無性に食べたくなるんだよ」

パーソナリティがそう言って目を細める先には、オムライスがあった



■不純物




不破尚は現在トーク番組の収録中だ。

著名な作家がパーソナリティを務めるこの番組はトーク内容に深みがあると評判で、深夜枠にも関わらず堅調な視聴率を誇る。そのオファーにマネージャーの祥子は喜んだ。
16でデビューしてから7年。歌唱力には定評があるが、何分売り出し方がビジュアル重視だったせいもあってなかなかアイドル的な扱いから抜け出せないでいる。このトーク番組のような“大人”が観る番組で新しいファン層を獲得し、路線変更をはかりたいのだ。
尚自身も歌に専念できる環境に身を置けるのはありがたい。だからオファーに頷いた。

たとえもう1人のゲストが、あの大嫌いな敦賀蓮だったとしても。


*
*


番組はいつもパーソナリティが行きたい店を借り切って撮影される。こんなことが可能なのも、彼が世界的に熱烈なファンを持つ作家だからだろう。
今日の撮影場所は都内の老舗洋食屋で、前菜をつつきながら作家は様々な話を振ってくる。どうやら、芝居と歌それぞれの若手のトップにいる2人を色々対比させて楽しんでいるらしい。

「なんていうのかな…2人は畑は違う訳だけど、自分の仕事に真摯なところは似通っていると思うんだよね。職人肌って言うのかなあ。」

こんな鬼畜野郎と一緒にされるなんてまっぴらごめんだ。
だが、その一方であの幼馴染の“男のツボ”ってこういう所にあるのかと考える自分を慌てて否定する。

「何があっても芝居だけは手放せないんだろう?敦賀君」
「そうですね。…ああ、でも今はもう1つありますね」
「奥さんかい?」
「正解です」

暫し作家と蓮は笑い合って、妻帯者同士の話題を膨らませた。
そう、1年ほど前に幼馴染はこの男の妻となったのだ。

「僕はね。若い人がどんどん脱皮していく姿って好きだよ。敦賀君はもうずっと前からなんていうのかな?老成して…完成している感じだったけど変わったね。どんどん新しい面が見えて、奥行きが増して行ってる。あの奥さんと一緒にいるようになってからそれが加速した気がするよ」
「俺の奥さんはびっくり箱ですからね」
「確かに。何度かお会いしたけど話をしていて飽きないよ。この番組にも是非きてもらいたいなあ。」
「それは光栄です。」
「不破君は…逆にデビューした時は“若造”だったね」
「耳が痛いです。チャラチャラしてましたよね」
「はははっ若いんだから当然だよ。だからこそ最近の変化が鮮やかなんだなあ。今までの装飾を脱ぎ捨てる契機、みたいなものがあったのかと想像しちゃうね。たとえば…恋とか?」
「そんな恋があったらまず歌にしますよ」
「ふふふ、本当にそれほどの恋だったらすぐには歌には出来なかったりして」
「参ったな。そんなに俺に秘密の恋させたいんですか?。」

またチラリと幼馴染の顔がよぎる。
だからこんな男と一緒のゲストなど嫌なのだ。

*
*

そうしているうちにオムライスが登場した。
作家の大好物らしく、冷めないうちに食べようと促されて、暫しカラトリーが立てる音だけが響いた。

「うまい…」
「美味しいですね」
「そうだろう?やっぱりプロの味だよね」
「本当に。なんていうか…誤魔化してないきちんと作った味がします。シンプルだからこそですね」

幼いころから鍛えられた舌には自信があるショータローも、心からの賛辞を述べた。

見た目は何の変哲もないオムライス。ケチャップライスは玉葱とハムだけ。それを包む卵。
だからこそ具材の切り方から、火加減まで、妥協していないプロの腕が生きている。
妙な不純物で誤魔化されていないからこそ際立つ本物の味。。
オムライスは好きな食べ物の一つだがお子様や女性の食べるものだと思って人前で口にするのは憚られた。だが、これなら堂々と頼める。

ひとしきりプロのオムライス賛辞が続いた後、蓮がぽつりと言った。

「家で食べるオムライスも好きですけどね。ケチャップライスの中に色んな野菜が混じってて」
「ああ、俺のおふくろが造るやつもそうだったよ」

作家が懐かしそうに眼を細めた。

「小さい頃、ピーマンやニンジンが苦手でさ。小さく刻んで入ってたな。入っているのが分かっていても美味しく食べれたから不思議だよね。敦賀君の奥さんも作るのかい?。」
「俺は苦手な野菜ってのは別にないんですけど、栄養バランス考えると少しでも野菜をって思うみたいで…。」
「私も家では奥さんのそういうオムライス食べてますよ。」

にこやかにほほ笑みながらそう告げたのはカウンターの向かいに立つシェフだ。

「店ではプロとしてより完成されたオムライスを、と思っています。でも家で食べるあれはまた別次元で旨いですよね。」
「そうだよねえ。自分の家族を想う気持ちっていう付加価値がついてるからかなあ。」


特別な誰かを想う気持ち


もう最近はあまり思い出さなくなっていた幼いキョーコの屈託のない笑顔が浮かぶ。

“はい、ショーちゃん”

両親が仕事でいない土曜の昼に差し出されたオムライスが美味しかったのは、いったいいつ頃までだったのだろう?


目の前の金色に輝くオムライスをすくって口に運ぶ。

「うん。誰がなんと言おうと旨いです。」

ショータローの宣言に、他の3人も朗らかに笑った。

「全くだ。これは上手い。」
「有難うございます。プロの味が堪能したい時は是非当店へ。」
「今度はプライベートでお邪魔しますよ。」
「お、また惚気かい?敦賀君。」

その後も作家を中心としたトークは盛り上がり、収録は和やかに無事終了した。

*
*

「不破君、お疲れ様。」

店を出ると、蓮に声をかけられた。
キョーコを法律上でも手に入れた余裕からか、この男のあの底冷えする表情を見ることはとんとない。

「オツカレサマ…です。」

どこか言葉に突っかかるものを含めてしまう自分が子供っぽくて嫌だ。
だが、その一方で幼い日々を思い出したせいだろうか、今日は苛立ちよりも懐かしさの方が勝った。歌手と俳優、ジャンルが違うせいかここのところ幼馴染の顔はテレビでしか見る事がない。

「…あいつ、元気かよ。」
「お陰様で。ちょっとハードスケジュールを見直してね。時間的に余裕も出来たみたいだ。」
「…で、相変わらず環境にも財布にもエコな料理に精を出してるのかよ。」

くすくす、とゴージャスター様は笑う。

「出してるね。人参や大根の皮がポタージュスープに生まれ変わったりしてるよ。」
「げ、芸能人の旦那にそんなの喰わせてるのかよ。」
「美味しいよ?俺の体調を気遣ってくれる優しい味がして。」

知ってる。とは言わなかった。

かつて2人で暮らしていた時も何度も出てきたそれ。確かに旨かったそれを褒めたことは一度もない。
たとえ旨かろうと、貧乏くさくて嫌だったそれを優しい味だと思う男。

だからだろうか?

だからキョーコは今自分の傍にいないのだろうか?

キョーコの優しさを、愛情を、温かく受け止め、感謝し、返さなかったから…



ブルブル、とそうとは分からぬように首を振る。

こんな郷愁まっぴらごめんだ。


あの頃、特に体調管理などしなくても元気でいられた。いつもその時のベストな歌声を届けられた。
それが傍に居たあの幼馴染の心遣いの土台に立っていたことも薄々気付いている。

だけど、まだ走れる。
食事、空調、トレーニング、様々な努力で補える。

どうだ俺様の歌声は、そう幼馴染に自慢げにいえる。

アイツがいてくれれば…そんな弱音を吐くなんて絶対にしない。



「まあ…せいぜい仲良くやれよ。」
「ありがとう。」

眼を細めた蓮がスマホを取り出した。

(カエルコールってやつかよ。)

全くマメな男だと半ば感心しながらその流れる様な仕草を見ていた。

「キョーコ?…うん。無事終わったよ。…なに心配してるの?大丈夫だよ。」

胸焼けしそうな甘い声に、祥子から差し出されていたミネラルウォーターを口にする。

「キョーコこそ体調大丈夫?…駄目だよ。1人で買い物なんて。…心配するに決まっているだろ?」


次の瞬間、ショータローは口に含んでいた水を噴射した。

「今は大事にしないと。君一人の身体じゃないんだから。」

通話を終えた蓮が、ボトルを手に呆然とこちらをみるショータローにニコリと微笑む。

「不破君、びしょ濡れだね。大丈夫?」
「おおおおおおお、お前…今のはどういう…。」
「え?そのままの意味だけど?」
「ま、まさか…。」
「うん。3か月。」

ぐしゃり!とボトルが水飛沫を上げて潰された。

「ななななななななな、なんてことしやがるんだ!!こ、このフシダラ男!!!。」
「ふしだら男って嫌だな。不破君。」
「ふしだら以外の何者でもねーじゃねーかっ!。」

あわば飛びかかろうとしたショータローを祥子が慌てて押さえつける。

「ちょっと、ショー!ここはおめでとうございますと言う所よ!」
「何がめでたいんだ!てめー、ちょっと苗字が一緒になったくらいでそんなこと許されると思ってるのか!。」
「不破君の祝福は変わってて面白いね。」

あははは、と上機嫌で笑う蓮の後ろで、社は顔をひきつらせた。

「…より効果的な妊娠報告の為だけに仕事引き受けるんだもんな…。」
「何か言いましたか?社さん?。」
「いいえ。何も」

人妻になったキョーコに、今もなお夢を抱いている様子のショータローのぎゃふんとした顔がみたいだなんて…


「てめー、誰の許可得てそんないかがわしい事!。」
「ショー!結婚してるんだから!わかってたことでしょ!」
「わ…わ…わかるわけねーだろ!分かりたくもねーや!!!」
「もう!いい加減大人になって頂戴!!!」

ショータローと祥子とのやりとりを、楽しげに見つめる担当俳優の背中にマネージャーは呟いた。


「蓮、お前こそもうすぐ父親になるんだからさ…大人になれよ。」



(おしまい)





父の日が近づくとショータローさんが書きたくなる(笑)

オムライスは某老舗洋食店のレシピを参考にさせていただきました。
ちなみに私はケチャップライスは鳥肉入ってないと寂しい人です。
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コメント

Re: なるほど。

> まじーん様
男はいつまでたっても子供なんです。きっと敦賀さんは、帰ったらキョーコちゃんに怒られて「だってさ。」とかしょーもない言い訳を並べている事でしょう。

オムライス美味しいですよねえ。卵はふわふわ、デミグラスソースよりもケチャップの方が好みです。

2016/06/28 (Tue) 04:51 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 二段オチ!!

> ナポリタンMAX様
ショータローさんも結構妄想多々ですし、夢見るタイプだと思うんですよ。
それにほら、お父さんにとっては娘はいつまでも天使なんです(笑)

父の日が近くなるとチチショーが書きたくなります。

2016/06/28 (Tue) 04:48 | ちょび | 編集 | 返信

なるほど。

二人のキョコさんに対する気持ちと反応は、ちっとも落ち着いた大人にはなっていなかったのですね。笑

オチに大爆笑でした。

そして、オムライスが食べたく・・・・

ふんわり卵希望w

2016/06/22 (Wed) 19:42 | まじーん | 編集 | 返信

二段オチ!!

おもしろかったですー!!
お子様二人。

こういうオチになるとは思わなかった、あはははは。
社さん、ナイス突っ込み!!

ショーもキョーコちゃんとは違う夢見るタイプですねえ。
なんだか鶏肉入りのオムライスが食べたくなりました。

今日も楽しい物語をありがとうございます!!

2016/06/17 (Fri) 12:56 | ナポリタンMAX | 編集 | 返信

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