2015_07
21
(Tue)11:55

海岸法廷-後編(逃避行の為の習作2)

長いので切ろうかどうしようかと思ったのですが、一気に終わらせちゃいました。

2015/7/21




ベットに引き摺りこまれたキョーコの右手首は掴んだまま、空いた手を顔の左側について覆いかぶさる形になった。
何がなんだか分からないといった風情で蓮を見上げるキョーコの顔はいつもの夢と同じだ。
手首の拘束を解いてゆっくり頬をなでる蓮の手と沈黙がいたたまれない様子でキョーコが口を開く

「あ、あの…敦賀さん?」
「最上さんのことが好きなんだ。ずっと…ずっと…前から…」

ここでいつもの夢なら「性質の悪い冗談はやめてください」そうキョーコは返すはずだ。そこで蓮が無理矢理キスをして彼女の思考能力を奪っていくのが定石パターン。

「…性質の悪い…冗談は…やめてください」

いつもと同じセリフ。
だが、蓮を見上げる瞳は潤み、頬は薔薇色に上気して、蓮が本気だと告げるのを期待しているようだ。




■海岸法廷-後編(逃避行の為の習作2)



いつもの夢と同じ台詞、でもその表情は今まで見た夢のどれとも違っていて…

(いいな…この表情…)

「…本気だよ?」

返事を待たずに口づける。夢とは思えぬほどの甘美な味に酔いしれながら、愛を囁き、手で唇で…ありとあらゆるところでキョーコに触れた。
「待ってください。」そう何度も哀願するその声さえも蓮を誘うかのような響きに聞こえる。

見るものも触れるものも聞こえるものすべてがいつもの夢よりはるかに甘く蓮を酔わせた。これからの3日間のオフを共に過ごせる期待感がこれほどまでのリアリティを産むとは…己の妄想力にほとほと感心する。

華奢な身体が何度目かの小さな高みをみせ、さて、いよいよ、とベットサイドに手を伸ばす。
だが、いつもの夢なら都合よく置いてあるはずのアレがない。

「…あれ?おかしいな…いつもの夢ならここにあるのに」

思わず声に出た言葉に、うっすら目を開けたキョーコがか細く返事をした。

「夢じゃありませんから。…敦賀さん。早く目を覚ましてください」

(あ…これは初めて聞くパターンかも、夢じゃないなんて…………)

いつもの夢の100万倍可愛いキョーコ、いつもの何倍も甘くて…リアリティがあって…

「…え?……夢じゃない?」
「夢じゃありませんよ。敦賀さん。」

覚醒したらしい涙目のキョーコが胸を隠しながら訴えた。その胸元や二の腕には蓮が刻んだ独占欲の華が咲いて、その身体があちこちテカテカと光っているのは決して汗の所為だけではない。
すい、と己の肌をすべった汗に我に返って、ベットから飛び降りた。

「つ、敦賀さん!見えてますから!」

己の身体をタオルケットで覆いながらキョーコが真っ赤になって叫ぶ。
周りを見渡せば、乱れに乱れたシーツに、あちこちに散らばった2人の服と下着
惨状ともいえる様子がこれが現実なのだと教えてくれる。


頭の中が真っ白になるとはこのことなのだ。



「あ…あの敦賀さん……敦賀さん?」

黙って1歩2歩…と後退したかと思うと蓮はクローゼットを開け、モデルとしての技能を存分に活かして猛烈なスピードで着替えだした。
そしてそれにキョーコがあっけにとられているうちに財布とスマホを掴んで逃走したのだ。

*
*

(よりにもよって…逃げるか?俺?)

己の両拳で額をゴツゴツと打ちながら蓮は後悔の渦の中にいる。

逃げちゃいかんだろ?

その事実に気付いたのは、マンションを出てタクシーに飛び乗って、羽田で一番早く乗れる飛行機にそれこそ滑り込んで機上の人となってからだ。その飛行機の目的地もその時にようやく認識した。
どうしたものかと思い悩むうちに空港に降り立ってしまい、こういう時はやっぱり海だろう。そう思ってタクシーの運転手に告げて今に至る。
どうしてこんなことにと過去を省みて、反省どころか反芻してしまい熱くなった愚かな身体にため息の繰り返し。
全くもって埒が明かないが、そもそも過去を省みて何になるのだろうか?

(無駄…だよな…)

起こしてしまったことは取り返しが付かない。
夢とは思っていたとはいえ同意もなく関係を結ぼうとしたのは紛れもない事実だ。
しかも詫びることもなく逃げるなんて人として最低の行為だ。

そして…己の取るべく道も一つだ。

キョーコに詫び、たとえ2度と近しくなることは出来なくても想い続けることに許しを請う。それだけだ。
たとえ受け入れられなくても、軽蔑されようとも、存在を抹消されようとも、キョーコ以外想うことなんてできないのだから。


真上にある夏の太陽がジリジリと浜辺を照らす。
蓮はゆっくりと息を吐くと、スマホの電源を入れた。

「う…」

予想はしていたがそれ以上のおびただしい着信履歴は“最上キョーコ”から
事務所や警察からの履歴はないところをみると、あの人の良い少女は先輩俳優に襲われたことを事務所や警察には通報していないらしい。
覚悟を決めて発信しようとする前にスマホが震えた。
発信者“最上キョーコ”

「…はい」
『…やっと出た』

地の底ヴォイスがドロンドロンとスマホから聞こえる。

「最上さん、本と『今、どこですか?』」
「あのとりあえず一言『ど・こ・で・す・か?』…高知の桂浜です」

やっぱり空の足使ったわね。そうつぶやく恐ろしげな声の向こうには空港らしきアナウンス。どうやら電話がつながらない間にも蓮の行動を読んで空港に移動したらしい。見事な読みだ。
高知…高知…とブツブツ言いながら掲示板を見ているらしい気配。

『あった。13時25分空席あり。…3時にはそっちの空港につきます。逃げないでください!!!』

ぷつん、と通話が切れたと思ったらまた着信。

『暑いですから日陰にいてくださいよ!水分とって!トイレも我慢しない!…あ、シャワーとかお借りしましからね!』

糾弾すべき男の体調を気遣うなんてなんて律儀な。
とりあえず日陰に移動して腰を下ろす。海からの風で思ったよりも暑くはない。

後はキョーコを待つだけだ。
判決はこの海岸で下されるのだろう。

どうか…どうか…どんな罰でも受けるから、欠片でも己の存在がキョーコの中に残りますように。

*
*


じゃり、と目の前の砂利が音を立てて顔を上げると、傾きかけた日を背にキョーコが仁王立ちしていた。
慌ててとりあえず謝罪の言葉を口にする為に立ち上がる。キョーコの指示通り水分もちゃんととっていたのに口の中がカラカラだ。

「あ、あの今朝の事は本当に「本当ですか?」…へ?何が?」
「その…今朝言ってた…敦賀さんが私をほにゃららって話です!」

ほにゃららってそんなハッキリ言いたくないほど嫌だったのだとギリギリと胸が痛むが、単なる欲望のはけ口にしたなどと誤解されるのはあまりに哀しい。ぶんぶんと首を縦に振って肯定する。

「本当。本当だよ。今朝は夢とごっちゃになってあんなことしたのは確かだけど最上さんへの気持ちは本当だから…その…」

2度と顔を見たくないと言うなら甘んじて受け入れる。けれど想い続けることは許して欲しい。そう続けるはずが上手く口が動かない。もう2度とキョーコを間近に立つことは叶わないのだとそんな未来を口にすることがこんなにも苦しいだなんて。
その間にキョーコの顔は噴火しそうな位に真っ赤になった。そして目がキョトキョトと挙動不審げに動く。

「あの…最上さん…?」
「…いつもはって言ってましたよね?」
「え?」
「いつもはここにあるのにって言ってましたよね?いつもあんな夢見てるんですか?」
「え…その…」

実に痛いところを突かれた。親切な先輩面してそんな風に見ていたのかと気持ち悪い事この上ないだろう。

「どうなんですか?」
「うん…まあ…確かに……でもいつもあんな夢って訳じゃないんだ!」
「じゃあどんな夢ですか?」
「…最上さんと2人で食事に行ったり…散歩行ったり」
「散歩?どんな風にですか?」
「ええ?いや…普通に…」
「普通に?」
「手を繋いで…お店をひやかして歩いたり…お花見したりとか…」

ささやかな願望だ。だが口にするとなんとも言えず恥ずかしい。

「他には?」
「ドライブしたり…海に行ったり…」

その夢の最上さんのビキニ姿はすごくそそられた、とは流石に言わない。

「行ったり?」
「いや…その…」
「まだあるんですよね?」
「う…。」
「ま・だ・あるんですよね?」
「…俺が告白したら…私も…って言ってくれる夢だったり…」

どんな羞恥プレイだ?21歳煩悩まっさかりの頭の中を披露しなくてはならないなんて…
傍聴人がいないことがせめてもの救いだが、もっとも聞いて欲しくない人物に聞かれているのであまり救いにはなってないかもしれない。

キョーコは真っ赤な顔のまま俯いて震えだした。

「あの…最上さん?」

気分でも悪くなったのかと心配だが、触れることは許されない罪人だ。オロオロとしていると、くるりとキョーコが背を向けた。
そして蓮には聞こえぬ声で何やらブツブツつぶやいて深呼吸を繰り返している。

「…敦賀さん」
「は、はい!」

キョーコの強い意志を感じる呼びかけに蓮は悟る。
いよいよ判決の時がきたようだ。

「今朝の事は…私何度も待ってくださいって言いましたよね?」
「はい。言いました」
「なのに全く聞き入れてくれませんでしたよね?」
「…はい」

頭を垂れて同意する。

「…罰を受けてもらいます」

背中を向けたまま発せられたその言葉にかえってホッとする。存在を抹消という事にはならなかったようだ。

「うん。どんな罰だって受ける。だから…「どんな罰でもって言いましたね?」…う、うん」
「じゃ、これです!」

振り向いたキョーコが持っていた鞄から取り出したものに蓮は固まった

「私の人生初プライベートDEお泊り旅行に付き合ってもらった挙句スポンサーになってもらいます!」

そう、キョーコが蓮の目の前に突きだしたのはメジャーな観光雑誌の高知版。

「…はい…?」
「今晩は夕飯にカツオのたたき!明日は高知名物日曜市!その後ドライブをかねて足摺岬まで足を延ばして魚の美味しい宿で1泊するという高知よくばり旅行です!敦賀さんには私に連れまわされた上にドライバー、おまけにお財布にまでならなければならないという3重苦です!」
「いや…」
「私はビタ一文出しませんよ?タクシー代と飛行機代ですでにお財布は空っからです!」
「うん、それは全然かまわないんだけど…」

それって罰とは言わないんじゃ…
もごもごと抗弁しかけたが

「この罰受けるんですか?受けないんですか!?」
「は…はい!謹んでお受けいたします!」

ぴしっと背筋を伸ばして返事をすると、じゃあと右手を差し出され、何のサインかと小首をかしげる。

「逃亡防止の手錠代わりです!」
「…ああ…成程…」

己の左手を重ねるとギュッと握られる。

「じゃあ、行きますよ。身一つできちゃったんで鞄やら着替えやら化粧品やらの旅行用品買って…明日からのレンタカー手配して…やること盛りだくさんです」

ぐいぐいと蓮を引っ張り歩き出したキョーコの耳は染めたように赤い。
それを見て蓮はようやく状況が理解できてきた。

あの夢じゃなかったベットの上でキョーコが見せたまるで蓮の気持ちを期待するかのような顔
蓮がしでかした行為よりも囁いた言葉が真実かと問いだたした意図
それに罰と言う名はついているが、キョーコ人生初お泊り旅行に同行できる…これは期待してもいいのではないだろうか?

手を繋いでキョーコに引っ張られるままだった蓮は少し足を早めて横に並ぶと、ただ重ねて握っていた手を絡ませて尋ねた。

「ねえ…最上さん。」
「なんですか?あ、最初におやつにアイスクリン食べますからね!」
「うん。あの…」
「…なんですか?」
「今日のホテル…部屋は…」

じゅ!
赤かったキョーコの耳から湯気が上がった気がした。

「それは……敦賀さんの受刑姿勢次第です!」

(これは…いいよな…期待して…)

「うん。努力します」

神妙に返事して、また足を早めたキョーコに合わせて歩きながら蓮は考える。

(ドラッグストアに行ったら…あれ、忘れずに買わなきゃな)

夢ではないのだから、きちんと自分で準備しなくては。



(おしまい)




被告人はちっとも反省してないってことですね。

高知で足摺岬まで堪能しようと思ったら2泊三日はきついなあと地図を見ながら考えましたが、まあ勢いってことで。

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Re: きゃあ~!

>愛海様
いつも素敵なコメント本当にありがとうございます。
ええ、やっちゃいましたよ。
クローゼットに服はあったとして下着は拾ってきたのか?とか色々考えました(笑)
キョーコちゃんもぷっちん切れたらとことん追いかけてきそうだなとか思うんですよ。頭いいから先の先まで読みそうだし。

実は夢についての供述をさせられる敦賀さんが一番気に入っていたりします。
だって21歳の若造ですから。そりゃ色んな夢見ますよねえ。意エッチな夢よりも告白してOKもらうとかの夢の方が、言ってて意外に恥ずかしいのかな?とか思ったり…
PWのメール、夜には送れると思います!お待ちくださいね。

2015/07/31 (Fri) 11:25 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

きゃあ~!

やっちゃいましたね、蓮さま!!
夢見すぎて現実との区別がつかなくなって襲っちゃうとは!!
そのあと逃げちゃうヘタレっぷりには受けました~!
でももっと面白かったのは、そんな蓮さまを逃がさないキョーコちゃん。
蓮さまの行動を読んで空港まで追いかけるなんて、さすが!!
かっこよすぎです~♪
いや、もう本当に蓮さまはキョーコちゃんに頭上がりませんよね(笑)
今まで見てきた夢を暴露させられてへこむところとか最高でした!!
かっこいい蓮さまはもちろん素敵ですけど、こういうヘタレな可愛い蓮さまも大好きです♪♪
蓮さまの夢(…というより、妄想?)全部現実になるといいですね~。
読んでいてとっても楽しいお話、ありがとうございました!

2015/07/30 (Thu) 21:00 | 愛海 #- | URL | 編集 | 返信

Re: そーきましたね・・・

> ひろりん様
本当にダメダメ21歳煩悩まっさかりの敦賀さんでしたね(笑)ベットサイドにあれがあったら?いやいや、流石に大変な事態になりそうです。
キョーコちゃんもキョーコちゃんで「あれ?私ちゃんと想い伝えてない?」とか後から思いそうですけど、まあその時は時既に遅しでしょう♪

2015/07/22 (Wed) 17:03 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

そーきましたね・・・

キョーコさんやりましたね!蓮様の所為にしつつ、自分の本心丸伝えで(笑)しかしベットサイドにもしあれがあったらどうなっていたんでしょうかね・・・・久々のちょび様のダメダメ蓮様でしたね(笑)

2015/07/21 (Tue) 14:41 | ひろりん #- | URL | 編集 | 返信

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