2015_09
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(Tue)11:55

12月の鬼-11(記憶喪失の為の習作5)

記事更新の告知がいい方法が無いかと模索中でして…
実はツイッターとかで告知始めているのですが…どうやって皆様に分かるようにするのかがわからない…。
uraura771です。本当に更新のお知らせしかしませんが役に立つようでしたらフォローしてやってください。本当に更新お知らせだけですけどね(しつこい)

今回はちと番外編的な要素も大きいかと…

2015/9/29




琴南奏江が事務所の看板俳優と初共演を果たしたのは18歳の時、1月スタートのラブコメディだった。

蓮にとっては初挑戦となるコメディ。今までの路線との違いにファンからは心配の声が上がったが、とことん道化になりきった姿は彼の新たな一面を発掘し、高い評価を得た。
セットの上でコミカルな表情を浮かべて、共演者さえもクスリとさせる演技に感心すると同時に奏江は胸を痛めたものだ。
だって、曇りなき笑顔を浮かべるこの男の内面は、最愛の少女の記憶から締め出され接触さえも禁じられもうズタボロに違いなかった。

視聴率も好評だったそのドラマの続編がスペシャルとして放映されるのが決まり撮影が始まったのはそれから1年ほどたってからの事だ。
その現場では同じ事務所なこともあって奏江とは話す機会も多いが、たとえ周りに人がいなくてもキョーコの事が話題に上ることはない。
親友の恋人が恐ろしく我慢強い男であることは聞いていた。だがそれにしたって愚痴とまではいかなくても、話すことで胸の内が少しj軽くなることだってあるだろうに。
そう思って一度社に聞いてみたことがある。

「弱音めいたことなんて俺にも話さないよ。」

優秀なるマネージャーはどこか寂しげに笑った。

「多分…怖いんじゃないかな?」
「怖い…ですか?」
「そう。一度弱音を吐いたら、必死で守っている敦賀蓮の仮面が崩れちゃうんじゃないかって。…たとえひび割れたって俺たちがサポートするのになあ」

最後の方は半ば独り言のように社は呟いた。



■12月の鬼-11(記憶喪失の為の習作5)



「おはようございます」
「おはよう琴南さん。今日もよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」

今日もまた看板俳優は完璧なる敦賀蓮の仮面を被って微笑んでいる。

「今日は社さんは?」
「打合せで少し遅れてくるんだ」
「そうですか…」

ちらり、と奏江は横の美丈夫を見上げた。
この現場は内容が明るいラブコメディということもあるせいか和気藹々…と言ったら聞こえがいいが、蓮に対するプッシュが皆実におおっぴらだ。社がいないとなるとそれはさらに過熱するに違いない。
見ているこっちも鬱陶しいが、蓮はもっと煩わしいに違いないのだ。おまけにその輪から外れている俳優やベテラン女優たちに気も使わなくてはならない。
さてどうしようと思っているとそれは聞こえた。

「杏香さあ。どうしたの?」
「なにがぁ?」
「だって、ロングヘアあんたの自慢だったじゃん。なのにこのドラマに合わせて髪の毛切ってさ。あんなにガンガンにしてた化粧も超地味だし、服装も何か可愛い系になっちゃって」
「わかるぅ?」
「分からない方がおかしいから」
「だって…本気で勝負かけてるから」
「勝負って敦賀さんに?それでそのメイク?超地味なんですけど?相手はゴージャスター様だよ?抱かれたい男№1だよ?」
「わかってないなあ。ゴージャスターがゴージャス美女好きとは限らないじゃん」
「そりゃま、そうだけどさ」
「あー、私分かった。京子でしょ?」
「京子?あの美緒とかナツの?ちょっと前に事故かなんかで引退した子だよね。」
「敦賀さん、あの子すっごいお気にだったらしいよ。ダークムーンでもよく一緒に行動してたって」
「あー確かインタビュー一緒に受けてたよね。でもあの時の京子すっごいお似合いの大人美人だったけど?」
「素の京子は全然違うんだって。」
「えーそれで真似てみてるわけ?それってアンタを見てるわけじゃないじゃん」
「きっかけだよ。きっかけ。結構苦労したんだよ。素の京子の映像あんまりないからさ。」
「そこまでするー?」

ゲラゲラと笑う声に奏江の眉間のしわは深まる。

(下品…)

例えキョーコの外見が蓮の好みそのものだったとして、事故で芸能界から姿を消したのだ。その姿を真似てアピールするなど少し無神経すぎるだろう。おまけに実際2人は恋人同士だったのだ。心の傷に塩を塗りこむ様なものではないか。

「馬鹿馬鹿しいですよね?」そう同意を求めるつもりで横の男の顔を見て、奏江は凍りついた。


蓮の顔に浮かんでいたのは背筋が寒くなるような嘲笑だったから。


奏江の視線に気が付くと蓮は再び仮面を被った。

「なに?」
「…いえ、なんでも」
「行こうか?」
「…はい」

踏み出す足が震えてよろけそうだ。
自分もまた女優の顔を張り付けて必死に気付かないふりをする。

怖い。

歪み始めている。
親友が誰より愛した男が。誰より尊敬した俳優が。

このままではたとえキョーコがすべてを思い出したとしても取り返しのつかないことになってしまうのではないだろうか?


(キョーコ、早く…早く…!)


キョーコの為に、蓮の為に、そして2人を見守ってきた自分や社、皆の為に奏江は祈った。

*
*

「社さん、どういうことですか?」
「さっさと口割ってください」
「ど、どうしたの。琴南さん。天宮さん。女優さんがする顔じゃないよ」

9月

事務所の廊下で遭遇して挨拶を交わす間もなくラブミー部の部室に連れ込まれ、凄い形相で迫る奏江と千織に社は焦った。
壁際に追い込まれているこの状態は誰かに見られでもしたら色々誤解を受けそうだ。

「敦賀さんですよ。敦賀さん。何かあったでしょ!?」
「何かって…」
「だってこの前のドラマの時と雰囲気全然変わってるじゃないですか!」

スペシャルドラマ撮影終盤辺りから思っていたのだ。相変わらず仮面は被っていても瞳の奥の色というか…ちらりと見えるものがあきらかに違う。あの身が震える様な荒んだ様子はまるでない。
そうなると原因は己の親友以外にはありえない。

「え…。そんなに分かる?」
「舐めないでくださいよ。撮影中盤位で様子が気になったから注意して見てたんです。」

あまりに様子がおかしいようなら、社なり社長なりに相談するつもりだったのだ。

「そうなんだ。心配かけてごめんね?」
「別に敦賀さんのためじゃありませんから。あの子が敦賀蓮っていう俳優のブランド大事にしてたの知ってるから…」

言っている途中で恥ずかしくなり口を噤む。

「そんなことより…あの子の事で何か新しい動きがあったんですか?それなら私にだって教えてくれたって」
「ごめんね。ちょっと蓮だけってのが申し訳なかったのと。なるべく内密にしておきたかったから…」

キョーコのバイト先に客として通っている、そう聞かされて驚愕する。

「そんなリスキーな。」
「うん。でも蓮が結構危ない状態だったから」

それは奏江も頷けるが、まだ少し納得がいかない。

「私だってあの子の事は心配してるんですよ?」
「うん。本当にごめん。でも琴南さんも顔が売れてきてるし…」
「別に会わせろなんて言っていません。」

自分は姿を見るだけでいい。だから今度同行させろと2人は要求した。

*
*

「あ、あれね」
「似合いますね。キョーコさん。ああいうの」

公園前に車を停めるなりキョーコ観察に余念がない2人に蓮は苦笑した。

「…ごめんな。蓮」
「いえ、俺ばかりフライングしているんですから。これくらいは当然です。社さん、スマホ出してもらえますか?」
「え?俺の?」

頷くので訳も分からずに胸ポケットからスマホを出すと、蓮は自分のスマホからコールをかけた。

「それ、スピーカーにしといてくださいね」

そう言って通話中のまま、自分のポケットをジャケットの胸ポケットに差し込むと車を出て行った。


蓮が歩くのと同時に胸ポケットの中のスマホが揺れるのだろう。生地と擦れ合う思いのほか大きな音がする。

『あ、敦賀さん。いらっしゃいませ』

1年10カ月ぶりに聞く親友の声

『こんにちは。最上さん。なんだか急に涼しくなったね』
『そうですよね。ホットにしますか?」
『そうだね。お願い。それと今日は持ち帰りは3つで。事務所の人と打ち合わせがあるんだ』
『承知しました』

(なによ…もう…能天気な声しちゃって)

クスリと笑う奏江の耳に、2人の他愛もない会話が聞こえてくる。
天気や近々開催されるという大学の学園祭の話、そして話題は蓮の仕事に移る。

『そうだ。見ましたよ。スペシャル。やっぱり面白かったです。散々笑わしといて最後にほろりとさせられるんですもん。卑怯ですよね』
『卑怯かあ。ある意味最高の褒め言葉だね。脚本家に伝えてあげたいよ』
『脚本の力もあるんでしょうけど、やっぱり演技あってこそですよ!敦賀さんもすごかったですけど、後…あの…女優さん』
『女優さん?』
『ほら…黒髪のすっごい美人の……そう!琴南奏江さん!』

どくんっ

心臓が跳ねる

『もうあの純情乙女っぷりが最高でしたよ!あんなに美人なのにすっごい表情豊かだし…』

顔が真っ赤になるだけではない。視界まで滲んできて慌てて顔を伏せた。
そんな奏江を社は優しい笑顔で、千織は少し悔しさも滲みながらも微笑んでいる。


(届いた…)

自分の演技が。

見つけてくれた。

大事な大事な親友に。


もっともっといい演技をしたら思い出してくれるだろうか?
また再び「モー子さん!」と呼んでくれるだろうか?


*
*


同時刻、ウィリデ総合法律事務所


「若松君」
「はいっ!なんでしょう。最上先生!」

昼休憩から帰ってきたところの若い男は、事務所きっての常勝弁護士に声をかけられ緊張した様子で急ぎ足でやってきた。
冴菜はチラリと時計を確認する。まだ昼休憩時間中だ。

「ごめんなさい。仕事じゃないのよ。個人的にお願いがあるの」
「僕に…ですか?」

その時若松大和は初めてFROZEN弁護士最上冴菜の笑顔を見たのだった。


(12に続く)

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