2015_07
14
(Tue)11:55

海岸法廷-前編(逃避行の為の習作-2)

習作といいながら1作しか書いていなかった逃避行。
もう半年以上放置していたこの話に着手したのは、12月の鬼から逃げようとした私にピッタリだと思ったからです(笑)

2015/7/14





「海まで」

空港で客待ちをしていたタクシーに、蓮は確かにそう言った。

目前に広がるのは太平洋
間違いない。ここは海だ。
だけど…

(ここはないだろう…)

横手には海原の先の世界を見据えているような幕末の志士像
その志士と同じ目線で海を見れるという触れ込みで組まれた足場からは賑やかな観光客の声
そう、ここはこの地方でも有数の観光地なのだ。暗い顔で一人タクシーに乗り込んできた男を連れてくるような場所ではあるまい

とはいえ、来てしまったものは仕方ない。浜の外れに腰を下ろし団体客のご一行様を遠巻きに眺めた。
皆、志士像をいかにうまくアングルに収めるかに忙しく、散策ルートから外れた所に座る男になど目もくれない。撮影が終わっても少しウロウロすると元来た方に戻るか、これまたメジャー観光スポットの博物館に向かって階段を昇りはじめていく。蓮の周りには誰もやってこない。まさに死角
そうするとここに案内したタクシー運転手の判断は間違っていなかったのかもしれない。
だって蓮は潜伏中なのだから
逃げているのだから

最愛の少女であるはずの最上キョーコから


■海岸法廷-前編(逃避行の為の習作2)



事の起こりは2ヶ月程前に遡る。
蓮はその日意中の少女が浮かれています、と言わんばかりに鼻唄を歌いながら事務所でスキップしているのに遭遇したのだ。

「おはよう最上さん。随分楽しそうだね。」

そう声をかけると丁寧な挨拶の後に教えてくれた。最近よく頑張っているからと椹が早目の夏休みを5日間くれたのだ。おまけに親友の琴南奏江と休みが2日被っているという特典付き。
「モー…琴南さんと美肌効果のある温泉に行くんです。私、仕事と学校行事以外でお泊まり旅行なんて初めてで」
「それは楽しみだね」

その初めては俺とがよかったな、なんて思った心のうちは綺麗に隠したつもりだったが担当マネージャーにはモロバレらしい。蓮を見る目が「彼氏でもないのに無理だから」と雄弁に語っている。

「そうなんですよ。ほんと2ヶ月後が楽しみで、楽しみで。」
「!。2ヶ月後って正確にはいつなの?」

キョーコの夏休みは7月の上旬、奏江との旅行はその2日目3日目なのだと言う。
蓮は笑みを深めた。

「俺の久しぶりの1日オフが最上さんのオフの4日目の月曜なんだ。ドライブにでも行こうかなって思っているんだけど付き合ってくれないかな?」
「へ?いや…そんな…敦賀さんの貴重なオフなのに」
「付き合ってやってよ。キョーコちゃん。こいつ一人でドライブなんて、飲み食いもせずひたすら運転してそうじゃない?」
「確かに…」

キョーコの頭にオフなのに物凄い真面目な顔をして運転に没頭する先輩俳優の姿が浮かぶ。
集中し出すと己の体調など顧みなくなるこの先輩は、それこそ燃え尽きるまで走り回りそうだ。

「私めでよろしければ…」
「ほんと?よかった。」

じゃあ約束だよと告げてその場を離れた。


好きでやっている仕事だが、その先にご褒美が待っているかと思うと更に頑張れるものだ。
社曰く「なんだか肌にまで張りが増した」それほどに充実した日々を過ごすうちに6月に入ったある日、事務所で再びキョーコを見かけたのだ。
あれから何度か遭遇したり、ドライブの計画を立てると言う名目での電話でもいつも元気一杯という様子だったのに、その日のキョーコは傍目にも落ち込んでいるのが分かる。

「最上さん、どうした?」
「あ、敦賀さん社さん、おはようございます。いえ、別に…」
「別になんて顔じゃないよ」
「…ちょっと残念なだけなんです」

奏江の仕事が入って温泉旅行がキャンセルになったのだと言う。

「仕事なんだから仕方ないんですけどね」

ショボショボと告げるキョーコを慰めようと、蓮が口を開く前に社が尋ねた。

「キョーコちゃん、それって蓮のオフの前の土日だよね?」
「そうですけど…」
「その2日はドラマのロケの予備日なんだ。前の週にあるロケの天気が晴れなら蓮もオフになるんだよね。梅雨時だから雨の可能性が高いからこそのスケジュールなんだけど、もしオフになったら蓮の世話頼めないかな?それとももう予定入れちゃった?」
「ちょ、社さん」
「掃除とだるまやのお手伝い位しかすることありませんけど、ほら敦賀さん困ってますよ」
「え?最上さん?そんなことはないから!大歓迎だから!」
「ほらねー。蓮もそう言ってるし、オフになったらなんていうあやふやなお願いで悪いんだけどさ。別に一日中じゃなくてもいいんだ。ほら、健康管理もかねて」

キョーコが弱いキーワードを入れてマネージャーはゆさぶりをかけると敦賀教信者はあっさり陥落し頷いた。
ホクホク顔の社と共にキョーコと別れて、2人きりになった途端蓮は担当マネージャーに詰め寄った

「社さん、どういうことですか?あのロケの予備日、仕事はそれだけじゃありませんよね?それをロケがなければオフみたいにて言うなんて」
「いやさ、だって見てくれよ?」

社が差し出したスケジュール帳には雑誌等の取材が合わせて3件。

「これなら所要時間もほぼ予定で終わるから、仕事の合間に組み込みやすい。後1カ月あればなんとかなるさ」
「社さん…」
「そのかわりこの1カ月は相当にきつくなる。おまけにそれだけ頑張っても、雨でロケが予備日にすることになったらオフはおじゃんだ。梅雨時だからその可能性は高い。それでも…やるか?」

蓮の答えなど決まっている。これはビックチャンスだ。グアムで己の過去と生きて行こうと決めてから始めてくるチャンス。
例え関係を深めれなくても、キョーコと過ごせるかもしれない3日間の可能性にかけない道などない。

それから蓮の超に超がさらに付いたハードスケジュールが始まった。
仕事仕事…また仕事。そして祈る。ロケが予備日にずれませんように。晴れますように。
天気について祈ったことなど、子供の頃以来だ。

“持っている男”敦賀蓮の祈りは天に通じたらしい。ロケは2日とも梅雨とは思えないほどの晴天だった。その分気温はうなぎ昇りの上の梅雨時の湿気で不快指数は急上昇、皆が疲弊する中汗1つかかず穏やかに微笑む姿をみて、共演している貴島が「敦賀君、上機嫌すぎてかえって不気味だよ」と言ったほどだ。
だが、上機嫌でも炎天下での長時間のロケは確実に蓮の体力を奪っていった。
残りは1週間。だが、やはり普段さえオーバーワーク気味なのにさらに無理をしたからだろう。どろんと疲労が溜まって行くのを感じるようになる。後6日、あと5日、後4日…。
担当俳優にご褒美とチャンスをあげたかったとはいえ、無理をさせたのを少し後悔しながらハラハラとした様子で見守る社に大丈夫だと言いながら、たまに少しだけ聞けるキョーコの声をカンフル剤に、蓮は走り続け、そしてやり遂げた。

がちゃり
蓮が自宅マンションの自室の鍵を開けたのは25時を回っていた。
トリは件のドラマの撮影だった。撮影自体は9時過ぎに終わったのだがその後に前から予定されていた貴島主催の飲み会があったのだ。たかが飲み会、されど飲み会。現場でのコミュニケーションを円滑にするためには最低限の顔出しは不可欠だ。
貴島や共演女優たちにやたらと酒を注がれたうえに、何しろ疲労困憊しているから許容量が減っている。常にはないほど酔った身体でヨタヨタとバスルームに向かう。飲酒の上のシャワーはよくないのは分かるか、すっきりしてから眠りたいのでぬるめのシャワーを浴びるとゾクリと寒気がした。

(風邪…か?)

そういえば喉に違和感がある。身体も酷使したうえに、この2週間は栄養状態もキョーコが聞こうものなら激怒するほどの散々な内容だった。風邪をひく要素はたっぷりだ。
寝込んで看病してもらうのもありかもしれないが、そうなると蓮の体調管理には厳しいキョーコの事だ。3日間のオフはずっと部屋の中ですごすことになるだろう。せっかくの機会なのだ。デート気分だって味わいたい。
パジャマを着ると、例の代マネ事件から念のためにと置いてある市販の風邪薬を水で流し込む。
約束は13時。10時位まで寝れば疲れも取れて風邪の方も大丈夫だろう。

ベットに入った途端、疲労と酒と風邪と薬のカルテットが蓮を眠りへと深く深く引きずり込んだ。

*
*

「敦賀さん、おはようございます」

控えめなキョーコの声が聞こえる。

(ああ…あの夢か)

敦賀蓮、いくら若手トップ俳優でも抱かれたい男№1でも、彼は21の若造だ。初めての恋とその健康なる身体の相乗効果で己の欲望に実に都合の良い夢を時折…いや割と頻繁に見る。
この「寝ているところを最上さんが起こしに来てくれる」夢もそのバージョンの1つだ。

ぼんやりと目を開けると、キョーコが心配げに眉を寄せてこちらを覗き込んでいた。

「すいません。勝手に入ったりして…お疲れな上に少し風邪気味だって社さんに伺ったものですから、カードキーお借りしちゃいました。何か食べれそうなら消化のいいものを朝ご飯に召し上がっていただこうかと思いまして。」

成程、風邪薬を飲んで寝たからこういうアレンジになっているのかと我が夢ながら感心する。

「熱ありますか?ちょっと失礼しますね」

キョーコの右手が額に伸びてきた。
ほのかに甘い花の香りがする。

(あ…なんだか今回の最上さんはいつもの夢の100万倍可愛いな…)

そんなお馬鹿なことを考えながら、その手を掴むと己のベットに引き摺りこんだのだった。


(続く)




逃げてるくせにベタで自分の苦手な分野に突っ込んでいく私…。
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Re: えっ

> ロックロック様
ええ、太平洋と見つめる志士といえば彼ですよね(笑)ビンゴです。
太平洋の荒々しさと、あの浜の石ごろごろ感が敦賀さんの気分にピッタリ?
結構気分でつけたタイトルですが、思い通りの尋問が書けたらいいんですけど…いつも自分の文章力を嘆いて終わるんですよね(^_^;)

2015/07/15 (Wed) 17:15 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: もう!

>ひろりん様
コメント有難うございます。待っててくださいました?1作しかなくて寂しいなあと思ってたんですよ。自分でも。
ただ逃避行といいながらあまり逃避行がメインにならないのでいつか逃げて逃げて逃げまくる話が書けるまで書く予定です(笑)
ちょびの頭の中はもう完全に病んでる?湧いてる?本当にとりとめないです。えいや!えいや!で書いてる駄文ですけど続けていられるのもこうして読んでくださる方がいらっしゃるから。
後編も読んでやってくださいね。

2015/07/15 (Wed) 17:09 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

えっ

もしかして蓮さんたら坂本◯馬さんのところに…?(違ってたらすいません)
どこまで行ってるんですか(笑)
キョコさんに何をしちゃったんでしょう!?法廷…ということは…どんな審判がくだされるのか…楽しみにお待ちしています(*´ω`*)

2015/07/14 (Tue) 17:31 | ロックロック #- | URL | 編集 | 返信

もう!

おーっ!ここからどうやって、冒頭の逃避行になるのか!
先が…先が気になる‼
待ちに待っていた“逃避行の為の習作”シリーズ。蓮様の逃避行の末に二人の距離はどうなるのか…
今回はキョコちゃんがビシッと蓮様に物申す、のでしょうか・・・・。
しかし、ちょび様の頭の中はいったいどうなっているのでしょう?
いったいどのお話しが“一番好き”と言えるのでしょう!新作が出るたび私の頭を悩ませます。

2015/07/14 (Tue) 13:38 | ひろりん #- | URL | 編集 | 返信

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