2015_09
01
(Tue)11:55

恋は制限時間付き(中編)

カウンターが45454 ナー様からのリクエストです。
リク内容はお話の後に説明しますが、いつものことながら随分と捻じ曲げました。

そして警告しておきます。

馬鹿話です!!!
本当に…馬鹿話です!!!!

そして2話じゃ終わらなかった。馬鹿話なのに。

2015/9/1





気が付けばキョーコは舟に乗っていた。
靄が立ち込める緩やかな流れの河をゆっくりと渡し舟は進む。

それが三途の川だと気付いたのは対岸に降り立ってからだった。


■恋は制限時間付き(中編)


「はい、5列、5列に並んで待ってくださーい!閻魔庁の審査、こちらが最後尾でーす!」
「はい、押さないで。押さないで。7歳以下のお子様は審査を受ける必要がありません。お近くにお子様を見かけたら教えてくださーい!」

あの世は想像していたのと違って随分賑々しかった。まるで初売り前の百貨店だ。
キョーコは流れに沿って列に並ぶと、周りをそっと見渡した。
さめざめと泣く者、ぼんやりと宙を見つめるもの、久しぶりの家族との再会を楽しみにするもの、訳知り顔にあの世について語る者…それを見ているうちにだんだんと実感してきた。

(私…死んだんだ…)

手術は無事終わったと医者が確かに言ったのに、その後急変でもしたのがブラックアウトしてこの様だ。
運が悪いとは思っていたがまさかここまでとは…

(もう演技の仕事できないんだ…)

もっともっと色んな役を演じてみたかったのに。女優と名乗れる存在になりたかったのに

(モー子さんとアイスクリーム食べに行く約束していたのに…)

奏江にも千織にも、大将や女将さんだって会えない。それに何より…

(敦賀さん…にももう会えないんだ…)

局の廊下で少し眉を寄せてキョーコを覗き込んだ蓮の顔が浮かぶ。
最後に一度でいい、キョーコに向けて笑って欲しかった。あの大きな手で頭を撫ぜて欲しかった。あの少し低目の声で「最上さん」と呼んでほしかった。あの腕に包まれて敦賀セラピーを…

(…際限ないな…。)

苦く笑って足元に目を落とす。
この想いは地獄まで持っていくつもりだったけれど、まさかその日がこんなに早く来るなんて…大事な人の幸せを祈らない罰が当たったのかもしれない。
これで蓮が大切な誰かと幸せになる日を目にすることはない。
でも、心は凪ぐどころかただただひたすら蓮の姿を求めている。

(これは本当に地獄に行くしかないのかも…)

「ここまできたらまもなく審査です。閻魔官は選べません。指定された閻魔室に速やかに入室してください!」

気が付けば随分と列は進んでいた。このペースでいけばすぐに順番が回ってきそうだ。

「閻魔室では秘書官が貴方のお名前、享年、死亡場所を読み上げます。間違っていないかちゃんと確認してください。その後閻魔官により審査結果が言い渡されます。もし不服な場合は挙手の上申し出てください。別室にて審議官がお話を伺います。挙手!挙手の上申し出てくださいよー。小さい声だと気が付かないことがありますからね」

成程、審議は別室でしているからこんなに早く行列がはけていくのかと納得しているといよいよキョーコの順番のようだ。

「はい、貴方は1番閻魔室。あちらです」

“一”と大きく書かれたドアの横には“火元責任者:閻魔庁長官の札。あの世にも火事の心配があるんだろうかと不思議に思いながらもノックをする。

「お入り下さい」
「失礼します」

入った先にはこちらに向かい合う形のデスクとそれにL字の形でくっついたデスク。
こちらを向いたデスクが閻魔官のものらしい。“閻魔庁長官”とまるで刑事ドラマの様な札が乗っかっている。座っている男はキョーコが子供の頃から想像していた閻魔様のイメージに近い強面のいかつい髭男。対して秘書官の男は如何にも小役人、といった風情のメガネの貧相なオジサンだ。
2人ともこれまたキョーコが絵本で見た通りの黒い法衣のようなものを纏っているがどういうわけかその下はYシャツにネクタイだ。
法衣が制服なら別にネクタイはいらないんじゃないだろうか。それともこういう世界でも出勤スタイルはスーツと言うのが常識なのか。

己の状況をすっかり忘れて興味津々で見つめるキョーコに構うことなく秘書官は尋ねた。

「最上キョーコさんですね?」
「は、はい!」

慌てて背筋を伸ばして答えると秘書官は頷き、手元の書類を読み上げはじめた。

「最上キョーコ、享年37歳、死亡場所日本国東京都…」
「ちょ、ちょっと待ってください!!!」
「…どうかしましたか?」

名前は確認したはずだと訝しげな様子の秘書官にキョーコは言った。

「私、17です。37じゃありません!」
「え?」

秘書官は慌てて手元の書類を確認し、またキョーコの顔を見て…そうしているうちに顔色がどんどん悪くなっていく。

「あれ?ちょ、ちょっと待って下さい…」

そう言いながら長官に目くばせを送り、こちらに妙な愛想笑いを向け…とせわしなく表情を変えながら、手元の書類を隔そうとするのをキョーコは見逃さなかった。

「ちょっと見せてください」
「いや、これは極秘…「私の個人情報ですよね!?」」

むしり取った書類“閻魔台帳”には確かに享年三十七歳とある。死亡場所は確かに同じ病院だが、死亡原因も事故によるものだ。
これはつまり…

「20年…間違えられた…?」

ふるふるふる…と震えだしたキョーコにそれまで黙っていた閻魔庁長官が鷹揚に告げた。

「いや…その…なんだな…多分閻魔台帳システムから死神省死亡宣告システムへのデータの入力者が…三の部分を見逃したんじゃないかと…」
「いやいやいや!!!こんな大事なデータ共有してくださいよ!」
「そういう話は出ておるんじゃがな。なにぶん省庁間の壁が…」
「そんな役所の都合なんて私達には何の関係もありませんから!そもそもなんですか、三を見逃したって!見逃さないように区別しましょうよ!十七と三七とか!」
「それは今後の改善点として…」
「私にとっては今の問題です!それに誤魔化そうとしましたよね?書類見せなかったらこのまま押し通せるとか思いましたよね?そこのメガネ!!!」
「…いや…その…」
「17歳と37歳の20年は全然違いますよ!私の華の青春時代をなかったことにしようと思いましたよね?」

あと20年あったら…演技者としてそこそこのキャリアをつんで堂々女優を名乗れるようになっていたかもしれない。もしかしたら蓮の半歩後ろ位だったら立つことが出来るようになっていたかもしれない。それに…蓮の幸せだって祈れるようになったかもしれない。

迫力に押された閻魔様はどうどうどうと必死にキョーコを宥める。

「悪かった。悪かった。ちゃんと正しい時期まで待つから君には一度戻ってもらって…」
「はあ!?ここまで連れてきといてなかったことにするつもりですか?あと20年で死んじゃうとか分からせてくれちゃってどうしてくれるんです?」
「いや…ここでの記憶はちゃんと消去するから大丈夫…」
「それこそ隠蔽工作じゃないですか!記憶から消されても私の潜在意識に植え付けられていたらどうしてくれるんです!?『未来なんてどうせ』とか考えるようになって投げやりな人生送る羽目になったらどうしてくれるんです!?」
「そんなこと言われても…」
「そんなことを引き起こしたのはそちらでしょう?人の寿命握ってるならプロ意識あるでしょう?」
「それは勿論…」
「じゃあしっかり誠意見せてくださいよ!!!」

*
*

「と、交渉した結果がこれです!」

蓮への恋心云々は省略した説明を行ってから、そう声高らかに告げたキョーコが枕元にあるブツを指差した。皆は一斉にそれを見たが、すっかり見慣れたそれは…

「……」
「……」
「…これって最上さんの携帯電話だよね?」
「そうです!敦賀さん、ちょっと開いてみてください」

ほらほら早く、と言われて蓮は携帯をぱかりと開いた。ローリィや社も寄ってきて皆で画面を覗き込む。

「待ち受け画面に注目してください」
「7304日21時間24分16秒…?」

パッとみただけでは万歩計かと思うそれが表示しているのは“残り時間”だった。


(後編に続く)
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