2015_04
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(Thu)11:55

強く欲するモノ(8)

2014/4/1初稿 2014/9/9一部修正、2015/4/2加筆修正の上通常公開






「あの子は怖いですよ。目覚めたら…」

そういったのはいつだったのか?



■強く欲するモノ(8)



蓮の腕で泣いた夜が明けると、キョーコはみるみる元気を取り戻した。

「敦賀セラピーの力は絶大ですね。」

そう笑うキョーコの声は明るい。
医師や理学療法士の話を熱心に聞き、病室に持ち込んだタブレットからも情報を得ているようだし、奏江や千織、椹も頻繁に病室を訪れている様子だ。

*
*

「あれ?今日社長きたの?」

仕事が終わると病室に戻って眠るのが習慣づいた蓮が、床に落ちている花びらを拾って言った。
花瓶に飾られている花とは種類が違うし、落ち方がいかにもばらまきましたといった感じだ。病室でこんなものを撒くなんて社長以外考えられない。

「お昼過ぎにこられましたよ。病院でサンバは不味いだろうと、怪しいベリーダンサー引き連れておられました」

受付近くで披露したら来院者に喜ばれたみたいですよ?というキョーコの報告に蓮は苦笑した。

(サンバがダメならベリーダンスって…病院関係者に何事かと思われただろうな。まあいつものことか)

「そうだ。さっき、先生に聞いたよ。経過良好だから来週には退院できるって」
「そうなんです!」

元気に答えるキョーコに微笑んで、すっかり定位置と化したキョーコのベットに潜り込む。

「…敦賀さん」
「ん?」
「たまには帰って寝ないと、こんな狭い所で寝てたら身体休まらないですよ?」

キョーコのいないマンションで眠れる自信などない。

「ん・・・もう少しね」

誤魔化すように言って、蓮は目を閉じた。

*
*


「キョーコちゃん、来週退院だってな。よかったな~」

翌朝病院を出ると、助手席で社がニコニコと言ってきた。

「表情も明るくなったし、そろそろこれからのこと考えなないといけないんじゃないか?キョーコちゃんにも今後のお前のスケジュール聞かれたぞ」
「とりあえず、落ち着いたら渡米して、あっちでリハビリの専門家に相談したらいいと俺は思ってるんですけど…」
「当初のお前の渡米は来週末の予定だろ?どうするんだ。先にお前だけ行くか?」
「いや…申し訳ありませんけど、それ変更してもらっていいですか?退院していきなり長時間のフライトはきついでしょうし…できるなら一緒に行きたいんです。心配ですから」

半分本当…
半分…嘘
一緒でないと不安なのは自分の方。

「結婚式が延期になった分、あっちでのスケジュールにはまだ余裕があるからいいけどさ。しっかりキョーコちゃんと話し合えよ?自分のためにスケジュール変えたと聞いたら、キョーコちゃんの負担になるかもしれないぞ」
「…わかりました」
「今日が帰れない分、明日は昼過ぎには上がれる。時間はあるぞ」

蓮は無言でうなずいた。

*
*


翌日、予定通り昼過ぎに仕事を終えた蓮はその足で病室にやってきた。

「俺。入るよ?」

ノックしても返事がないので、寝ているのだろうと思いドアを開けたがキョーコは寝ていなかった。
起こしたベットに寄りかかり、外を見ている。
差し込む明るい日差しが白を基調とした部屋の中で乱反射し、夜の病室に慣れた蓮には眩しくて目を細めた。
ゆっくりとキョーコがこちらを向く

「おかえりなさい」

柔らかく微笑みながら蓮を見つめるその瞳には強い光。
蓮が愛してやまない生命力にあふれた光

なのにそれが少し怖くて、蓮はただ黙ってキョーコと見つめ合う。

「敦賀さん」

キョーコの腕が開かれる

「ギューって、してください」


誰よりも愛しい存在から伸ばされた腕。
いつもなら嬉しいおねだり

なのに蓮は躊躇った。


予感があったから。



(9に続く)
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