2015_10
20
(Tue)11:55

想いはフルボトルで(ほんのわずか番外-1)

散々書いてもうやめようと思ったのに…ほんのわずか番外の新しいお話です。
そして限定記事を既読の方は「あれ?また1?」と不思議に思われたかもしれません。
通常記事への移行を機に時系列にちゃんと並べ直そうと思いましてね。

では小話ですがどうぞー。


2015/10/20





春はあけぼの

    やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明りて


「…紫だちたる雲の…細く…たなびきたる…」


学生時代に散々憶えさせられた古典の一節が思わず口をついたのは、蓮の肩越しに見えた暁の空に紫がかった雲が見えた気がしたからだ。
小さな声で零れたそれはキョーコに覆いかぶさっている男の耳にしっかりと届いたらしい。

「随分風流だね。まあ…暦的にはもう夏だろうけど」

少し身を起こして、こちらを見る瞳は情欲の色に染まっている。

「だって…空に…」
「ああ…夜が明けたね」

振り向いてクスリと笑う。

「まだまだ余裕あるね。加減しなくてよかったかな?」


いやもう一杯いっぱいです。そんな言葉を発する隙も与えらないまま、キョーコはまた訳が分からなくなってそのまま眠りへと落ちていった。



■想いはフルボトルで(ほんのわずか番外-1)
               ~ほんのわずか4日後~




「信じられない」

ぶちぶちとソファーを背に座っているキョーコから文句が零れ落ちる。

「もうお昼。お昼の時間ですよ。」

目覚めたら11時を回っていたのだ。早起きはキョーコの信条の一つであるというのに。
あれが6時近かったのだろうから睡眠時間はそれなりに取ったはずなのに、もうぐったりとしてしまい蓮にシャワーを手伝ってもらう恥ずかしい目にもあった。

「ごめんね。キョーコがまだまだ余裕がありそうだって思ったらちょっと悔しくなっちゃって」
「そんな負けず嫌いいりません!もう紫の雲見えちゃいましたよ。紫雲ですよ?紫雲!。仏様がお迎えにくる時乗ってくるんですよ?本当にお迎えだったらどうしてくれるんです!!!」
「キョーコは物知りだな。極楽からのお迎えね。まあ…ある意味極楽だよね」
「なっ、なんなんですかっもう。絶対金曜に泊まりに来てくれなんて言っといて…部屋に入るなりあんな…あんな…」

破廉恥極まりない明け方までの行為を思い出し悶絶したい気持ちに駆られるが身体は鉛の様に重い。まさか“今夜は眠らせない”があんな意味だったとは。てっきり夜通し楽しくおしゃべりするとか思っていた自分を呪いたい。

「えー、折角キョーコからの提案だから実践しなきゃって思ったんだけどなあ」
「えー、じゃありませんよ!そんな提案どこか空の彼方に放り投げていただいたらいいんです。」

ソファーに腰掛けた確信犯はくすくすと笑いながらキョーコの髪にドライヤーを当てる。メイク用の鏡越しにみてもその様がなんとも絵になっていて妙に悔しい。自然と化粧水のパッティングに力が籠る

「泊りにしては随分荷物少ないと思ったら、基礎化粧品1つ1つがそんなに小さいんだね。そういうの売ってるの?」
「旅行用に売ってるミニボトルも有りますけど、これはサンプルとかでもらった小瓶に詰替えたんです。会社に大荷物抱えて行ったら質問攻めにあいますよ。」
「まあ俺はいつばれてもいいけどね。」
「それは…」
「分かってるよ。キョーコの仕事がやりにくくなるのは俺だって嫌だから。さて、乾いた。ご飯にしようか?」
「…朝ご飯はちゃんと作りたかったのに」
「それは明日の楽しみにしとくよ」

ぽん、と頭の上で大きな手が弾んで、コーヒーを淹れてくるとキッチンに歩いていく。
その後ろ姿をみながらまたブチブチ。

「まあ…あんな冷蔵庫の中身じゃどうしようもなかったけど」

昨夜コンビニで、蓮がサンドイッチやらサラダやら手間のいらないものばかりを籠に入れるのでおかしいと思っていたのだ。喉が渇いて冷蔵庫をあけたら、ものも見事に酒と水しか入っていなかった。システムキッチンの調味料用の引き出しだって空っぽだ。
マンションは元々蓮の両親の持ち物だったらしく無駄に調理器具はそろっているのに…こういうのを宝の持ち腐れと言うのだ。

そうこうしているうちに蓮がサンドイッチとコーヒーをトレイに入れて持ってきてくれた。
自分でも気が付かなかったが相当お腹がすいていたらしい。食べると少し落ち着いてきてこれからどうしようかと考える。
折角互いの想いを確認しての最初の週末だ。どこかお出かけしてみたい気もするが、もうお昼過ぎだし身体もまだ怠い。
蓮も同じことを考えていたのか、コーヒーカップをソーサーに戻すとキョーコを見た。

「身体、辛い?」
「辛くはないです…。まだちょっと気怠いですけど」

ぶちぶちと文句を垂れ流しているのは、昨夜の自分の乱れようが何とも言えず恥ずかしかったからだ。

「じゃあ、着替えたらちょっと出かけようか?行きたいところがあるんだ」

提案したのは郊外にある広大なショッピングモール。蓮が行先の希望を言うなんて珍しい。

「勿論いいですよ。何か欲しいものあるんですか?」
「うん。ホットプレート」
「ホットプレート?」

このお洒落な部屋で食に関心が無い蓮がホットプレート?

「何かやりたい料理あるんですか?」
「うん。今夜はお好み焼きが食べたい。」
「お好み焼き…ですか?」
「そう。絹豆腐混ぜたやつ」


 ― 生地にお豆腐入れても美味しいんですよ ―

 ― なんだか中がすごくフワッとして美味しくなるんです。亡くなった母がいつもそうやって作ってて… ―


「…覚えてて…くれたんですか?」
「当たり前だろ?」

すました顔で言われて胸がじんわりと暖かくなる。あんな些細な言葉を覚えていてくれていたのだ。あの頃から大事に想われていたのだと実感する。

「それと…」
「他にもあるんですか?」
「化粧品も買おう。フルボトルのやつ」
「え?」

言ってる意味が分からずきょとんとしていると、蓮の手が伸びてキョーコの頬に触れた。

「当たり前になって欲しいんだ」
「当たり前?」
「うん。かまえて準備してじゃなくて、いつでも思いついた時に、なんとなくでもいい。俺の部屋に来るのが当たり前になって欲しい。だから…そうだな…リラックスできる部屋着なんかも買おうか?」


小さなボトルに化粧品を詰めて、準備してから来る部屋じゃなくて、日常の一部に
蓮の傍にいることを当たり前だと感じて

目を見開いているキョーコの頬を優しい熱で包んだまま蓮が微笑みかける。

「どう?俺にプレゼントさせてくれる?」
「…結構散財しちゃいますよ?」


絶対に所帯じみたことはしないんだと頑なに決めていたあの3か月

いいのだろうか?所帯臭くなっても、重たい女になっても。


「それでキョーコが傍に居る時間が長くなるなら俺にとっては安い投資だよ?」


一晩中甘い熱を注がれた昨夜。
破廉恥だし精根尽き果てるとはこのことだって位疲れたけれど…その最中にその合間合間に囁かれる蓮の想いはキョーコの身体を心を満たしてくれた。

それならば…蓮にだって

「ソースやお醤油や調味料も買わなきゃいけませんね。フルボトルで」


キョーコは笑う。
恥かしげに。でも幸せいっぱいに。


「私からもプレゼントさせてください」
「ん?何を?」
「私のアパートに置いておく為の敦賀さんのルームウエア。」


蓮も一瞬目を見開いて…

そして笑った。


「じゃあ、片付けて出かけようか?」
「はい!」


それぞれの想いを目一杯相手に伝えて

フルボトルの幸せを



(おしまい)




調味料のフルボトルっていったいなんだ?そんな突っ込みはいれず流して読んでいただけたら幸いです。

没ネタだったのに書いちゃった…。後悔するだろうか…


既に他の番外をご覧になった方はご存知だと思いますが、番外はひたすら甘いです(拙宅比)
例えパラレルだって蓮キョには幸せになって欲しいのですよ。

こんな感じでよければ暫くお付き合い下さーい。

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Re: もしや…

>愛海様
喜んでいただけてよかったです。
久しぶりに「ほんのわずか」の2人を書いたのでなんだかちゃんと書けてるかドキドキしました(笑)
今まではどこか緊張していた2人が少しずつなじんでいく感じが出て居ればと思います。
貴島さんと敦賀さんのやりとりとか申し少し書いてみたいと思うのですよ。まだまだまとまりませんけど。

2015/10/22 (Thu) 01:00 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

もしや…

タイトルを読んで、「番外編の中にこんなタイトルのお話あったかな?もしや、新作!?」とドキドキしながら読み進めると…。
やったぁ、新作だぁ‼とじたばたしちゃいました♪
「ほんのわずか」の新しい蓮さまとキョーコちゃんに会えるとは思っていなかった分、喜びは大きかったです。
やっぱり甘々な二人はいいですねぇ。
読んでいてほっこりしちゃいます。
今まですれ違っていた分、お互いの気持ちをしっかり受け止めあっていってほしいです。
特にキョーコちゃんはつらい思いばかりしてただろうから。

「もう一本書けたらいいな」とのこと。
いつまでも待ってますので、ちょびさまの気が向いたらお願いします☆

2015/10/21 (Wed) 09:57 | 愛海 #- | URL | 編集 | 返信

Re: タイトルなし

>○○ま様
大興奮で読んでくださり有難うございます。書いてよかった―!!!なんかこういうのこそ蛇足というんじゃないかとかウジウジ考えたんですよ(チキンだから)
「ほんのわずか」の2人を大事に想ってくださってるんだなあと嬉しくなるコメント有難うございます。
もう1個くらい番外書けたらいいんですけどね。

2015/10/21 (Wed) 00:14 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 待ってました!

>ひろりん様
コメント有難うございます!
気持ちを確認しての2人のこそばゆい幸せな朝をイメージしたんですけど…書いてるこっちがもうこそばゆいなんてもんじゃありませんでした(笑)
もう1つくらい新しい番外編を書こうかなとは思っているのですが、三沢君は…チラリと出るくらいですかねえ。結構家族構成とかまで細かく考えたキャラなので気になっていただけて嬉しいです♪

2015/10/21 (Wed) 00:07 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

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2015/10/20 (Tue) 18:47 | # | | 編集 | 返信

待ってました!

ちよび様

こんにちは。“ほんのわずか”ありがとうございます‼
甘々大いに結構!いいですね、こんなほんわかムード。
会社での仕事ぶりとは違う蓮様、キョーコちゃん“好き”の気持ち再認識してますね‼
まだまだ、ネタはいけそうですか?
ほんのわずかの本編で焦らされた分、幸せいっぱいの二人をこれからも“ほんのわずか”と言わず大いに期待してます!(切なさ込みで)
余談・・・三沢君また登場!ってないですか?結構気になるキャラですね。

2015/10/20 (Tue) 13:54 | ひろりん #- | URL | 編集 | 返信

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