2015_10
27
(Tue)11:55

12月の鬼-14(記憶喪失の為の習作5)

12月の鬼も気が付けば14話。
賭けの勝敗がプロローグをいれて13話だったはずなので記憶喪失の習作史上最も長い連載となってしまいました。
これ…12月に終わるのかな…。

2015/10/27




(状況が理解できない。)


「ごめんなさいね。キョーコったら吃驚して首を横に振っちゃったなんて家でブツブツ言うものだから」
「いいんですよ。最上先生。俺も会ったその日にちょっと押しすぎちゃったかなって反省してたんです。」
「2人で会う位で押し過ぎとは言わないわよ。本当に男の人に免疫無いと心配だわ」

こんなに饒舌な冴菜を初めて見た。

おかしい。
確かキョーコは若松に今度2人で会おうと誘われて断ったはずだ。
だが、この場では男性との会話に不慣れなキョーコが吃驚したあまり意図せずに首を横に振ったことになっている。

「あ、あのっ、若松さん、すいません…私…」
「謝らなくていいよ。キョーコちゃん。それに気負わなくていいよ。あ、でも俺はちゃんと真剣に付き合いたいって思っているからね。ちょっと考えてもらえるかな?」

貴方とお付き合いする気なんてこれっぽっちもありません。とは言い出しにくかった。若松に恥をかかせることになる。いくらバイトとはいえ母の職場の人なのだ。

値の張るコース料理の味は全くと言ってしなかった。


■12月の鬼-14(記憶喪失の為の習作5)



「お母さんどういう事!?私ちゃんと自分の意思で若松さんのお誘い断ったのよ?」

マンションの自室に戻るなりキョーコは冴菜に詰め寄った。

「それが性急すぎるのよ。何度か会ってから判断したって遅くないでしょう?」
「そんな付き合う気が無いのに何度も会う方が失礼でしょ。私今は誰とも付き合う気は…」
「その判断が性急だって言ってるのよ!分からないの!!!」

苛立ちのこもった鋭い言葉に身体が竦む。そしてどこからか声がする。

“ほら、言うこと聞かないと見限られちゃうよ…”


見限られる?どうして?冴菜はキョーコのただ一人の家族なのに?
母はキョーコの意志を尊重してくれるはずなのに?

キョーコの強張った表情をみて冴菜は慌てて声のトーンを柔らかいものに変えた。

「ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたわ」
「……」
「でも心配なのよ。若いうちに恋愛経験がないと視野が狭くなるんじゃないかって。私がそうだったから」
「お母さんが…?」
「そうよ。貴女を産んだことに後悔はないけれど、初めての付き合いに周りが見えなくなっていたと思うから。不誠実な人や叶わない恋にのめり込んでキョーコに辛い思いをして欲しくないのよ」

(叶わない恋…)

頭に神々しいまでに美しい男性の顔が浮かぶ。

「社会に出ての恋愛は周りもあまり口を出さないし後戻りが聞かないことだってたくさんあるわ。大人になってからの傷は引き摺るし…だから今のうちに別に付き合わなくてもいいから沢山男友達を作って免疫を持ってほしいのよ」
「…少し考えてみる」
「そうよ。みんなで会うのと2人で会うのとはまた違った顔も見えるから…前向きに検討して見なさい」

優しい…でも否とは言わせぬ笑顔で冴菜は微笑んだ。



自分の部屋に入るとキョーコは鞄の中を探った。
いつも持ち歩いている鞄の中には蓮から返された保冷バックとチョコの巾着がいつも入れてある。
疲れた時や勉強がなかなかはかどらない時にこれをみると元気になれるのだ。

「すっかり折り皺ついちゃった…」

巾着の皺を伸ばし、保冷バックの持ち手をそっと握る。その持ち手を握っていた蓮の大きな手を思い出す。

「叶わない恋…。もう落ちちゃっているもの…」

この想いが届かないことは重々承知だ。そしていつかバイト先の店員と客と言う関係が終わることも。それが蓮があの店のコーヒーに飽きた時なのか、キョーコがバイトを辞めた時なのか…それは分からないが。
その関係が終わらなくても、蓮に大事な人が出来るかも、いやもういるかもしれないことも。そしてそのニュースをキョーコはテレビやネットを通じたニュースで知ることになるのだろう。

「…そんな覚悟位出来てるもの。お似合いの彼女とのツーショット会見位ちゃんと受け止めるもの」

ふと鞄の中のスマホに目が行った。
取り出したそれに“敦賀蓮  お似合い ツーショット”と入力して検索をかける。

大体が共演者との仕事上でのニュースらしい検索結果が並ぶのを見て胸をなでおろしている自分に気付き苦笑する。スクロールしているうちにファンのブログらしきものが目に入った。

“悔しいけど今までで一番お似合いだと思った”

3年ほど前の記事だが、そんな言葉に思わずそのページを開く。


添付されていたのは女優とのツーショット

“今朝の富士の報道特番で見た京子とのツーショット。悔しいけど今までで一番お似合いだと思った。でもやっぱり蓮はまだ誰とも付き合って欲しくない。みんなの蓮でいて欲しい!”

それにたいして“わかるわかる”“でも京子はマジで綺麗だった!驚き!”“あんな大人美人なんだね!役と全然違う!”等のコメントが寄せられている。
ダークムーンが蓮の代表作だということは知っている。副部長の相馬奈美恵もとっておきだからと言われているので次こそ借りてみようと思っていた。

もう一度画像を見た。魔法をかけられたように美しい女優と、それを優しく見つめる蓮の顔。
蓮が女優とツーショットで画面に登場するのはさして珍しい事ではない。だけどこんな笑顔の蓮は見たことがなかった。
この人だろうか?蓮の大事な人は?もしかして今も大事な人なのだろうか?

「本当に…大人美人…」

何かに圧迫されて胸が苦しい。

「京子…かあ。偶然。私と同じ…。」

でも蓮はキョーコの名前は知らない。知っているのは最上と言う姓だけだ。
この人の名をあの耳に馴染む低い声で呼ぶのだろうか?優しく、愛おしげに。

分かっていることはキョーコの名前が呼ばれることはないと言う事だ。



圧迫されて押し出された涙が瞳から零れ落ちた。


こんな画像一つでこんなに苦しい。
もしこれが明確な事実となった時…どれほどの痛みが自分を襲うのだろう。

その時…母にまで置いていかれたら?

ふとそんな考えが頭を掠めた。



*
*


「おはよう。キョーコ」
「おはよう。お母さん」
「私、今日お弁当いらないって言ったかしら?」
「うん。ちゃんと覚えているよ」

忙しげに食卓につく冴菜をキョーコはじっとみた。

「何?」
「…昨夜考えたんだけど…」
「…」
「試しにお付き合いしてみようかな…若松さんと…」

冴菜の顔がぱっと輝いた。


(15話に続く)





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コメント

Re: きゃ〜!という気持ち

>くろ様
コメント有難うございます!
17歳の自分を大人美人と呟くのって後で知ったらちょっと恥ずかしいかもしれませんね(笑)
蓮キョへのエール有難うございます。そろそろ11月ですから、話はクライマックスに向かう…はずです。多分…汗

2015/10/30 (Fri) 17:26 | ちょび | 編集 | 返信

Re: 母親が怖い

> みえぶた様
コメント有難うございます。
ハラハラさせてしまって申し訳ありませんが、最後はハピエンがうちのモットーですからどうか安心してハラハラなさってくださいませ!(笑)

2015/10/30 (Fri) 17:22 | ちょび | 編集 | 返信

Re: またしても!!

> ひろりん様
コメント有難うございます。いつも元気をいただいております!(その割に返信遅くてすいませんです)

3年前のツーショットとは…ほら、貴島さんがCG?と思うほどのコスメマジックですから(笑)自分とは思わないかなーとか思っちゃったんですよ。
煽るの上手いですか?次回も煽りますよー。うふふ…

2015/10/30 (Fri) 17:15 | ちょび | 編集 | 返信

きゃ〜!という気持ち

過去の自分の画像みて大人美人とつぶやくキョーコちゃん(笑)自分と気付いてー!!!
そして若松さん?と付き合っちゃうのー?!
蓮さまー!!はよなんとかしてーー!
蓮キョを応援する気持ちが溢れて止みません!

2015/10/27 (Tue) 21:35 | くろ | 編集 | 返信

母親が怖い

今日は。更新公開ありがとうございます。
キョーコちゃんの母親に腹が立ちます!
どこまでキョーコちゃんを不幸にするのでしょうか。
蓮さん頑張ってキョーコちゃんをさらってね。
ハラハラしますがどうかキョーコちゃんと蓮さんが
幸せになります様に祈っております。

2015/10/27 (Tue) 15:36 | みえぶた | 編集 | 返信

またしても!!

ちょび様
こんにちは。毎回毎回意味不明なコメントばかり、申し訳ございません。
今回も、キョーコちゃんに期待をしてましたが“ああ、また……どうして(泣)”、ここで素通りとは!
3年前のツイートで《わたし……?》ときて、少しずつ鍵を見付けていくかと思って読み進めていたのに……悲しいです。
まだまだ、冴菜さんの裏工作も出て来そうだし。
ちょび様、“煽るのが上手い”です!
次の更新も楽しみにしてます!

2015/10/27 (Tue) 13:20 | ひろりん | 編集 | 返信

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