2015_09
22
(Tue)11:55

12月の鬼ー10(記憶喪失の為の習作5)

話しの順序が…なんだかよくわからなくなってしまいました。
まあ…とりあえず(最近そればっかり)

シルバーウィークはPC前に座れていないので(予約投稿なので多分ですが)、拍手御礼及びPW発送が滞っていると思います。
ごめんなさいっ!

2015/9/22





最近の自分はおかしいとキョーコは思う。

バイトをしていても、電車に乗っていても、街を歩いていてもいつもアンテナを張っている。

「スマホ替えるならあれがいいなあ、ほら、蓮がCMしているやつ」
「あーシャーフのやつね。私ガラケーの頃からずっとシャーフだよ。あそこの使いやすくておススメ」

ほら、今だってキャッチした。

家ではテレビは見れないものの、つい最近まで気づかなかったのが不思議なくらい蓮の名前や顔の情報は街に溢れている。
蓮の新しいポスターを見つけるとなんだか今日はいい日になりそうな気がして、蓮の出演作について話している人がいると心の中で参加する。
我ながらファンというより信者に近い。

そして何より蓮の来店を心待ちにしている。

キョーコは一ファンの店員。
蓮は芸能人

サンドイッチの時の轍を踏みたくはないので、己の立場を何度も何度も復唱しているが、あの神々しい笑顔を見るとその決意がぐらつきそうになる。熱烈なファンならいいが、ストーカーなんてならないようにしなければ。





■12月の鬼ー10(記憶喪失の為の習作5)




9月に入って世間は新学期モードだが大学はまだ夏休みだ。今日はバイトも部も休みだし、友達は皆旅行やらサークルの合宿やらで不在で母の帰りも遅い。大学の図書館で時間を潰そうと駅に向かう。

だが、辿り着いた大学図書館は臨時休館日。自分の運のなさにげんなりした。

(どうしよう…せっかく来たし部室のDVDで何か見るとか?)

何か見ると言っても、キョーコが見るのは専ら蓮の出演作だ。蓮の出ているお話は脚本がしっかりしているのが多くて夢中になってしまうのが難点だが今日は時間はたっぷりある。

向かった部室には先客がいた。

「相馬先輩。こんにちは」
「あ、キョーコちゃん。どしたの?」
「図書館に涼みにきたら臨時休館日で」
「ああ、キョーコちゃんもかあ。私もそうなんだよねえ。」
「先輩は…脚本(ほん)書かれてるんですか。お邪魔ですよね」
「気にしないで。誰かと話している方がアイディア浮かんだりするし。愛も来てるんだよ。コンビニ行ってるけど」

副部長の相馬奈美恵は脚本を担当している。色々なコンクールにも応募していて受賞経験もある実力者だ。高校時代からのつきあいの部長の喜多方愛2人で根っからの舞台好きで、映像主体の連を一押しなのは本当に例外中の例外らしい。

「螺旋の森はもう全部見た?」
「見ました!もう止まらなくて困りましたよ」
「じゃあ…次はトラジックマーカーとかどう?殺人鬼役、震えるほど怖いよ。」
「じゃあ、それでお願いします」

副部長の私物が入っているロッカーから差し出されたDVDをホクホク顔で受け取って、奈美恵の手元に目をやった。

「クリスマス公演の脚本ですか?」
「ううん。それはもう出来てる。何パターンかある中からアレンジするだけだしね。これは春公演のやつ」
「学園祭に向けての練習中にもう春公演の準備するなんて大変ですね」
「みんな講義もアルバイトもあるからね。早め早めに脚本あげとかないと間に合わないから…。」

感心しながらキョーコは奈美恵の手元に再度目をやった。

「春来る鬼…」
「そう、私の実家近くの昔話を題材にしたの」
「どんな話なんですか?」
「んー。ある百姓の家にそれは可愛らしい女の子がいてさ…」

ある日幼女は鬼にさらわれてしまう。きっと喰われてしまったのだとあきらめていたが、成長した我が子が鬼の元で暮らしているという噂を耳にした父親は決死の思いで娘を取り戻した。そして娘との生活を守るために鬼除けの品で家を固めた。
それはそれは美しく成長した娘の噂はすぐに広がり、殿様が妻にと所望する。降ってわいた幸せに沸き立つ家族。だが、婚礼の前の晩、祝いの酒に酔いつぶれた両親は鬼除けの品を用意しないまま眠りこけ…目が覚めると娘は鬼に連れ去られた後だった。

「…で、残された家族は悲嘆にくれた日々を送りましたとさ」
「…悲劇…ですけど…これって視点変えると違う物語になりそうですよね」
「やっぱりキョーコちゃんっておもしろいよね。」

愉快そうに奈美恵は笑うと、別の資料を引っ張り出す。郷土史の年表のようだ。

「昔話や歴史書って書いた側にとって都合がよく捻じ曲げられてるもんでしょ?この昔話の成立した頃って飢饉があったんだよね。餓死者も出るくらいの。鬼にさらわれたんじゃなくて口減らしの為に幼女は棄てられたとしたら…?」
「うわ、180度違いますね」
「そう。おもしろそうでしょ?」

捨てられたのに、また連れ戻された少女
守り育てていたのに攫われた鬼。

奈美恵はいったい誰を中心にこの物語を紡ぐのだろう?そして誰が演じるのだろう?
そう考えるとワクワクしてきて、キョーコの眼は輝いた。

「春公演からはキョーコちゃんたちも主力になってもらわないといけないからね。期待してるよ」
「はい!頑張ります!」

*
*

「チョコレート美味しかったです。有難うございました」
「よかった。夏にチョコレートなんて気が利かないと思ってたんだ」
「そんなことないです。コーヒーとの相性抜群でしたよ。ただ、カロリーダイナマイトですから1粒づつ大事にいただきました」
「最上さんは細いからそんなこと気にすることないのに」

また向けられた優しい笑みに曖昧に笑って見せる。
そうは言ってくれるが、蓮の周りには沢山の美しい女優やモデルがいるのだろう。そんな人たちと較べられたらキョーコの貧相な身体など見るに堪えないに違いない。

(別に見せる機会もないからいいけど)

2人の関係はキョーコがこのバイトを辞めない限り、蓮がこの店に来てくれている限りの、ワゴンのカウンターを挟んだモノ。
それ以上でもそれ以下でもない。
煌びやかな女性たちと較べるとかそんな時点ではないのだ。
だが、そう考えるとなんだかしょげる。ファン心理とは恐ろしい。

「あ、持ち帰り用の蓋が…」

上の棚に置いてあるストックをとろうとしてキョーコの身体はぐらついた。後ろの棚に頭をぶつける寸前、大きな手が二の腕を掴んで支えてくれる。

「大丈夫?」
「あ…りがとうございます。とんだ粗相を」
「…なんともなくてよかった」

カウンター越しにキョーコを支えた手が離れていく。


熱い。

蓮に触れられた場所が。


キョーコは慌てて足元の冷蔵庫の中身を確認するふりをして、顔を蓮から隠した。
腕から伝わった熱でキョーコの顔はきっと真っ赤だ。

こんな顔気付かれてはいけない。

この心地よい時間を失わない為には。

*
*

「お邪魔しまーす」
「お邪魔します。これ沖縄のお土産」
「ありがとう。いいなあ。沖縄なんて」
「すっごく楽しかったよ。お金ためて来年あたり3人で行こうよ。」
「それなら私は北海道がいいなあ」
「あーそれもいいね。北海道スイーツ食べまくりたーい」

9月中旬、まもなく大学の後期がスタートだ。学園祭の準備やら新たに始まる講義やらで忙しくなる前にと美晴と遼子とお泊り会を開くことにしたのだ。

「いらっしゃい」

一度事務所から戻っていた冴菜がリビングに姿を見せた。

「今日はお世話になります」
「すいません。留守にされるのに図々しくお邪魔して」
「いいのよ。かえって助かるわ。私今から出張だからキョーコ1人だと不用心だし」
「心配しすぎだよ。お母さん。ほら、そろそろ出ないと新幹線間に合わないよ」
「本当。もうでなきゃ。じゃあみんな楽しんでね。コンビニとか行くならなるべく早い時間に。1人じゃ駄目よ」
「分かった。分かったから」

美晴達のいってらっしゃいのコールに手を振って、冴菜は玄関に向かった。
丁度お茶の時間なのもあって、3人は早速テーブルにお菓子を広げだす。

「この紅イモタルト、ホテルオリジナルですっごく美味しいんだよ」
「ほんとだ。美味しそう!」
「あ――!」

突然遼子が大声を上げる。

「遼ちゃん、何?吃驚するんだけど?」
「この家テレビないの忘れてた!」
「何?そんなに悲痛な顏するほど見たい番組あったの?」
「だって、今日“さいこい”の日だよ。私録画してない!」
「ああ…“最低で最高な最後の恋”ね。私録ってるよ」
「まじ?よかったーっ。今一番はまってるんだよね」
「あの敦賀蓮、なんだか不器用で可愛いよねー」


玄関でドアノブに手をかけていた冴菜の肩がぴくりと動いた。


(11に続く)
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Re: 続きが楽しみです。

>genki様
一番の楽しみ!有難うございます。
記憶を喪う前のキョーコちゃんはせっかくの高校生活も芸能クラスでしたから満喫とまでは行ってなさそうでしたから…確かに、一つの遠回りとも言えるかもしれませんね。
ただ、男女のことって1,2年空白が空くのって致命的な時間のロスともなりかねないと思ったりもします。
あまり他の作品とのバランスは考えていないですが(笑)敦賀さんにはもう暫くジレジレとしていただくことになるでしょうね

2015/09/28 (Mon) 00:16 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

続きが楽しみです。

こんばんわ。お久しぶりです。実はこのお話はずっとフォローしている中で、いま一番の楽しみなのです。ちょび様は内容が暗い、などと思っていらっしゃるようなコメントをされていますが、私はそうは思いません。もしもキョーコちゃんが普通の高校生→大学生になっていたらこんな生活をしていたんだろうなぁ、と微笑ましく見ています。もちろん、きっかけがキョーコちゃんの記憶喪失、冴菜さんの妨害など、スキビファンにとっては辛い要素も含まれていますが、年齢にあったキョーコちゃんの人生のページができてこれはこれで良かったなんて思ってしまうのです。17歳にしてゴージャスターの蓮さまの恋人にならなくてもいいじゃないですか。それに、ちょっと淋しそうな蓮さまがツボです。前回の、蓮さまが記憶喪失バージョンはこれでもかというくらいに蓮さまがやなヤロー(尚みたいな言葉だ)だったので、丁度いいではありませんか。徐々に覚醒していくキョーコちゃんの姿をいつか見せていただけるなら、楽しみに続きをお待ち致します。どうもありがとうございました。

2015/09/22 (Tue) 22:51 | genki #- | URL | 編集 | 返信

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