2015_03
26
(Thu)11:55

強く欲するモノ(7)

2014/3/29初稿、2014/9/9一部修正、2015/3/26加筆修正の上通常公開


「最上キョーコをつくりたいんです」

浮かぶのは、はにかんで笑うラブミーピンクの16歳の彼女



■強く欲するモノ(7)



『…つまり加害者の少女はネットで得た情報を真に受けたという訳ですね』
『そうなんです。こちら見てください。“ああいう純情そうなタイプが一番ウリやってそう”。売り…つまり売春ですが、やってそうという推測なんですが、これをやっていたという事実としてとらえたと供述しているんです』
『やってそうってのも事実無根な推測なんでしょう?それだけでもどうかと思うのに、決めつけるやなんて…ちゃんと文章読めやって思いますねえ。腹立ちますわ。僕、京子ちゃんとバラエティで一緒になったことありますけど全然そんな子やないですよ』
『情報化社会の恐ろしさを感じますね。正しい情報にしろ、誤った情報にしろ、その伝達スピードが恐ろしく早い。そして広がり方も無限です。』
『その情報を、ネットへの技術だけは発達している青少年が手に入れるわけですからね』


キョーコの事件を取り上げる早朝のニュースを、蓮はベット脇の椅子でぼんやりと見つめた。
教育論者、タレント、評論家、様々な人が登場しもっともらしく意見をのべている。
自分自身もマスメディアの力を借りて仕事をしている身だ。
だが、こんな時に聞くテレビからの声はなんと上滑りして聞こえることか。

蓮は視線をテレビからベットに寝るキョーコに移す。
薬の力もあるのだろうが、疲労も溜まっていたのだろう。キョーコは昨夜目を覚まさなかった。
状態が安定していることはわかっているのに、目を覚まさないキョーコに蓮は不安になる。
ただ眠っているだけ。それだけなのにキョーコの身体を揺さぶり起こそうという衝動に駆られ、蓮は首を振った。

(コーヒーでも飲んで気分を変えよう)

テレビを消して立ち上がったとき、微かな声が聞こえた。

「…が…さん?」
「キョーコッ!」

弾けるように身を翻しベット脇に跪くと、キョーコの手が蓮の顏にのびた。
しなやかな親指が蓮の頬を、人差し指は蓮の目尻を
ゆっくりと、ゆっくりと、なぞる

まるで蓮の不安な心を鎮めるかのように、ゆっくりと

「また、そんな瞳(め)をしてるんですか」

少し掠れた声、ちょっと困ったような笑顔

「ちゃんと生きてますよ」

蓮も笑顔で頷く。うまく笑えたかどうか自信はなかったが。

*
*


回診前だという担当医はキョーコの容体を確認した後、現在の状況と今後についての説明を行った。

役者としては致命的ともいえる宣告。だが、隠すわけにはいかない。
医師の説明を同じように聞きながら蓮はキョーコの手を強く握る。
キョーコは泣くことも取り乱すこともなくだまって話を聞き、「わかりました」と答えただけだった。

2人になった病室でキョーコは起こしていたベットを元に戻すと顔を覆った

「…すいません。ちょっと状況が把握できてない感じです」
「とりあえずはしっかり休んで傷を治さないと。これからのことは社長達とも相談して、2人でゆっくり決めよう。」

キョーコの頭を優しく撫ぜる。
蓮がついているのだと安心させるために。
キョーコはここにいるのだと、蓮が安心するために。

「お仕事頑張ってきてくださいね」

手から顔をのぞかせたキョーコが先程の少し困ったような笑顔で言った。

*
*

蓮が仕事を終えて病室に戻ったのは夜11時すぎでとっくに消灯時間を過ぎていたが、ほの暗い部屋の中キョーコは起きていた。

「おかえりなさい。シャワーは?」
「部屋に一度戻って済ませてきたよ。」

ベット脇に腰かけると、チラリと出入り口の方を見たキョーコが尋ねてくる

「…看護士さんの巡回って部屋の中まで見るものですか?」
「へっ?ああ、どうだろ?昨夜はこなかったよ。特別室だからか、容体の関係かわからないけど…どうしたの?」


もぞもぞ…
キョーコは蓮とは反対方向に身体をずらした

「…してください」
「はっ?」
「今日は添い寝してください」

思わぬ申し出に蓮は一瞬固まったが、上着と靴を脱いでベットにもぐりこんだ
移動した状態のまま背中を向けたキョーコを抱きしめる。

「…敦賀さんが入ると人口密度一気に上がりますね」
「いや、人数は2になるだけだから」

苦笑しながら、枕元をみると、紺碧の石。
幼いころからキョーコの悲しみを吸い取ってきた石。

(ああ、そうか。)

「ねえ、キョーコ。傷痛い?」
「え?薬使ってますし、そんなには痛くないですよ?」
「いや、痛いでしょ」
「だから…」

首を捻じ曲げてキョーコがこちらを振り向くと、優しい優しい…キョーコの大好きな蓮の眼差しがこちらを向いている。

「痛いでしょ。無理しなくていいよ」

キョーコの目が潤む

「そう…ですね。い、たいです。」

再び前を向いて、回された蓮の腕に顔を埋める。

「ない…ちゃいそうなほど…痛いです」

嗚咽でキョーコの肩が揺れた。


(続きます)
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