2015_10
06
(Tue)11:55

12月の鬼-12(記憶喪失の為の習作5)

またギリギリ。
もう最近そればかり


2015/10/6





10月中旬、来月の学園祭に向けた演劇部の練習も本格化してきてキョーコは忙しい。
今日はバイトが無いので久しぶりに早く家に帰ったが、夕食後には舞台衣装を縫わなければならない。

「忙しそうだし、夕飯の準備なんて私がやるわよ」
「せっかく今日はお母さんも早いんだし作りたいの。それにお鍋にするから大丈夫…あ、もやし無いなあ」

その時キョーコのスマホが着信を知らせた。この音は美晴か遼子だ。

「はーい。遼ちゃん。どうしたの?」

実家から大量に野菜を送られてきたのでいくらかもらって欲しいという。

『キョーコちゃん家にいるなら今から持っていくよ』
「え?わざわざ悪いよ。明日大学でもらえれば」
『えー、ナスとかサツマイモだよ?重いしカッコ悪いし大学に持っていきたくない』
「じゃあ、私が明日の帰りに「今から来てもらったら?夕飯一緒に食べてもらったらいいじゃない」」

ダイニングテーブルでノートPCを開いていた冴菜がこちらを見ていた。

「お鍋するなら2人より3人の方がいいわよ。丁度今日買った甘喜廊の鯛焼きも3つあるし」

驚いた。冴菜はキョーコの友人の来訪は歓迎してくれるが、あまり人付き合いは得意ではないと言って一緒に何かするということはなかったからだ。

『もしもーし?キョーコちゃん?』
「あ…ごめん。じゃあ今からお願いしていいかな?お母さんがお鍋するから一緒に食べようって」
『ラッキー!何鍋?買っていくものある?』
「中華鍋にしようかなって。もやしお願いしていい?」
『勿論。お鍋用のギョーザはいらない?』
「じゃあ、それもお願い」



■12月の鬼-12(記憶喪失の為の習作5)



2人だと色々具を買っても余ってしまうお鍋も3人だと丁度いい位だった。

「中華鍋美味しかったー。今度私もやってみようかな。中華だしと後は何入れればいいの?」
「昆布で出汁とって、仕上げに白味噌入れるの。」
「白味噌かー。普段は使わないなあ」
「いつもの味噌でもちょっと味変わるけど大丈夫じゃないかな?」

2人でおしゃべりしながらの皿洗いはあっという間に終わった。冴菜が煎れてくれたお茶で鯛焼きをいただく。

「わあ、すっごい美味しいそう!鍋少な目にしといてよかった。お母さんは何味ですか?」
「私は何でもいいわ。キョーコがどれがいいか分からなくて人気順から適当に3つ買ったのよ」
「ええっっと、抹茶あずきクリーム餡と、粒あんと、期間限定サツマイモ餡だって。遼子ちゃんは?」
「私は期間限定!」
「私は抹茶。お母さん粒あんでいい?」
「ええ」

お茶の話題は学園祭の話になった。

「遼子ちゃんのサークル、焼きそばやさんだったっけ?」
「そうだよー。いつもは他の大学との合同サークルだから、なんか準備女子だけでするのって変な感じ」
「あら?古殿さんのテニスサークル、他大学との合同なの?」

(あれ?)

冴菜が話題に入ってくるなんて珍しい。キョーコ達が話すのを聞いてはいるが、進んで話題になど入ってきたことなどないのに。

「そうなんです。折角東京で一人暮らししたんだから彼氏作ってリア充しなきゃ、って思って合同サークルに入ったのに目ぼしい人はぜーんぶ彼女持ちでもうガッカリです。」
「じゃあ、うちのアルバイトの学生とコンパとかしてみる?」
「へっ?」
「えーっ。弁護士事務所の学生アルバイトとか知的で憧れます!!!」
「知的…かどうかはわからないわね。熱心でいい子だと思うけど」

冴菜が告げた件の学生バイトの所属大学は法学部が有名な一流私立大学だ。それを聞いた遼子のテンションはますます上がった。

「すっごい!超ハイレベルじゃないですか!!あ、こんな言い方したら頭悪いのバレバレですね。でも会って話だけでも聞いてみたいです」
「2人の大学だって全然見劣りしないわよ」
「ちょ、ちょっと…」

進んでいく話にキョーコは焦った。だがもう遼子はすっかりその気だ。

「うちは母子家庭だしおまけに女子大なんて男性に免疫なくて少し心配だって話をしたら、じゃあコンパでも開きましょうか?って言ってくれたのよ。」
「ですよねー。たとえ恋に発展しなくたって出会いは大事ですよね。」
「りょ、遼ちゃん」
「キョーコちゃん。行こうよ。美晴も誘ってさ。なかなかないよ?こんな出会い。ね?お願い!!」

手を合わせてお願いされて途方にくれた。

キョーコは今出会いなんて求めていない。
入りたかった大学に入れて、演劇部という打ち込める場もあって、バイトだって楽しい。
コンパなんて…正直言うと煩わしい。

でも、一番の仲良しにこんなにお願いされて、たかだが数時間で済むコンパに出席しないなんて選択肢はキョーコにはなかった。

「…じゃあ…美晴ちゃんも行きたいって言ったらね。」
「やったー!。じゃあお母さん。お願いしますね!」

冴菜が微笑みながら頷いた。


そう、キョーコはコンパなんて…男の人との出会いなんて…全然求めていない。

もし、これが母と2人だけの食卓で出された提案だったら即座に断っていただろう。
彼氏が欲しい欲しいといつも行ってる遼子がいなければ…


キョーコはなんだか違和感を感じた。


なにか、何かがおかしい。


*
*


予想通り美晴も大乗り気で、3対3のコンパは学園祭が終わってすぐ11月初めに開かれた。

「はじめまして、いつも最上弁護士には勉強させてもらってます。若松大和です。」
「いつも母がお世話になってます。初めまして、最上キョーコです」

隣に座る遼子と美晴が男性3人のレベルの高さに目をキラキラしているのが分かって、キョーコは頭を下げながら苦笑した。
でも2人のテンションが上がるのもよく分かる。若松は170後半の身長に爽やかな容貌だし、後の2人も清潔感があってそこそこスタイルもいい、おまけに3人とも高学歴を鼻にかけることもなく人の話にもちゃんと耳を傾けて実に好印象なのだ。

(これは…遼ちゃんと美晴ちゃんにいいことしたかも)

後は楽しい会にするだけだ。結果は後からついてくるだろう。キョーコはひたすら幹事役に徹することにした。


「美味しかった~お腹いっぱーい」
「すごい穴場の店だったね」
「みんな時間大丈夫?大丈夫ならもう少し話していかない?」
「行きます!」
「じゃあ…カラオケ?もうちょっと飲む?それともお茶する?」
「うーん。ゆっくり話が出来る方がいいですし、まだ未成年なんでお茶がいいです」
「さっき酎ハイ飲んでたじゃん」
「慣れてないからすぐ眠くなっちゃうんですよ」
「おお、遼ちゃん、それは危ないねえ」

意気投合した4人がカフェに向かってゾロゾロ歩く。どうやらみんなで行くことは決定事項のようだ。明日は大学は休みだが朝一からバイトなので出来れば早く帰りたいが、もう1軒お茶くらいなら付き合うべきだろうとキョーコも皆の後ろについていく。

学祭の為にここ1週間ほどバイトに入れていない。

(明日…敦賀さんくるかな…)

もし来たら学祭での演目の様子を話したい。キョーコはまだ舞台には立たなかったが学外のお客さんにも楽しんでもらえたようだったし、キョーコが縫った衣装も好評だったのだ。
報告したら連はどんな反応を見せてくれるのかと考えて自然と頬が緩む。

「キョーコちゃん。幹事お疲れ様」

緩んでいた顔を慌てて戻して横を見る。

「若松さんもお疲れ様です。今日は有難うございました。楽しかったです。」
「こっちもすごい楽しかったから。礼なんていいよ。可愛いしいい子ばっかりでアイツらもすごいテンション上がってた。」
「みんな盛り上がってましたね。」
「キョーコちゃんは?」
「え?」

横を見るとキョーコを見つめる笑顔があった。

「コンパとか乗り気じゃなかった?」
「え?いや…まだ大学生活に一杯いっぱいというか…」
「そうなんだ。なんだか最上先生が心配してたからさ。身近に男の人がいないから免疫無くて心配だって」
「まあ…そりゃあ女子大ですから。でもバイト先のマスターは男の人ですよ?お客さんだって男性の方が多いですし」
「それはあんまり身近って言わないんじゃない?最上先生が心配するのも仕方ないかもなあ。そもそも何で女子大選んだの?」
「え…入りたい学部がありましたし、心配かけないかなって…」
「心配って最上先生に?逆の方向で心配されちゃったね。」

明るく笑う若松に合せて愛想笑いを浮かべながらキョーコは何かがまた引っかかった。

(心配…誰に心配かけないって思ったんだっけ?)

特定の誰かを考えた訳ではない。でも女子大というのはキョーコの中では大学を選ぶ大前提だった。


だって…きっと心配するから…


(誰が?)


どうにもよく分からなくてモヤモヤしていると、そんなことには気付かず若松は話を続ける。

「俺も今日は乗り気じゃなかったんだけど来てよかったよ」
「あ…もしかして母が無理矢理?」
「いやそんなことはないんだけどさ。最上先生がプライベートのお願いなんて事務所の人にするなんて聞いたことないから断れないよ」
「それは…すいません」
「いや、コンパ位だからね。でも来てよかった。キョーコちゃん本当にいい子だし可愛いし」
「はあ…それは過分なお言葉有難うございます」
「あー。全然伝わってないなあ。やっぱり最上先生の心配的を得てるよ」
「は?」
「俺、キョーコちゃんの事気に入ったって言ってるの。もしよかったら今度2人で会わない?」
「え…?」
「もしかしてだけど好きな人いたりする?」

その瞬間
キョーコの首が若松の顔より高い所を見上げるように傾いだ。

そして気付く

その視線の先に思い浮かべたのが、「こんにちは」とキョーコに声をかけてくれる時の蓮の顔だと。



どうして足音だけで聞き分けられるのか?
どうして来店を心待ちにしているのか?

どうして…蓮の傍に別の女性が立つことを考えると胸が痛むのか?



それは…恋をしているから。


あの煌びやかな世界の住人に

手の届かぬ人に。


(13に続く)




関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

非公開コメント