2015_11
02
(Mon)11:55

12月の鬼-15(記憶喪失の為の習作5)

あれーもう11月?
まあ…その…とりあえず行きましょー。

2015/11/2





暗い映画館の中、たまに肩や腕が触れる。その度にキョーコは身体を強張らせた。


これが…蓮だったら…きっと嬉しいはずなのに安心できるはずなのに…そう考えて…

(妄想だけてそんなこと断定する私ってどうなのよ?)

そんな自嘲気味な笑いが浮かぶ。



■12月の鬼-15(記憶喪失の為の習作5)



「あの映画、面白かったね。」
「本当にクー・ヒズリが最高でした!」

映画が面白かったのは救いだった。途中から内容に夢中になって隣の若松の存在を忘れられたから。
付き合って初めてのデートでこれでは先が思いやられると自分にあきれる。

「よかったよ。あの映画にして」

ウェイターに料理を注文した若松が笑いながら言う。

「どうしてですか?」
「だってキョーコちゃん、最初は俺が隣にいることに緊張しっぱなしだっただろ?ちょっと腕が当たるだけでガチガチになっちゃってたけど途中からは気にならなかったみたいだから。」
「余計な気を使わせまして…すいません」
「いいよ。いいよ。新鮮で可愛かったし。本当に男に免疫無いんだね。女子高出てるんだっけ?」
「あ…いえ…事故で長い間入院していたので卒業出来なくて高認受けてるんです」

どうやら若松はキョーコが事故で記憶を喪っていることを知らないようだ。なんだか根掘り葉掘り聞かれるのも嫌な気がして曖昧に言葉を濁したが、向こうはあまり気にしてない様子だ。

「そうなんだ。高認って昔の大検のことだよね。あれとるの普通に高校卒業するより難しそうだよな。キョーコちゃん頭いいんだね」
「…そんなこと」
「最上先生に似たんだな。なんてったって常勝弁護士だし。東京出てきてからずっとなんだろ?知ってた?」
「そうなんですか?知りませんでした。家では仕事の話しないので。」
「先生、公私の区別はっきりしてそうだよね。キョーコちゃんの話も聞いたことなかったから娘さんいるなんて俺知らなかったよ。」
「吃驚させちゃってすいません。」
「それより吃驚したのはキョーコちゃんの話をするときの最上先生の表情だけどね。こんな柔らかい顔するんだー!!!って」

なんだかくすぐったい内容にキョーコは照れる。

「そうなんですか?」
「そうだよ。事務の郡山さんなんて『8年勤めててあんな表情初めてみた』って驚愕してたからね」
「え?8年?」

キョーコの引っ掛かりを若松は別の意味に捉えたようだ。

「確か8年だったよ。俺もバイトして2年半になるけどクールな表情以外みたことなかったもんな」
「そ…なんですか…」
「うん。お母さんとしての先生しか知らないキョーコちゃんは吃驚するんじゃないかな?でもカッコいいよ。10年以上無敗だよ?俺もそんな勝てる弁護士になりたいなあ。…まあ、その前に司法試験合格しろって話だけどね。」

明るく笑う若松に合せ笑いをしながら頭の中を数字がグルグル回る。

8年、2年半、10年以上…

事故前冴菜とキョーコは京都で暮らしていて、治療の為に東京に出てきたはずだ。
事故は丁度2年前の11月。
どう考えたって数字が合わない。

(いや…転勤前から東京での仕事も多かったって言ってたからそれでこっちの事務所の人と顔見知りなんじゃ?)

でも若松の口ぶりではバイトに入った時には冴菜は既に在籍していたように聞こえる。

(それだけ頻繁に東京に来てたとか)

10年以上も前から?
冴菜の現在の暮らしぶりからして公判中は仕事に没頭しているし、出張も多い。そんな仕事ぶりなのにさらに東京に出てきていて…その間キョーコは?10年前なら小学生だ。1晩位ならともかく長期の不在に耐えられる年齢ではないはずだ。

(面倒見てくれる人がいたのかも…お婆ちゃんとか)

じゃあ、なぜその人は連絡してこない?祖母なら亡くなっていたとしても墓参り位はするだろう。


おかしい。おかしい。おかしい。おかしい…

でも…聞くのは怖い。

怖い?どうして?



「あ、信号変わる。ちょっと急ごうか?」
「え?」

考え事に没頭しすぎて、店を出たことにも気付いていなかった。
気がつけば、雑踏の横断歩道を2人は歩いていて、声と共に若松の手が伸びて…手を握られた。
そのまま引っ張られるように前に進む。

(嫌だ。)

嫌悪感に顔が歪む。
若松と付き合うことを決めたのは自分なのに。たかが手を握られた位でと申し訳なくも思うが、キョーコをリードするその背中が蓮のものでない事への悲しみがそれを凌駕する。

なんだか涙まで滲みそうになって…

その時、鋭い視線を感じた。

ぶるり、と身を震わせたキョーコは視線を追って…


その先に、信号待ちの車でハンドルを握る蓮を見たのだった。


(16に続く)
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Re: あらら、嵐の予感??

>genki様
コメント有難うございます。
大丈夫ですよ。もう物語の流れの骨格は出来ているので、どうにもこうにも私風味です。
さていよいよ12月…そろそろクライマックスに向けて動き出さなきゃいけませんねえ。

2015/11/04 (Wed) 17:50 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

Re: 蓮さまがきた〜

> くろ様
こちらこそコメント有難うございます。癒しの時間を拙宅のお話を読むことで出来たなら嬉しいです。
若松君は好青年ですよ~。イケメンで好青年で弁護士希望…なんだかこういう人がかえって詐欺に遭いそうだよねっていう位の好青年です。書いてて私が申し訳ないほどです(笑)

2015/11/04 (Wed) 17:48 | ちょび #- | URL | 編集 | 返信

あらら、嵐の予感??

12月の鬼、更新をお待ちしていました。次回はどうなるのかしら、とすでにワクワクです。もともと蓮さまの恋人だったキョーコちゃんだから、略奪愛というのとは違いますがここは蓮さま、そろそろもう少し積極的に出て欲しいような。ハラハラドキドキの展開をお待ちしています。あ、すみません。勿論ちょびさま風味でお願いします。どうもありがとうございました。

2015/11/02 (Mon) 23:39 | genki #- | URL | 編集 | 返信

蓮さまがきた〜

更新ありがとうございます!
若松さんも以外といい人なんですね〜
しかしついに現状のつじつま合わなくなってきましたー!そして蓮さまにデート見られたー!
ああでも運転中なら割って入るのは無理かー!
ただ今父の介護に向かう途中の電車です
タイムリーに癒し!ありがとうございます!

2015/11/02 (Mon) 12:05 | くろ #- | URL | 編集 | 返信

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